仕掛けによって開いた扉の向こうには階段があり、三人は疲労感を微塵も出さず颯爽と駆け上がっていく。上った先もまた同じ様な作りではあるが、目の前には燦然と輝く宝箱の姿があった。
「あれは……!!」
その辺にある宝箱とは一線を画するそのフォルム。きっと相当価値のあるものが入っているに違いない。そう思い、何の躊躇もなくアニスは宝箱に近付いた。
「アニス!! 迂闊に近づいたら……」
がばっ!!
ロベリアの声を遮るように、宝箱がひとりでに勢いよく開け放たれた。その瞬間、急に視界が暗くなる。
「――魔物!?」
宝箱から現れたのは、見たこともない悪魔のような姿をした魔物だった。即座にその場から跳び退いたアニスは、剣を抜き間合いを取る。
「なんなのよ!! あんなところに魔物がいるなんて聞いてないわよ!!」
想定外の事態に、アニスは誰にともなく文句を放つ。
「貴様らは何者だっ!? ……いや、そんなことはどうでもいい。いにしえの秘宝を荒らす者どもよ、この場所を貴様らの墓場にしてやる!!」
魔物はそう言うやいなや、虚空に向かって手を振りかざした。それを合図に、何もない空間から新たに2体の魔物が現れた。
「はあ!? さらに増えんの!? 冗談じゃないわよ!! こちとらずっとこんな辛気臭い場所にいて、死にそうなんですけど!!」
アニスの喚きなどお構い無しに、魔物の群れは3人に向かって襲いかかってきた。アニスは仕方無いと言わんばかりに、一番先に攻撃をしかけてきた魔物の一撃を刃で止め反撃した。
「あーもう、めんどいけどやるしかないみたいね! 行くわよ、二人とも!!」
しかし、渋々ながらも応戦するロベリアとは対照的に、マイペースなクラレットはこんな時だと言うのに化粧直しをしている。
「ちょっと!! 何してんのよクラレット!!」
「すみません、汗で化粧が落ちてるんです、今直さなければ大変なことに……」
「今もうすでに大変なことになってんのよ!! 早く戦闘に参加して……」
その時、魔物のうちの一匹――マミーズアイの目が赤く光った。その瞬間、クラレットを注意していたアニスの瞼が、ゆっくりと閉じていった。
「アニス!!」
ロベリアの呼びかけも虚しく、アニスはマミーズアイの術により眠ってしまった。ばたりとその場に倒れたアニスの寝顔は、とても気持ちよさそうだった。
「まずいねえ……、あたいとクラレットだけでこいつらを倒すなんて、無謀にもほどがあるよ」
レベルが上がるにつれ、攻撃の面でも回復の面でもアニスに頼り切りになってしまったこのパーティーでは、彼女が戦闘不能になった場合かなり厳しい戦いになる。取り敢えず手持ちの薬草を使って、クラレットに戦いの意思を持ってもらわねば。
「魔物呼び!!」
ロベリアの特技が発揮されると、どこからともなく魔物の群れが現れ、敵に攻撃を与えた。だが、それでも致命傷には至らない。このままではいずれ体力を削られ、最悪全滅してしまう。
「頼むクラレット!! アニスが起きるまででいいから戦闘に参加して……」
「アニスさん!! そんなところで寝たら顔に変な跡がつきますよ!!」
――どういう理由だ!?
心の中でツッコむロベリアをよそに、クラレットは寝ているアニスの頭に思い切りハリセンを打ち付けた。
バシーーーーン!!
――それもツッコミのうちに入るんかい!!
