超天災脳筋美少女(偽) 作:TSCのミメシス
「大変です! コインがもうありません!」
「このままじゃせっかく出たレアカードが印刷できない……」
ミレニアム自治区某所のゲームセンター。
プレイヤーのスキャンしたカードの装備を身にまとった勇者がモンスターと闘いながら旅をする、という内容のアーケードゲーム筐体に数時間かじりついていた*1とあるグループの中から悲鳴に近い嘆きの声が上がる。
ボスを倒した後のドロップアイテムを筐体内でカードに印刷し、データだけでなく実物を手元に残してくれるシステムは大変好評であったが、そこは商売。印刷にはカード本体の代金及び印刷機稼働料金としてプレイとは別に100円玉を追加投入する必要があった。
冒険の果てに見つけ出した宝箱に収められているのはお宝そのものではなく、それを買う権利なのである。
「両替してきたよー!」
「お姉ちゃん急いで」
「わかってるって……ウワアアアアアア!?」
「なにやってるの」
誰かがこぼして行ったまま乾き切らない妖怪MAXで滑りやすくなった床により、勇者一行のひとり、名を才羽モモイというミレニアム生は座標バグを起こしたかのようにスライドしたのち転倒。
持ってきた10枚の100円玉は当然のようにぶちまけられ、そのほとんどが周囲のゲーム筐体と床の境界へと潜り込んでしまう。
「ま、間に合ってええええええ!」
そのうちの1枚を慌てて拾い上げつつ、モモイは仲間が待つ筐体へとほとんど飛び掛かるようにして素早く到達、投入口に放り込んだ。
画面の表示を確認して成し遂げた表情で一息つく。
「よし! 残り1秒! ギリギリセー「コインをもう1枚いれてね♡」は……?」
しかしカウントダウンは止まらずそのままゼロへ。
「うわーん! 周回が水の泡です!」
画面前で見事な泣き顔を披露する天童アリスと違って無情な機械は容赦なく受付を終了し、画面の中の勇者は光り輝く宝箱を華麗にスルー。
投入した100円は吐き出され、そのままタイトルデモ画面に戻ってしまった。
何事もなかったかのような「コインを入れてね」の表示が物悲しい。
「そういえばレアカードの印刷には200円必要だったね、あんまりにも出なさ過ぎて忘れてたけど」
「こ、こんな集金システムが許されていいの!? あと1枚でコンプなのに……!」
「まあ、ちゃんと書いてあるし。逃したのは両替忘れてたせいだし」
「うぐぐぐぐぐ!」
思わず上げた呪詛の声や一連の大騒ぎはマナーがよいとは言えないが、その近くにパワーローダ―を操り2対2で撃ちあい殴りあう対戦ゲームがあり、さながら動物園状態だったため、幸いというべきか勇者一行の方を咎める者はいなかった。
双子の妹ミドリからの正論パンチに打ちのめされ、モモイは奥歯を噛みしめながらも先ほどぶちまけた100円玉を回収し始める。
キヴォトスにしては治安がマシな方のミレニアム自治区だが、落とした100円玉がどこかへ消え去ってしまう確率は1秒経過するごとに加速度的に上がっていくことに変わりはない。
「今日はもう帰ろう? なんだか隣も騒がしくなってきたし……」
「うん? うわぁ、今日も盛り上がってるねぇ」
「アリス知ってます! アレが動物園のチンパ……」
「や、やめとこう? ね?」
アリスが言いかけたようにパワーローダーの対戦ゲームのコーナーでは何やら人型兵器のパイロットか何かのようなSFチックなヘルメットをかぶった生徒がプレイ席から勢いよく立ち上がり絶叫を上げていた。
その矛先が向いてこないよう、これ以上アリスが何か口走る前に連れ出そうとする花岡ユズだったが、ふと視界の端に映った白い髪に動きを止める。
「あれ、あの人……」
「クソッ! あと1発撃てれば勝てたのにぃ! 装弾数下方修正されたなんて聞いてねえぞ!!」
SFヘルメットが怒り心頭な様子で握りしめた拳をゲームの筐体へと振り下ろしたその瞬間。
「美少女パンチ!」
「オゴッ!?」
白い後ろ髪が飛び去るミサイルの排煙のごとく尾を引き、筐体を叩き始めたSFヘルメットの腹部へ拳が突き刺さった。
「お客様、台パンはおやめください♡」
「お客様に腹パンはおやめくださいバイトさん。内心よくやったとは思いますが」
