負けず嫌いな女勇者   作:星海月

9 / 20
第9話

 

「おお! よくぞ金の冠を取り戻してくれた! 礼を言うぞ!」

 

 後日、ロマリア王に金の冠を渡したアニスたちは、感謝の言葉とともに城の者たちから歓待を受けた。

 

 一国の王から感謝され、まんざらでもないアニス。そんなご機嫌な勇者の傍らで、ロベリアとクラレットは一人のロマリア兵士をじっと眺めては、ひそひそと話をしていた。

 

「ロベリアさん。あそこにいる兵士さん、カッコよくないですか?」

 

「え、あの兵士長の横にいる小太りの中年男? あんたって、ああいう人がタイプなの?」

 

「いいじゃないですか! 暑くもないのに次から次へと湧き出る汗! 目の下の隈! 人生に疲れ切ったあの表情! 数々の修羅場をくぐってきた歴戦の勇士って感じで、滅茶苦茶タイプです!!」

 

「……なるほど。好みのタイプってのは人それぞれだけど、この先あたいとあんたが同じ男を好きになることは、未来永劫ないと思うよ」

 

 熱い視線を一人の兵士に送るクラレットとは対照的に、ロベリアは冷めた表情でその兵士を眺めていた。

 

「……というわけでアニスよ! 今からそなたには、ロマリアの女王としてわしの代わりに国を預けようと思う!」

 

「は!?」

 

 クラレットとの話に気を取られて、ロベリアはロマリア王とアニスの会話をろくに聞いていなかった。アニスが女王? 一体この数分の間に、どういう会話がなされていたんだ?

 

 二人の会話を聞いていたのかとクラレットの方に視線を移すが、彼女は相変わらず中年の兵士に熱い眼差しを向けている。論外だ。

 

 しかし、事情を尋ねようにも王の御前で下手に口出しすることはできない。ここは成り行きを見守るしかないだろうか。

 

「わかりました! 一国の王になるなんて初めての経験ですが、あたしなりに精一杯頑張りたいと思います!」

 

「うむ、その意気じゃ!」

 

――いやいや、一体どういう状況!? 国の主になるって、そんな簡単なことなのかい!? ロベリアの頭は混乱を極めた。

 

 ロベリアが呆然としている間に、あれよあれよと言う間にアニスは城の侍女に連れて行かれてしまった。

 

 と同時にクラレットが熱い眼差しを注いでいた兵士もその場を離れてしまい、慌てるクラレット。

 

「ああっ、あの人が行ってしまいます! ロベリアさん! 急いであの人に会って連絡先を交換しましょう!」

 

「ずいぶん積極的だねあんた!」

 

 こっちはこっちで慌ただしい。アニスのことを諦めたロベリアは、クラレットに強引に手を引かれ、自分の持ち場へと帰って行く兵士たちの後を追いかけたのだった。

 

 

 

「えっと、これは……。どういうことだい?」

 

 翌日。クラレットに振り回され、アニスのことなど頭の片隅にも入ってなかったおかげで、今のこの状況がさっぱり把握できないでいた。

 

 城の兵士に呼ばれて玉座の間にやって来たはいいが、なぜか玉座に勇者が座っている。いや、今の彼女の格好は勇者どころか戦士でもなく、化粧を施し、華やかなドレスと煌びやかな装飾品を身にまとった美しき女王となっていた。

 

 普段魔物との戦いで汗だらけ泥だらけの女勇者が美しい令嬢と変貌している様は、ロベリアにとって衝撃だった。化粧と身なりさえ整っていれば、どんな女の子も気高く美しくなれる――。今のアニスはそれを完璧に体現していた。

 

 いや、それはまだいい。問題は、なぜ王様の代わりにアニスが玉座に座っているのかということだ。

 

「どういうことって……、聞いてなかったの? 今日からあたしは、この国の女王様になったのよ!!」

 

「は!?」

 

 そういえば、昨日も同じ様な話を聞いて同じ様な反応をした気がする。今思い出したと言うことは、きっと脳が記憶することを拒否していたからかも知れない。

 

「えっと……、じゃあ今までの王様はどこに行ったんだい?」

 

「変装してバトルロード会場にいるらしいわ。王様、好きなんですって」

 

 仮にも国を統べる王(だった人)が賭け事に興じるなんて、大丈夫か、この国?

