もしも一巻以降も続けるならと思い、キーパーソンになりそうなキャラを出しました。
そのため前半の流れは原作に近いです。
しかしまぁ、何と言うか…、ここの上条さんはちょいと過激?かも…。
「皆さーん、おはようございまーす。さっそく補習の授業をはじめますよー」
とある高校の一室。
夏休みだというのに、そこにいる者達は薄暗い表情で席に座っている。
その中に、滴るほどに汗をかいて息を切らす者が一人。
上条当麻である。
朝っぱらからのアポ無し来訪者の少年少女のせいで遅刻確定かと思われたが、休まず走れば間に合うかも知れないとなり、みごと完遂した。
その代償は、同じ補習を受ける者達からの怪訝な目だけで済んでいるのだから、諦めずに走って良かったと思える……はずだ。
「見事なまでのだらけっぷり。夏休みモード全開だにゃー、カミやん」
おちゃらけた口調が聞こえたのは隣の席からだ。
逆立った金髪にサングラス。首には金のネックレスをぶら下げるという、厨二的不良の要素をふんだんに詰め込んだ男。
「そんなんじゃねーよ、土御門」
土御門元春。
彼は上条ともう一人の男を加えてバカ騒ぎをするクラスメイトだ。
ここにいるという事は必然的に補習仲間となる。
「朝っぱらから全力疾走したせいで全身に"炭酸"が溜まったんだよ。なんかもう、すげーダルい」
全身の力を抜き、机にへばりつく。
その姿はまさしくスライムそのもの。液状化しているように見える格好でも、彼の唯一と言える特徴的な部分のツンツンヘアーは今日も元気に逆立っている。
がたんっ…!
突如、隣の席から煩わしい音が鳴った。上条は眉間に皺を寄せて顔だけを動かす。
「か、カミやん………、それは本当なのかにゃー?」
土御門は体をのけぞらせながら口角を引き攣らせていた。
"私は心の底から驚きました" と言わんばかりのわざとらしい反応に、上条は思わず舌を鳴らす。
「それってどれの事だよ。つかオーバーリアクションが過ぎる」
「いやー、俺のダチに運動したら炭酸を生成する人がいるって分かったらこうなってもおかしくないにゃー。カミやん、それ自慢した方が良いぜい?」
「土御門ちゃーん? 授業が始まっているのにおしゃべりをしているという事は、テストの量を増やしても良いという意味ですかー?」
かなり近い所から甘ったるい声がした。
上条はおそるおそる前を向く。
椅子に座っているのに目線の高さが同じくらいの少女がいた。
見た目に準じて顔も幼い。一見すると明らかに小学生。だがそんな彼女が今この場に置いて立場が1番上だ。
「小萌先生……」
月詠小萌。
配り途中のプリントを大事に抱え込む小さな教師。ぷくぅーと頬を膨らませると、ピンク色の髪が微かに揺れた。
「申し訳ないにゃー、こもえせんせー! これからは真面目に聞くから勘弁してほしいんだにゃー」
「……んもぅ、先生との約束ですよ? ちゃんと聞いてくれなかったら先生、悲しいんですからね?」
「ハイ!」
小萌先生を悲しませるなんて言語道断! と、鼻息荒くしながら宣言すると、小萌は満足気に頷いた。
その後、土御門と上条の机にプリントを置く。
ギョッと目を見開いたのは上条だ。
「ちょ、あれ? 小萌先生?」
「なんですか?上条ちゃん」
「いや、なんつーか、………明らかに俺のプリントの量が多くありませんか?」
土御門の机を交互に見ながら、それが自分の気のせいではないと主張する。
「あぁ、乳酸の事を炭酸と間違えて覚えていた上条ちゃんへのペナルティですー!」
「へ?にゅうさん…?…………あ、そうそう、乳酸だ!なんか違和感があったんだよなー、って事でペナルティだけは許してくださいお願いします!!」
ゴン!!! 教室中に鳴り響く鈍い音。
頭を下げるの上位互換である、机に頭突きをかました。
ズキズキと額が痺れるが上条にとっては些細な事。
文字通り、死に物狂いの覚悟がそこにあった。
「か、上条ちゃん…? そんなに、イヤ、なのですか?」
「はいっ!とっても嫌です!」
