GODARCA / Before Nigit 作:Seilin
HO01: リリー・コラルリウム 1
仕事の際に護衛が付くようになってから数ヶ月。私は仕事の傍ら、稀に機関に呼ばれる日々を送っていた。
「今日はどこに?今までは他のアルカナの区画に顔をしていたが、今回は雰囲気が違うようだ。孤児院、いや学校か?」
「えぇ。今日は機関研修がある日でねぇ。キミは受けていないが、通常は機関員に入る前に教育を受けるのだよ。一定の質疑応答でキミに教育があるということが分かったので入れなかったが、どんな事をやっているのか、をキミなら知りたくなるのではないかと思ってねぇ」
「よく分かっているじゃないか。では見学という形で良いな」
そうだと頷く護衛をよそに、廊下を歩く。教育機関独特の喧噪が耳に心地いい。ふと見た教室の中では、杖を振る練習をしていた。人形劇、か……?
「すまない、それはどういった絡繰りだろうか。紐も糸も無いようだが」
「え?これはワタシの魔法よ?カラクリじゃなくてアマリリス!ほら、ご挨拶して」
桃色の髪の少女が疑問符を浮かべながら私の質問に答える。関節も入っていないように見えるぬいぐるみが、滑らかにお辞儀をして手を振る様子は、確かに私の知る技術とは全く違うようだ。
「魔法か。私が今まで知らなかった法だ。アルカナとして過ごすなら、前提として必要になってくるかもな」
「え、お兄様魔法しらないんですの?ならワタシが教えてさしあげましょうか?」
好奇心に満ちた顔でこちらを見つめてくる少女に、返す言葉を選択する。ここで知識欲に従っていいものか、と一瞬躊躇うが
「ああ、ぜひ教えてくれ。何分魔法と縁のない生活を送ってきたものでな。私はシェリダンという。貴女は?」
「ワタシはリリー・コラルリウム !よろしくお願いいたしますわね、シェリダンお兄様!」
他人に教える、ということは彼女にとっても良いことになるだろう。理由が出来るなら、迷う必要なんてないのだからな。
その後しばらくリリーに教えを乞うた。要領を得ない部分もあったが、繰り返していく中できっと分かるようになっていくのだろう。
HO02: シビル・ロペス 1
原初のアルカナとなって暫くが経ったある日、新しく原初のアルカナになったという少女が訪ねてきた。
「はじめまして。シビル・ロペスと申します。先日、原初のアルカナ『女教皇』を拝命いたしました。これからよろしくお願いいたします」
「硬いな、だがよろしく頼む。私はシェリダン・レン。シピルと呼ぶが、良いな?」
「は、はい!」
背筋を伸ばし、拝聴をするような体制になった彼女に、紅茶を勧めて自分も席に付く。
ここは下町のコーヒーハウス。態々アポイントメントを取ってきた彼女が指定した時間は、不幸にもここのオーナーに扉の付け替えを依頼された時間であった。ここでも良いのなら、と提案したところ了承を得たので、オーナーに確認を取り個室を取ってもらったのだ。
「まぁ一先ずゆっくりしていけ。今日の時間はどれくらいを想定している?」
「え、と……一時間後には、移動しはじめたいな、と」
「そうか、なら軽く食べていけ。オーナー、何か適当なものを」
注文をし、彼女を見据える。よく集中しているその目には、確かな理性が輝いている。軍人特融のぎらつきは感じられないが、確かな信念がある、そんな目だ。青髪を揺らし、シピルは口を開いた。
「シェリダンさんは、いつもあんなことをやっているんですか?」
あんなこと、とはさっきまでやっていた修理のことだろうか。そうだ、仕事の内だな、と答えると彼女は続けた。
「その……怖くはないんですか?直すことというか、変えることが」
「怖い、か……あまり考えたことは無かったが、その質問に対してなら、怖いが楽しい、というのが本音だろうな」
紅茶を口に含み、少し思考する。
「シピルは怖いのか?今までの居場所が変わってしまうのが。自分の立場で、変えることが」
「はい、実は……」
「今までの立場とは違う環境、居場所で自分が今まで通りでいられるのか、友人が今までとは違うように接してくれるのかが怖い、といった所か」
「はい……」
「馬鹿め、変わるに決まっているだろう」
「えっ」
驚いたように顔を上げる彼女を睨み、紅茶をもう一口飲む。
「良いか、私なんかは元々平民で、毎日何かを変えないと生きていけなかった。昨日と同じことをするだけでは満足に仕事も無かったからな」
「それは……」
「だがそれでも興味のあることを追い続けた。アルカナを拝命してからも、手を動かして何かを作ることだけは絶対に止めなかった。そこに私の軸があり、興味があったからだ。立場が変わり、扱いが変わった部分もあったが、結局周囲には昔と似たような仲間がいる」
「シピルも、興味のあること、好きなことが何かはあるのだろう?ならそれを変えるな。周りの変化なぞに合わせる必要は無い」
「……と、説教のようになったな。好きなことをしているとそれに興味があることしか周囲に残る、というだけだ」
軽食が届く。最近下町でも扱われるようになったサンドイッチだ。
「ここのマスターはコーヒーがあった時代の事を祖父から聞かされていてな、紅茶しか出さないのにコーヒーハウスを名乗る変わり者だ。だがコーヒーという響きが好きな代わり者に好かれ今も営業を続けている」
「義務に囚われるな、好きな事を全力でしていれば付いてくる人間も必ずいるというだけだ」
少しだけギラついた目をしたシピルは、それでもこちらを見据えている。
「好きな事を全力でしていれば、付いてくる人間も必ずいる……」
「なんか、すっきりしたかもしれないです。申し訳ありません、いきなりこんなこと聞いちゃって」
「先輩として、同僚として多少はな。全部初めてなら、全部を聞いて回るといい。楽しいぞ?」
「はい!」
それからしばらく話を続けた。サンドイッチは結局食べられず、包んで渡したが、扉を開く足音は、少し軽くなっているように思えた。……さて、ジョンの家の屋根を直しに行くか。
ごめんHO前半の男女比で女性多すぎて塔がヤバ男になってる フラグは立ってないよ