魔術と科学とサイヤ人が交差する物語   作:猫ネコ

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ふと、思いついたのを書きました。
かなり亀さんスピードになります。

原作1巻までは書こうと思います。とはいえ知識はアニメと漫画です。


科学と魔術とサイヤ人が交差する時

 

 

 

 

 

 

薄暗い部屋。

巨大なビーカーを満たしている妙な液体。

その中にいるのは、男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える人間。

ソレは嗤った。 

 

 

「ふ…、これは、」

 

 

嗤って、言った。

 

 

「………………誰だ?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

夏休み。とある学生寮の一室。

彼は学業の成績が悪く、本日は補習なり。

しかし目覚めた瞬間に寝坊だと悟り、追い討ちをかけるように遅刻宣言の電話が来た。もう焦った所で未来は見えている。

ならば天気も良い事だし、諦めて布団を干そうとベランダのドアを開けた。

 

 

「え…?」

  

 

彼の足は止まった。

ベランダから一歩も出る事なく、外の様子を見る。

自分ははたして、いつ布団を干したのだろうか。

実際は両手で抱えているのに馬鹿な事を考える。だがしょうがないだろう。

ベランダの柵に白いナニカがぶら下がっているのだ。

特徴のある衣類から推測するとシスターの様に見える。

何故こんな所に。科学の街にシスターさん。

彼の疑問は一つも解決せずに疑問は増える一方。

 

そして、

 

 

「おなか、へった……」

 

 

シスターさん?はボソリと呟き、

 

 

「だよなぁ。オラも腹減ってしょうがねぇ…」

 

 

彼ではない声がした。

彼とシスター(?)との間に子供が一人。

あちこち飛び跳ねた髪に、中国拳法か何かでありそうな恰好。極め付けは子供のお尻付近で蠢く物体。

間違いなく尻尾だ。

 

 

「キミもそうなの?」  

 

 

シスター布団は言った。

 

 

「ああ。そんでココがどこかも分かんねぇ」

 

 

拳法家の少年は淡々と返す。

 

 

「だよね〜。私も分からないかも」

 

「ちゅーかおめぇ、そんな格好して苦しくねぇんか?」

 

「全然問題ないよ。この服着てると物理的ダメージは感じないからね」

 

「へぇ、そいつはスゲェなぁ」

 

「ふふん。でしょ?」

 

 

そんなやりとりを彼は身じろぎせずに見ていた。

 

 

(……何だこれ?)

 

 

誤解しないように言うと、彼は見ていたくて止まっていた訳ではない。

日常からかけ離れた光景に脳の情報処理速度が追いつかなかったせいだ。

けれど、もう分かった。これは関わるべきでない。

この者達にはどこか遠い所で幸せになってもらおう。

そう思い彼は後ろに足を伸ばした。

 

むぎゅり。

 

足の裏に気持ち悪い感触。更にはバランスを崩し転倒。

布団の絶妙な重さが加わり、背中を激しく強打した。

  

 

「ぐはっ、ごほっ!こぼっ!………あー、くそ。不幸だ…」

 

 

まだ目覚めてから五分程度でこの仕打ちは、余程神さまに嫌われているに違いない。

そこで彼は思い出した。今の状況を。

 

 

「はっ…!」

 

 

ガバッと起き上がりベランダに目を向けた。

やはりと言うべきか。二人の視線は彼に注目している。じーと、見つめられて彼は居心地の悪さから妙な汗が流れる。

 

 

「……え、えーっと………」

 

 

彼は気まずそうに頬を掻いていると、ようやく反応があった。

 

 

「きみ、だれ?」

「誰だおめぇ」

 

「それはこっちのセリフだあああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

グギュウウウウウウ!!!! と、とある二人のお腹からの BGMが発せられる。

机を囲んだ三人は大人しく座っていた。

 

 

「………まず最初にお前達は、ーー」

 

「まず最初に何か食べさせてくれると嬉しいかも」

 

「あ、オラも!」

 

「…………」

 

 

ピキッ。

彼のこめかみから音が鳴った。

無言で渡すのは先程踏み潰した焼きそばパン。冷房が切れたこのクソ蒸し暑い部屋に放置してあったパンだ。

机に置くと、拳法家の少年は顔を顰めながら鼻を寄せた。

 