極限まで目を瞑り、誠心誠意懇願する。
だから上条は気付かない。
「……カミやん」
「………」
「カミやん」
「………まじで黙ってろ。今は俺の運命を決める大事なーー」
「こもえせんせーが泣きそうだにゃー」
「なんですとぉおおおおっ!?」
上条は叫びながら顔を上げた。
視界を埋め尽くしたのは土御門が言った通りの光景。さらには月詠小萌先生を慕う補習軍団の殺気が、四方八方から浴びせられた。
「せ、先生は、上条ちゃんや、みんなのためを思ってプリントを用意したのに、そんなに全力で否定されると………ぅぅっ」
「ちょ、ちょちょちょ! ちが、違いますから! そんな否定とかじゃなくて!」
「元気な声で『とっても嫌です!』と言ったのはカミやんだにゃー」
「テメェはまじで黙ってろ!」
涙こそ流れていないものの、月詠が手に持っているプリントに皺が入り続けている。
上条がアタフタしていても隣の奴の協力は無いも同然。
それどころか、
「チッ…、上条のやつ、なに小萌先生泣かしてんだよ」
「………もう、良いだろ」
「ああ、そうだな。アイツは今日までよく生きた」
「せめてもの情けとして墓場は用意してやる」
ボソボソと聞こえるのは紛れもない殺害宣言。
普段ならただの脅しだと割り切れるが、親愛なる月詠小萌のためとなると過激さが増すのだ。
「〜〜〜っ、小萌先生!!」
「ふぇっ?」
「さっきのは冗談で、本当はやる気に満ち溢れていました! 一生懸命頑張るので授業の再開をお願いしまーすっ!」
「上条ちゃん…!」
命か勉強か。
比べるまでもない選択肢を選ぶと、上条は心の中で密かに泣いた。
月詠は上機嫌で教卓に戻る。
その隙を見計らい、土御門は懲りずに口を開いた。
「お疲れ様だにゃー」
「うっせー……」
これっぽっちも心が込められていない能天気な労りの声。
上条は呆れてため息をつく。
「……てかさ、俺が乳酸と炭酸を間違えてるって分かってただろ」
「いんやぁ、分かってなかったぜい?」
「あ、そうなのか?」
「ああ。俺はてっきりカミやんだけが特異体質とばかりブフォッッッ!!!」
土御門は口元を手で押さえて俯いた。肩が小刻みに動いていて、指の隙間からはくぐもった声が漏れている。
彼がどんな状態かなんてのは明らかだ。
「……………やっぱ確信犯かよ、テメェは」
「カミやん。その例で使用する確信犯とはよくある誤用で、本来は政治とか宗教とかである信念から、正しい事だと信じて行われる犯罪行為なんだぜい」
「なんで今そんな事言うの?ねえ、何で?」
上条は声のトーンが大きくならないよう必死に抑制を働きかけた。そうしなければ沸々と湧き上がっている怒りの感情に身を任せて右の拳を振り抜いてしまうからだ。
ちなみにそれをしたが最後。
授業を台無しにした事により居残り補習が確定。さらにロリ教師の涙で覚醒したやつらに集団リンチをくらってしまうだろう。
「ま、お遊びはこの辺にして、からかったお詫びに占ってやるぜよ」
「はあ? 占いなんてもん出来んのかよ」
「得意分野だぜい」
「嘘くせ。つか嘘だろ」
「まあまあ。騙されたと思ってやってみるにゃー。カミやん星座は?」
「このご時世に星座占いかよ……、あー、みずがめ」
「ほほう。亀さんとは縁起が良いにゃー」
「………カメってそっちの意味だっけ? 水を入れる瓶みたいなやつの方じゃなかったか?」
「え、さあ?」
「…………、」
上条はこの時間が無駄である事を確信した。
深く考えるのをやめようと思い、授業に意識を向けた。
黒板に書かれているのは数字の羅列。白いチョークの粉でびっしりと埋め尽くされている。
上から順番に見た。わずか三行目にしてシャーペンを机に置いた。
(………あいつら、今頃なにしてんだろうな)
気を抜くと今朝のお騒がせ少年少女の事が頭をよぎる。
だからといって何かしたい訳ではない。ただ単に驚きの連発だったから気になっているだけだろう。
