GODARCA / Before Nigit   作:Seilin

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ラブソングをたくさん聴きました


06

HO06: クピド・アモル・エーロス 1

 

「これは、マルセイユ製タロット。過去に実物を見たことはあるかい、シェリダン?」

 

 ここはウェスト・フォートの一角にある、クピドの数多くある家の一つ。彼に心酔する隊員が何名か床に転がっているが、命に別状は無いらしいので気にせずにおく。

 

「いや、初めてだな。当時は手書きのカードを見せられていたからな。大体の意味は知っているが、それが一般的なソレと等しいかは知らん」

 

「あは、じゃあ僕がシェリダンの初めてになるんだ、嬉しい。……ふふ、そんな(うれ)う顔もかわいいね」

 

「憂いているとわかるなら、気にせず続けてくれ」

 

 クピドの赤い目がこちらを見据える度に、床に転がった隊員から怨嗟の気配が漏れる。この狂った愛の世界にも、嫉妬の概念はあるんだな、覚えておこう。

 

 今私がクピドの家にいる理由は単純に勉強の一貫だ。魔法でも化学でも無い、神話由来の律である「原初のアルカナ」。その呼び名の基となったタロットカードについて、知っておくべきだと判断した。本来なら孤児院や学校で学ぶことらしいが、生憎私にはその系統の学びは無関係だったからな。酒場のオッサンが自慢げに取り出したその一回だけが記憶にある。

 あとは、「場合によって解釈が変わる」のもタロットの特徴らしい。同じアルカナの同じ向きが同じ場所に出てきても意味が変化し、受け取り手の解釈によって良い意味にも悪い意味にもなる。これが理由で本だけに頼ることが出来ず、そんな折にクピドが(恋占いの)解釈を無数に経験してきたと知り、教えを乞うこととなった。

 

「タロットカードには、大きくわけて3つの種類があるんだよ。エッティラなどのエジプシャン・タロット、ラグエルが持っているようなトランプと同じ使い方が出来るゲーム専用タロット。そしてこのマルセイユタロット。大きな違いはないけれど、宗教的な意味合いや解釈、あとは順番が変わっている場合があるんだ。よく聞くのはルーファスの正義とリーの力が入れ替わる事かな?今はアルカナの影響で入れ替わる事は殆ど無いけど、昔はよくあったらしいよ……ってシェリダンの方がよく知ってるよね、また今度教えて欲しいな」

 

「そもそも無いアルカナがあったりな。解釈については誰に聞いても『詳しい人に聞けば?』のたらい回しだ。実際どうなんだ?」

 

 私が訊ねると、クピドは目を一度細めて答える。

 

「解釈は人それぞれだから自由に捉えるのが一番なんだけど、基本的には占う相手の事を考えないといけないんだ。例えば、前を向きたい子猫ちゃんを引き止めるような事をしてはいけない。自分から離れたいと思っている子猫ちゃんに離れる理由を作っちゃいけない、とかね?」

 

「語り口にも気配りが要るねぇ。シェリダンみたいに説明をしっかりと聞きたい!って子猫ちゃんや、ただ僕の声を聞いていたいって子猫ちゃんならこうやって一方的に話す方が良いけど、そうじゃない子猫ちゃんもいるからね。そういうときは体験型にするんだよ。好きなものを引いて、ってね?」

 

「あぁ、ごめんね。話が逸れちゃった。シェリダンがあまりにも素直に聞いてくれたから僕嬉しくって」

 

「それで、解釈の話だったね。シェリダンって、順番はしっかりしてた方が好きだよね?……うん、良かった。じゃあ0番の愚者からやっていくね」

 

 そう前置きをして、クピドによる解説が始まる。自身の経験も合わせて話すので、聞いていて飽きない。……こういう所が、人を惹き寄せるコツなんだろうな。私には難しい部分だ。

 

「……それで、シェリダンの塔、なんだけど、これを見てくれる?」

 

 そう言って私の右手を左手で包みながら捲らせたのは16番、THE TOWER()。崩れ落ちる塔と、それに直撃する雷。そして今にも落ちようとする王冠が描かれたタロットだ。破壊、崩壊、急変……今のロンドンにあって欲しくない事を詰め込んだタロットであることくらいは、知っている。

 

「ふふ、脈がすごい速くなった。そうだね、塔は崩壊のカード。従来の方法では対処出来ない災害、夢を見すぎた人間に罰を与える、なんて解釈も出来る。でもね、それは一面だけなんだよ」

 

「一面?」

 

「そう。塔は革命であり、改変の兆しって解釈が出来る。変化の始まりのカードなんだ。だからね、僕は思うんだよ」

 

「シェリダンが居ることで、この神話の世界から人間の世界への変遷ができるんじゃないかな、ってね」

 

 横から覗き込む彼から目を逸らす。私の行動などで、大きく変わるものがあるものか。

 

「それで、逆位置は2種類あるんだよね。一つは正位置と逆の意味。停滞とか、再生とかの事だね。そしてもう一つは規模の小さい変化。つまづき、ちょっとしたミス、人によっては新しい提案への否定をここに入れる人もいる。どっちの意味でもシェリダンとは真逆だね。アーサーから聞いたよ?シェリダンの改築が、ロンドンを一つに纏める変化になってるって」

 

「っ……それは、」「言い訳だねぇ。シェリダンらしくないよ?」

 

 言葉を紡ごうとする唇をクピドの人差し指が止める。

 

「出来る方法を考えるのがシェリダンのやり方だろう?いつも通りやってみれば良いのさ。僕の恋人の意味なんて、死んだ後には何も残らないだろうからねぇ」

 

「いや、残る、だろう。私が形のあるものを残してしまうように、お前は形の無い感情を残して逝くんだ。ここにいる奴らは、きっとお前が形にしなかったものを形にするんじゃないか」

 

 私の顔の周囲をふらついていた右手が止まる。その目は、どこか怯えているようにも見えた。反射した私の目も、少し揺れている。

 

「私も、怖い。私が作ったものを元に、知らない編纂が起こってしまうことが。だが、私も少し前を向いて崩壊から離れてみようと思う。お前には、それが出来ないのか?出来るだろう?」

 

「そう、だね。少しだけ。うん。少しだけ、かぁ」

 

「少しだけ、だ。それが結果大きくなっても、それくらいは心で許すくらいの気概は持とうとしていいんじゃないか」

 

「うん」

 

「じゃあ、まずは残りのアルカナだな。しっかり教えてくれ」

 

「あは、そうだね」

 

 夜は更けていく。僅かな火に熾されたアロマは、部屋の窓から吹き抜けていった。




魔性の女(男)すぎ 本当に解釈合ってる???
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