魔術と科学とサイヤ人が交差する物語   作:猫ネコ

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注意
・語彙力が足りず、同じ表現を使用してます。ご容赦ください。
・悟空の話し方で漢字の後の小さな文字は訛った喋り方をしていると思って脳内変換をしてください。
例「心配ぇすんな」(しんぺぇすんな)







不幸な少年の覚悟

 

 

 

 

 

 

 

死霊術書。

ソロモンの小さな鍵。法の書。テトラビブロス。

目を通しただけで魂まで汚れると、教会が指定した『邪本』『悪書』の数々。

 

世界各地に封印された10万3000冊のリストを、ーーIndex-Librorum-Prohibitorum(禁書目録)という。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

「まったく、ゴキブリ並みにしつこいな貴様は!」

 

 

炎剣。

それはステイルが扱う魔術であり、摂氏三〇〇〇度という高熱を帯びたもの。

これを三回ほど振るった。二回ほど投げた。その度に熱波、閃光、黒煙が吹き荒れる。

直後にそれらはことごとく消失する。

いずれにしても爆炎の中から現れるのだ。

 

 

「しつこいのはテメェの方だろ。バカスカ撃ち込んで来やがって……!」

 

 

人体など簡単に溶けてしまう熱をぶつけても奴は止まらない。馬鹿の一つ覚えみたいに前に踏み込んで来る。

見た目や雰囲気、どれをとってもただの素人が、プロの殺し屋相手に歯向かって来る。

気に入らない。

ステイルは新たに咥えたタバコを強く噛み締めた。

 

 

(一発、………多分、一発だけぶち込めばイケる)

 

 

一方で上条には妙な自信があった。

参考にしたのはRPGゲーム。

魔法使いという職業のキャラは身体能力値のステータスが低いのだ。

攻撃力も防御力も魔法をかければ強くなるが、素の力は弱い。

それは何故か。

自慢の武器は魔法のため、体でも鍛えてる暇があるなら魔力を高めた方が良いに決まっている。

現実とゲームを一緒にするなと言われたらそれまでだが、あながち間違っていないのではないか、と上条は考えた。

現にステイルは炎をぶつける事しかしていない。

確実に殺すのなら、身動きがとれないように体でも掴んでから焼いたら早いだろうに。

 

 

(……ん? 俺から掴んでも良いのか? そしたら左でも殴れるし、アイツは魔術を出せない……)

 

 

戦術と呼ぶにはあまりにも単純。けれど範囲が狭いこの通路では、地の利は上条にある。

身を屈めながら右手を前にして特攻すれば、回り込めないステイルは真正面にしか攻撃出来ない。懐へ行くまでに右手には何度も衝撃が来るだろうが、そこを我慢したらこちらのターン。

最適解を導き出した上条は、かなりの修羅場だと言うのに思わずニヤけてしまう。

 

 

「…………余裕そうだな、"能力者"」

 

「あ…?」

 

 

余裕なのはどちらの方なのか。

呑気にタバコの煙を吐きながらステイルは続けた。

 

 

「動きを見れば分かる。貴様はただの一般人だろう。 学生が防御も無しに殴り合うような喧嘩とは違うこの戦いに、混乱しないのか?」

 

「混乱、ね…」

 

 

確かにそうだ。

魔術師の存在はインデックスから聞いていたとしても、完全に信じ切った訳ではない。にも関わらず突然現れて殺しに来るなんて、もっと慌てふためいても良いくらいだ。

インデックスを傷付けられて許せないという怒りが、混乱や怯えを封じ込めたのか。

もちろんそれもある。

だがそれ以上に"あの存在" の、あの時の衝撃が忘れられないのだ。

 

 

「……魔術師がなんだってんだ…、………殺されかけてるからなんだってんだ。こっちは今朝になあ、幻想殺しを突破されて吹き飛ばされてんだよ! 魔術師なんかよりもずっと正体不明な奴によおっ!! いまさら混乱なんてする訳ねーだろ!」

 

 

今頃何をしているのだろうか。不思議な力を持った少年。

今朝のあの時、摩訶不思議体験をしたお陰で非日常的な事柄にも対応出来ているのだと思うと、皮肉にも不幸とは呼べなくなってしまった。

上条は、少し興奮気味に叫んだせいで乱れた呼吸を整える。

 