明日になれば二十四時間の内の一回くらいしか思い出さない。一ヶ月も経てば、そういえばそんな事があったなと思い。半年も経てば綺麗に忘れる。
いくら衝撃的な内容だったとしても、結局は日常のひと時として消えていくのだ。
「ふむふむ。なるほどなるほど。分かったぜい」
振り返ると、ペンを並べて消しゴムにシャー芯を突き刺している怪しい占い師がいた。
先程まで見ていた、青空を泳ぐ白い雲の、まるで絵画のような空模様とは対極だ。
「みずがめ座、高校生、男。今日の運勢は大凶。これは酷いにゃー。厄介事に巻き込まれる前に、家に引き篭もっておくと良いぜい」
「さっきお前のせいで散々な目にあったよ」
やはり見た目通りのインチキ占い師だったと、上条は形だけの勉強モードに移行した。
ーーーーーーー
「結局居残り補習して終バスも過ぎた。………不幸だ」
こうなれば歩くしかない。タクシーなんてクソみたいな考えは最初から無い。
だが決して大凶のせいではない。自分の不幸のせいだ。
あんなインチキ占いが当たっているなんて思いたくない。
「あ! ねぇっ、ちょっと待ちなさい!」
背後から聞こえる女性の声。
その聞き覚えがある声に上条は足を止めない。
「アンタの事よ! 待ちなさいってば!」
声の主が近付いてくる。さすがにこれ以上知らんぷりをしたら周囲の目が痛く感じそうだ。
「はぁ………、そうか、分かったよ。俺は大凶だ」
「なにブツブツ言ってんのよ。いつまでも無視してんじゃないわよ!」
「してねーよ。だから大凶だって認めたんじゃねーか。ビリビリ中学生」
「ビリビリ言うな! 私には御坂美琴って名前があんのよ!」
語気を荒くして叫ぶのは、お嬢様学校である常盤台中学に在籍する彼女。
整った顔立ちに、肩まで伸びた茶色の髪。その近くでは静電気のような光がバチバチと煌めいている。
そう。彼女は電気系の能力者。
学園都市230万人の頂点。
7人しかいない超能力者(レベル5)の内の1人。
序列第3位。
超電磁砲の御坂美琴。
「今日という今日こそ決着をつけてやるんだから! 覚悟しなさい!!」
こうやって何回も彼女が上条に突っかかるのは訳がある。
先日、数人の不良に絡まれている所を助けてもらった……が、その時にガキに手を出すなだの、子供を相手にするななどと、上条には不名誉極まりない事を言われた。
だから彼女は能力を使い不良共と上条を蹴散らした。
最後に無傷に立っていたのは、右手を構えた上条。
以降、自慢の能力が効かない奴としてムキになっている。
いかにも中学生らしい理由から、上条の姿を捉えれば勝負を迫って来るのだ。
ちなみに昨日も強引に勝負をさせられたが、負けそうになった彼女が大規模の放電を繰り出し、勝敗はうやむやとなった。
その時のせいで上条宅の電化製品(エアコン)が故障して目覚めが最悪な朝を迎え、シスターに腐りかけのパンを食べさせてしまった。
「決着って、きのうお前が自滅して終わったじゃん」
「あ、あれは無効! しかもアンタは能力を消してばっかで戦いになってないし! もっとマジメにやりなさいよ!」
「マジメに、ねぇ。……………俺は今日疲れてんだよ。さっきまで補習だったし。制服着てるから多分お前も補習だったんだろうけど」
「一緒にすんな! こっちは校則で休日も制服なのよ!」
「うわぁ、堅苦しい校則だな……。でも良いんかよ。そんなお嬢様が一般人を攻撃しても」
「ふん。どうせその右手でかき消すんじゃない。もっともそれが気に入らないんだけどね」
片っ端から論文を読んで昼夜問わず鍛え上げた能力。
レベル1からレベル5にまで昇華させた自慢の力。それゆえにプライドもある。
たかが右の手のひら一本で防がれて良いものじゃないんだと、御坂はやる気をアピールするように青白い火花を放出した。
「……別にやっても良いんだけどさ。俺は疲れてんだぜ」
「何よそれ。さっさと終わらせてやるっていう勝利宣言のつもりかしら?」
「いや、疲れてるから右手を動かさない。 攻撃して来たらお前は無抵抗の人間を痛め付けるって事になるから、気を付けた方が良いっていう意味」
