魔術と科学とサイヤ人が交差する物語   作:猫ネコ

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戦闘描写は苦手です。どうかご理解くださいませ。


サイヤ人VS聖人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある二人の戦いは常人では見る事さえ出来なかった。

地上にいる時間が短く、屋上から屋上へ飛び移りながらのぶつかり合い。

仮に、道を歩く人が妙な気配を感じて上を眺めてもそこには何もない。とてつもない速度で動く二人は、あっという間に三.四棟ものマンションを通り過ぎて行く。

 

すっかり陽が落ちた空の下では、地響きのような音が何度も鳴っていた。

 

 

「だりゃあああああああ!!!!」

 

「く…!」

 

 

小さな体から繰り出される四肢。

銃弾を目視してから躱せる事が出来る程の眼を持ちながら、神裂は防戦一方だった。

 

 

(この乱打っ、本当に厄介ですね…!)

 

 

マシンガンの銃撃速度を遥かに超えている。加えて一打一打の威力も尋常ではない。

人間の身体能力の域を超えた神裂だから耐えれているものであり、常人であれば瞬きをしている間に全身粉砕骨折になっていてもおかしくない。

だが、それがおかしいのだ。

本来乱打とは一〇発いかないくらいが限界のはず。それ以上やったとしても動作はぎこちなくなり、威力だってかなり下がる。

それがどうだろう。

彼のスピードは落ちるどころか増していき、適当かに思われた四肢は、僅かな隙を的確に突いてくる。

だがそれも数秒の事。

空中での一瞬が終われば、弾かれるようにまた別の屋上に着地する。

 

 

(撃ち合いは不利。求められるのは強い一撃)

 

 

肉体強化の魔術で効力をさらに高めてから次は先手をとる。

そう考え、悟空から一度距離を取ろうと屋上を高速で移動した。

肩越しに悟空の居場所を確認する。

 

 

「……ッ!?」

 

 

背後を見てどこにも居ないと分かった時、神裂は刀を体に横に立てて構えると、悟空の右足が鞘にめり込んだ。

体が浮き上がるほどの強烈な蹴り。

踏み止まる事も出来たが、神裂はあえて飛ばされる事を選んだ。

だが悟空は逃がさないと言わんばかりに再び距離を詰めた。

 

 

「もらったあっ!」

 

 

ズンッッッ!!!

神裂の露出した腹部に突き刺さる膝。彼女の体がくの字に折れ曲がったその時、悟空はピタリと不自然に固まった。

その僅かな隙を神裂は機敏に感じ取り、魔力が込められた拳で悟空の頬を射抜く。

 

 

「ぎっ!………い、ちち…」

 

 

悟空はよろりと足をふらつかせながら頬を摩っている。

 

 

(ようやくまともに入りましたがダメージは見られないか……。まぁ薄々そんな気はしていたので特に問題ではない。それより何故このタイミングで急に隙が生まれたのか……)

 

 

ただ反応が遅れただけとは思わない。確実に何かがあり静止状態になっていた。

 

 

(密着が苦手………いや。彼のスタイルは近接格闘。ならばあの状態から繋げる手はいくつもあったはず)

 

 

神裂はその場で悟空を見据えた。

どうして今のような隙が生まれたのかを探るべく刀を構える。

一挙一動見誤る事なく"読み"に徹した。

すると悟空は妙な行動を起こす。

ポンポンと腹を二回叩き、何やら意味深な笑みを浮かべ、

 

 

「カンザキ。おめぇの腹めちゃくちゃ硬ぇな!」

 

「……………はい?」

 

 

神裂は思わず聞き返す。

 

 

「ほら、さっきの蹴りだよ。完全に入ったって思ったのに全く押し込めねぇんだもん。 それも魔術でなんかやったんか?」

 

「……いえ。魔力を込めたのは殴った拳の方で……。腹部は単純に力を入れただけです」

 

 

そう。

悟空が言うように腹部には防御する前に直撃した。 しかし来ると分かっていただけに、神裂には力を込める時間があった。

嫌な予感がする。

もしかして、と脳裏に浮かぶのは一番考えたくない結論。

だがダメだ。あの男が答え合わせをしてくる。

全開とまではいかずとも『聖人』が魔力を込めた一撃をくらったくせに、今はもう殴られた頬など気にしていない。

犬や猫などの動物は尻尾で感情表現をすると言うが、それに彼が当てはまるなら間違いなく……、

 

 

「単純な力っちゅー事は筋肉だけで止められたんか…………、ははっ、そいつはすげぇや!」

 