そしてふと気付く。

 

ステイルの口が小さく動いていた。

 

 

「ーーッ!?」

 

 

ぞわり、と上条の背中に冷たいナニカが走る。

これはマズい。

口が動いているのに何も聞こえないと言う事は、自分に話しかけて来ている訳ではない。

目的は別の。

自分を殺す技の準備をしているのだ。

 

 

「こ、の、野郎ッ!」

 

 

何が来るのかは分からないが、何かが来るのであれば阻止すれば良い。

上条は先程考えついた特攻を仕掛けようと、地面を蹴った。

それと同時に、

 

ステイルは不敵に口角を歪めた。

 

 

「ーーーーーーー顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」

 

 

詠唱が終わる。

黒い修道服の胸元が大きく膨らむと、服の内側から巨大な炎の塊が飛び出した。

その塊に命を吹き込むように、ステイルは叫ぶ。

 

 

「『魔女狩りの王(イノケンティウス)』!!!」

 

 

暴風が吹き荒れ、上条は思わず足を止めた。

飛び出した炎の塊は人の形をしていた。燃え盛る炎の中には、重油のようなドロドロとした塊が蠢いている。

まるで殺意を具現化したような怪物。

今すぐにでも襲いかかろうと、上条よりも倍以上にデカい体が威圧感を放っている。

 

 

「それにしても律儀な男だ。聞かれたからといって馬鹿正直に答えるとは」

 

 

怪物の奥から声がした。

半笑いに、明らかに小馬鹿にしている声だ。

 

 

「いやこの場合は律儀ではなく素人丸出し、と言った所かな」

 

「その素人相手にボソボソとバレないよう呪文唱えたテメェが言える口かよ。 俺が素人ならテメェはただのビビリだな!」

 

「…………遺言はそれで良いか」

 

「プロを気取った臆病者は見てらんねー、ってのも追加しとけ」

 

「そうか。殺せ」

 

 

ステイルは一言ささやく。

明確な指示を受け取った『魔女狩りの王』は炎を撒き散らしながら上条に迫り、

 

 

「邪魔だ!」

 

 

裏拳気味に放たれた拳が、炎の巨神を跡形もなく消し去った。

大きさなんて関係ない。それが異能であれば幻想殺しは発動する。

だから上条は、いかに派手な登場をした『魔女狩りの王』にも臆さず正面から立ち向かった訳だが、

 

 

「な、に……!?」

 

 

上条は瞠目した。

散らばって消滅したはずの炎が、再び集まりだしているのだ。

それがどうなるのかは、考えるまでもない。

 

『魔女狩りの王』は復活した。

 

しかも過激なオマケが付いている。

 

 

「なんだよそれ………、そんなの、さっきまで無かっただろうが…」

 

 

上条は足を一歩引いた。

炎の巨神がこれ見よがしに掲げている。

2メートル以上はありそうな巨大な十字架だ。

まともに食らえば人間の肉など、ぐちゃぐちゃの肉塊になった後で炭になるまで燃やし尽くされるだろう。

やがて『魔女狩りの王』はツルハシでも振り下ろすように上条の頭部目掛けて振り下ろした。

 

 

「ーーッ!」

 

 

ほとんど反射的に右手で受け止めた。

いつも通り異能を消す時の、ガラスが割れるような音がする。

だが、上条の右手と巨大な十字架は力比べのように押し合っていた。

 

 

「くそ、なんで消えねーんだ…!」

 

 

厳密には消えている。ただ『魔女狩りの王』の再生速度の方が速いだけなのだ。

物理的なダメージはないにしても、至近距離にある炎が上条を襲う。

皮膚や髪がジリジリと焼け、呼吸をすれば肺が熱くなる。

これ以上の力比べは不毛。

今すぐにでも抜け出したいが、ほんの少しでも力を抜けばその瞬間に押し潰され灰にされてしまう。

いわゆる詰み、の状態であった。

 

 

「ルーン」

 

  

突如、命の瀬戸際に立つ上条の背後から声がした。

 

 

「!…………インデックス、なのか…?」

 

 

足、腹、背中、腕。

上条は押し潰されないように全身に力を入れて、首だけを動かした。

 

 