どちらかといえばロベリアの方がツッコミの方に回っているのだが、三匹の魔物を相手にしているからか、声に出す余裕もなかった。
そしてクラレットのツッコミを受けたアニスは、ぱちりと目を開けると、きょろきょろと辺りを見渡した。
「あれ? あたし、ここで何して……」
「そんなボケはいいからアニス!! 早くこっちにきて戦ってくれ!!」
ロベリアの声にアニスはハッとなり、すぐに起き上がって彼女の元へと駆けつける。
「そうだったわ!! 早く倒さないと!!」
寝起きとは思えない俊敏な動きで、アニスは目の前の魔物を次々と斬りつける。ロベリアがダメージを与えていたこともあり、一体目の魔物は程なく倒れた。残る二体も――。
「待って!! 一体いない!?」
二人と対峙している魔物は一体のみ。三体いたはずの魔物は、一体倒して残りは二体のはずだ。なら残りの一体はどこにいるのだろうか?
その時、嫌な予感を感じたアニスは、後ろを振り向いた。その先には、悪魔姿の魔物――ナイルの悪魔と、その足元に転がっているクラレットの姿があった。
「クラレット!?」
頭にたんこぶをくっつけたクラレットは、完全に気絶している。アニスたちに気配を気取られないほど魔物が強いのか、はたまたクラレットが弱すぎるのか。とにかくこれで、戦力は三分の一に減らされた。
「まずいよ、アニス! ここは一旦退いて……」
「ふふふ……。このあたしの目をかいくぐってクラレットを倒したのは賞賛に値するわ。でも、ここで引き下がるなんて勇者の名が廃るわ!! 見てなさい、必ずあんたをぶち倒してみせるから!!」
ああ、そういえばこの子はそういう子だった。
思わず手で頭を押さえながらため息をつくロベリア。この変なところで負けず嫌いな性格は、戦闘においては良くもあり、悪くもある。当然今の状況は後者だ。
だが、今さらこの負けず嫌いな勇者を止める手だては思いつかない。だったら自分も、死ぬ気で戦うだけだ。
「はあ……、ホントに厄介なリーダーだよ、あんたは」
本人に聞こえないほどの声でそう呟くと、ロベリアは再び魔物を呼び始めた。
「はあぁ……、もうヤダ、マジ勘弁。早く宿に戻ってお風呂に入りたい」
倒れ伏した三体の魔物の横で、あらん限りの不満の声を漏らすアニス。
あのあとロベリアの魔物呼びやアニスの火炎斬りの特技により、なんとか魔物の群れを倒したのだが、倒れたクラレットをそのままにするわけにもいかず、一行はすぐにピラミッドを出ることにした。
「つーかさ、女王様なんにも言ってなかったわよね? 宝箱を守る魔物がいるなんて」
「まあ、女王様が知らないうちにいつのまにかあの魔物が住み着いたってことも考えられるし……。とにかく過ぎたことを今さら言っても仕方ないさ」
これ以上勇者の不満を聞くのも鬱陶しいのか、ロベリアがアニスを適当に宥める。
「……そうね。とにかくまずは町に戻って、クラレットを復活させるのが先よ。……ん? 何かしら、これ」
倒れた魔物の傍に、何やら光るものが落ちている。よく見るとそれは鍵の形をしており、薄鈍色に輝いている。
「何かの鍵みたいだね。取り敢えずもらっておけば?」
「そうね。もしかしたら骨董品かもしれないし」
ロベリアの言葉にアニスは素直に頷くと、鍵を拾い上げた。とても精緻な作りで、なんとなく魔力を帯びているような不思議な感じがした。
鍵を懐に入れたアニスはクラレットを担ぎ上げると、移動呪文を唱えた。あっという間にイシスに到着すると、一行はすぐに教会へと向かった。
まさかこの一連の行動が、のちの冒険においてボス戦後の風物詩と言われるほどに常態化するとは、この時のアニスたちは露ほども思わなかったであろう。
さらに、イシスの町に着いてからアニスはようやく気づく。結局ピラミッドのお宝を手に入れることを忘れていたのだと――。
ピラミッドのボス戦時のアニスの心境は作者とリンクしてます。(ていうかほとんどのプレイヤーが思ったのでは…?)
そしてこれ以降ボス戦でクラレットが倒れるのがお約束となっていきます。