「やったわ! ついに15匹の魔物と仲良くなったわよ!」
照りつける太陽の下、灼熱の砂漠のど真ん中で歓喜の声を上げたのは、15匹目の魔物と心を通わせたアリアハンの勇者こと、アニスであった。
「さすが勇者様だね。こんな炎天下でもあんなにはしゃげるなんて。あたいはこんな暑いところ、懲り懲りだよ」
乾燥地帯に位置するここイシス地方は、年中気温が高く、雨も降らないせいか草木もほとんど生えておらず、一面砂漠が広がっている。なのでそこにいるだけでも汗がとめどなく噴き出し、常にのどが渇いている状態だ。そんな過酷な環境の中で喜んでいられるのは、選ばれた人間である勇者にしかできないことだろう、と思いながらロベリアは皮肉交じりに呟いた。
「アニス、もう用事は済んだんだから、早くオアシスのある場所を見つけに行かないかい? クラレットなんか、暑さで幻覚まで見えてるんだから」
「そこです!! そこで会心の一撃!! ああっ!! なんでやられちゃうんですか!! あなたに全財産賭けてたのに!!」
「……そうね。一刻も早く休めるところに移動しましょう」
クラレットの様子を見たからか、急に冷静になるアニス。仲間になった魔物と一時別れ、アニスは極限状態の2人にホイミを施しながら(おそらく何の効果もないが)、オアシスとなる場所を見つけるために周辺を捜索することにした。
とはいえ、ただ探し回るだけとは行かないのがこの世界の現状だ。こんな過酷な環境下でも魔物は生息しているし、人間に容赦なく襲いかかってくる。遊び人のクラレットは相変わらず戦闘には真面目に参加しないので、実質二人での戦闘になる。それに魔物使いのロベリアが、即戦力になっているとは言い難い……、と思っていたのだが。
「魔物呼び!!」
ロベリアの放った特技『魔物呼び』は、どこからか魔物を呼び寄せて敵の魔物に襲わせるという、なんとも強力な技だ。いつの間にか習得していたようだが、どうやらアニスが多くの魔物を仲間にしたことによって習得できたものらしい。アニスの行いがこんなところで功を奏するとは、誰も予想しなかっただろう。
ともあれロベリアの想定外の成長により、魔物との戦闘は今までよりも大分楽になった。アニスの方も、今まで初歩の呪文ぐらいしか覚えなかったが、レベルアップとともに新しい剣技も習得することができた。
そんな意気揚々な心持ちの中、さらに幸運が舞い込んできた。クラレットが幻覚でパーティーから離れ迷子になりかけたとき、はるか遠くの地にオアシスのようなものを見つけた。いや、それどころか、たくさんの小さな建物や、大きな建物まで見える。まさか、と思いアニスたちは目を凝らしてみたが、やはり幻などではなかった。あれは――。
「町だわ!! それに、お城みたいな建物も見える!!」
アニスは嬉しさのあまり絶叫に近い声で叫んだ。他の二人はもちろんのこと、アニスもまた、体力気力ともに限界寸前だったのだ。彼女とロベリアは、空腹でそのへんの砂を食べようとしているクラレットの首根っこを引っ掴むと、急いでその場所に向かったのだった。
「皆が美しさを褒め称える。でも、一時の美しさなど何になりましょう。姿形ではなく、美しい心を持ちなさい。心にシワはできませんわ」
突然何をおっしゃるのか、と一同は思った。
砂漠の真ん中に位置する国、イシス。その国を統べるイシスの女王に一度挨拶するために、アニスたちはお城へ向かった。自分たちが魔王を倒す勇者とその一行だと名乗ると、城の兵士たちは皆快く玉座の間へと通してくれた。
そしていざイシスの女王との謁見となったところで、女王が開口一番放たれた言葉がこれだった。
(えーと、女王様にこんなこと思うなんて失礼だけど、初対面の旅人にいきなり言うセリフじゃあなくない? 女王様が美しいってのは見れば分かるけど、なんかそれってあたしたちの外見は大した事ないって遠回しに言ってるように聞こえるんだけど)
心の中ではたとえ高貴な身分の者であろうといくらでも失礼なことが言える。自分に正直なアニスは、これでもかと言うほど文句を心の中で垂れ流した。負けん気の強い彼女の性格だからこそそういう考えに至ってしまったわけだが、客観的に考えれば言いがかりも甚だしい。声に出していたらきっとロベリアに釘を差されていたことだろう。
その後当たり障りのない挨拶を交わし、無事に偉い人との謁見というミッションを完了することに達成感を見出していたアニスは、最後に女王が
彼女たちに向けた警告を、危うく聞き逃しそうになった。
「……砂漠に作られたピラミッドには魔物が多く生息し、そこに眠る宝などには罠が仕掛けられています。危険ですのでくれぐれも近づかないようにしてください」
「……はい、わかりました!」
こうして女王との謁見を終え、アニスたちは城を後にした。賑わいを見せる町並みを歩く中、何かに気づいたロベリアがアニスに尋ねた。
「なあ、アニス。あんたさっきから上の空みたいな感じだけど、なんかあったのかい?」
ロベリアの指摘に、アニスは平然と振り返る。
「別に? ただ、ちょっとひと休みしたら、行きたいところがあって」
「行きたいところ?」
アニスはそれには答えず、ただ意味深な笑みをロベリアに向けた。
「とりあえず早く宿屋に行って、休みましょ。でないとクラレットが限界を超えて暴れちゃいそうだから」
「うふふ、そこにいるちょうちょ、焼いてタレをかけたらとってもおいしそうですね……、ふふふ……」
見ると、クラレットは居もしないちょうちょを目で追いかけながら、不気味な笑みを湛えてよだれまで垂らしている。確かにこれは危険だ。一刻も早く宿屋に向かわなければ。
「なんか企んでないといいんだけど……」
なんとなく不穏な気配を感じ取ったロベリアは、アニスを警戒しながらも自身の疲労と睡魔に勝てず、おとなしく様子を見ることにしたのだった。
アッサラームは、女性パーティでは何のイベントもなかったのでスルーです。
追記 魔物と仲良くなった数を修正しました!