「はあっ!? っざけてんじゃないわよ!」
御坂は威嚇攻撃として電撃を飛ばした。
当たっても静電気みたいにパチッとした刺激が来る程度のもの。
それでも人間の反射運動が働いて回避する動作をするのかと思いきや、本当に彼の右手がピクリとも動かない。
見兼ねた御坂は、直撃寸前で電撃を操作して何もない上空に動かした。
「ちょっと……、防ぐくらいしなさいよ!」
「ははは、ご冗談を。すっかり疲れ切った上条さんの右手は全く動きませんことよ。どんだけ字を書いたと思ってんだ。補習生舐めんな」
「夏休みに補習で学校行くやつが偉そうにすんな!」
御坂は大股で勢いよく歩くと上条の目の前に立ち右手を掴んだ。
「良い? こうやって右手を前に出すの。分かった?」
「分かった」
上条は右手を動かして御坂の肩を掴む。
「へ…?」
「………ふふふ、くはははははっ! どぉおおおだ中学生! 腕力勝負で男子高校生に勝てんのか!?」
「ッ!? き、きたないわよアンタ!」
「不利になったからケチ入れるとか、甘っちょろいぜ!」
「なっ…!」
上条の右手である "幻想殺し" は能力を打ち消す。さらに相手自身に触れていた場合は能力の発動すら不可能となる。
よって、これから行われるのはワンサイドゲームだ。
試しに上条は左手を振りかぶってみる。
「っ…!」
思った通り、殴る素振りをした訳でもないのに彼女の肩はビクッと跳ねた。
(やっぱまぁ、なんつーか。能力は強烈でも普通の中学生だよなぁ…)
さすがにこれは大人気なかったか、と上条はそっと身を引く。
微かに眉間に皺を寄せた御坂だったが、それだけだった。
「はーあ。朝から魔術師に擬似斉天大聖様。夕方はビリビリ超能力者が来るとは。不幸…………じゃねーけど運が悪い。あ、そういや大凶だった」
独り言を呟きながら帰路につく。
土御門運勢占いがこんなにも影響するのかと思うと、異様に腹が立って来た。
「ね、ぇ……」
「ん…?」
まだやる気なのかと呆れながら振り向く。
彼女の顔を見ると、その気はなかった事が分かった。
「ま、まじゅつしって、何? それに、斉天大聖って…」
おずおずと聞いて来た。
単語の意味は分かっているはずだ。だからこそ理解が出来ていないのだろう。
頭のおかしな奴と思われなければ良いのだがそれ以前に、
「………何だろうな。俺も分かんねー」
本人すら理解出来ていないものを説明など出来るはずもなかった。
ーーーーーーー
(………うわ、俺キモいな)
自虐したのは自宅マンションの入り口付近。
自然と探してしまったのだ。
白い修道服と小さい武術家の姿を。
「あーもー、忘れろっての」
苛立ち混じりに扉を開けて、エレベーターのボタンを押す。
ガコンとエレベーターは動き始めて、内部に張ってあるチラシを何となく目で追った。
やがて停止する。
扉が開き、最初に見たのは清掃ロボ。
ドラム缶型の自動清掃用ロボットは、汚れを検知すると即座に向かう。
学園都市製の物は角や隅でも綺麗にする。
そんな優秀な清掃ロボがこのワンフロアに"3台"もいる。
「どんだけデカいゴミなんだよ」
ヴィィィィィ………。
清掃ロボが向かう先には上条の部屋がある。
まさかなと思いつつ、何も気にならないふりをしながら歩を進めた。
「やっぱり俺の家かよ!!!」
嫌な予感は的中した。
一番考えられるのは吐瀉物だ。次に零した飲料水など。むしろそれ以外にない。
(最近はこの"疫病神様"にちょっかい出してくる奴もいねーし。こりゃあマジでゲロかも……)
一歩、また一歩と、恐る恐る近づいて行く。
3台の清掃ロボがガシャガシャと音を立てて汚れの取り合いをしていた。
その隙間から見えたのは白い修道服。
「……は、はは。なんだよ。教会のやつらは匿ってくれなかったのかよ」
また巻き込まれるのか。
上条は口癖の言葉を呟いた。
ガックリと肩を落として言ったにも関わらず、その口角は軽く緩んでいる。