 

喜び、楽しんでいる。

思えば初めに『七閃』をした時もそうだ。

脇腹を掠り、患部を押さえて痛みに耐えている時も、苦痛な表情の陰には笑みがあった。

 

 

「次は何をしてくんだよ、カンザキ。さっきの奴は炎出してやがったからぁ………、…………………まさか氷とか出さねぇよな?」

 

「出しませんけど……、何故そんな顰めっ面を?」

 

「氷を使う奴にはちと嫌な思い出しかなくてよお。……へへ、顔に出ちまってたか」

 

「………、」

 

 

結局そういう事だ。

隙だ弱点だと思っていたのは腹筋の硬さに驚いていただけだった。

中々期待していただけに落胆がある。

 

 

「あ、そうだ。おもしれぇ技やってやるよ」

 

 

そう言って悟空は中腰に構えた。

左手は前で右手は腰に。

 

 

「おめぇに見破れるかな?」

 

 

神裂は迎え撃つ。

しっかりと両手で刀を持ち、全神経を悟空に注ぎ込む。

もはや予想は立てられない。

彼がやろうとしている可能性を簡単に考えても楽に十を超えるのだ。

それならば『聖人』であるこの身体を信じるのみ。

 

 

「…………、」

 

 

ザザーー……と、そよ風が葉を散らす。

月を雲が隠し、悟空の姿が闇に紛れた。

動くには絶好の機会だが悟空は動かない。まるでそこら辺に転がっている石ころのように、ただそこにいる。

重苦しい沈黙が続き、次第に雲は流れて月が顔を現した時、悟空は動いた。

 

 

(来る…!)

 

 

悟空が僅かな動きを見せた。

しかし、どこが動いたのかと言われたら分からない。

何かが動いた。

だがおかしい事に悟空はその場にいるのだ。

 

 

(勘違い……………じゃない!)

 

 

小さな風切り音が聞こえた。

視界の端の空間がブレた所に、神裂は迷いなく刀を振り抜いた。

ゴシャ!! と手応えを感じた。

神裂は、鞘を腕で止めている悟空ではなく、横目を動かしてさっきまで悟空がいた場所を見た。

今もいる……というより"ある"。

子供が空中に落書きをしたかのような悟空があった。

 

 

「……残像を留める事が出来るとは」

 

「『残像拳』って技だ。 コツ掴めばおめぇも出来ると思うけど、教えてやろうか?」

 

「結構。それより貴方に言いたい事があります」

 

「何だ?」

 

「戦闘中に喋り過ぎです」

 

 

神裂は瞬間的に全身の力を抜いた。彼女と同等の力で押し合っていた悟空は、ガクンと体勢を崩す。

前のめりになった事で長身から見える箇所は悟空の後頭部。

容赦のない一撃が振り落とされた。

ゴッ!!!という鈍い音の後に、

ミシミシミシミシと屋上のコンクリートがヒビ割れた。

 

 

「………貴方は強すぎる。加減が出来なかった事を許してください」

 

 

神裂の足元。クレーター状に凹んだ中心にはピクリとも動かなくなった悟空がいた。

血は出ていない。彼の丈夫さなら単純に気を失っているだけだろう。

それでも神裂の、悟空を見おろす瞳はどこか悲しげに揺れていた。

そして、

倒れていた悟空は歪み、ぼんやりと消えていった。

 

 

「こっ、これは……!?」

 

 

『残像拳』

今し方聞いたばかりの単語が頭に浮かぶ。

拳に衝撃が来たのだから、その後の。

地面に叩きつけられた瞬間にやったのだろうが、神裂は捉える事が出来なかった。

 

 

「気ぃ悪くしたんならすまねえ。良い奴と戦うのは久々だから、ついはしゃいじまった」

 

 

背後からだった。

だが神裂に焦りはない。ゆっくり振り返る。

悟空の言葉に静かな憤りを感じながら、

 

 

「………………良い奴。今、そう言いましたか…?」

 

「ああ」

 

「孫悟空……。忘れたのですか? 力を持たず、逃亡するインデックスを斬ったのは私ですよ?」

 

「覚えてるさ。 だから分かんねえ。おめぇなら簡単に捕まえれるはずなのに、何やってんだ?」

 

「ーーッ」

 

「それに、トウマと戦ってる奴は殺気を出してたってのに、おめぇからは一回も感じてねぇ。………建物から離れる時トウマだけが横にいても手を出さなかった。 今だって倒れてたオラに向かって謝ってたな」

 

「……………、」

 