 

「うわっ、くっせえええっ! これ食えんのか!?」

 

「はっはっはっ!あー食えるとも!食おうと思えばなんだって食えるさ!ちなみに俺は食おうと思えないから食えませんっ!」

 

 

自信満々に言い放つが、味を想像して青ざめるのは彼も同じだ。

兵器と化したパンは机の中央へ。そこにニョキっと伸びる小さな手。

 

 

「お、おい…」

 

「え。まじですか…?」

 

「いっただっきまーす!」

 

 

袋から出た瞬間にもう一段と弾ける酸っぱい匂い。それを彼女は一口で食べた。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

咀嚼していても彼女の表情は特に変わらない。

余程の味覚音痴か、もしくは味などには問題なかったのか。

 

 

「んふんふ…………んくっ…!」

 

 

突如、彼女は喉から妙な声を出した。

即座に彼と少年の二人は動き出す。

 

 

「おいおいこりゃあ………吐くんじゃねぇのか!?」

 

「いやああああっ! トイレっ、お願いだからトイレに行ってくれぇええええ!!」

 

「んきゅ……? ごちそーさま!」

 

「……う、うまかったんか?」

 

「んー…、美味ではなかったけれど、微かに酸味があって珍しい味だったよ!」

 

「お粗末様でした…」

 

 

彼はふと視線を感じた。

隣からだ。少年がジト目で彼を見ている。

よくこんな小さい子にあんなの食わせたなと言わんばかりの目だ。

彼は首を振った。

この件はなかった事にしよう、と。

 

 

「さてさーて、坊ちゃん嬢ちゃん。順番に自己紹介といこうか」

 

「自己紹介って、どこまで話すんだ?」

 

「そうだなぁ…、んじゃ俺から言うから適当に真似してくれ」

 

「分かったんだよ!」

 

 

(本当は怪しいお前達から話すもんなんだけど)と思いながら咳払いを一回。

冴えない顔をしたツンツン頭の彼は言った。

 

 

「俺の名前は上条当麻。世界一運が悪い高校生でーす」

 

「トウマかぁ、よろしくな! にしても自己紹介で言うくらい運がわりぃってのはちょっと悲しいなぁ…。すぐ変な事が起きんのか?」

 

「まーな。 例えて言うなら……、とつぜん俺の家に不審者が二人も!? みたいな事があったりする」

 

 

はぇええ……と能天気に相槌を打つ少年は、物珍しそうに笑った。

 

 

「ははっ、そりゃあ中々迷惑な話しだな! しかも狙われた訳じゃねえんなら尚更だ。運がわりぃにも程があんな!」

 

「ほんとにな」

 

 

一言で返す言葉は冷たかった。

 

 

「じゃあ次は、シスター………もどきさんで」

 

「ちょっと!? もどきってなんなの?」

 

 

ぷんすかと言い返す少女は、見た目に反して気が強いらしい。

だが彼は全く悪びれたりしない。

さっきのやりとりは今も鮮明に覚えているからだ。

 

 

「そのまんまの意味だよ。俺の知ってるシスターさんは食べ物にガメついたりしない」

 

「むっ…、だって、お腹減っちゃったんだもん。しょうがないじゃん」

 

「うんうん。分かるぞ。腹減るとやる気が出ねぇもんな」

 

「その通りなんだよ! 」

 

「はいそこっ!意気投合しない!」

 

 

彼はズビシッと指を突き付け、自然な流れで脱線しそうになった話しを元に戻す。

少女は口先を尖らせながらも話しを続けた。

 

 

「私の名前はインデックスって言うんだよ。見ての通り教会の者です。年齢は……たぶん当麻より少し下かな?」

 

「いんでっくす? へぇ、変な名前してんなぁ」

 

「キミ!いきなり失礼かも!」

 

「へへっ。わりぃわりぃ、もう言わねぇから続けてくれ」

 

 

ぽりぽりと後頭部を掻いている少年の隣で、彼は数回頷いた。

同意したのはインデックスではなく少年の方。

厳密には、"変な名前"というよりも"偽名でしかない名前"を文句付けたかったが、少年が話しの催促をしたため彼は口を紡ぐ。

黙って聞いていると、

 

少女の自己紹介はもはや脚本だった。

 

曰く、所属はイギリス清教(?)

