GODARCA / Before Nigit 作:Seilin
ブレイス女史との話が長すぎたので単品投稿です。すまんな皇帝!
03:フローレンス·ブレイズ
『我が連ねるは未完の塔。希望に至る過程の色彩。今を護り未来を拓け!
戦場に砦の幻想がそびえ立ち、戦場に無数の高楼が現れる。海から歩んでくるあまりにも冒涜的なソレを、矢の雨が迎撃する。
『不敬ですわよ、神話共。今より敗北に身を伏しなさい。原初のアルカナ"
高楼の頂点に立つ彼女が、兵に、ソレらに声を届ける。機関員はその動きに機敏さを加え、ソレは今の動きを先へと延ばす。
一体と聞いていたソレが、もう一つを連れてきた時は、本当に我々だけで対応出来るのかと不安が過ぎったが……杞憂だったか。
「塔」の工作部隊と、「女帝」の直轄部隊。この二部隊でリアム達の到着まで耐える事が今回の任務、だが、
「これならば、少々欲を出しても問題ないな……っ!」
最近
声を荒げ、自分たちに害を成してきたソレを許さないという怒りを刃と弓に込める機関員達が、堀の中に突入する。だが、ソレを抑えていた
「ーーーどうしたの、シェリダンくん。何か、気になる事でも?」
「……いえ、ミセス。ふと私が、ここに座っていて良いものかと」
先日までいたあの戦場を思い返していた自分を振り払い、今の状況を再確認する。ここはセントラル・ロンドン。神話殲滅機関アルカナの本部にある白を基調とした一室。アーサーが作ったとされる白肌が光る陶磁器に、僅かに赤い幻影を滲ませて。でもそれを思う場所ではないだろうと改めて白色を見定める。
口の中で穏やかに解けるクッキーをもう一枚摘まみ、甘みを味わう。
「こういった場が、究極的には作法などどうでも良く、ゲストをもてなせれば他は気にすべきではない。ということは知識としては知っている、ますが。平民の私めには少々刺激が強いかと」
「ふふ、そこまでわかっている方に作法の注意なんて致しませんわよ。そういう割には様になっているようですけれど、どなたかに師事を得たのかしら?」
「幼い頃に、市井の者から崩壊前式の物を少々。後は機関の護衛を名乗る男からいくらか手ほどきを受けました」
「それは、良い師を持ったわね」
「レイクランドで最も自分の楽しみを優先する人間でしたから、良いとは一概に言えないかと。……ところで、今日はどういった事を期待されているのでしょうか」
「今、何かをして欲しいということでは無いのですけどね」
カップをソーサーに置き、こちらを見据えるブレイス女史。
「気負いすぎよ。その役割は
「へ?」
「貴方に昨日の作戦の責任は何一つ無い、そう言ったのですよ」
先日の作戦では、以前隊員から提案があり、
「貴方は作戦立案時に、材質から強度、寸法、重量と費用までを纏めたデータを提出し、私がそれで問題ないと判断した。そして、残された鉄格子から品質上の問題は無かったということまで判明している。ならば作戦において人命が失われたのは全て問題無いとした私の責任です。貴方に残る非は一つもありません」
「いや、しかし」
「従来のままでは先に進まないということは全会で一致しています。それを前に進めようとした貴方を称賛こそすれ、責めるつもりは総統閣下も含め無い、ということは前提として知っていてくださいね」
「……と、言うことを本当はゆっくりと伝えたかったのですけど、シェリダン君があまりにも落ち込んでいたようだったから」
「落ち込んでは……まぁ、いた、か」
クッキーをもう一つ摘まみ、茶器を傾ける。少しだけ、ベリージャムの濁りが薄まった気がした。
「もちろん、コンラッド君、キャリーちゃん、ブランドンさん、そしてセシルちゃんのことは忘れてはいけない。でもそれは過去に戻ろうとする思いじゃなくて、未来に繋げようとする意志にしないといけないのよ」
「っ!彼らの、名を……?別の班の隊員だというのに?」
「勿論。私がアルカナに関わってから亡くなった836名。その全てを覚えていますし、忘れる気もありません。……本当に今際の時は、少し変わるかもしれませんが。私はね、このロンドンに住む全ての方を、家族として愛しているのです。それで潰れるような柔い心は昔に置いてきましたの」
微笑みながらそう話す彼女の目には、話している事が真実であるという確とした意思と、愛の軸を失っている狂気が混ざりながら宿っていた。青のターコイズ。数千年の昔から
「ですので、それを背負うのは私の役割。シェリダン君には、アルカナとして別の役割があるのでしょう?例えば……」
遠くから爆発音が一つ聞こえる。大声で騒ぐ複数の声と、焦げ臭い何かが焼けた匂い。
「今アーサー君が壊したキッチンの修繕、とか、ね?」
明らかに別の事を言おうとして、でもそれを言わずにはいられなかったように無邪気に笑う彼女に対する答えは、分かり切っていた。
「承りました。ミセス。久しぶりの茶会の気配にはしゃいだ馬鹿の成長を、手伝ってきます」
「よろしくね、あの子の成長を見守ってくれる仲間、中々いなくって」
「人間は間違いながら成長していく生物ですから、当然でしょう。それにアーサーは始めて会った時はーーーー」
茶器を片付け、ゆったりと事故現場に向かう私の目には、もう薄暗い赤は映っていなかった。きっと彼女も、同じなのだろう。