「おっと、これは失礼……む、気絶してしまいましたね。外に運び出しましょう」
「いえ、休憩室にでも運び込み休ませて差し上げましょうバイトさん。台パンマンのチンパンジーと言えども、店内でお倒れになったお客様です」
「承知しました店長……お客様方、お騒がせしました。どうぞごゆっくりお楽しみください」
店のロゴが入ったポロシャツを身にまとったその店員は、呼吸以外ではピクリとも動かなくなってしまったSFヘルメットを米俵のように担ぎ上げ、店長らしいロボットと一緒にスタッフオンリーの扉へと立ち去っていく。
その後ろ姿を勇者一行はしばらく呆気に取られて見つめたあとで、誰からともなく顔を見合わせた。
「ヒマリ先輩? え、歩いてた? それにあのパンチ……」
「そっくりさんじゃない? 私たちにも無反応だったし」
「うーん、それにしては似すぎじゃなかった?」
「きっとドッペルゲンガーです!」
思い思いに話し合うが本人が扉の向こうへ消えてしまった以上、確かめる手段は限られる。
「ヒマリ先輩にモモトークを送ってみます! ……もう返信が来ました!」
「早っ! ……で、なんて?」
「やっぱりヒマリ先輩じゃないみたいです! 危険性の判断は保留中なのであまり関わり合いにならないようにと書いてあります」
「野生動物かなにか?」
「真面目に働いてるみたいだったけど……」
「お客さん殴ってたけどね」
勇者一行からそんな風に噂されていることに気づいているのかいないのか、スタッフオンリーの扉の向こうでアマリは可愛らしいくしゃみをひとつ繰り出したあと、担いでいたSFヘルメットをソファへ横向きに下ろした。
「お疲れ様です。あとは時折様子を見に来ればよいでしょう。見回りに戻ってください」
「承知しました」
店長に一礼して廊下へと出る。
今回受けたバイトはゲームセンターの営業時間中、および閉店後の見回り。トラブルや異常があれば対応というものだ。丸1日というわけではなくアマリの担当は営業時間後半から。
開店前から営業時間前半の担当も別にいて既に仕事を終え帰宅していた。
「メイドさんにヴェリタスの皆さん、それと先生には感謝ですね」
実のところ、このバイトを根無し草のアマリが受けるのはなかなかに厳しかったのだが、メイドさんが先生を通してヴェリタスに相談してくれたようで、気づけばいろいろな過程をすっ飛ばして採用通知がメイドさんの手で配達された。
「さて、見て回ってみればなるほど確かに、このゲームセンターには”いちたりない”が溢れかえっていますね。不自然なほどに」
例えば勇者一行。諸々の事情が重なり”あと1秒”のところで”コインが1枚足りなかった”様子だ。
今運んだSFヘルメットも”あと1発撃てれば勝てる”ところで弾切れを起こして敗北した。本人の叫びを信じるなら本来は足りているはずだったにもかかわらず。
他にもクレーンゲームにて”あと1回で景品が取れそう”なところでお金の尽きた可哀そうな一般生徒。
メダル落としゲームにて”あと1枚センサー部に落とせればジャックポット”という所で受け付け時間が終わってしまい肩を落とす獣人。
格闘ゲームにて”あと1回だけ!”とごねていたが、凄まじい圧力を放つ笑顔に観念し引きずられていった背の低いメイド部。
「む、最後のは違いますね。メイドさんの同僚とかでしょうか*2……ともあれ、何らかの力が働いているのは間違いなさそうです」
一瞬で思い出せる分だけでコレだ。実際はもっとあった。それらの”いちたりない”状態を作り出している特異現象がこのゲームセンターに潜んでいて、話が通じない手合いだったならば、倒せばオーパーツが手に入るかもしれない。
そうでなくてもバイト代をためておけば、唐突にオークションなどでオーパーツが出品されたときに手に入れられる可能性が少しでも生まれるだろう。予想される落札額を思えば焼け石に水かもしれないが稼いでおいて損はない。
「どんな真相であれ、まずはお仕事をこなしていきましょうか」
腰に付けたペロロのキーホルダーをチラリとみて微笑んだ後、アマリはスタッフオンリーの扉を逆側から開けて店内へと戻っていった。