GODARCA / Before Nigit 作:Seilin
きっと、このひとときはなかったのでしょうね。だって、これほどまぶしいのよ。
でもどこにもないってことはあるってことをひていしないといけないからな!それってむずかしいんじゃねぇかなぁ?
HO09: ヘルメス=トート·ハーミット 1
「ほとんど図書館のようなもの、と聞いていたが……まさかここまでしっかりと資料が残っているとはな」
訪れたのは、図書管理課の一角。世界が崩壊しないためにかき集められた、アルカナに関する物語、解釈を紡いだ書籍が壁一面に並んでいる。
「さて、役柄が"崩壊"なのはわかっているんだ。それをどのように拓くのか、見せてもらうぞ」
「ちょっとだまっててよ、いいこなんだから」
「……あー、どういう意味だ?ミスター」
本の背表紙に触れようとした手が止まる。男性の声に振り返ると、そこにいたのはヴェールをまとった子供が一人。
「そんな物語は見飽きたんだよ!オレはね、七年間もこの町で舞台を見て来たんだ、七年だぞ!そんなもんならロンドン商人なんて舞台はやめちまえってんだ!」
「ロンドン商人……まさか、今の君は高貴な市民だと?」
「そう、僕様は食料雑貨を売る店主なのさ!アハハハハ!」
なにが嬉しいのか、私の周りをくるくると回るヘルメス。
「悪いがヘルメス。今日私はロンドンではないアルカナを調べに来たんだ。この舞台に立ってしまった以上、全力で遂行しなければならない」
「それならおいらでいいじゃんか、今の世界にいるアルカナはおいらたちさ、だったらあんたがき決めちまうのが真実じゃんか?なんでったって過去に答えを求めてんだ?」
「私のことをよくわかっているようだが……なら何が出来るというんだ。君は私のために何が出来る」
ヘルメスは腕を組む。まるで何かを考えているかのように。
「なんてったって市民で居続けられるのさ!彼は僕らの同胞でね、それがぜんぶ彼女のためなんだ、彼の舞台で踊る八百屋になればいいのさ!」
「あたしゃ異物さ。厄介者さ。でもね、この舞台にはあたしの夫は何度も連れて行ってくれるっていってくれたのさ。それはあんただって一緒だろ?この舞台にはあんた以外にあんたを演じる人間はいないってことサ」
彼、あるいは彼女の放つ言葉は難解で、正直な所理解しきれている自信は全くない。それでもきっと、誰かを演じるような私をよく思っていないのだろうとは思う。
「そうか、ならそれを否定するためにも私はこの蔵書を読みたいと思う。座って頂けるかな?」
「わかったよー。落ち着くためにも座ることにするね?」
そういうや否や、ヘルメスはどこからか取り出した舞台観劇用のイスに座りこむ。手元には飲み物とサンドイッチも準備されているようだ。
「ぼくはレンを信じるよ。レンならきっとうまく演じてくれるから……っともうプロローグおわっちゃったじゃんか!また遊んでね!ばいばーい!」
イスを振り回しながらヘルメスは図書管理課を後にする。残ったのは不思議な静寂と、包みに入ったサンドイッチ。
「なんだったんだ、あれは……」
結局、そこで読んだ本は物語として面白いものであった。それを取り入れることもなく、でも忘れることもなく。結局私のまま、この夜を迎えた事は少しだけ、喜ばしいのではないかな。そう思えて仕方がないのだ。
嘘なんて物語で出尽くしているのです。きっと私の隠す力で守れない人もいるし、物語に乗れさえしない人もいるのです。そんな中でも変わらずに遺そうとする貴方は、少しだけ、私に出来ないことをしている素晴らしい人間だと思うのです。遊んでくれてありがとな!
参考文献 ぴかぴかすりこぎ団の騎士 "THE KNIGHT OF THE BURNING PESTLE"
その子はただ、偶然に喜びながら遊んでいただけなのかも。