超天災脳筋美少女(偽)   作:TSCのミメシス

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いちたりない5

さらに夜が明け、勤務時間を迎えたアマリは予想を現実にする特異現象を捕獲するべく作戦を開始した。

その手には縄を持ち、反対側にはぐるぐる巻きになったSFヘルメット。

性懲りもなく現れ、またしても筐体に台パンをかまそうとしていたが、視界の隅で微笑むアマリを認識した瞬間に美少女リアリティショックが再発し、従順な協力者へとクラスチェンジしたのだった。

 

「ふふふ、効果抜群ですね、この”悪い人を自動的に捕らえる縄”は*1

「アイエエエエ! アイエエエエエエ!*2

 

もちろん”悪い人を自動的に捕らえる縄”などというアイテムを本当に手に入れた、あるいは作ったわけではなく、普通に縛り付けたうえでそう言い張っているだけなのだが、アマリは今回の相手には十分に有効なはずだと考えている。

全知さんで読んだ能力の内容は事象を思い通りに捻じ曲げているのではなく、あくまで予想した結果が必ず的中するというもの。ならばハッタリでも大嘘の寸劇でもなんでも使って不安を煽り、こちらに有利な結果を予想させればいい。

”捕まる”という結果を予想してしまったが最後、対象の捕縛は決定する。

そこから脱走を抑えるのも困難を極めるだろうが、いちど捕まったという前例が相手に刻まれれば、ひとまずはそれでよい。

 

「クレーンゲームに侵入などする悪い子が昨日いたはずですが、いったいどこへ行ったんでしょうねぇ……」

「アバババーッ!」

「迫真の演技ですね、その調子です*3……おや、かかりましたね」

 

もう片方の手に持っていた縄がひとりでに動き出し、蛇が獲物に襲い掛かるかの如きスピードで近くのクレーンゲームの景品取り出し口から筐体へ侵入、逆走していく。

 

「ぬっ!?」

「捕まえましたよ」

 

アマリが筐体に潜り込んだ縄を引っ張ると、その先でSFヘルメットと同じようにぐるぐる巻きになった捜索対象の小動物が景品取り出し口から顔を出す。

作戦はしっかりと功を奏し、相手の能力を逆に利用することが出来たようだ。

 

「ふふふ、またクレーンゲームの中になど入って。筐体への侵入はいけませんお客様……悪い子は微分しちゃいますよ♡」

「ぴゃあああああああああああああ!」

 

泣いて暴れるも、縄の効果を信じ込んでいるらしい小動物はそこから逃れられない。

絵面が女児誘拐(ひとさらい)にしか見えず、遠くの方で店長が頭を抱えているのをアマリは努めて無視した。

 

「ああ、そちらのあなたはもう解放しましょう。お気をつけてお帰りください」

「ハイ! オタッシャデー!」

 

今回は腹パンされずに済んだ、と悲しい喜びを握りしめて走り去っていくSFヘルメットを見送り、本命のターゲットへ意識を集中する。

視線が向いたことにビクリと身を震わせるとともに心なしか縄の締め付けが強くなったような気がして*4暴れるのは無駄だと悟った小動物は、しかし諦めて身を任せる、などということはせず、意を決したように逆にアマリの方へ飛び掛かった。

 

「ぬっ!」

「痛ぅっ……この私が痛みを?」

 

縄そのものではなく、縄を持っている手の方への破れかぶれの噛みつき。

効果は覿面で、アマリはキヴォトスに出現して以来初めてのまともなダメージというものを体験し、思わず手を離した。

噛みつかれわずかに血のにじむ所を軽く押さえつつ、手を離したせいか緩んだ縄から抜け出し走り去るその姿を目で追うも、相手が逃げようとしているということはやがて見失わされる。

低級オーパーツを使った洗脳の力による抵抗もゲームの対戦という比較的長い干渉だったからできたことで、見失うという一瞬かつタイミングも相手次第の干渉には間に合わないだろう。

 

「やはり危険ですね。これ以上野放しにしていれば何かの拍子に死人が出かねない」

 