「おーい、起きろよインデックス。こんな所で行き倒れてねーで、さ、ぁ…………あ?」
清掃ロボはちゃんと業務をこなしていた。
横になっているインデックスの処理ではなく、床の広がった赤い液体。
白い修道服が一部、赤黒く染まっていた。
「な、んだよ、これ……………、ふざけやがって!!」
血で汚れる事などお構いなしにインデックスの側で膝をついた。
仕事をする清掃ロボを力づくで離れさせる。
「しっかりしろインデックス!一体どこのどいつにやられたんだ!」
「うん? "魔術師" だけど?」
上条は勢いよく振り向いた。
そこにいたのは2mはありそうな身長。漆黒の修道服を身に纏い、耳や首にジャラジャラとアクセサリーを付けた男。
街中にいる不良のそれとは違い、圧倒的な悪意を持った目付き。その目元にはバーコードのようなタトゥーがあった。
「わざわざこんな所に戻って来るとはね。忘れ物でもしたのかな?」
「………、」
上条はインデックスを含めた床を見渡した。
初めて会った時、彼女が被ってたであろうフードが無い事に気付く。
「まあ何でも良いけどね。とりあえず回収でもしようか」
男が足を一歩踏み出す。
「10万3000冊………だったか。なるほどな。テメェがインデックスを狙ってる魔術師かよ」
間に立ち塞がったのは上条当麻。
痛いくらいに握りしめた拳がギチギチと音を鳴らす。
男が咥えているタバコの煙が二人の間に蔓延していた。
「たしか、インデックスは頭の中にあるっつってたな。だとすると記憶か。…………はっ、何言ってんだ。そんな数の本を人が覚られる訳ねーだろ!」
「ふむ、見た目通り無知なようだ。…………この世には完全記憶能力というものがある」
男はタバコの灰を落として語り始めた。
「一目見るだけで細部まで完全に覚えてしまう特殊能力。 彼女はその能力を使って魔道書を読んだ。 そんな彼女の知識が邪魔な奴らの手に渡るとかなり面倒なんだ。まぁ言わば、保護だね」
「ほ、ご……だと?」
「そうさ。もしも彼女の知識欲しさに拷問なんてされてみろ、可哀想じゃないか。薬物なんて使われたら怖くて叫ぶ事すら出来ないんだよ? だからそうなる前にーー」
「テメェがさっき"回収"っつったの忘れてねぇぞ!! このクソッタレの魔術師!」
上条は駆け出した。
拳を強く握りしめ、目の前の奴をぶん殴るために。
「……やれやれ。どうやら君も邪魔な奴だったみたいだ」
男はため息をつき、濁った瞳を鋭くさせた。
「魔術師は魔術を使う際に真名を言ってはいけない因習がある。そのため代わりに用いるのがーー"魔法名"」
咥えていたタバコを指で弾く。
瞬間、大きな火の塊に変わった。
「"fortis931"」
「ッ…!?」
魔法名であり殺し名。
空間を明確な殺意が支配した。上条が初めて感じる死の予感。
「『炎よ、巨人に苦痛の贈り物を』!!!」
男が叫ぶと同時に手を振り翳すと、通路を埋め尽くす程の爆炎が上条に襲いかかった。
まだ数mは離れているというのに凄まじい熱気がある。
上条の足はすっかり止まっていた。
「く…!」
「死ね」
無慈悲な一言。
ゴッ、バァアアアアアン!!!! と衝撃音が炸裂する。
直撃した事により発生した爆風が男の修道服を靡かせた。
「あぁ、一応言っておこうか……。僕はステイル=マグヌス。身の程知らずの君を殺した者の名前だ」
もう魔術を使う事はない。冥土の土産に真名くらいは教えてやっても良いだろう。
ステイルは服の内側ポケットに入れているタバコから一本取り出して火をつけた。
「そうかよ」
どこからか、その声が聞こえるとステイルの表情に焦りの色が浮かんだ。
直後、ガラスが割れるような甲高い音が鳴り響く。
爆炎の渦から現れたのは、黒焦げになっていなければいけない男の姿。
「知りたくもねぇ名前をご丁寧に言ってくれてありがとよ。ヤニカス野郎」
上条当麻は無傷だった。
瞳にありったけの敵意を抱いて睨み付けている。
(コイツは、一体何をした…?)