「確かにインデックスを傷付けたおめぇは良い奴じゃねぇかも知んねえけど、悪い奴じゃねえ。……オラには分かる」

 

「……………、『七閃』」

 

 

悟空との会話を打ち切るように地を這うワイヤーが轟音を立てる。

屋上ゆえにライトがなく、ただでさえ極細の糸は月明かり程度では照らす事が出来ない。

目視不可能な鋼糸に対して悟空は、

 

 

「だァッッッ!!!!!」

 

 

ただ叫んだ。

しかしその叫びには強烈な衝撃波が伴い、迫るワイヤーを蹴散らした。

これはほんの一瞬だけでも注意を逸らせればそれで良いんだ。

音もなく悟空の背後にいる神裂は、今度こそ意識を刈るために刀を振り上げた。

 

 

「動きが雑になったな。カンザキ」

 

 

神裂は瞠目する。見開かれた瞳に映るのは手のひらだ。

悟空は前を向いたまま、後ろに手を伸ばしていた。

 

 

「三回目だ。その技はもう囮にしか使えねえ。簡単に読めちまうぞ」

 

「しまっ、」

 

 

光が収束される。それはバスケットボールくらいの大きさまで急速に膨れ上がった。

回避は間に合わない。神裂は防御に徹したが、体全体をのみこむ"気弾"は彼女を吹き飛ばした。

 

 

「く、ぁ……!」

 

 

神裂の体は上空ではなく水平に飛んだ。にも関わらずどの屋上にも激突する事はない。それほどまでに恐ろしい速さなのだ。

強引に目を開ける。

上下左右、目に映る光景がグチャグチャな世界。何とかして立て直そうと必死で思考を巡らせた。

その時、真横からとてつもない衝撃に襲われた。

 

 

「ッ…!?」

 

 

先回りをした悟空が蹴ったのだ。

直角に方向転換させられたうえに速度が増した。神裂は為す術がない。

もしも止まることが出来るのならそれは、

 

 

「ぐ、ああああッ!!!」

 

 

ドシャッッッ!! と建物の側面に叩き付けられた時のみ。

 

 

「ち、ィ…!」

 

 

無意識に舌打ちを鳴らす。痛みを気にしている暇はない。

神裂は建物の外壁に五指を突っ込んで落下を防いだ。

 

 

(そういう事ですか。孫悟空の力の正体は………!)

 

 

ふと『聖人』たる直感が反応を示した。

振り向き様に七天七刀で真一文字に打ち叩く。

その一閃は、左手の指だけで壁にへばりついていたとしても風圧だけでアスファルトが砕けるくらいの破壊力はある。

だが空振りに終わった。

悟空は器用に宙返りをして躱すと、勢いを利用して蹴り落とした。

地上に頭から落ちる直前。閉じかけていた目を開けてから回転し、ズンッッッ!! と二本の足で着地した。

あまりの力強い着地に地面が耐えきれず、崩壊。

道路の端に奇妙なクレーターを残す事となったが神裂は気にせず、緩やかに降り立つ悟空を見ていた。

 

 

(………孫悟空の強さの正体は、戦場に慣れ過ぎている事にある)

 

 

一目で実感するのは彼の落ち着きよう。

戦いの最中だと言うのに、まるで街中を歩いているかのようなリラックスした立ち振る舞い。

そして戦闘のセンス。

先程の乱打が全てを物語っている。

防御の上から破壊するような力任せの大振りもあれば、足払い、フェイント、先読みなど繊細で精密な小技も同時におこなっていた。

考えついたからやるのではない。その時その瞬間に適した事を瞬時にやっているのだ。

まさに体に染みついた戦いの記録。

冗談みたいな話だと、神裂は自嘲気味に笑った。

 

 

(身体能力は『聖人』と同等以上。加えて、潜り抜けた修羅場は計り知れない。 ステイルの炎を"何か"と比べて下だと決めつけ、氷使いとも戦った事がある。………恐らく、幾度も強敵と渡り合って来たのでしょう………)

 

 

自身が"そう"であるため、彼の強さは"天性"のものではないと神裂は思う。

地道な練磨を重ね、戦う毎に成長して来たのだろう。

そう考えてみたら隙なんて無いも同然だった。

 

 

(状況を打破するには小細工は無意味。ならば…、)

 

 

必殺とも言える奥義を繰り出せば良い。

独特の呼吸法を用いて魔力を練り上げ、『聖人』の力を大きく引き出し、超高速で繰り出す抜刀術。

 

 

(ーー『唯閃』。…………………………、)

