超天災脳筋美少女(偽) 作:TSCのミメシス
一夜明け翌日の午後。
アマリは宣言通り再び訪れたゲーム開発部の面々と共に格闘ゲームコーナーを訪れていた。
「格闘ゲーム……これで調査するのですか?」
「ええ。例の現象……いちたりない妖怪とでも言いましょうか。あれは何らかの勝敗が関わることに干渉しているようなのです」
「つまり白黒はっきりつく格闘ゲームなら、手を出してくる可能性が高いってこと?」
「おそらくは。そして干渉の方法次第では危険な目にあう可能性もありますが……」
「大丈夫だって! 任せといて!」
「ゲームの勝敗に、しかも片方を邪魔することで干渉するなんて、私たちも許せませんから」
「……ありがとうございます」
やる気十分な様子で袖をまくり筐体へ向かうモモイを見守る体制に入る。
100円玉が投入され、マッチングがスタート。
すぐにモモイの選んだ格闘家が対戦相手と画面内で向かい合い、スタートの合図とともに互いの距離を詰め拳を突き出し合った。
「……死んだー!」
「お姉ちゃん……」
わずか10数秒後、モモイの操作にその身を委ねていた格闘家は顎に強烈なアッパーを受けて母なる大地に還っていった。
――
対象データ
■■■ウ■■の影響を受けており、コマンド入力があと1フレーム間に合わない状態
――
という記述が対戦中に見えたことをアマリが告げるとモモイは初日のように奥歯を噛みしめ拳を震わせる。
「く、悔しい……実力で負けるのもダメージが大きいけど! 邪魔さえなければって気持ちがあるとやるせなさがハンパない……!」
「モモイさん……」
目じりに涙すら浮かべるモモイの様子に、本当にゲームが好きなのだろうと感じるとともに、やはり巻き込むべきではなかったか、と心の隅で後悔しつつせめて肩に手を置いて慰める。
「勝利です!」
「う、負けちゃった……」
「か、勝ちました……」
続いてほかのメンバーが対戦していくが、モモイの時と違って干渉はなく、勝敗は実力や時の運が決したようだった。
その間、肩を落としていたモモイは、しかし立ち直り、追加の100円玉を握りしめて再び筐体へと歩を進める。
「よし! リベンジだ! 昨日といい今日といい、妖怪が何故か私を狙うのは分かったんだから。干渉されてるところを見れば、手掛かりも増えるんだよね? アマリ!」
「それはそうなのですが……」
「なら決まり! よーし、覚悟しろ妖怪めー!」
格闘家が再び画面内で戦い始める……否。一方的に殴られ始める。コマンドの入力が間に合わないのだからそもそも勝負になるはずがないのだ。
「ぐ、ぐぐぐ……負けるもんかぁ……!」
だがモモイは諦めない。邪魔されているとわかっていても、腐って手を抜いたりはしない。
全力で、真摯に勝負と向き合い続ける。
その姿を眩しいと感じ、そしてその想いに泥をかけるような妖怪の所業に、アマリは様子見を止めて強引な手段をとることにした。
「迎えに行く前に、力を借りることになるとは……モモイさん」
「何!? 今けっこうピンチで……」
「ええ、ですがもう少しだけ踏ん張ってください……ほら、あちらで
何故か店内に設置されている等身大の
――
対象データ
■■■ウ■(偽)の影響を受けており、コマンド入力があと1フレーム間に合わない状態
モモフレンズを愛している
――
大切な友の
行動を操るような極端なことはできないが、それでも勝負が終われば消えてしまう一時的な干渉を跳ねのけるには十分だった。
「うおおおおお!? なんか調子が戻ってきた!」
「! モモイの動きが正確になりました!」
「これなら……!」
「よし、行けお姉ちゃん!」
仲間の声援を背に受けてモモイの手がレバーとボタンを目にも止まらぬ速さで操作する。