ステイルはプロの魔術師。いまさら一般人の眼光に狼狽えたりはしない。
だが困惑は続く。
魔術は掻き消えた事もそうだが、目の前の男の所だけ焦げ跡がない。
何かタネがあるのは明白だが、それらしい予備動作も見られなかった。
(………まぁ良い。やる事は変わらない)
結局、目的を達成できれば過程に拘る必要はない。
「回収する前に貴様は必ず殺してやる」
「やってみろ! こっちだってインデックスを傷付けたテメェは許さねぇからな!!」
ーーーーーーー
上条当麻、ステイル=マグヌスが戦闘を繰り広げている学生寮から5km離れた地点。
その場所も同じく学生寮。夏休みという事もあり、多くの学生は帰省している。
「……………、」
そのため普段よりも解放的な屋上で、長身の女性が一人佇んでいた。
後ろで一つに束ねた黒い髪を靡かせ。手には2mほどある長刀を持ち、あと一歩踏み出せば地上へ真っ逆さまになるであろう屋上の端の方で視線を一点にとどまらせている。
(…………、あの右手)
常人では人の姿など米粒程にしか見えない距離だが、彼女は上条達の戦いがハッキリと見えていた。
ステイルは対面して気付かなかっただろうが、外側から見ていた彼女は、魔術が消えた原因を特定するのに難しくはない。
予想を確実にするために、他にも何か仕組みがないか注意深く観察する。
その直後だった。
と、たんっ………と背後から小さな物音がした。
「ーーッ!」
彼女は長刀の柄に手を添えて機敏に振り返る。
その正体を見るや否や、驚愕を露わにした。
「よっ! いきなりでわりぃけどオラにも見せてくれ」
開口一番。
彼女の心情を知ってか知らずか、"少年"は片手をあげて気さくに声をかけながら彼女の方へ歩を進めた。
まるで知り合いに会ったから近くに来たみたいな、何の遠慮もない歩み。
一歩また一歩と近付く度に、彼女は警戒心を上げる。
(この少年、何かがおかしい……)
見え隠れしている尻尾のようなものに意識をとられるが、それ以上に少年からは気配というものを感じない。
見た目通りただの子供ならば特別気になる事ではない。
しかしだ。
どこから来たのかも分からない。歩いてる姿に隙はあれど無駄がない。小さな体にそぐわない程に鍛え抜かれた筋肉。
ただの不思議な少年、などと見逃してはいけない箇所がいくつもある。
「さあて、今はどんな感じになってっかなぁ」
彼女が思考を巡らせていると、少年は隣に立ち、目を凝らした。
「んー………、中々遠くて分かりにきぃなあ。薄暗くもなって来たし…。んでもすぐにやられるような相手じゃねえみてぇだ」
とりあえず一安心だと、少年は頷き目線を上げた。
「おめぇは、こっからで見えんのか?」
いとも気安く話しかけてくる少年に内心うろたえる彼女。
それでも表には出さず冷静に答える。
「はい」
一言だった。
「へえ、そりゃあすげえ。目、良いんだな」
「………ええ、まあ…」
実の所、彼女が優れているのは視力だけではない。
この世界に20人といないとされる"聖人"。
それがこの女性、神裂火織だ。
聖人とは、生まれながらにして神の力を宿した人間。
その力は絶大。
素手のみで建造物を破壊。数十トンはある重さを持ち上げ、走れば音速の壁を越える。
その気になれば大気圏でも活動は可能。
そんな並外れた身体能力を持っている彼女が今、密かな緊張感を抱いている。
「………少年」
「?……、………………………あっ、オラか。なんだ?」
神裂がいくら身構えていても少年に変化はない。
「貴方は、何者ですか…?」
ならば違和感の全てを引き出そうと、神裂は単刀直入に尋ねる。
「ん、オラの事知らねぇんか?」
少年の返答に新たな疑問が生まれる。知ってない事が変だと言わんばかりだ。