ベランダにいたのは、屋上を飛び移る際に魔術結社と呼ばれる輩によって、背中を撃たれて落ちたため。

なぜ魔術結社に狙われたのかと言うと、少女が持っている10万3000冊の魔導書を奪うため。

 

少年は聞いた。

背中を撃たれたのなら痛くなかったのか?

 

少女は答えた。

修道服は"教会"。銃で撃たれても包丁で刺されても平気。

 

彼は聞いた。

どこに10万3000冊なんて数の本を持っているんだ?

 

少女は答えた。

頭の中だよ。

 

 

たった二回の質疑応答。

彼は我慢の限界だと叫び散らした。

 

 

「信じられる訳ねぇだろおおおおおお!!!」

 

 

突然の激昂は少年少女を困惑させた。

 

 

「ど、どうしたんだ?トウマ…」

 

「どうしたもこうしたもねぇよ! ここは嘘ばっかの面接会場でも、キャラ設定を発表する漫画編集社でもねぇんだよ!」

 

「なっ…! 私は嘘なんて言ってないんだよ!」

 

「そうかよ!なら嘘じゃなかったら妄想だな! 見た感じ年頃だろうけど厨二病は卒業しとけ!」

 

「意味わかんない!君だって世界を知らなさそうな顔してるのに世界一を豪語するなんて浅はかかも!」

 

「て、んめぇ……っ、さらっと貶して来やがったな…!」

 

「ふんっ。さらっとじゃなくて明確に貶したんだよ」

 

「上等だ、このエセシスター!」

 

 

部屋に置かれた小さな机が激しく動く。

対面同士の二人が勢いよく立ち上がったせいだろう。

今にも取っ組み合いが始まりそうな殺伐とした雰囲気。

 

 

「落ち着けよトウマ。嘘だって決め付けんのも可哀想じゃねえか」

 

 

そこに割って入るのは二人よりも小さな背丈の少年。

宥めながら二人を座らせて、もう一度ゆっくり話し合おうと言う落ち着いた声が、二人の耳に行き届く。

 

 

「………悪い。インデックス、言い過ぎたよな」

 

「…ううん。私の方こそごめんね」

 

 

彼は脳内をクリアにするため深い息をついた。

そして、感謝の言葉をかけるために少年を見る。

 

 

「ありがとな、止めてくれて。怒鳴り合いなんて怖かっただろうに……」

 

 

心底ムカついて怒鳴った訳ではない。

だから見る人が見れば、本気の喧嘩じゃない事は分かっただろうが、この少年は違う。

10歳前後の子は大きな声だけで震えあがってしまう。表情だってキツかったに違いない。

彼は高校生という立場にあり、小さな子供に宥められた事を恥ずかしく感じていた。

 

 

「気にする事ねえさ。それにインデックスだってよくねぇんだぞ?」

 

「え?」

 

「信じてもらえねぇ時に言い返しちまったら余計に信じてくれねぇもんだろ?」

 

「ぁ……、」

 

「焦んなくても大丈夫だ。本気で言えば分かってくれっから。ちなみにオラは信じてるぞ!」

 

「ぇ、ほんと!?」

 

「もちろんだ!昔マジュツってのに一杯食わされた事があったかんな。逆になんでトウマが信じられねぇのか、オラはその方が不思議だぞ」

 

「ぇぇ……、なにそれぇ。俺の知らない所で魔術ってそんなに常識なの…?」

 

「うーん……、秘密の団体だから世間的に有名にはならないと思うけど……」

 

 

うんうんと唸る彼と少女。

注目するのはこの、大人びたような無邪気な少年。

自分の話題を切り捨ててでも、湧き出た好奇心に従った。

 

 

「その魔術結社に追われてたっていうインデックスの事も気になるけど…、」

 

「うん。まずはキミの名前を聞かせてくれるかな?」

 

「おう。今度はオラの番ちゅーわけだな」

 

 