 

 ロベリアはこほん、と咳払いをしながら改めてアニスに尋ねた。

 

「で、新しい女王様はこれから何をするつもりなんだい?」

 

 アニスは待ってましたと言わんばかりに胸を張った。

 

「そりゃあもちろん、この国の贅を極めるに決まってるでしょ! まずは市井に降りて下々の反応を確かめるわよ!」

 

 そうきっぱり言い放つと、アニスは供も連れずに玉座の間を出ていった。昨日まで下々の部類だったからか、そこまで頭は回らなかったらしい。

ロベリアはやれやれと肩を竦めると、のんびりとアニスの後を追うことにした。

 

 

 

「こっ、これはこれは女王様!! こんなしがない安宿にどの様なご要件でしょうか!?」

 

 少し距離を置いてアニスを見守っていたロベリアが向かったのが、城下町の一角にある宿屋だった。

 

 というか、アニスたちもつい先日までここで寝泊まりしていたはずなのだが、なぜか宿屋の主人は女王様姿のアニスにヘコヘコと媚びへつらっている。

 

「ふっ、庶民であるあなたたちがどのくらい世の中に貢献しているのか、抜き打ちチェックをしようと思って。ここで一番高級な部屋はどこかしら?」

 

「はっ、ただいま準備をいたしますので、少々お待ちを!!」

 

 女王(勇者)の突然の訪問にも不満を漏らすことなく、宿屋の主人は大慌てで二階へと上がっていった。

 

――何やってるんだか……。

 

 ロベリアは思わずため息をつく。アニスと旅をしてから、彼女に振り回されっぱなしだ。

 

 主人を待っている間も、アニスは陽気に鼻歌など歌いながら辺りを物色している。どうやら今の自分の身分に大変満足しているようだ。

 

 やがて、汗だくになりながら主人が戻ってきた。

 

「お待たせして申し訳ありません!! ただいま当店最高級の部屋へとご案内いたしますので!!」

 

 さらに主人はカウンターの奥へと駆け込むと、ドンガラガッシャンというド派手な音とともに何かを引っ張り出し、急いで階段の前へと向かった。よく見たらそれは赤い絨毯を丸めたものであり、主人が階段の前でばさっ、と絨毯を広げると、ただの木製の階段が玉座へと続くレッドカーペットへと姿を変えた。

 

「ささ、こちらへ」

 

 主人に勧められるがままに、アニスは粛々と階段を上っていく。さらに主人はロベリアに気がつくと、「お連れ様もどうぞ」と彼女にも促した。

 

「ふん……。まあ、悪い気はしないね」

 

 まんざらでもないロベリアは、顔には出さないがかなり上機嫌な様子でアニスの後に続いた。

 

 二階に上がり、主人曰く最高級の部屋の前へと近づく。部屋の前には扉を開けたばかりのアニスが目をキラキラと輝かせていた。

 

「どうしたんだい、アニス? さっさと入ればいいだろ?」

 

「ロベリア。あたしたちは今、女王とその家来なのよ。庶民とは違って、下手に感情を表さないものよ」

 

「そういうものかな?」

 

 王族だろうが庶民だろうが、感情は素直に出すべきだろう。どうでもいいとでも言う風に、ロベリアがアニスの横から部屋を覗き見る。

 

「うわ……、すご……」

 

 思わず素で感動してしまった。とても今急ごしらえで用意したとは思えなかった。色彩センス豊かな調度品や、きらびやかではあるがけして過度ではない、品のある家具。出窓には色鮮やかな花が生けられており、ここが最高級の部屋と言われたら十中八九納得できる部屋であった。