当然、神裂は少年の事など知らない。
だが何故だろうか。
何百kmを走ってもへっちゃらな彼女の心臓は、探偵が推理ショーを披露している時の犯人みたいに、人知れず鼓動が強く増していた。
「今日の朝、トウマの家からインデックスと一緒に出て来る所、見ただろ?」
「ッ…!?」
今度こそ。
今度こそ、明らかに、確実に動揺を露わにした。
イタズラ成功とばかりに少年は二ヒヒと笑う。
「……あん時、おめぇ達が近くの建物にいたのは分かっていた。インデックスと"気"の質が同じだから、アイツを追ってる魔術師だって事もな」
「………それなら何故、なにもしなかったのですか」
認めよう。
見た目はどうであれ、彼は間違いなく強者だ。
「貴方程の者ならばアクションを起こすくらい出来たでしょう」
「そうだな……。オラもそのつもりだったからやろうとした。でもおめぇ達を探った時に、変だと思ったんだ」
少年は神裂を見る事をやめて、再び上条が戦っているであろう建物を見た。これまで無垢な表情をしていた少年が深妙な面持ちをしている。
やがて身を翻すと屋上の中央に向けて歩きだした。
「インデックスを捕まえようとしてるってわりに、悪意や敵意なんてのが一切感じられねぇ。それどころかなんか、おめぇ達の方が苦しそうだった」
「……………………、」
「だからオラの知らねぇ理由でもあんのかと思ってそっとしておいた。けど…、それは間違いだったみてぇだ」
少年はピタリと足を止めて振り返った。
その姿を見て神裂は息を呑む。刀を持つ手にぐっと力が入り、少年の目の前まで移動した。
「結果的にインデックスは傷付けられて、トウマは一生懸命戦いはじめた。 出遅れちまったけど、オラも手を出させてもらうぞ」
少年からの敵意はない。姿勢だって突っ立ったままだ。
しかし神裂は、少年が臨戦態勢に入っているのだと認識した。
「……こちらとしては無益な戦闘を望みません。どうか手を引いてはいただけませんか?」
「じゃあ、インデックスに謝れっか?」
「ッ、…………、」
「インデックスに謝って、許してもらって。そんで後腐れなく終わる事が出来んなら、オラから言う事はねぇ」
「………………たかが一度。それも数十分程度話しただけじゃないですか。そんな者のために命をかけて戦う義理が貴方にありますか?」
「ある」
少年は即答した。
「ぐうぜん同じ家で出会って、お互いの名前を知ったんだ。戦う意味にしちゃあ充分だろ」
「……………理解できません」
「そうか?………………まっ、他にも理由はあんだけど」
「他、とは…?」
「いや、気にすんな。それよりおめぇ名前はなんて言うんだ?」
え…、と神裂は呆気に取られると、すんなり自身の名を呟いた。
「神裂、………神裂火織と申します」
「カンザキだな、分かった。んじゃもう一個聞きてぇんだけど、なんでそんな変な服着てんだ?」
「変………って、はあ!? 突然何ですか!」
話しの脈絡は全く以って繋がっていないが、悟空が言うのも無理はない。
半袖Tシャツの裾は胸の下まで捲りあげて結び。片側だけを根本までちぎり取ったデニムパンツを履いている。
ただでさえ彼女は驚異的なグラマラスボディの持ち主だ。
薄いTシャツを押し上げる程の豊満なバストや、デニムパンツ越しでもくっきりと形が分かるヒップ。
引き締まった腹部や健康的な太ももを露出していては、色々と注目も浴びるだろう。
「いやどうしても気になってさ。そのズボンはどうしたんだよ。自分で千切ったんか? 腹だってそんなに出してると冷えちまうぞ?」
「こっ、これは左右非対称性にする事によって魔術のバランスを………って、貴方には関係ないでしょう! 放っておいてください!」
「ははっ、確かに関係ねえや! 余計な世話焼いちまったみてぇで悪かったな」