「神秘。秘密を指し示す24の文字にして、ゲルマン民族により二世紀から使われる魔術言語で、古代英語のルーツとされます」

 

 

上条が思っている通り、後ろには横たわったインデックスの姿があった。

今もまだ背中から伝う赤い液体が上条の心臓を締め上げる。

しかし、そんな彼女だから喋れる状態ではないはず。

そう思い彼女の顔を見た瞬間、一瞬だけ上条はインデックスの事を、実は別人ではないかという錯覚に陥った。

 

抑揚のない話し方。感情が欠落した瞳。自身の体から血が溢れようとも気にも留めない。

 

まるで、インプットされた文字を淡々と読み上げる機械人形のようだったのだ。

 

 

「『魔女狩りの王』を攻撃しても効果はありません。壁、床、天井。辺りに刻んだ『ルーンの刻印』を消さない限り、何度でも蘇ります」

 

 

そうか、と上条は理解した。

これは説明だ。

目の前の敵は異能の力であるが本体ではない。

『ルーンの刻印』とかいうものを消さないと、この怪物は存在したままだ。

だがそれが分かったとて、一歩も動けないこの状況下ではどうする事も出来ない。

 

 

「ふはは。どうした能力者!さっきまでの威勢が聞こえなくなったが、許しの言葉でも考えているのか?」

 

「い…、威勢だぁ? んなもん聞きたきゃ言ってやるよバーカッ!」

 

「死ね」

 

「テメェさっきから煽り耐性ザコ過ぎるだろ!」

 

 

ステイルはタバコを強く噛み締めて、両手に炎剣を出した。

これをぶつける相手は上条ではなく『魔女狩りの王』。

炎剣と『魔女狩りの王』が激突すれば大爆発を引き起こす。

そうなれば至近距離にいる上条はただでは済まない。

死んだらラッキー。生きてたら重症、そしたら爆散した『魔女狩りの王』が何事もなく復活し、上条に止めを刺したら良い。

ステイルは勝利を確信した。

 

その時、

 

 

ゴシャッッッ!!! と『魔女狩りの王』は吹き飛んだ。

 

 

「!」

 

 

その力は凄まじく、ステイルを通り過ぎて壁に激突するまでであった。

ステイルは動揺を露わに、そして、少しだけ怒りを滲ませて呟く。

 

 

「…………これは、どういう事だ。神裂…!」

 

 

『魔女狩りの王』を蹴り飛ばした神裂は、空中で体を入れ替えて軽やかに着地する。

ぽかんと口を開ける上条を見てから、ステイルに向き直り告げた。

 

 

「ステイル。………申し訳ありません。身動きが取れない状況でしたので……、『魔女狩りの王』は私でも無事ではいられず….」

 

「そんな事を聞いてるんじゃない! なぜ君がっ…、君ほどの者が、やられているのかと聞いているんだ!! 何があった!」

 

 

ステイルは炎剣をぶつける直前に、視界の端で神裂を捉えていた。

間違いなく吹き飛ばされていた。

体勢を崩し、あのまま何もしなければ『魔女狩りの王』に直撃していただろう。

だがそんな事あってはならない。

彼女は『聖人』。

その名称にどれだけの価値があるのかなんて、魔術師であるステイルは身に染みて知っている。

 

 

「ステイル。状況が変わりました。 これから何が起きようとも思考を止めないでください。 一瞬の隙が敗北に繋がります」

 

「!……………あれ、か」

 

「はい」

 

 

神裂が鞘に入った長刀を構えながら頷くのを見て、ステイルは尋常ではない事が起きているのだと理解した。

だが何というか、険しい表情の神裂を見ても、ステイルは緊張感を持てないでいた。

それほどまでに"あの子供"が放つ空気は柔らかく、戦場特有の殺伐とした雰囲気が感じられない。

臨戦態勢をとる二人を前にしてもそうだ。

『魔女狩りの王』との力勝負の末に、疲労から膝をついた上条の肩に手を置いている。

背中を向け、一見すると無防備そのものだ。

 

 

「ご、くう……?」

 

 

息を切らし、上条は同じ目線にいる男の名を呼ぶ。

 

 

「おう。よく頑張ったな、トウマ」

 

 

