超天災脳筋美少女(偽) 作:TSCのミメシス
「ここで合っているでしょうか」
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対象データ
空きビル。今回の清掃業務に指定された場所。
地下1階から地上5階の構造
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「ありがとうございます、全知さん」
「誰だよ全知さん」
「ああ、こちらの話ですので」
「ほーん……」
早朝。
時折、自我らしきものを見せる全知の能力に安直ながら全知さんと命名し一応のコミュニケーションを図りつつ、一緒に来たスケバン*1と並んで到着した目的地を見あげる。
キヴォトスに出現してから1週間ほど。
ニセ美少女エルフは文化的生活を手にするべく労働に勤しんでいた。
明星ヒマリの学生証(複製)は持ち物から発見済みではあるが、まさか他人の名義を使う訳にもいかず、その辺りが緩い怪しげな日雇いの仕事を偽名で転々としている。
今回受けたのはテナントが数ヶ月と保たず次々と出ていってしまう曰く付きのビルの清掃業務だった。
先日とうとうすべてのフロアがもぬけの殻となってしまったため一気に清掃を済ませて次を呼び込みたい、怪しげな曰くなど馬鹿馬鹿しい。と雇用主であるこのビルのオーナーはミレニアム自治区らしく考えたものの、清掃ですら事故が多発したためマトモな業者には渋られていることや、少しでも費用を抑えないと首がそろそろ絞まりかねない、などの理由から肝の据わった個人バイトを募集した、とのことだ。
「しかし、作業服姿も……やはり美少女ですね。素晴らしいですよヒマリさん」
「やたら気合はいってんなぁ、その格好」
「あなたも既にマスクをつけてやる気十分といった様子ですね」
「マスクは会った日からずっとつけてただろ! ……ところで、そのヒマリってのに会ったことねえんだけど、そんなに似てんの?」
「ええ、顔の造形は全く同じそうですよ。私もお会いしたことはありませんが」
「ねえのかよ!」
窓に映りこむ水色のツナギ服の美少女はさながら静かな湖畔に降り注ぐ淡雪のようだ、と借り物の顔を称賛し、スケバンから珍獣を見る目を向けられながらビルの中に上がり込む。
「おや、先客が。他の応募者の方でしょうか」
「ちーっす」
「へっ? あ、は、はい! あなたがたもこのビルの清掃に?」
「ええ、アマリ*2と申します。どうぞよしなに」
「よ、よろしくお願いします! って、見えませんよね! すみません……」
スケバン及びニセ美少女エルフ改めアマリの挨拶に応え、掃除用具の入ったキャスター付きのカゴの向こう側から小柄な少女がとてとてと姿を現した。
「準備作業中でして、カゴの向こうから失礼しました。わたしは――」
「メ、メイドっ!!!」
「ビックリすんだろ、急に大声出すな」
その服装を視界に収めたアマリはスタンロッドで殴られたような衝撃を受ける。
清掃員といえばツナギ。元気よく働く美少女は美しい。だって美少女だし。などと考えていた。
そこへ現れた元祖、働く美少女、メイドさん!
「そう来ましたか! メイドさんといえば喫茶店という日本的先入観に囚われていました……! そうですよね、本来は家事全般をこなす存在ですよね、当然お掃除も!」
「もちろんですっ! わたし、ミレニアムではメイド部に所属しておりまして。修行のため、このお仕事に応募したんです」
「メイド部ですか」
「あー、聞いたことあるわ。実は戦闘部隊とかなんとか」
「そ、そこもご存知で……わたしはまだ見習いの平部員なんですけどね」
――
情報
ミレニアムサイエンススクール・メイド部
正式名称はCleaning&Clearing
メイドに扮したミレニアム生徒会直属のエージェント集団。
エージェントであることは秘密とされているが噂程度であれば知っている生徒は多い。
上位メンバーは実動部隊としてコールサインを与えられる*3。
コールサイン00はミレニアムにおいて約束された勝利の象徴とされる、最強の称号
――
「……ロベルタの養殖所か何かで?」
「誰だよロベルタ」
目の前のこの子もスカートに手榴弾とか隠してるのだろうか、と気になったが、まさか捲る訳にもいかない。全知さんに調べさせるのも同様だ。
もうほとんど認めているが、いちおう秘密なら本人に訊くのも憚られる。
気になりつつも、ひとまず相手を一人前になるため頑張っているかわいいメイドさんと定義して接することにすると、アマリたちは現状を把握するべく一緒にビル内を回り始めた。
「ふむ、さほど汚れてはいませんね。頻繁にテナントが入れ替わるので、積もるものも大したことがないのでしょう。なるほど個人のバイト数人で回そうとするわけです」