白いシスターの次は、武が関係してそうな恰好の少年。

薄い青色のノースリーブ。胸元は大きく開き、少年の割に発達した各部位の筋肉。

それが見えるという事はインナーは未着用。歳が歳ならかなり過激な服だ。

黄色いダボついたズボンに、裾の部分は白い布で覆われている。

腰に白い帯。これが何よりも武をイメージさせられていた。

それ以上に目を奪うのはやはりと言うべきか、腰付近から生えている尻尾。

不規則に動いているのだからオモチャではない。

 

そんな摩訶不思議な少年の名は……、

 

 

「オラの名前は孫悟空! 歳は分かんなくなったけど、60くれぇだ!」

 

 

 

 

 

かつて。

穏やかな心を持ち、優しくて、楽しくて、周りの者達を笑顔にしてしまう。

 

宇宙一強い男がいた。

 

男は戦いが好きだった。

強くなれる事が喜びだった。

鍛えた力をぶつけ合えるのが楽しかった。

 

望んだのは強敵。

手に入れたのは絶対の強さ。

そして、

ーー未来。

 

いつからか、未来を守るための戦いに変わった。

 

 

地球征服を企む大魔王。

底知れぬ強さを持つサイヤ人。

宇宙の帝王。

恐怖の人造人間。

魔神。

宿怨を晴らすツフル人。

地獄の人造人間。

邪悪龍。

 

 

男は戦い続けた。

一度たりとも振り返らず、一度たりとも下を見ず。

ただひたすらに前だけを見て、不敵な笑みと共に拳を作り続けた。

  

 

 

 

そんな男の事を知らない二人は、

 

 

 

「「嘘だッ!!!!!」」

 

 

 

力いっぱい叫んだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

    

 

 

 

 

『………………、』

 

 

空間を支配するのは沈黙。

こうなったのは、嘘だと連呼する二人と、嘘じゃないを繰り返していた悟空の両者が、息を切らした事から始まった。

 

 

『…………、』

 

 

ぜー、はー、と肩を動かす。

まず最初にインデックスが口を開いた。

 

 

「………キミ、斉天大聖?」

 

「なんだそれ?」

 

 

疑念を一撃で打ち砕かれたインデックスはひとまず安心した。

非常に低い可能性だったが、そうだった場合のとんでもない未来を考えずにすむ。

 

 

「ふぅ……、まぁ、そうだよね」

 

「斉天大聖って言ったらアレだろ? 西遊記の、如意棒とかキントウンの」

 

「………そうだね。中国四大奇書の一つ、西遊記。とうまの言う通り觔斗雲に乗って如意金箍棒を振るった大妖怪」

 

「?……おめぇ達なに言ってんだ?」

 

 

悟空は首を傾げた。

 

 

「だ、よな……分かんねぇよな!そりゃそうだ!あは、は、ははははっ!」

 

「ちゅーかなんで如意棒と筋斗雲の事しってんだ?」

 

「ははは…………え?」

 

「オラは今持ってねぇし、ココに来る前に筋斗雲を呼んでみたけど来なかったぞ?」

 

 

上条は心臓の音をうるさく感じていた。

もしもこれで悟空が、『だっまさっれたー!そんな訳ねぇだろー!』とか言って来たなら詐欺師になれと勧めてしまうくらいに、発する言葉に偽りが無い事が分かる。

補足として上条には嘘を見破る技術はない。

人間の生理的反応である視線の動きや発汗などを利用する手法、コールド・リーディングの知識なんて全くもって皆無だ。

それでも悟空が嘘を言っていないと断言出来る。

それほどまでに悟空の言葉は真っ直ぐなものであり、今では冷や汗が出る要因である。

 

 

(まじか…、いや、いやいやいやいやいや有り得ねえって! そんな漫画にだって無い設定だぞ…。…………けど、)

 

 

真偽を確定させるために上条は指を差す。

 

 

「なぁ、…‥悟空」

 

「んー?」

 

「その……、尻尾?って触って良いか?」

 

「尻尾?まぁ、別に構わねぇけど面白もんじゃねぇぞ?」

 

「ああ。けどその前に一つ、俺の説明を聞いてくれ」

 

「?」

 

 

ここからが本題。

上条は注目を集めるべく "右手" をあげた。

 

 