相手に聞こえて実現してしまわないよう、小さくつぶやくと共に、ここで捕獲し少なくとも無害化しなければ、と決意する。

とはいえ、いったん仕切り直しか、と次の作戦に意識を向け始めたアマリは、しかし視界に映った光景に思考を止めた。

 

「ゲーム開発部の話だから半信半疑だったけど、本当にいるなんて……」

「もう! だから言ったじゃん!」

「悪かったわよ……で、あなたね? このゲームセンターで悪さをしてるっていうのは」

「モモイさん達。来てしまったのですか。それに、あの方は……」

 

――

対象データ

早瀬ユウカ

ミレニアムサイエンススクール2年生。

生徒会組織セミナーの会計を務めており非常に高い計算能力を誇る

――

 

「ご本人、ですか」

 

体格は正に大人と子供くらい違うが、顔は全く同じ両者が向かい合う。

数秒間のにらみ合いの後、小動物の方が方向を変えて逃げようとする。

 

「あ、こら! 待ちなさい!」

「ぬっ!?」

「む」

「よし! ユズの予想通り!」

 

”こっちに行けば逃げられる”と小動物が考えているであろうにもかかわらず、その小さな体躯はあっさりと本物の早瀬ユウカの両腕に収まり、抱きかかえられてしまった。

 

「ほら、暴れないの!」

「ぬーっ! ぬっ! ぬっ!」

 

世界を滅ぼしうる小動物が必死に暴れるが、ユウカの手を振りほどくには至らない。

見た目通りの幼子に過ぎないかのような姿に呆気にとられるアマリの傍へゲーム開発部の面々が歩いてきた。

 

「ア、アマリさん……血が」

「誰か回復アイテムを……!」

「これくらい大丈夫ですよ、ご心配なく」

「いやそんなわけ……って、うわっ! ものすごい勢いで塞がってく!」

「ええ、この通り。自分でもちょっと引きますが……それよりもユズさん、あれは……」

「はい……昨日聞いた話から攻略法を考えてたんです。それで、ユウカの計算は完璧って理屈で事象を操作してるなら、その()()()()()()には従うしかないんじゃないかって思って……」

「なるほど。そしてあの様子を見るに大正解だったようですね。お見事です」

「ふふん、すごいでしょ、ウチの部長は」

「なんでお姉ちゃんが偉そうにしてるの」

 

おそらく予想の立て方次第では全知さんで導き出せた答えだったのだろうが、人を巻き込まず*5自分の手で解決することに拘り視野が狭くなっていたようだ、と反省する。

 

「さぁ、一緒に来てもらうわよ! 観念しなさい!」

「ぴゃああああ!」

 

自身の計算結果が覆されるとダメージを負うのか、初めて目撃された時も煙を上げていた関数電卓が爆発して単なる歪な四角い板へと変貌する。

それを大事そうに抱えつつも駄々をこねる子供のように――実際そうなのかもしれないが――泣きながら連れて行かれる小動物を見送った。

アマリの縄と違い、同じ顔の人物に抱きかかえられて行ったので犯罪臭さも無く店長もホッとしたようにその背へ一礼している。

 

こうして、ゲームセンターに蔓延っていた理不尽ないちたりないはセミナー、というより早瀬ユウカの目が常に届く場所へと連行されることでその脅威度に反してあっさりと取り除かれた。

が、そこは対戦の世界。片方への助力がなくなったのならもう片方が勝つだけのことで、筐体前で繰り広げられる光景はそれまでと大して変わらなかったという。

 

「えー、明日から来なくて結構です。あなたがもっと輝ける職場がきっと他にありますよ。傭兵とか」

「はい」

 

そして流石に見た目女児の相手を縄で捕縛するのは看過できなかったようで、客に暴力沙汰を起こしまくるバイトもついでに取り除かれた(クビになった)

*1
棒読み

*2
迫真

*3
演技ではない

*4
本当に気のせいだが自身の能力によって実際にそうなってしまう

*5
縄に繋いでいたのはチンパンジーだ。いいね? え? それはそれで動物虐待? そうだね……

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