「けっこー早く帰れそうだな。んじゃ、ちゃっちゃとやっちまおうぜ」
「そうですねっ、まずは取り残された物の運び出しからはじめましょう」
1階から5階まで順に上がって各部屋を見て回った後、修行中の身とはいえ清掃業務経験のあるメイドさんを班長に作業計画を立てていく。
取り残された物、ということでここまでで見かけた物を頭の中でリストアップしていく。
「取り残された物……ああ、ありましたね。毛羽立ったソファとか、謎の生物の等身大? のぬいぐるみとか……」
「え、ペロロちゃん知らねえのお前」
「信じられません……ペロロさんをご存じない方がいらっしゃるなんて」
何気なく放ったつぶやきを耳に入れた瞬間、いっそ不気味なほどの勢いでぐるんっと首を回して振り返る2人の勢いにアマリは気圧される。
(……何でしょう、女子高生相手にジェネレーションギャップを味わったような気分です。そういえば生後一週間ですね、私。世代とかそういう問題じゃありませんでした)
――
情報
ペロロ
モモフレンズの一員。
常に舌を出し、焦点の合わない目でどこかを見つめている。
キュートな鳥さんと評する熱狂的なファンと、
キモイカバと評する冷え切ったアンチを双方大勢抱えている。
――
キュートかはともかく、鳥なのは思い出してみればなるほどと理解できる。しかしカバとはどう見ればそうなるのだろうか?
どこの誰かも不明瞭な存在の抱いた感想の理由までは全知さんでもわからないようで、この疑問に対しては何も言ってくれない。
「ええと、モモフレンズ? というのは……」
「お、聞いたことはあったか。そうそうそれそれ」
「ふふふ、着ぐるみショーの時のペロロさんはそれはもうキュートな動きを見せてくださるんですよ」
「そ、そうなのですね……」
アマリがちょっと引いているのに気付いていないのか、気に留めていないのか、ふたりのペロロトークはどんどんヒートアップしていく。
しかしその様子がどこかおかしい。純粋に好きなものを語っているというより、例えるなら熱病に浮かされて訳もわからずまくし立てているような、そんな雰囲気を感じる。
「そういえば今日の夜、イベントがあるよな! この仕事終わったら見に行こうぜ!」
「そうですねっ! そうしましょう! きっと気に入ります!」
「何なんですかその熱意は……」
ふたりはアマリがイベントとやらへ赴くことを了承しなければ縛り上げて引きずって行くことも辞さないような、危険な雰囲気を醸し出しながら迫ってくる。
ここまで露骨に異常な様子を見せられては、流石のアマリも”その可能性”に思い至る。
「ふむ。全知さん?」
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対象データ
スケバン及びメイドさん
状態:洗脳
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「おっと、そういえば曰くつきのビルという話でしたね、ここは……ここまで直接的とは思いませんでしたが」
ふっと微笑みながら、とうとう目の焦点が合わなくなってきたふたりが掴みかかってくるのをするりと躱して距離をとる。
迎撃しようかとも思ったが流石にそれは心が痛む。
「ああ、原因らしきあなたを攻撃するのは躊躇いませんよ? さほどかわいいとも思いませんし」
背後に音もなく忍び寄っていた等身大のぬいぐるみがその言葉を受けて一瞬だけ動きを停止させる。
「ペロぉ!」
しかしすぐに、バレているなら気にする必要はないとばかりに素早く飛びかかってきた。
キヴォトスの生徒が攻撃する、と言えば真っ先に連想される銃を、アマリが手に持っていない事から、今なら反撃が間に合わない、と判断したのだろう。
あるいは単に、かわいいと思わないと言われて頭に来たのか。
「美少女パンチ!」
「べもッ!?」
ともあれ、迂闊に脳筋の眼前へとボディを晒した愚かな鳥の化け物はまるで銃弾のように回転しながら部屋の外、廊下まで吹き飛ぶ憂き目にあった。
「そういえば本物のヒマリさんは、特異現象捜査部、というものに身を置いて非科学的なものと相対しているとか……では、私もそれに倣うとしましょうか」
廊下の壁にたたきつけられ、落下先の床で苦しみもがいていた等身大ペロロぬいぐるみが怒りを露わにして立ち上がったところへ、挑発するように手招きする。
「あなたが最初の捜査対象です。そうですね……洗脳を解く方法くらいは、解明させてもらいましょうか?」
「ぺ、ペロ……」
「というわけで、お願いします、全知さん♡」
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プロフィール
おバカ!
――