それに合わせて画面の中の格闘家が先ほどまで優勢だった対戦相手を一方的に殴り飛ばし始める。
すぐに形勢はひっくり返り、モモイはトドメのコマンドを奇跡的に1フレームの遅れもなく入力しきった。
「Fatality……」
対戦相手の体力ゲージがすべて削り切られた。自身は瀕死、相手は無傷の状態から一方的にすべて削り切る圧倒的な大逆転劇であった。
「モモイの勝利です!」
「やった! 妖怪の妨害に勝ったんだよ!」
YOU WIN! の文字が表示されると同時に立ち上がり拳を天に突き上げるモモイを、ゲーム開発部の面々が取り囲み胴上げを始めた。
その光景を微笑ましそうに見届けた後、アマリは視線をぐるりと巡らせる。
「ぴゃあああああ!」
「ふふふ、こちらも見つけましたよ。そんなところに隠れているとは、盲点でした」
聞こえてきた悲鳴のような声の発信源に視線を向けると、立ち並ぶクレーンゲームの筐体のうち、あるひとつの中で煙のようなものが上がっていた。
「み、見つけたの!? ……って、あれは!」
「あれが妖怪の正体?」
――
対象データ
早瀬ユウカ(偽)
ミレニアムサイエンススクール2年生、早瀬ユウカを模した特異現象。
早瀬ユウカの計算は完璧であるという記号から自身の計算、予測に結果の方を合わせて無理矢理正解にする能力を持つ
――
「小さいユウカです!」
「妹……にしては骨格がぬいぐるみ的すぎる*1……本当に妖怪なのかも」
クレーンゲームの筐体内に積み上がったぬいぐるみの山の中、煙を上げる関数電卓を悲しそうに見つめる小さな生物の姿にゲーム開発部の面々は激しい既視感を覚えた。
というより、知り合いにそっくりなその外見にアリス以外は困惑の表情を浮かべていた。
そしてアマリは、驚愕の表情で冷や汗を浮かべていた。
「どうしましょう……世界を滅ぼしうる化け物が出てきました」
「アマリ? そんなにヤバいのあのちっちゃいユウカ?」
「ええ。極端な例えをしますが、あの小動物が爆弾を見て”これが爆発したらキヴォトスは滅亡する”と予測すればその通りになります。どれだけ荒唐無稽な演算結果でも、それが正解になるように世界の方が動かされる……無論、そこまで干渉できるだけのパワーリソースを確保できるなら、ではありますが……能力の性質上、リソースの方から集まってきても驚きません」
「怖っ!? もう魔王じゃん! ……後半は何言ってるのかよくわからなかったけど」
「ぬっ!? ぬ~っ!*2」
引きながら遠巻きに見つめられる小さな生物は視線に気づくと慌ててぬいぐるみの海に潜るようにして身を隠した。
「それで隠れたつもり……のようですね。しかも有効と来ましたか」
バレバレな悪あがきにしか見えなかったが、次の瞬間その場の全員がその生物を見失う。
それどころかどのクレーンゲームの中にいたのか、誰も思い出せなくなっていた。
アマリは試しに全知さんで自分を読んでみるが、見失った時点でやはり干渉は終わっているようで、モモイにやったような洗脳の力による上書きもできそうにない。
「……厄介な。これで隠れられるはず、とあちらが考えた時点で方法を問わず必ず見失ってしまう訳ですか。とっさに出る考えが排除ではなく逃走だったのは幸いですね」
「は、排除だったら?」
「考えない方がよろしいかと」
「ひえぇ……」
その後最大限警戒しつつ全てのクレーンゲーム内を捜索したが、結局対象を見つけることは叶わなかった。
「……本当に恐ろしい存在ではありますが、洗脳の力で跳ねのけられたように、干渉そのものの強さは……リソース次第で無限に上がるでしょうが、今はまだ絶対的とまではいかない。ふふっ、明日こそは捕まえて見せましょう」
その日の業務が終わりを告げ、路地裏でひとり歩きながらアマリは思いついた対策を実行するための準備を始めた。