「俺の右手、幻想殺しって言ってな。……それが異能の力ならレールガンだろうが神の奇跡だろうが、打ち消せるってシロモノなんだ」

 

「はぇえ……、イノーだかレールガンだかオラは分かんねえけど、消せるってのはスゲェな。……で、それが何だ?」

 

「………例えばその尻尾が…………、"肉体変化"とかで作ったヤツなら確実に消える。それでも触って良いのか?」

 

 

僅かにでも反応があれば、それは動揺。

仮に簡単に作れるものだとしても、消されてしまうのは避けたいはず。

 

 

「うん、良いぞ!」

 

 

にも関わらずあっけらかんと言い放つ悟空を見て、上条は思った。

 

 

「…………んじゃ遠慮なく」

 

 

これはやるだけ無駄な事かも、と。

 

 

「!………おおう……」

 

「な?別に面白いもんじゃねえだろ?」

 

「い、や……これは…………すげ、やらけ…ふわふわだ…」

 

 

分かりきった結果が訪れた。

拍子抜けはしない。

妙な感動が生まれた。

上条は生まれて初めて人間の尻尾を触る右手に全神経を集中せて、

 

 

「うわぁ、これはやべ……………じゃ、ねえわ!ちょ、ちょちょちょ、インデックスさんんんん!?これ本物!ホンモノよこれ!俺しっぽ握っちゃってるよ!?」

 

「おおおおおちつくんだよ、と、ととうま!」

 

 

彼ら二人のみが地震被害にあったかのように、口も手も、からだ全てが震えていた。

 

 

「どーするよコレ!俺の目の前に斉天大聖がいるんだけど!?」

 

「落ち着いてってば!私はまだ疑ってるから!」

 

「何でだよ!俺の右手で触ってるんだから本物だろ!」

 

「その右手を疑ってるんだよ!」

 

「………………あ、そう」

 

「ご、ごめんね? いきなり神の奇跡を打ち消すって言われても…」

 

「良いって、別に……」

 

 

拗ねた。

これは完全に拗ねた。

一瞬で不貞腐れた上条を見て、インデックスのみならず悟空までもがそう思った。

 

 

「おっし分かった!まずはトウマの右手を確かめようぜ!」

 

「賛成なんだよ!」

 

「………たった今確かめようとして失敗したんだよ」

 

 

ぁ…と、蚊の鳴くような声がインデックスから漏れた。

 

 

「ほ、ほら今のはトウマだけが分かる確認方法だっただろ?次はオラ達も納得出来るような事すれば良いじゃねえか!」

 

「どうするんだ?」

 

 

待ってましたと言わんばかりにインデックスが胸を張った。

小さなを自身の胸元に置き、声高々に言い放つ…………の前に、悟空は立ち上がって適当に離れた位置を指で差した。

 

 

「トウマ!そっちに立って右手をオラの方に向けろ」

 

「え、何だ、……ってやっぱりお前、能力者だったのか!?」

 

「能力者が何を示してんのか知らねぇけどよぉ、イノーの力ってのは何となく分かった」

 

 

上条とは約15m離れた位置。

寝具がある所に悟空。玄関に続く通路に上条を立たせて、お互いの手のひらが直線上になるように構えた。

 

 

「?……ごく、」

 

 

これからどうなるのか想像もつかない上条は、悟空の名前を呼ぼうとしてやめた。

 

ピポッ…というコミカルな音と同時に、悟空の手のひらには光る球体が出現したからだ。

 

 

「威力は弱めてっけど気ぃつけろよ、トウマ」

 

「…………は、はは」

 

 

上条は考えるより先に笑った。

未知への力の好奇心……ではなく、悪ノリで生きる男子高校生の本領発揮である。

 

 

「よっしゃ来い悟空!俺の幻想殺しは威力関係なく消し去るぜ!」

 

「そっか。そいつは楽しみだ!」

 

 

悟空は過去の戦闘から気弾が効かなかったり、弾き返されたりしていたが、完全に打ち消す所は見た事がなかった。

ほんの数回、相手の気弾を自身の"気"で押し潰す事はやったが、やはり打ち消すのとは訳が違う。

悟空はワクワクした気持ちのまま、ちゃんと威力を抑えた小さな気弾を、上条に向けて飛ばした。

 

