俺の転生した異世界はカードゲームがテンプレだった 作:カテン
俺は焦っていた。
異世界に転生してしばらく、未だにチートへ目覚めていないからだ。
異世界転生にはチートが必要不可欠、チートイコール異世界転生である。
だというのに、俺には一向にチートらしいチートが発現しない。
ステータスオープンの掛け声も、魔力を感じ取る訓練も失敗に終わった。
だったら、チートが与えられてないんじゃない? と思うかも知れない。
チートなしで異世界に放り出された被害者モブではないか、と。
だが、そうではないはずだ。
なぜなら俺は、前世と比べて明らかに身体能力が向上している。
俺が転移した森にいたモンスターらしき存在と、素手でやりあえるくらいには。
加えて、髪の毛も何故か一部にメッシュが入っている。
俺の体に何かしらの変化が起きたのは間違いないはずなのだ。
しかし、一向にチートらしいチートを使えるようにならかった。
身体能力はチートというには物足りない。
そんな状態で俺は森を彷徨っていた。
だってこういう森に一人で転移したら、まず最初はチートの使い方を覚えて強くなるものだろ?
後はまぁ、単純に出口がわからなかったのもある。
そんな時だった、少女の悲鳴が俺の耳に届いたのは。
明らかに、なにかが少女を襲っている様子だった。
慌てて俺は悲鳴がした場所に向かう。
下心がなかったわけではないが、結構な時間森を彷徨っていて孤独がつらかったのだ。
希望を見出して、少女の下へと駆けつける。
そこで俺が見たのは、ゴブリンらしきモンスターに襲われる少女。
ようやくテンプレらしい展開が来た、と思った。
チートには目覚めていないが、それでも人と出逢えば今の生活からは脱却できる。
身体能力は向上しているのだ、最悪チートがなくても生活することは可能だろう。
と、そんな俺を前にしてゴブリンは俺に襲いかかる――ことはなかった。
では、何をしたのか?
構えたのだ。
武器――ではない、その腕に巻き付いた”ボード”のようなものを。
そして、俺は見た。
そのボードに取り付けられた――カードの束を。
そして、俺は助けようとした少女からあるものを受け取った。
「これをお使いください!」
と、ゴブリンのそれとは違うデザインの――どこか神聖な印象を受ける――ボードを。
そして俺の手には――いつのまにかカードの束が握られていた。
それは、端的にこう呼ばれるものだ。
デッキ、と。
俺は、全てを理解した。
――この世界のテンプレは、カードゲームだったか……と。
□
カードゲーム。
もしくは
カードをトレードしたり、構築したデッキで遊ぶゲーム。
オタクなら、遊戯王やデュエルマスターズの名前を聞いたことはあるだろうし、プレイしたことがある者も多いだろう。
かく言う俺も、その一人。
というか、我がことながら俺は結構なカードゲーマーだった。
遊戯王は言うに及ばず、デュエマやバトスピ、他にも様々なカードゲームを嗜む程度には遊んでいたし、アニメや漫画を読んでいたこともある。
だから、転生した異世界でカードゲームが流行っているというのは、すぐに受け入れられる事実だった。
だってカードゲームをテーマにしたアニメでは、そういう展開が決して珍しくはないんだもの。
異世界に転移したり、カードで人が死んだり、ひどい時には世界が滅びかけたり。
そんなカードゲームあるあるを浴びてきた俺にとって、これくらいの展開は超展開でもなんでもない。
衛星兵器を破壊するために、スペースザウルスに進化するよりはずっとまともな展開だ。
問題は、このカードゲームが俺にとって全く未知のゲームであるということ。
もしも理解が難しいゲームだったらどうしよう、そう思いながらゴブリンに習ってカードをデッキから引き抜いた時。
――一瞬で理解した。
ああうん、これ遊戯王系のマナを使わないTCGね……と。
複数のTCGを殆ど嗜む程度だが触れたことがあってよかった。
後、システムが複雑じゃなくてよかった。
いや、遊戯王のシステムは複雑だけど、慣れてるしな。
とはいえ、細かい専門用語は俺にこのボードを渡してくれた少女に聞かないと行けないだろうが。
それさえできれば、後は問題なくプレイできるはずだ。
というわけで、俺はデッキに手をかけて――
「俺のターン、ドロー!」
宣言する。
どうやら、俺の使うデッキは【モンスターズ】というデッキらしい。
モンスターの名称がほぼ<モンスターズ>で統一されている。
中には、俺が森で倒したモンスターの姿もあった。
なるほど、あの森でチートを求めてさまよいモンスターと格闘を繰り広げた日々は無駄ではなかったということだ。
その時に築いた縁が、俺にこのデッキを与えたんだろうしな。
加えて、カテゴリ名が【モンスターズ】というのもなんだか縁を感じるな。
まぁ、今はいい。
俺はゴブリンとのカードバトルを楽しんでいた。
だって、モンスターが実際に召喚できるんだぜ?