ニカッと笑う悟空を見て、思わず上条も笑みを浮かべた。

 

 

「は、はは……、なんだよ、ちくしょー。ふ、ははっ!めちゃくちゃ早い再会じゃねーかよ、悟空!」

 

「ほんとだな。オラも驚ぇたぞ」

 

 

上条は悟空から差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。

色々と話し合いたい気持ちでいっぱいだった。

インデックスが傷付けられた事。魔術師が襲って来た事。あの刀を持った女は誰なのか。そっちでは何が起こっているのか。

しかし、それ以上に聞きたい事がある。

朝、どこかに行ったはずの悟空が何故ここにいるのか。空を飛んで来たお前は何者なのか。

 

 

「……………はっ、やっぱ混乱の原因はお前しかねーよ」

 

 

色々考えたが今はどうでも良かった。

悟空は味方だ。

初めて会ってからほんの数分程度話しただけで、信憑性のカケラもないけど、助けに来てくれて同じ敵を見ている時点で味方なんだ。

それさえ分かれば何も問題はない。

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「何でもねーよ」

 

「そっか」

 

「孫悟空。そろそろ始めても良いでしょうか」

 

 

不意に神裂が声を掛けた。

 

 

「わりぃ、カンザキ。もう少し待ってくれ」

 

 

その会話に驚いたのは二人。

名前を呼び合うほどの仲なのか、と上条は思い、

 

 

「ばっ、馬鹿な……………孫悟空だと…?」

 

 

神裂はすぐにステイルの名を呼んだ。

しかしステイルの目には、うようよと動く尻尾しか見えていない。

驚愕のあまり咥えていたタバコが落ちた事にも気付ずにステイルは叫ぶ。

 

 

「まさかあの子供が斉天大聖とでも言うのか!?」

 

「……………、」

 

 

神裂は顔を手で覆い隠して項垂れた。

すると視線を感じた。予想はつく。

神裂は指の隙間から上目遣い気味に見つめと、こちらを見る悟空と目が合った。

 

 

「ひひっ、さっきのおめぇと同じ事言ってらぁ」

 

「………魔術師ならば皆が思う事です」

 

「ふーん。そういうもんか。……そいつにはオラから言おうか?」

 

「いえ、私が言います。その間に孫悟空はそちらの件を済ませてください。先程待つように言ったからには何か用があるのでしょう」

 

「だな。んじゃ、そうさしてもらうぞ」

 

 

神裂はステイルに話す内容など一言だ。

あの少年は斉天大聖ではないとインデックスが言った。

神裂が納得したのと同じく、ステイルもこれだけで充分。

問題は悟空の方だ。

 

 

「何だよ悟空。話してる時間があるなら、俺めちゃくちゃ聞きたい事あるんだけど」

 

「………ん。その前にな、トウマ」

 

 

悟空は、きょとんとする上条に言い放つ。

 

 

「おめぇはここから離れるんだ」

 

 

静かな一言だった。

静かで、重く、有無を言わさないような、強い想いが込められた声色だった。

 

 

「離れるって………、俺だけ逃げろって言ってんのか!?」

 

「そうだ」

 

「冗談じゃねえ! インデックスがあんな目に遭わせられて黙っていられる訳ねぇだろ!」

 

「トウマ、無理すんな」

 

「無理なんてしてねーよ!」

 

「おめぇが戦ってたアイツからは殺気がでてる。……おめぇを本気で殺そうとしてんだぞ」

 

「ッ!………………………くっ、」

 

 

孫悟空は酷い奴だった。

今まで様々な感情で打ち消して来たというのに再確認させられた。

死の恐怖。

ついさっきまでの取っ組み合いがまさにその時。

『魔女狩りの王』との力比べが続いていれば、フルパワーで対抗していた自分と無尽蔵の力を持つ怪物。

悟空が来なければ今頃は、あの巨大な十字架にすり潰されていたかもしれない。

上条は悔しく感じても何も言い返せないでいた。

すると、

 

 

「それにな。おめぇは学生なんだ」

 

 

無慈悲かと思われた悟空の声に温かさが宿った。

 

 

「しっかり学校行って、友達と遊びながらやりてぇ事でも見つけて、夢が出来たら精一杯頑張れば良いじゃねえか。 戦いなんてのは、そん時に出来る誰かがやりゃあ良い」

 