部屋の中を目視出来るスピードで進む気弾。

 

傍観者のインデックスも

通り過ぎる気弾を追いかけて顔を動かす。

 

 

疾風怒濤。

 

 

それがこれから起きる、一連の出来事だった。

 

 

 

「ご、ばっ……!!?」

 

 

手のひらに気弾が接触した時、掻き消されるはずの気弾は爆発し、上条は玄関まで吹き飛んだ。

 

 

「い"い"っ!?」

 

「とうまぁあああああ!!!」

 

 

インデックスはすぐに追いかけた。

ノーバウンドで玄関にぶつかった上条は膝をつき、ドサッ、と前のめりに崩れ落ちる。

 

 

「とうま!しっかりして!」

 

 

インデックスは上条の体をひるがえし、自身の膝の上に頭を置いた。

聖母のような感覚に包まれた上条は、うっすらと瞼を開く。

 

 

「イ、ンデ、クス……俺は、もう…」

 

「とうまっ!」

 

 

まるで演劇の一種だ。

悟空は『あいつら楽しそうだなぁ』と呑気に事の成り行きを見守っていた。

 

そして、

 

 

パキィイイイイン………と、甲高い音が鳴り響くと同時に、インデックスの纏っている修道服がバラけて落ちた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

「………色々あったけどよ、」

 

「ああ…、色々分かったな」

 

 

孫悟空は机に肘を付いたまま呟いた。

上条はうつ伏せ状態で、後頭部に歯形をつけながら呟いた。

 

 

「……………………………つまり、私達の能力をまとめると、」

 

 

インデックスは全身を掛け布団で包み込み、顔も見えない状態で呟いた。

彼らは先程あった珍事件からずっと、このポジションに付いて、誰一人視線が合わないまま自分の能力について語っていた。

 

 

「ごくうの"気"という力は生命エネルギーを利用したもの。 その応用性は限りなく大体のことはできる。とうまの幻想殺しが反応しなかったのは、"気"は生命の源だから異能ではないと推測……」

 

「インデックスは魔力がない魔術師。"歩く教会"っつーその修道服はあらゆる衝撃を無に返し、逃げる途中に屋上から落ちてベランダの縁に当たっても無傷……」

 

「そんでトウマの幻想殺しは、その"歩く教会"っちゅーインデックスの服をビリビリにしちまったって訳だな…」

 

「いやなんでそこを蒸し返した!?」

 

 

途端に、グルルルルルル!!!という獣の唸り声が布団の中から聞こえ、上条は反射的に後頭部に手を置いた。

 

 

「ほんっとごめんなさい!悪気はなかったんです!だからもう噛むのは勘弁してくださぁい!!」

 

 

バキッ。

 

 

「え…?」

 

「なんの音だ…?」

 

 

妙な音の根源を探るべく、悟空はキョロキョロと辺りを見渡し、インデックスも布団の中から顔を出した。

二人は視線をさまよわせて、ほぼ同時に視点をとどまらせた。

 

 

「トウマ?」

 

「どうしたの?全然動かなくなったけど…」

 

 

上条は後頭部に手を置いたまま固まっていた。体勢はうつ伏せ状態から膝立ちになっていた。

先程の、噛まれたくないがために誠心誠意お願いをしようとして起き上がったのだろう。

 

 

「…………、」

 

 

ちなみに言うと、上条だけは妙な音の正体に気付いている。

膝立ちになった時、硬いナニカを膝が押し潰したのだ。

上条は無表情でゆっくりと横に座り直した。

 

 

「!……あちゃあ…」

 

「oh…」

 

 

露わになったのは液晶部分にヒビが入った携帯端末。

 

 

「……どうだ、お前達。これが世界一不幸の日常だ」

 

 

むりやり引き攣り上げた頬がピクピクと動いている。

強がっているのは明らかだったが、悟空達は同情よりも率直な感想を述べた。

 

 

「いや……不幸っつーか、今のは……」

 

「う、ん…、…………ただドジなだけかも」

 

「うるっっっせぇんだよぉおおおおおおおお!!!!!」

 

 