 

 

だが可能性があるから早くやろうが出来ない技だ。

 

 

「いつまでつっ立ってんだよ。もうネタ切れなんか?」

 

 

一振りする度に体には尋常ではない負担が襲う。言わば諸刃の剣。

まだまだ問題が山積みにある。

 

 

「おーいなんか言えよお。にらめっこしようってんじゃねぇだろうし……」

 

 

『唯閃』を繰り出すには魔力を使う。魔力を使うには魔法名を名乗らなければいけない。

だが今の自分に信条を込めた魔法名を言う資格はない。さらには加減が出来ない技のため、万が一殺めてしまう可能性もある。

 

 

「どうしたんだ?……………あ、分かった!おめぇ腹壊したんだろ!」

 

 

しかし。リスクは多いが奥義を出さなければ勝機はない。

 

 

「だから言ったじゃねえか。 そんなに腹出してると冷えちまうぞって。 足だって片方だけ丸出しだし……。 待っててやるからあったかいのに着替えてこいよ」

 

「…………、」

 

 

考えて、考えて、ようやく一つの考えを導き出したのだが、

 

 

「………何で動かない?………………ッ、まさかおめぇ漏らしーー」

 

「さっきからうるっせぇんだよ! ど素人じゃねぇんだから少し黙ってろ!!!」

 

「!?」

 

 

神裂は別人かと思う程に品のない口調で言い放つ。続けて舌打ちをした。

それに対して悟空は、

 

 

「ぁ、と、……ごめんな?」

 

 

おずおずとしながら謝罪した。

その様子に神裂はふと我に返り、軽く咳払いをした後、姿勢を正して僅かに頭を下げた。

 

 

「こちらこそ、大きな声を出してしまい申し訳ありません」

 

「お、おお……」

 

「そして。これは警告ではなくお願いです」

 

「?」

 

「今一度言います。どうか手を引いてください」

 

 

神裂は真っ先に刀を下げる。

最初の時は言い返されてしまったが、懲りずに再び言った。

 

 

「……っ、…………はぁぁぁぁぁ……、やっぱそうなるよなぁ」

 

 

意外にも悟空は神裂の懇願を受け入れるような言い方だ。

仕方がないとばかりに肩を落とし、大きなため息を吐いている。

 

 

「………了承、していただけるのですか…?」

 

 

思わず聞き返してしまう。

自身で言っておきながらこんなにもすんなりした幕切れならば、これまでの戦いは何だったのかと思ってしまう程だ。

 

 

「だってしょうがねぇだろ。おめぇはもう戦う気はねぇみてぇだし……。"仲間"の事が心配なんだろ?」

 

 

微かな違和感。

なぜステイルの事が出てくるのか問おうとした時、悟空は続けて言った。

 

 

「とりあえず仕切り直しだな。おめぇ達もこのままじゃ終われねぇだろうからよお。カンザキの言う通りここは一旦やめて、ーー」

 

「あ、の…!」

 

「ん?」

 

「仕切り直し、とは?……手を引いていただけるのなら、それはつまり、インデックスの事をこちらに渡してくれる、という事ですよね?」

 

「何でそうなんだよ。それじゃあオラ達が戦ってた意味ねぇじゃねえか」

 

「え」

 

「へ…?」

 

「………、」

 

「……………………多分、話が咬み合ってねぇよな」

 

「はい……」

 

 

んー、と悟空は腕を組みながら悩んで、

 

 

「まず。神裂は仲間の、あれ……なんつってたっけ………ステイヌ?」

 

「ステイルです」

 

「そうそう。ステイルの所に行ってやりてぇから、あんな事言ったんだろ?」

 

「いえ。私はインデックスの件からという意味で……、……というより、なぜ急にそんな事を…?」

 

 

悟空は首を傾げて悩んでいたが、神裂の言葉にガバッと顔を上げた。

 

 

「なんだそういう事か! へえ、そかそか。おめぇ達は魔力を読む事に限界があるんだな!」

 

 

悟空はうんうんと頷き、彼方の方向へ指を差すと、

 

一言。

 

 

「トウマが勝った」

 

 

神裂は最初、何を言っているのか理解出来なかった。

だが深く考えずとも次第に脳が明らかにする。

 

 

「ば、かな……、ステイルが、負けた…?」

 

 

無意識に絞り出た言葉。

あり得ないと思った。

あの場には"ルーンを極めた天才魔術師"が顕現させた"不死の怪物"がいたはず。

魔術を消すなんて類を見ない特殊能力を持っていたとしても、一般人が右手のみを振り回して突破出来るレベルではないのだ。

 

