超天災脳筋美少女(偽) 作:TSCのミメシス
「さて、ではお掃除を再開しましょう」
無事に着地し、自分含めた全員から洗脳の影響が抜けていることを全知さんによって確認して十数分後。
ビルや休息するふたりを横目で見て、全知さんにより再度思い出しながら、得られた情報などを痛みの残る頭の中で整理していき、ひとつの仮説を出したアマリの、突然神妙な顔になって放った発言が上記のそれだった。
「お前マジで言ってんの?*1」
スケバンから狂人、あるいは化け物を見る目を向けられたことにアマリは不服そのものの表情で返すも、視線の種類は変わってくれそうにない。
メイドさんは本人の主観上、突然空中にワープして落下することになった恐怖で「はへぇ……」と呟くのみの放心状態。アマリの発言に気を向ける余裕は無さそうだった。
「もう少しで、プリペイド式のスマホが手に入るのです。連絡手段すら持っていない浮浪者が受けられるお仕事なんて犯罪以外にはそうそう無いのですから、この機会を逃せばあとどれだけかかることか……」
「なるほどなー。でもまあ、アタシはスマホくれえ持ってるし、こんな仕事は御免だわ。お前もアホ言ってねえで帰るぞホラ」
「おや、あの不細工な鳥の化け物が怖くて、尻尾を巻いて逃げる、と」
「……あ?」
そのまま手を振ってビルとアマリ達に背を向けるスケバンだったが、かけられた言葉に立ち止まり、一瞬で血走った目になるとアマリを睨みつける。
「今、なんつった?」
剣呑な気配を察知したメイドさんが放心状態から立ち直り、オロオロした様子でスケバンとアマリの間に視線を彷徨わせる。
「聞こえませんでしたか? 尻尾を巻いて逃げ……」
「その前だ!」
「? ……あの不細工な」
「ニセモンとはいえ! ペロロちゃんが!! 不細工だとコラァ!!!」
「そっちですか?」
――
対象データ
モモフレンズのペロロを、洗脳などされるまでもなく心から愛している
――
「最初のあの反応、素だったんですね」
「……ん? おう。お前がペロロちゃん知らねえって言ったのが信じられねえでつい反応しちまったんだが……そっからだな、意識がぼんやりしだしたの。ああ、今は思い出せるけどな」
「あ、あの……わたしも、ペロロさんの話を始めた辺りから……そして気づいたら落ちてて……うう」
「なるほど……掴まれてもいないのに洗脳されたのはそのあたりが原因でしょうか」
――
情報
洗脳の条件
前提
ビル内に滞在していること
トリガ
・操作、洗脳されている存在に掴まれること
・モモフレンズを肯定する発言をすること
■■■■
……
――
「自分で辿り着けば負荷なく読めるようになると。答え合わせが簡単でいいですね」
思わぬ形で新たな情報が手に入ったアマリは満足気に微笑み、ふたりの方へ向き直る。
「条件がわかってしまえばあとは簡単です。私があの鳥を……」
「ペロロちゃんな」
「ペロロさんです」
「あ、はい。ペロロちゃんさんを引きつけますので、その隙に予定通り残置物の運び出しをお願いします。わかっていると思いますが、洗脳されますのでモモフレンズ? の話題は禁句ですよ」
「えー、マジでやんの……?」
「はいっ! おまかせください!」
「こっちはノリノリだなぁオイ」
「これも立派なメイドになるためですので!」
スケバンとしてはもう帰りたかったが、ふんすっ! と鼻息が聞こえてきそうなほど張り切っているメイドさんをひとりで働かせるのも何か、それは違うだろう、という気がする。
「しゃあねぇなぁ……」
心底嫌そうな顔ではあったが、既にビルの入口へ再び向かっているアマリ達を追いかけて歩き出した。
「……ペロ?」
アマリ一行を取り逃がしたあと、意気消沈した様子で階段を降りていたペロロぬいぐるみは、下の階から上がってくる足音に首をかしげる*2。
「ふふっ……びっくりしましたか?」
「ペロ!?」
飛び上がって驚くペロロぬいぐるみに、アマリはいたずらが成功した子供のように笑うと、そのまま少し引き返して残置物がなかった3階の廊下に躍り出た。
「鬼ごっこなんてどうです?」
「ペロ! ペロお!」
今度こそは逃がさない、とばかりに、どこか嬉しそうに追いかけてくる姿をチラリと視界に収め、読み取れる情報が変化していないか確認する。
――
対象データ
阿■■ヒフ■(偽)/■■■■■
みん■で■■■ペロロ様を■■■■■■
■■■■へペロロ■■■■に
きっと■■■楽■■■■■■
■う■とり■嫌■んです
