GODARCA / Before Nigit 作:Seilin
復興の時にいて欲しい方No.1
「……ところでレディ。なぜ私はここに連れてこられたのか聞いても?」
ここは「力」区画の一画。東洋の
「それはあなたが、最初に出会った頃みたいな顔をしていたもの。思わず引きずって来てしまうのも当然だと思わない?」
リー チュンリュー……春の、植物という意味を持つらしい彼女の、想像していなかった答えに目を丸くしてしまう。そんな顔をしていたか?
「周りを確認する野良犬のような警戒心、しかし絶対に周囲から学び取らなければならないという意思」
「当時のあなたにソックリよ?今の怯えているあなたは」
「そう……か、いえ、そうですか」
「敬語はいらない、あなたももうアルカナの一員なんだから。下町のシェリダンじゃなくて、シェリダン・レン、なんでしょ?」
そう言ってウィンクをするリーに、敵わないなと思いながら首を振る。
「……いえ、シェリダン・レンだからこそこのままで。オレではなく、私がそうするべきだと判断したので」
「あらそう。つれないのね」
「生憎、師には恵まれたものでして」
「そうね。彼は貴方にとっては良い師であったのでしょう。下町の出身者に裏まで教えきるなんて、正直予想以上だったわ」
裏。アルカナという絶対的な力を、一つに纏まるべきロンドンを二分するために使用されないようにするための安全弁。レイクタウンという混沌の街を、維持するための暗部。元々孤児であり、住民一覧に乗っていない私は、当然良い存在だとは思われてはいない。いなかった。
「私が触れるべき力なのかは、未だに不安ですが」
「触れるべきではないわ。それは断言してあげる」
その言葉に、私は蒸しパンを千切る手が止まる。
「ふふ。意外な回答だったかしら。でもこれは本音。在野で動くべき人間が、
「声……?」
「そう、声。副隊長の彼、前の町長の秘書でしょう?今の町長とは違っても、繋がりは間違いなくある。あなたがどう思っているのか、どんな街にしたいのか、どんな生活をして、どう死にたいのか」
「それを伝えてあげる事で、町経由で好みの仕事が回ってくるわ。だってどうやっても力を持ってしまう怪物を、人間の範疇に留めるために出来る簡単な事だもの。裏も喜んでやってくれるわよ」
ケラケラと笑うリー。後ろに控える彼女の副官は、苦笑いをしている。あっけらかんと話す彼女に、日頃から振り回されているのだろう。それも、あまり不快とも思わずに。
「……ならば、何故貴女は政の力を持ったのですか?貴女の人徳なら、ただ町の料理屋をすることもできたでしょう?」
彼女の兵連場には、日々多くの兵士が集まる。考えによっては、それこそ反乱が出来てしまうほどに。
「そうねぇ」
彼女はそう言って、一瞬背後の副官を見やる。副官は、何も言わない。
「旦那の二の舞を踏む人間が現れて欲しくないっていう、気持ちもあるんだけどね」
「戦争の時に閉まる定食屋なんて、平和な町には相応しくないから」
「なら、この戦いを安全に終らせてから、大食いの客を待つ方が良いじゃない?」
きっと、本当の事なんだろうなと感じ取れるほどの、何よりも楽しみだという思いの籠った笑み。
「なるほど……貴女らしいですね」
蒸しパンの最後のひとかけらをつまみ、茶を飲み込む。
「ありがとうございます。ミセス、リー。……少し、やるべきことが、見えた気がします」
「どういたしまして、ミスター、レン。良い顔になったわね。カッコいいわよ。帰るなら蒸しパンがまだあるから持っていって」
「ありがとう、ございます」
胡麻の多い蒸しパンは、師が好きだった味である。
副隊長との話題にしろと、言っているのだろう。
どうにも彼女には、私は敵わないようだ。
あとシェリダンが一番人として好んでいたのは彼女だと思う。
年齢差があって旦那に愛があったのは知っていたので恋愛に持ち込む気は欠片もなかっただろうけど。