 

上条の拳。ギチギチと鳴るのほど強く握りしめられていたのが緩やかに解かれた。

悟空は続けて言う。

 

 

「なあに、インデックスの事は心配ぇすんな! オラが絶対ぇに守る! そんでアイツらもぶっ倒す! だからおめぇはーー」

 

「口を挟んで申し訳ないが、その男の死体は必要でね。勝手な事をしないでくれるかい?」

 

 

ステイル、神裂の前には、すでに『魔女狩りの王』が君臨していた。

神裂が黙って鞘入りの刀を構えているという事は時間切れなのだろう。

ゴォッッッ、と巻き上がる炎がステイルの苛立ちを表しているかのようだ。

棒立ちになっていた上条も眉間に皺を寄せて睨むが、悟空は片手をあげて抑制した。

 

 

「……そんな固ぇ事言うなよ。もう関わらねぇように言ってんだからさ」

 

「手遅れだよ。知らないふりを出来る領域はとうに超えている。魔法名を言った魔術師としてこのまま逃す訳にはいかない」

 

「ならさっさとオラを倒すんだな。それが出来りゃあ、おめぇだって楽に追えるだろ」

 

「ふむ………。ではそうしよう」

 

 

ピクリ。

ステイルの人差し指が小さく動く。

勢いよく飛び出した『魔女狩りの王』は既に巨大な十字架を携えている。

炎を辺りに散らばせながら恐ろしい速度で悟空達に襲いかかる。

だが突然の事だ。

炎の巨神である『魔女狩りの王』は、前触れもなく大爆発を巻き起こした。

凄まじい勢いで温度が急上昇したせいで、周囲の金属や床タイルが溶け出している。

 

 

「………………、」

 

 

一度吸い込めば気管や肺が焼けそうな爆風が吹き荒れる。

ステイルは険しい顔をした。爆風の被害を喰らったからではない。

爆発を引き起こす技はあれど、そんな指示を一切出さずに暴発した事が疑問なのだ。

とはいえ大体の目星はついている。

片や魔術を消し去る事しか出来ないと判明しているのだ。

残るはもう一人。

 

 

「………君か」

 

 

大量の黒煙の隙間から小さな手が見えた。

悟空は先程と全く変わらない位置で、堂々と手のひらを突き出していた。

 

 

「ああ。せっかく作ったんだろうにすまねぇな。壊しちまった」

 

 

少しの情報だが神裂から聞いていた。

自由自在に"光の球体"を操る技。威力、速度の程度は幅広く。詠唱なし。時には光線になる。

頭で反芻すればするほど不思議な技だ。

だが、それでこちらが不利になるのかと言われたらそうではない。

 

 

「謝る必要はないよ」

 

「ん…?」

 

 

悟空の前に集まる炎。

顕現するのは巨神。

『魔女狩りの王』の再誕である。

 

 

「悟空! この怪物は俺の幻想殺しでも消えない、不死身なんだ!」

 

 

ほえー、と悟空は感心するかのように何度も頷いた。

 

 

「驚いたかい? 君がいかなる技を繰り出そうと『魔女狩りの王』に死の概念は存在しないのさ。消えるとするなら………、君達が死んだ後かな」

 

「ははっ。……そいつはどうかな?」

 

 

ステイルの殺気が渦巻く中で悟空は笑う。

 

 

「不死身を相手にすんのは慣れてんだ。それにこの程度の熱さじゃあオラは何ともねえ」

 

「強がりか。摂氏三〇〇〇度はあるんだぞ」

 

「四星龍に比べりゃあ生温いくれぇだ。しかも遅い」

 

「………言ってくれるな」

 

ステイルは再度『魔女狩りの王』を仕向けようとした。

しかし、それよりも早く動いた者が一人。

神裂の右手が刀の柄に触れると、ブレが生じた。

 

 

「ーーーーー『七閃』」

 

 

それは居合い斬りのような構えだった。

ただし攻撃が刀のそれとは違う。

例えるなら竜巻状の光線。

天井、壁、床。まさに四方から、ガリガリガリガリ!!!とコンクリートを砕きながら迫り来る。

 

 

「っ、悟空!」

 

 

上条は咄嗟に悟空の前に出た。

ほとんど反射的の行動だが上条には確信があった。

これは異能だ。

離れた位置から斬撃が飛ぶなどあり得ない。ましてや攻撃の数が一つや二つではないのだ。

異能の力には幻想殺しが通じる。上条は中腰に構えて右手を出した。

 

ズパパパパンッッッ!!!!