眼の前には俺が呼び出したモンスター、ソリッドヴィジョンもびっくりな精巧さ。
現代では絶対に味わえなかったバトルがそこにある。
というわけで、ゴブリン自体はザコモンスターの代名詞だけあってそこまで強くなかった。
時折少女に色々と説明を求めつつもバトルを行う。
そして俺が優勢のままカードバトルは進んでいき、最終的に。
「こい! <モンスターズ・マジシャン>!」
エースと思われるモンスターを呼び出す。
なぜエースかと言われれば、マジシャンで攻撃力が2500で守備が2100だから。
伝統っていいよね。
「これで終わりだ! <モンスターズ・マジシャン>で攻撃!」
「ゲギャギャ―!」
かくして、バトルは俺の勝利で終わった。
いやぁダメージを受けると衝撃を浴びるシステムだった時はちょっと焦ったけど、身体能力が向上していたおかげでそこまで苦にはならなかったな。
それにしても、この身体能力向上はいわゆる”デュエルマッスル”と呼ばれるやつだったわけだ。
カードゲームでは、やたらとムキムキでリアルファイトの強いキャラが多い。
そういったキャラはカードバトルでも強いことが多く、ドローの練習と称して熊を投げ倒すことだってある。
筋肉にカードは応えてくれるってことだな。
「ギャギャー!」
「んでバトルに勝つとゴブリンが消える、と」
消えた後には、一枚のカードが残っていた。
見れば、先程倒したゴブリンのカードである。
<ゴブリン・アタックスクアッド>……攻撃力の高い下級モンスターだけど、攻撃すると守備になるやつだ。
いやソロだったじゃん、君……。
あと、レベルは1だった。
と、そんなことよりも。
「君、大丈夫?」
「あ、はい。……お助けいただきありがとうございます」
俺は、自分が助けた少女を見る。
その装いを一言で例えるなら……魔術師。
でかい帽子とローブ、いかにもといった感じだ。
背丈は小柄だけど、スタイルはいい感じ。
ちょっと癖のある長い金髪の、おどおどした感じの少女だ。
「え、えっと……大丈夫、ですか?」
「え? うん、特に問題はないけど」
「あ、はい……なら、よかったです」
とても心配そうな様子で、こちらを見られた。
でも、別に俺は何ら不調は感じていない、どころかカードバトルが楽しくてメンタル的には絶好調だ。
人にも会えたし。
「君は?」
「あ、えっと……私は……アーシアといいます、アーシア・ウィチタット……です」
「そっか、じゃあ俺は――」
俺は、目の前の少女――アーシアに自分の名を名乗る。
「ユージだ、よろしくな」
ユージ、それが俺の名前。
いや、まさか。
名前がカードゲーム世界に転生するフラグだったとはなぁ。
遊戯王の主人公には、慣例的に”ユウ”が入るものなのだ。
などと考えつつ、ようやく始まる異世界生活に思いを馳せるのだった。
□
――ユージ、そう名乗った眼の前の男に、アーシアはいくつもの感情を覚えていた。
一つは感謝、これに関しては言うまでもない。
一つは驚嘆、彼は先程の様子からすれば初めてのカードバトルだったにもかかわらず驚くほど強かったのだ。
この世界では、初めてカードバトルを行う時、そのバトラーに相応しいデッキが神から授けられる。
その時、デッキは光を帯びてバトラーの手に収まるのだ。
今まさに、彼はデッキを神から授けられていた。
よっぽどの例外がなければ、彼にとってこれが初めての”セイント・バトラーズ”の初バトルだったはず。
というよりも、その後時折アーシアへ質問してきた様子からして、”セイント・バトラーズ”の存在すら知らなかったのではないだろうか。
それなのに、あまりにも洗練されたプレイング。
彼はレベル1のゴブリン相手とはいえ、初陣で完勝してみせたのだ。
その素質はこれまで”勇者”を探して世界を旅してきたアーシアでも、見たことのないものだった。
もしかしたら、彼こそが――そんな思いが生まれる。
が、しかし。
最後の感情が、アーシアの驚嘆とそこから生まれた期待に待ったをかける。
なぜなら彼は――このバトルを
それは、あまりにも普通じゃない。
なにせ、この世界のモンスターとのバトルに負けたら
一応、そのモンスターを別の誰かが倒せばカードから元に戻れるとはいえ。
モンスターとのバトルは、常に覚悟が必要となる。
そんなファイトを、楽しんでいるなんて。
もしかしたら、カードになることを知らなかたのかも、と思いもしたが。
彼はゴブリンが負けてカードになった時、一切驚いていなかった。
むしろそれを当然のものとして扱っていたのだ。
知らない、とは思えない。
だからこそ――アーシアは心の何処かで眼の前の青年を畏怖していたのである。
かくして、異世界の青年はカードゲームがテンプレな世界にやってきた。
転生者特有の認識のズレを抱えながら、彼がこの世界で見るものは果たして――
異世界で架空TCGモノです、よろしくお願いします