この学園都市は能力者のレベルによって奨学金が決まっている。

レベル0からレベル5まで五段階。

高位能力者にもなれば研究協力費などで巨額の金額が振り込まれるとなるが、上条は"レベル0の無能力者"。

元々、ごく平凡な毎日をおくるだけの金銭しか振り込まれない上に、上条は頻繁に不幸に巻き込まれるため、すぐにお金が吹き飛んでいく始末。

 

今月だけで既に三度目の携帯の破損。

 

修理補償により多少は安くなっても、それでも貧乏学生には痛すぎる出費だ。

 

 

「はあ、………不幸だ。これは不幸なんだ」

 

「まあ、元気だせよ。怪我はしなかったんだしさ。それだけみたら運が良かったって事になるじゃねえか!」

 

「お前はポジティブ王国の住人か!」

 

 

ははっ、と屈託のない声にツッコミを入れる上条。

その時、ベッドの上の布団が宙を舞った。

 

 

「出来たぁ!!!」

 

 

ベッドから降りてくるのは白の修道服を纏う少女。

先程ビリビリになって乱雑に散らばった布切れと化していたが、どうやら復活したらしい。

 

 

「おーっ! なおったんだな!」

 

「………そうか?所々安全ピンで補強してあるだけの針のムシロになってっけど」

 

「とりあえず、とうまが反省していない事が分かったんだよ」

 

 

ガチンガチンと少女の歯が音を立てる。

上条の顔は血の気を失ったように青白いものへと変化した。

 

 

「まじで悪かった……、スミマセン」

 

 

両手を合わせて頭を下げる。

その様子を見て少年少女は笑った。

 

 

「いいよ。ゆるしてあげる」

 

「ほっ…。あ、そういや悟空は結局、斉天大聖とは関係ない、で良いんだよな?」

 

「うん。西遊記の物語とは色々と噛み合わないし、なにより緊箍児っていう三蔵法師から授けられた頭の輪がないからね。限りなく本物に近い別人って感じかも」

 

「いや、中国四大奇書の一部があるって時点で充分怪し過ぎるんだが…」

 

 

上条は不躾な疑いの目を悟空に向けるが、

 

 

「ん…? どうした、トウマ」

 

「……別に。なんでもねーよ」

 

 

ニカッ、と真っ白い歯を見せながら笑う悟空を見て、深く考えるのをやめた。

 

 

「………さて、と。私はそろそろ行こうかな。思いのほか長いしちゃったね」

 

 

前置きもなく、インデックスは玄関に向けて歩き出した。

 

 

「待て待て待て!」

 

「ん?」

 

「お前行くアテあんのか?事情はいまいち分かんねーけど、魔術師に追われてるってんならウチに隠れてりゃいーじゃねーかよ!」

 

「………………もっと不幸になるよ?」

 

 

一瞬。

インデックスから輝きを失った瞳を向けられて、上条は怯んでしまう。

直後にインデックスは目を細め、優しく微笑んだ。

 

 

「……さっきはね。ドジなだけって言ったけど、幻想殺しが本当なら、神様のご加護とかそういう類のものをまとめて消してしまっているんだと思うよ?」

 

「っ!それって…」

 

「つまりとうまの右手は、"幸運の力"を消しちゃってるって事」

 

 

衝撃的な事実に耐えきれず、上条は四つん這いに崩れ落ちた。

 

 

「分かったでしょ? 普通に生活しているだけで大変なんだもん。私に関わったらそれこそ命がーー」

 

「それとこれとは関係ない!」

 

 

上条はそくざに否定した。

例え厄災が振り返るとしても、自分の意思にかけて見過ごす訳にはいかない。

 

 

「危ない目に遭うって分かってて、お前を外に放り出せる訳ねーだろ!!」

 

「じゃあ、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」

 

「ーーッ!!」

 

 

インデックスの直接的かつ現実味のない言葉に、上条は即答出来なかった。

その僅かな動揺をインデックスは見逃さない。

身を翻し、玄関の扉を開けて、

 

 

「ははっ!」

 

 

重く沈んだ空気を、笑い声がかき消した。

 

 

「地獄の底なんてつまんねぇとこ行ってどうすんだよ、インデックス。おめぇみてぇに元気なヤツが行ったらピッコロが怒っちまうよ。『ここはピクニックに来る所じゃない!さっさと消え失せろ!』……とか何とか言ってさ」