 

 

「ーーッ、……………悟空?」

 

 

来たる攻撃に備えていた上条だが、いつの間にか"前にいる"悟空に困惑した。

思えば聞こえた音も変だ。風船が割れるような破裂音なんてするはずもないだろうに。

 

 

「トウマ。多分だけどこれは"イノウ"じゃねえぞ」

 

 

え……、と声を溢した時、悟空が何かを持っている事に気付いた。

 

 

「ワ、イヤー………、ッ!?」

 

 

上条はゾッとした。

コンクリートを力付くで砕けるほどの威力を持ったワイヤーなら、人間の皮膚、肉、腱、はたまた神経なんて豆腐のように切れてしまう。

腕が切断しても何もおかしくないだろう。

恐る恐る自身の腕を見る。

もちろん切れてはいないが、脳にこびりついたイメージが上条の恐怖心を煽った。

 

 

「よお、カンザキ」

 

 

そんな上条の事は置いて、ワイヤーを掴んだまま悟空は言う。

 

 

「一応言っとくけどよ、オラに同じ手は二度も通用しねぇ」

 

「………七本のワイヤーの内、六本を弾き返されては見切ったも同然、という事ですか」

 

「そうだ。だから手品みてえな事やってねぇで、おめぇが自分で来いよ」

 

 

抜刀のモーションから繰り出す斬撃。納刀をする際の鍔鳴り音。

神裂は、これであたかも刀による攻撃だと認識させ、その実には隠し持つ七本の鋼糸を巧みに操っていた。

 

 

(…………ふざけてるな…。『七閃』は二度目で見切れるような技じゃないんだぞ。ましてや鋼糸を掴むなんて…。……化け物め)

 

 

ステイルは心の中で舌打ちをした。神裂から動揺するなと釘を刺されていなければ、貴様は何者だ!と慌てふためいてたに違いない。

 

 

(厄介極まりない。こちらは時間が無いと言うのに…!)

 

 

チラリと横を見れば『魔女狩りの王』の火の粉でワイヤーが一本、張っているのが見えた。

目を凝らさないと分からないが、まだ悟空の手と繋がっているのだろう。

ステイルは何か状況が進展する一手になればと、小さな炎を出現させてワイヤーに当てた。

魔術で作られた炎はワイヤーを伝い、悟空の元へと流れて行く。

 

 

「へ…?」

 

 

悟空から間抜けた声が出た瞬間、体全身が炎で包まれた。

 

 

「う、あっっっち"ゃあああああああああああ!!!!!」

 

「ご、悟空っ!」

 

 

悟空はすぐにワイヤーから手を離したが遅い。炎は消えるどころか大きくなった。

ワタワタと狭い通路を走り回る悟空。頭や腹などの炎を蹴散らそうと手で払うが、当然なくなる事はない。

その様子を見てステイルは頭痛がした。

 

 

(くそっ、なんだコイツ。なんでこんな子供騙しの攻撃が通じるんだ! 炎が迫っている事くらい分かるだろ!)

 

 

もしや遊んでいるのか。

それが一番納得出来る。いやそうでなければいけない。

『聖人』と互角に戦い、復活するといえども『魔女狩りの王』を容易く破壊したのだ。

どうせ効いていない。すぐニヤリと笑って炎を吹き飛ばすに違いない。

………と、色々考えたが、

 

 

「あちちちちちち!! あっち! わわっ、あっちぃいいいいいいいい!!!!」

 

「悟空!止まれ!」

 

 

走り回る悟空に上条が飛び込んだ。

パキイィィィィン!!!と音が鳴り、悟空を覆っていた炎は消えた。

ぜー、はー、と大きく息をする悟空。

神裂から釘を刺されようが、ステイルは呆然としてしまった。

 

 

「す、すまねぇな、トウマ。助かったぞ……」  

 

「あぁ、別に良い………つか、お前めっちゃ熱がってんじゃん! 何ともないとか生温いとか言ってなかったか!?」

 

