負けず嫌いな女勇者   作:星海月

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第7話

 

「ポルトガに行けないですって!?」

 

 ポルトガの関所にて、こだまするのはアニスの絶叫であった。

 

 ピラミッド探索の後。アニス達はピラミッドで唯一手に入れた一本の鍵を売ろうと、道具屋で鑑定をしてもらった。

 

 しかしそれはただの鍵などではなく、『魔法の鍵』というとてつもなくレアなアイテムだった。

 

あまりにもレアなため道具屋に売ることもできず、かといってイシスの女王にも返しづらいので、仕方なくアニスたちが持っていることにした。

 

 取り敢えず次の大陸に向かうためにポルトガの関所に来たアニス達だったが、扉が閉まっていて開かない。試しに件の魔法の鍵を使ったら、なんと開くことができた。つくづく運のいい一行である。

 

 しかし、その後すんなりとポルトガに行くことは叶わなかった。関所の出口には門番が立っており、アニスたちの行く手を塞いでいたからだ。

 

「今この辺りは盗賊カンダタによって関所を封鎖している。どうやって入ってきたかは知らんが、騒動が落ち着くまではポルトガに向かうことは罷りならん。早急に戻られよ」

 

 そして、冒頭に至る。ポルトガに行けないと知り、アニスはこれでもかと言うほど不愉快な顔をした。

 

「ロマリアでのツケが回ってきたね。どうする? こんなに時間が経ってるのにまだ解決に至ってないってことは、誰かが王様の冠を取り返さないと一生ポルトガにはたどり着かないんじゃないのかい?」

 

「ロベリア……。あんた一体どっちの味方なのよ。せっかく面倒ごとから離れようとしてたのに、結局あたしたちがやらなきゃいけないみたいじゃない」

 

「仮にも勇者なんだから、そのくらいの依頼は受けなよ。しかも王様直々に依頼してくれてたんだから。きっと今もあんたが金の冠を取り返してくれるのを待ち望んでるよ」

 

「はあぁ……。仕方ないわねぇ……」

 

 アニスは大きくため息を吐くと、がっくりと肩を落としながら踵を返した。さすがのアニスも、ここで意地を張っても無駄だと感じたようだ。

 

「えーと、その金の冠を盗んだっていうカンダタって奴はどこにいるんだっけ?」

 

「たしか前にロマリアで聞いた噂だと、南西にあるシャンパーニの塔を根城にしてるらしいよ」

 

「へえ、盗賊のくせに塔を根城にしてるなんて、なかなか見上げた根性だわ」

 

 馬鹿にしてるのか、本気で感心しているのか。おそらく前者であろうが、ここへきてアニスはようやく重い腰を上げ、盗賊退治に乗り出したのだった。

 

 

 

 ロマリアからはるか西にある、古ぼけた塔。しかしかつては立派な塔だったであろう痕跡が、あちこちに散見される。

 

「辛気臭い建物ねえ……。本当にこんなところに盗賊どもがいるのかしら」

 

 この旅で二度目に訪れた辛気臭い建物を前に、アニスは心底面倒くさそうに呟いた。

 

「わたくしもこういうところは苦手です……。日の光を浴びないとセロトニンが分泌できないじゃないですか」

 

「急に世界観無視して頭いいキャラを出すんじゃないよ!」

 

「お、ロベリアったら、すっかりクラレットのツッコミ役が板についてきたわね」

 

 二人のやり取りに茶々を入れるアニスを、ロベリアは怪訝な顔で見つめ返した。

 

「……まあ、盗賊ってのはもともとこういうところに住み着くもんだからね。とにかく行ってみよう」

 

 まるで何事もなかったかのように放つロベリアの言葉に、アニスとクラレットは渋々ながらも塔の中に入った。

 

 塔の中は朽ちた柱や瓦礫が散乱しており、ひび割れた壁は今にも崩れ落ちてきそうだ。そんな状態だからか、普通に魔物が襲いかかってくる。しかしピラミッドにいた魔物に比べたらはるかに弱く、クラレットですら魔物に一撃を与えることが出来るほどだった。