呑気に後頭部を掻く少年は続けて言った。
「あ、そうそう。オラは孫悟空ってんだ。よろしくな」
「そん、ごくう……。………………その尻尾は………、まさかっ!」
神裂は知っている。自らの記憶と一致する者がいるのだ。
あり得ないと、力なく首を振る。
いつの間にか垂れた汗が頬から顎に伝い、ポタリと落ちると覚悟を決めて、その名を口にした。
「大妖怪孫悟空…!? あの斉天大聖が現世に蘇ったと言うのですか!」
一体どんな手順を踏んで顕現させたのか。それとも何らかの条件が満たされて現れたのか。
いくら考えても答えは一向に出ない。
「…………言わねえなぁ」
「え」
それもそうだろう。
答えを出すならそれは単純に、別人だからとしか言いようがないからだ。
「その"せーてんなんたら"っての。インデックスのやつが違うってハッキリ言ってたぞ。オラもそんなの知らねぇし」
「ぁ…………そ、うですか。彼女が……」
ほっ、と息を吐く神裂はあらかさまに安堵した。
強く鼓動していた心臓を呼吸法を用いて落ち着かせる。
直後に軽快な笑い声がした。
「今度は何ですか……」
げんなりとしながら聞いた。
本来の彼女は敵を前にしてこんなに感情を振り回されたりはしない。
ましてや小学生くらいの姿をした悟空を強者だと認めているのだ。油断だってしていない。
それでもこんな風になるのは、戦いを前にして、たわいも無い会話を繰り広げる事なんて今までになかったからだ。
殺伐とした雰囲気よりはマシかもしれないが、それは悟空のペースに飲まれているとも言える…。
「カンザキはあんなに驚いてたのに、インデックスが違うって言ったら簡単にその言葉を信じるんだな」
「!」
「これっぽっちも疑ってなかったし。おめぇもしかして、実は良いヤツなんか?」
「…………………禁書目録の全ては記憶力にあります。 様々な観点から見た結論がそれならば疑う必要はない。ただ、それだけです」
突如、屋上全域の雰囲気が変わった。
体中にトゲが刺さりまくるようなピリッとした感覚。
その変化を悟空は敏感に感じ取ると、
チャキ、と音が鳴った。
神裂が長刀である"七天七刀"を構えた際に出た音だ。
まだ刀を鞘から抜いてはいない。
けれど神裂が発する重圧は溢れ続けている。
「もう、これ以上言葉はいらないでしょう。……………やりましょうか」
「おう!」
神裂は顔から感情を消した。その反面、悟空は口角を上げて笑う。
二人は正反対でありながら、同じ闘争心を曝け出す。
直後、屋上の地面であるコンクリートが二つの地点で同時に砕けた。
僅か数センチだけ浮かんだ石の破片が地面に落ちるまでの、1秒にも満たない刹那の刻。
二人の拳が激突した。
ゴッッッッッ!!! という自動車の正面衝突が起こったような轟音が大気を震わせた。
微かにある砂利などは彼らを中心にブワッと吹き飛び、屋上のドアに備え付けられた窓は余波を受けて、蜘蛛の巣状のヒビが入る。
「………カンザキ。オラの力に合わせやがったな。手加減してくれてんのか?」
「それは貴方の方でしょう。……甘く見られたものですね」
「誤解すんなよ。オラのはただの挨拶みてぇなもんだ」
「では私もそれで良いです」
「おめぇ……、思ったより意地っ張りなんだな」
「次、参ります」
拮抗していた拳を引くと同時に、薙刀とムチを合わせたような鋭くしなった足を振り回した。
何の変哲もない普通の蹴りだとしても、彼女が蹴れば大型トラックをサッカーボール扱い出来る程だ。
悟空はそれを難なく止めると薄く笑い、
「んじゃまあ、いっちょ行くぜ!」
戦闘民族サイヤ人 対 聖人 。
戦いの火蓋が切られた。
誤字、脱字は後ほど修正。
今作の題名は変えるかも知れません。