「いや、気合い入れりゃあ耐えられるってだけで、あちぃのはあちぃ」

 

「うわぁ…、なんか裏切られた気分だわ……」

 

「何でだよ」

 

「なんつーか勝手にだけど、無敵な感じしたからさ。攻撃くらっても全く痛くないのかと思った」

 

「いてーよ。さっきだって神裂のアレ。一回目のやつ掠ったけど、ジンジンするもん」

 

 

ほれ、と言って脇腹を見せて来た。

一箇所だけ道着が破れ、その隙間からは血が滲んでいた。

 

 

「…………アレを初見でこれだけって、ちょっと、なんか引くわ…」

 

「だから何でだよ! ………ちゅーか、おめぇはいつまでここに、ーー」

 

「悟空」

 

 

目の前にいる二人には聞こえないように小さな声で呼んだ。

彼はもう、迷わない。

 

 

「あの炎の怪物の倒し方を知ってるから、赤い髪のやつは俺に任せてくれ」

 

「!………、」

 

 

悟空は無言で上条を見た。

 

 

「……悟空、俺さ。これまでずっと不幸な目にあってたんだ。 誰かが変な奴らに襲われてる場面に遭遇するとかしょっちゅうでさ。 見ないフリとかしたくないから馬鹿みてぇに関わって、喧嘩する時もあれば適当に煽ってから逃げたりもした」

 

「……、」

 

「首を突っ込む時も、逃げてる時も、終わってからも。今日も不幸だって思っちまう。 悲劇を気取る事しか出来ない滑稽なやつだよ」

 

 

だけど、と続けて、

 

 

「今回は違う」

 

 

悟空は上条の言葉を聞き逃さないように体全体を向けた。

神裂、ステイルから見たら隙だらけの体勢だ。

だが二人は攻撃をする事が出来ない。

攻撃をしたが最後なのだ。言葉を交わさずとも分かる。

悟空の背中から発する重圧が、そう物語っている。

 

 

「誰かがやらなきゃいけないという理由でやるんじゃない。 お前が逃げても良いという選択肢をくれて、俺が戦う道を選んだんだ。………俺は決めたぞ、悟空」

 

「トウマ……」

 

「足手纏いかも知れねーけど俺もやるよ。 アイツをぶん殴って、そんで、インデックスを必ず助ける!!」

 

「……………………そっか…。選んじまったんだな」

 

 

上条は悟空の名前を呼ぼうとした。

儚げに笑う悟空の表情が気になったからだ。

しかし、そう思った時、

 

 

悟空は消えていた。

 

 

 

「ぐっ…!?」

 

 

ドゴッッッ!!!と鈍い音。くぐもった声。

それが起きたのは"ステイルの隣からだ"。

 

 

「なっ、何だと!?」

 

 

反射的に目を向ける。

そこに神裂の姿はない。あるのは、空中に浮かび、拳を振り抜いている悟空の姿だった。

 

 

「っ、『イノケンーーーー』」

 

「トウマぁっ! こっちは任せたぞ!!」

 

 

轟ッ!!!!

悟空を中心に突風が起きる。

残像のようにブレた跡を辿ると建物から出て行ったようだ。

殴り飛ばした神裂を追撃するためだろう。

これはチャンスだとステイルは思った。

元々狭い空間で二対二は向いていないし、能力を消す事しか出来ない男との勝負は、勝利が確定してると言っても良い。

 

 

(すぐコイツを殺して…………、奴は、どこだ?)

 

 

通路に上条がいなかった。

視界には入った。

七階建てのマンションの通路の縁。そこに登っていた。

目が合うと上条はニヤリと笑い、

 

 

「戦略的撤退って、なあっ!」

 

 

飛び降りた。

ステイルからはただ自殺して行ったようにしか見えないが、上条が自分で言ったように、ちゃんと戦略を立てての事だった。

上条が離れたらインデックスとステイルは二人きりになってしまうが、インデックスが手を出される事はないだろうと踏んだ。

殺害目的ならとっくに殺しているだろうし、回収ならば、それを知る上条の生存は邪魔で邪魔で仕方がないはず。

思い切った作戦だが、一度体制を整えるには悪くない考えだろう。

上条が本当に自殺にならなければ、だが。

 

