GODARCA / Before Nigit   作:Seilin

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周回楽しい!周回楽しい!ほら、君も周回楽しいと言いなさい(多分200箱/12/19現在)


05

05:セオドア·P·ゴーフェル

 

「子供しかいない空間でタバコを燃やしてはならない、という病院からの触れ書きを見た覚えはあるか?」

 

「ハハハ、流石の私も孤児院で葉巻を吸うことなどしませんとも。そもそも火気厳禁ですからねあそこ」

 

「手、震えてるが」

 

「ハハハハハハ」

 

 乾いた声で答える中毒者(セオドア)に、もうダメかもしれないと思い白い息を吐く。震えているのは寒さであると信じたいところだが、この人ならありえると思ってしまうのは信頼があるのか、無いのか。

 

 孤児院とは縁が無さそうな似非神父と、孤児院とは縁のない孤児生活をしていた私が共に孤児院に向かっている理由は単なる偶然で、セオドアは後継への教育の一環として外部講師として呼ばれ、私は昔馴染みに雨漏りの相談で呼ばれた。奴め……。

 

 昨日の定期連絡の際に、予定を確認していたら同じ予定地だったのでならば合流してから行こうという話になり、今に至るわけだ。

 

「いつか、外に煙が出ない葉巻でも出来れば良いのだがな」

 

「あなたが作れば良いのでは?」

 

「……生憎、発明には良い思い出が無くてな」

 

「ふむ、何か訳ありと見ました。良ければこの教皇めにお話し頂いても?」

 

 クルリとこちらを向き、すくめた肩ごしにこちらに問いかけるセオドア。右手には既に火の点けられた葉巻が握られている。

 

「たまには神父らしい事をするかと思えば、目から好奇心が隠せていないぞ」

 

「ハッハッハ!まぁ良いではありませんか。知らぬ仲でもあるまいし、何より目的地までしばらくあるのです。懴悔室に立ち寄らないあなたの本音を知りたいと思うシスターも、多くいるのですよ?」

 

「嫌な情報だな……まぁ、良いか」

 

 道具箱に一本だけ入っていた、湿気たタバコを取り出し、セオドアに突き出す。何も言わずに火を点けた彼を軽く見てから口元に寄せ、深く息を吸い込む。

 

「そんな大きな話ではないのだがな。単純に、私は私の手で、知らない結果(・・)を産み出す事が怖いんだ」

 

「ほう、結果」

 

 レイクランドの住宅街を進む私達の言葉を、意識して聞く者は居ない。雪が降るような寒さの朝だ。井戸の氷を棒で割る女性(アンナ)が、足早に水を汲んで家へと戻っていく。上水道、か。

 

「不幸にも、私はこの世界で比較的物事の原理という物を知っている側の人間だ。本当なら、私程度の知識は誰もが知っている、あるいは簡単に手に入るくらいが丁度良いと思っているのだがな」

 

 例えば、昨日の茶会で置いてみた水中花(すいちゅうか)。木片を集め、色を付けて纏めただけのものだが、アレ自体はヤマブキの茎やタラノキの芯、あとは紙などの方が簡単に作れる。知ってさえいれば乾燥を待つ時間以外に必要な道具も無い。

 

「知ってさえいれば誰でも作れる物を、形にすることを繰り返しているだけなんだ、私は。新しい物なんて何一つ創り出していない。そこの家の鍛冶屋のじいさんの方がよっぽどこれから(・・・・)のロンドンの事を考えて神話に通じる鉄を打とうとしている」

 

「それに比べ私は何だ?新しい鋼の比率に挑戦することもせず、対抗し得る神話に在るヒヒイロカネを再現しようともしない。ただ昔から伝わる玉鋼の事を知っているだけの素人でしかない」

 

「やろうと思う事も、この戦いが終わって落ち着くまでは、きっと無いのだろうな。自分でも馬鹿だと思うさ。今ある技術を発展させようともせず、今の状況を変えようとせず、だが、それでも神話を乗り越えたいと願っている。自分が変化することで知らない物が増える事に怯えているだけだというのに」

 

「悪い思い出というのも複雑なことでは無い。幼い頃に既存ではない物を創る度に、奥様方に張り飛ばされ、裏口から投げ出されるような生活をしていた。まぁ、それだけだ」

 

 無意識に握っていた木片とナイフで、掘り出すのはただの球体。ナイフでは元来球は作れないし、新円に出来るのは一部の職人連中くらいだ。それでも、角を取り続ければ球に限りなく近い贋作くらいには近付けられる。

 

「だから私は発明に怯えている。出来る地盤があるというのに、やらない理由を『依頼されていないから』『既存技術で出来るから』と他に任せ、出来ない理由を『事例を聞いた事が無い』と任せているわけだ」

 

「なんなら三日前相談された割れにくいガラス窓が欲しいって依頼は、科学技術課にそのまま案内した。自分が知らない、挑戦したくないって理由でな」

 

「これで満足か、セオドア」

 

 タバコは燃え尽き、僅かな煙も雪に埋もれてしまった。私の前を歩く彼の表情を伺うことは出来ないが、きっと懴悔室というものもそうなのだろう。

 

「ならば、きっとシェリダン、あなたの適正は、アルカナの中では科学技術課ではなく、歴史編纂課にあった、という事なのかな」

 

「へ?」

 

「うん、そう考えたら辻褄が合うね。調査が好きなだけな青年が、調査結果を元にした行動と発展を強いられて足踏みをする。よくある事例の一つだよ」

 

「そう……なのか?」

 

「そしてそんな時にジェームズが言うことは決まって一つ。『お前も歴史の一粒なのだから今紡ぐ歴史通りに動け』だってさ。私にはイマイチ伝わないけど、きっとあなたにとっては響く言葉になるんじゃないかな」

 

「今紡ぐ……歴史、通りに……」

 

「いや、悪いことを頼んだね、シェリダン。それなら渋るのも当然だ。今まで通り出来ると確信したことを続けてくれ。きっとそれが変化に繋がる。アーサーから聞いたが、レイクランドも昔とは変わっているんだろう?」

 

「あぁ、そう、だな」

 

 セオドアが右手に持っていた葉巻は放り投げられ、熱によって道端の雪は溶ける。何か、自分の中で固まっていた事が、動き出した気がした。

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