 

「ど、どうです? お気に召したでしょうか?」

 

 おどおどと自信なさげに問う主人。アニスの反応はというと――。

 

「主人。あなたは今この国を統べる女王に対して最大限の敬意を払ったわ。素晴らしい部屋よ。ありがとう」

 

「!! そ、それでは……」

 

「ええ。喜んで使わせてもらうわ」

 

「あああ!! ありがたき幸せ!! このスミス、経営者として生涯一片の悔いなし!!」

 

 突然その場に膝をつくと、感無量とばかりに泣き崩れる主人。そしてその様子をなぜか誇らしげに見下ろすアニス。この二人の光景に、ロベリアは何とも言えない表情を作った。

 

「ま、あたしも泊めてくれるんならなんでもいいや」

 

 その後アニスたちはこの部屋に泊まることになり、その間にも武器屋や道具屋の店主を労ったり、息子の将来を憂う老婆の願いを聞いてあげたり、教会に行って慈善活動をしたりと、意外にも女王様らしい振る舞いをし続けた。てっきり傍若無人な行動をとるのかと思っていたロベリアは、なんとなく肩透かしを食らった気がした。

 

「まあ、さすがに国を背負っている以上、下手なことは出来ないだろうね」

 

 結局その日は何事もなく一日が終わり、二人は件の部屋に宿泊した。そして翌朝――。

 

「おはようございます、女王陛下。昨晩はよく眠られましたか?」

 

「ええ。おかげさまでバッチリよ!!」

 

 最高級のベッドで夜を明かした女王様は、とても生き生きとしていた。ついでにロベリアの体調もすこぶる良くなった。やはり何事も質というのは重要だ。

 

「ここは素晴らしい宿屋だわ。王室御用達にしてもいいかしら?」

 

「はっ、はい!! それはもうぜひとも!!」

 

 というわけで、(偽物の)女王様の独断により、ここの宿屋は王室御用達になってしまった。

 

 早速張り紙を作らなきゃ、と主人が意気込んでいると、いきなりバタン!! とロビーの扉が開いた。

 

「あっ、アニスさん!! こんなところにいたんですね!! 探したんですよ!!」

 

 入ってきたのはクラレットだった。いつものほほんとした顔のクラレットが、今日は珍しく怒っている。

 

「どうしたんだい、クラレット? そんなに血相変えて」

 

「どうしたもこうしたもないですよ!! 昨日わたくしの好きな方が、突然兵士を辞めると仰ったらしいんですよ!!」

 

「?? どういうことだい?」

 

 クラレットの好きな人、というのはおそらく、一昨日見た小太りの中年兵士のことだろう。けれどその人が兵士を辞めたのと、アニスとどういう関係があるのだろう。

 

「昨日その方のお母様から、今の仕事は向いてないから転職したほうが良いって言われて、その方自身も今の仕事は向いてないからと、自主退職したそうです。そのお母様に転職するよう助言したのが、他でもないアニスさんだったんです!!」

 

「えっ、そうだったのかい!?」

 

 確かに昨日、アニスたちが街を歩いていたときに老婆に何かを相談されていたことをロベリアは思い出した。けれどまさかその人が、クラレットが追いかけている兵士だったとは露ほども知らなかったのだ。

 

「せっかく兵士として苦労してきた方だったのに、転職なんかしたら魅力が半減しちゃうじゃないですか!! どうしてくれるんですか、アニスさん!!」

 

「そんなことあたしが知るわけないでしょ!!」

 

 うん、これに関してはアニスに同感だ。

 

 ロベリアは遠い目をしながら、アニスに詰め寄るクラレットを眺めたのだった。

 

 

 

 




女王様イベント、お婆さんとの会話イベントが思い出せずネットで探しましたが、見つかりませんでした。なので改変してます。皆やらないんですかね?
調べて初めて知ったんですが、宿屋イベントって女王様限定だったんですね。王様(男勇者)限定のイベントってあるんですかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。