 

 一行は順調に塔の内部へと進み、途中見つけた階段で上へと上っていく。やがて外が見晴らしの良い景色に変わり、屋上らしき場所に出た。屋上には小部屋があり、古ぼけた扉によって閉ざされていた。

 

「いかにも盗賊の親玉がいそうな部屋よね。さっそく中に入るわよ」

 

 アニスは恐れもためらいもせず、平然と扉を開けた。

 

 部屋の中には、いかにもごろつき風の男が二人。男たちは突然現れたアニスたちに驚くと、

 

「へ、変な奴らが来たぞ!! おかしらに伝えねえと!!」

 

 そう言うなり部屋の奥にある階段を逃げるように上っていった。

 

「は!? あんたたちのほうがよっぽど変な奴らじゃない!! ちょっと一言文句言ってやるわ!!」

 

「あっ、ちょっと待ちなよアニス!!」

 

 盗賊を追うアニスを先頭に、仕方なく他の二人も続いていく。そして、階段を上った先には、さっきの男たちの他に数人の盗賊、さらに部屋の奥には、緑色のマントを頭から被った、パンツ一丁の男が待ち構えていた。

 

「ぎゃああああっっ!! 変態!!」

 

 突然視界に入ってきた珍妙な格好の男を目の当たりにしたアニスは、あらん限りの声を張り上げて叫んだ。その声量に、周りのごろつきたちも恐れおののいたほどだ。

 

「なんだあ? てめえは……。オレを天下の大盗賊、カンダタ様と知ってここへ来たのか?」

 

「何自分のことを『天下の大盗賊』とか言っちゃってんのよ! 『世紀の大変態』ならわかるけど! ていうかロマリア王の金の冠を盗んだのってあんたなんでしょ? とっとと返しなさいよね!!」

 

「フン、ここまで来られたことは褒めてやる。だが、このオレを捕まえることはできねえぜ!」

 

 自信たっぷりに言い放つカンダタは、天井からぶら下がっている紐を思い切り引っ張った。その瞬間、何かが外れる音とともにアニスたちの足元の床がなくなった。

 

「へ!?」

 

 突然自分を支えていたものがなくなり、無重力状態になる三人。そして、一瞬のうちに落下していった。

 

『ぎゃあああああっっ!!』

 

 もしここに年頃の男性がいたら引くであろう絶叫をあげながらも、アニスとロベリアは持ち前の運動神経で一つ下の階に器用に着地した。クラレットだけはまともにお尻から落ちてしまい、20のダメージを受けた。

 

 穴の開いた天井を見据えながら、アニスは怒りに打ち震えながら言い放つ。

 

「あの変態男、今に見てなさいよ!! 絶対ぶちのめしてやる!!」

 

 もはや金の冠を取り戻すことなど、アニスの頭の中には入っていなかった。体勢を整えたアニスは鞘から剣を抜くと、目に怒りの炎を宿しながら再び階段を上った。

 

 しかし、すでに上の階の部屋にはカンダタたちはいなかった。

 

「どういうこと? あいつらはどこに行ったの?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡すが、カンダタはおろか人の気配すらない。

 

 そのとき、腰を痛めて壁に寄りかかっていたクラレットが、ふと窓に目をやりながら何かに気づいた。

 

「アニスさん! 窓の外を見てください!!」

 

 差し迫った様子のクラレットに、アニスは即座に反応した。クラレットと同じように窓の外を見下ろすと、カンダタたちが部屋の外にいるではないか。

 

「どうやら、窓の外から飛び降りて出ていったみたいだね」

 

「あいつら、絶対逃さないから!!」

 

 ロベリアが冷静に分析するその横で、アニスが歯噛みしながらカンダタたちを見下ろしていた。そして居てもたってもいられず、アニスは窓を開け放った。

 

「アニス!? 何を……」

 

「決まってんでしょ! ここから行くのが最短ルートよ!!」

 

 そう言うとアニスは身を乗り出すと、カンダタ目掛けて思い切りジャンプしたのだった。

 

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