 

「すっげぇよな、トウマのやつ。 本当にやっちまいやがった」

 

 

ククッ、と喉を鳴らして悟空は笑う。

 

 

「今トウマはインデックスを連れて移動中みてぇだ。オラはそっちに向かうよ」

 

「……ステイルは、」

 

「心配ぇすんな。死んじゃいねえ。 アイツらが戦ってた建物に"気"が残ったままだ。意識が飛んでるだけだろ」

 

「そうですか……」

 

 

悟空はその場でフワリと浮き上がる。神裂は何とも言えない表情で悟空を見つめた。

 

 

「んじゃ、また会う事になるだろうけど、そん時はケリつけような」

 

「あっ、待ってください…!」

 

「?」

 

「最初にマンションの屋上で会った時、濁した言葉の意味を教えてくれませんか?」

 

「最初?…………濁した…………えーと、オラなんて言ったっけ?」

 

「インデックスのために戦う理由が理解出来ないと言った時、貴方は他にも理由はあると言っていました。他の理由とは一体何なのか、教えてください」

 

「えっ、おめぇ、めちゃくちゃどうでもいい事が気になってたんか!?」

 

「…………………、」

 

「……まあ、隠すことでもねぇから別に良いんだけど」

 

 

神裂は見上げる。

闇夜に舞う小さな子供を。人の身よりもどこか高位の存在と対面しているかのような感覚。

孫悟空は目を細めて、和らいだ表情を見せた。

 

 

「気になったんだ。この世界の奴らがどんな戦い方をすんのか」

 

 

神裂は悟空と対面してから初めてゾクッ、と背すじが凍った。

 

 

「だから"気"が大きいカンザキの方に行ったんだけど、あれだな。おめぇ達は"気"で戦う訳じゃねえから、感知してる"気"よりも遥かにつえぇ。……かなりワクワクしたぞ!」

 

 

そんだけだと言って神裂の返答も聞かずに飛んでいく。

スピードを出さないのか、フワフワと空気の流れに乗るような感じだ。

 

 

(……………孫悟空。貴方は危険だ)

 

 

遠ざかる背中を見ながら刀を握りしめる。

情緒がおかしくなりそうだった。

散歩感覚で戦場に踏み込む彼を、自身の見解と組み合わせたら、彼は戦闘を楽しみながら幾度も修羅場を潜り抜けて来た事になるのだ。

戦場の恐怖を知る神裂には考えられない。

 

 

(追々、彼の存在は手に余る。ならば今ここで…!)

 

 

神裂は密かに独特な呼吸法を使用した。

まだあの男は間合いの内にいる。死角からの不意打ちなら通用するだろう。

繰り出すのは『唯閃』。

もはや生と死の約束は出来ない。

彼女は殺意も敵意も出さず、ただ己の身体能力を限界まで引き上げる。

 

 

(………孫、悟空)

 

 

音もなく片足を後ろに下げる。腰を落とし、鞘と柄に手を携え、唇を噛み締めると、

 

 

悟空は静かに間合いの外へ行ってしまった。

 

 

(…………本当に、私はいつまで経っても半端者ですね)

 

 

神裂は自身の不甲斐なさを笑い飛ばす。滑稽極まりないと蔑んだ。

光が遠く、暗闇が心地よく感じる。

 

 

(ステイル………、彼を連れて行かないと)

 

 

重い足を一歩踏み出した。

 

 

「カンザキ!」

 

 

勢いよく顔を上げる。

悟空は間合いの外に出た所でこちらに振り返っていた。

 

 

「やっぱおめぇは悪い奴になれねぇみてぇだな!」

 

「ーーッ!!」

 

 

轟ッ!!!

悟空の体から光が噴き出た。闇夜を照らす小さな太陽。

オーラのようなものに包まれると彼は、恐るべき速度で飛び去った。

宙には飛行機雲のように彼の光が残されていた。

 

 

「孫、悟空……………、不思議な人ですね」

 

 

鬱々としていた気分が少し楽になった。

思えば彼は狂気の人ではない。

戦闘を楽しんでいても、痛め付ける事への快楽性や、執拗に追い詰める加虐性は皆無だった。

純粋に、ただ戦う事が楽しいのだろう。

 

 

「ですが、すみません。孫悟空。私は貴方を……、裏切ります」

 

 

いまさら後には引けない。

 

 

標的は、もう一人の少年に定めた。

 

 

 

 







誤字脱字は後ほど修正。
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