 

 

ぽかんと口を開く上条とインデックス。

二人は何の事か全くもって理解出来ない。そんな二人の視線を浴びながら、悟空は間を通り過ぎて玄関から外に出た。

 

 

「…………」

 

 

外に出ると悟空は立ち止まった。

さっき自分で言った情景を脳裏に浮かび上げて、思わず笑ってしまう。そして困ったように眉を下げた。

 

 

「…………ご、くう。……お前も、行くのか?」

 

 

上条はたどたどしく呟いた。

太陽の光を浴びた悟空の背中が、なんだか神秘的に見えていて声をかけて良いのか分からなかったのだ。

それはインデックスも同じだった。

 

 

「ああ。ココが何なのかも知りてぇからちょっと街中歩いてみようと思う」

 

 

振り返る悟空は部屋の中にいた時と同じだった。

調子が戻った上条はそうか…と呟いた。

 

 

「じゃあ、みんなここでバイバイだね!」

 

「だな!」

 

「……………、」

 

 

少年少女。二人ともが笑っていた。

上条だけが、ほんの少しだけ後ろ髪を引かれる思いがあった。

 

 

「……い、インデックスは、この先一人でどうしようってんだ?」

 

「ふふんっ、だいじょーぶだよ!」

 

 

インデックスは自信満々に言い放ち、学生寮の長い通路を駆け出した。

 

 

「教会まで行けばかくまってもらえるはずだからーーー!!!」

 

「………………………行っちゃったよ」

 

 

修道服姿が見えなくなると、上条は心臓に針を刺したようなチクリとした痛みがあった。

ーー地獄の底までついて来てくれる?

その言葉が脳裏にこびり付いていた。

 

 

(……うん、と、言ってやるべきだった、かな?)

 

 

困っているのなら助けたい。けれどインデックスは手を伸ばさなかった。

それなら悟空の言う通り、地獄の底から引っ張りあげるための手を、こちらから全力で伸ばしたら良かったのではないのか。

考えれば考えるほど、選択肢が何十個にも増え続け、上条は乱暴に頭を掻きむしった。

 

 

「ん?……………悟空…、なにやってんだ?」

 

 

そして気付いた。

悟空はまだそこにいた。

 

 

「……お、おい…」

 

 

またも違う顔が現れていた。

虚空を見る顔付きは真剣そのもの。

だらんと下げていた手は今では腰の位置で拳を作っている。

眉間には皺が寄り、まん丸とくりくりしていた目は、鋭く吊り上がっていた。

 

 

「ご、くう……………おいっ!!!」

 

 

力任せに叫ぶと、悟空はゆっくり上条を見た。

 

 

「ん。"悪いやつら"じゃねえと思うから大丈夫だ!」

 

「………はあっ!?なんだよそれ!!!」

 

 

もはや百面相のように太陽のような笑顔を見せる悟空。

問いかけには答えず悟空は通路の淵に飛び乗り、

 

 

「またな、トウマ!」

 

 

悟空はそのまま落ちていった。

 

 

「なっ…!? ここは七階だぞ!!」

 

 

最悪のイメージが脳内を埋め尽くす。

上条は慌てて下を覗き込むと、軽やかなリズムで走っている特徴的な恰好の少年が視界に入った。

 

 

「っっっ、はぁああああ………、なんだよ、どいつもこいつも…」

 

 

自分は補習に遅れそうでも、二人に対して時間を割いたというのに……と、上条の口からは不満かつ未練がブツブツと吐き出される。

上条は抜けかけた腰に力を入れて強引に立ち上がった。

今日という一日はまだ始まったばかりだと言うのに、間違いなく生涯で一番、奇妙な日だったという確信があった。

 

 

「……………またな、か」

 

 

気持ち良く晴れた空を見て思う。

またなと言うなら、いつかまた会う時が来るだろう。そうしたら腹が減ったとうるさい二人に、節約料理を振る舞っても良いな、と。

 

 

「って、時間やべぇじゃん!…………………あーもうっ!不幸だぁああああああ!!!」

 

 

 

 

 

もう一度彼らが揃うまでーーーあと数時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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