 

「ーーっ、!!!!」

 

 

急降下しつつ、落下地点である自転車小屋の屋根を注目した。

あそこならば地面より高い位置にあるため比較的ダメージを軽減出来る。

が、しかし、

 

 

「ああああああああああああっ、ダメだ、高すぎたぁああああああああ!!!!!」

 

 

たとえ自転車小屋の屋根が地面から二メートル程離れていようと、七階から見た時にはほとんど差はない。

理想通り屋根に着地出来たとしても、打ち所が悪ければ死に、良ければ骨折だろう。

 

 

「ひっ、ああああああああああ!!!!!」

 

 

人間の防衛本能が発動。

極限までグッと目を瞑り、頭を抱えた途端。

ぼすっ。

気の抜けた音がした時、不思議な浮遊感と母の擁護にも似た安心感を味わう。

 

 

「い……、いきてる…?」

 

 

恐る恐る目を開く。

眉間に皺を寄せた悟空がいた。

 

 

「生きてる、じゃねえよ! 何やってんだおめぇは!!」

 

 

ひいっ、と情けない声が出るも上条に逃げ場所はない。

空中で悟空の腕の中にいるのだから、出来るとするなら謝るくらいだ。

 

 

「え、と……、ちょっと色々ありまして………計算違いと言いますか、………怒ってます?」

 

「たりめぇだろ! 一緒に戦おうってしてる奴が落っこちながら叫んでんだからなあっ!」

 

「すんません。ほんとにすんません」

 

「ったくもー、勘弁しろよな。さすがにオラめちゃくちゃ焦ったぞ……」

 

 

ふわりと地上に降り立つ。

上条の足が小鹿のようにプルプルと震えていた。思わず膝をついて、これまた産まれたての小鹿になった。

 

 

「あー、不幸だ」

 

「いーや絶対違う。今のは自分のせいだ」

 

「おぉ……、手厳しい」

 

 

足に喝を入れて立ち上がる。

 

 

「あ、そういえばあの女はどうしたんだ?」

 

 

振り返りながら尋ねた。

 

 

「私が何か?」

 

「ーーッ!」

 

 

背後にいたのは、鞘入りの刀を構え直している女だった。

上条は目を見開いてあちこち視線を飛ばす。

とある方向。二十mほど先。

ゴシャ、ゴッ、と地面を水切り石のようにバウンドしながら転がって行くのが見えた。

 

 

「悟空ッ!……て、めぇ!」

 

「…………、」

 

 

上条が怒りを露わにして睨んでも神裂は相手にせず、悟空の方を見ていた。

すると、

 

 

「トウマ! おめぇは自分の戦いだけに集中しろ!」

 

 

声が聞こえたと同時に上条の目の前で、鞘と拳が激突した。

衝撃を肌で感じる距離にいた上条は風圧で顔を背けた。

僅か一秒くらいの事だが、二人の姿は消えていた。

放心状態からふっ、と我に返る。

直後に頭を塞ぐように右手を出した。

パキィイイイイン、と甲高い音が響く。

 

 

(くそ、もうこんな所まで…!)

 

 

『魔女狩りの王』の攻撃かと焦ったが、炎の巨神は建物の一階からこちらを見ているだけだった。

ならば先程のは。

そう思ってさっきまでいた七階を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしたステイルがいた。

 

 

「アイツがわざわざ魔術を?………あの怪物にやらせりゃ良いのに、何で…」

 

 

そう言った所で、あのワードが浮かぶ。

 

 

「………『ルーンの刻印』」

 

 

何かしらの形で刻まれた印。それがこのマンションにしか設置していないから、あの怪物は建物から外に出られないんだ。

 

 

「………よし。今行くぞ、待ってろよ。インデックス」

 

 

上条は玄関に向けて歩き出した。

『ルーンの刻印』が見て分かれば良いなという期待を胸に抱いて……。

 

 

 

決着の時は刻一刻と近づいている。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

一方その頃ーーーー。

 

 






展開が遅くてすみません。
原作1巻分しか書かない予定なので、じっくり書こうと思ってたらこうなりました。
無駄な引き延ばしはしないように努めます。

誤字脱字は後ほど修正。
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