ど■か■緒に
――
「この名前の書き方……何かあるとは思いましたが、ご同類でしたか。洗脳……いえ、本人は布教のつもりでしょうか? とにかく、その力は私の全知さんのようなものと言うわけですね」
すぐに廊下の端、つまり行き止まりにたどり着いて立ち止まったアマリめがけて飛び跳ねながら駆け寄ってくるペロロぬいぐるみを可能な限り引きつけ、飛びかかってきたところをスライディングで潜り抜け再び走り出す。
「他人の記号を借りて使っているわけですから、洗脳の条件が面倒なことになっているのですね……では、あなたの目的は? 人を洗脳などしたり、窓が開かないよう押さえたり……ふむ。ここから出さない、でしょうか? 何故?」
「ペロぉ!」
追いかけてくるペロロぬいぐるみは鳴き声しか発しない。だがアマリの進行方向に窓があることに気づくと走り方に必死さが混じった気がする。
「ああ、やはり、そうなのですか?」
ビルから一旦脱出したとき、少し考えて、ひとつの可能性が浮かび上がってきていた。
仲間が洗脳され、背後に忍び寄って来ていたという最悪な出会い方だったため、敵対的な存在と決めてかかっていたが。
「全知さん、今なら……ふむ。なるほど」
あのとき洗脳されたふたりは銃を持っていた。キヴォトスの生徒なら当然だ。しかしそれをアマリに向けて撃たせたりはせず。
やらせたのは近寄って掴ませること。洗脳のトリガなのだから当然と言えば当然だが、撃たせればもっと効率的にアマリを追い詰められたはずだ。
そして本人も同様。追いかけてきて、掴みかかってくるのみ。アマリと腕相撲の成立するパワーの念動力があるなら、そこらに落ちている物をぶつけて攻撃すればいい。
だがそうはして来ない。
「あなた……ただ寂しかっただけなんですね」
アマリがそう言って窓よりもずっと手前で立ち止まると、当然、ペロロぬいぐるみが駆け寄ってくる。
しかし飛びかかってくることはなく、こちらもアマリの手前で立ち止まった。
「ペロ……」
「もう逃げませんよ。そちらが襲ってこないなら、殴ったりもしません」
「ペロ! ペロっ!」
まさに喜色満面、といった様子でその場で飛び跳ねるペロロぬいぐるみ。
「こうして見ると、結構
「ペロぉ!」
洗脳のトリガとなる、モモフレンズへの肯定を口にしても何も異変はない。ただ嬉しそうに目の前の白い何かが勢いを増して飛び跳ねるのみだった。
「おーし、そっち持ってくれ」
「はいっ!」
1階にて。例のペロロぬいぐるみがいないことを確認した後、スケバンとメイドさんは2階から持って降りてきた、毛羽立ったソファをふたりがかりで運び出す。
「アマリさん、ご無事でしょうか」
「正直、やられてるところは想像できねえな」
「確かに、そうですね。私たちふたりを抱えたままビルの5階から……ですし」
残置物の運び出し作業は順調そのものだ。もともとそこまで数が多いわけでもないのでもうほとんど終わっているといってもいいくらいだろう。
「しっかし、あいつも素直じゃねえよなぁ……」
「へ?」
「なーにがもうすぐスマホが買えるだよ、とっくに持ってるくせに。つまんねぇ挑発までして引き止めてよ」
「あ、そうなんですね……」
頭の後ろで手を組んでぼやくように言うスケバンに苦笑を返すメイドさん。
確かにアマリの引き止め方はかなり強引だったし動機にもやや無理があった。実際スケバンにドン引きもされていた。
「ま、気づいたのは今だけど……で、そうまでしてアタシらの手が要るってのは何なんだろうな」
「どうでしょう、わたしには思いつきませんが……っ!?」
「誰だ!?」
ふたりして首を傾げていると、階段の方から足音が聞こえてきて、咄嗟に身構える。
上の階にいるのはアマリとペロロぬいぐるみだけなので、当然、こうして足音らしい足音を立てて歩いているのはアマリの方に違いないのだが、反射的にどうしてもやってしまう。
「驚かせてしまいましたね。大丈夫。私ですよ。洗脳もされていません」
「おー、そうか。大丈夫……だった……みた」
すぐに聞こえてきた声で一気に緊張が解け、銃に伸びていた手を戻しながら階段を見上げたスケバンは思考をフリーズさせる。
「わあ! 和解できたのですねっ!」
「はい。もう大丈夫ですよ。触っても洗脳されません」
「ペロ!」
「……え? なんだこの空間。違和感持ってるアタシがおかしいのか?」
アマリが引き連れてきたペロロぬいぐるみと戯れるメイドさんを見たスケバンはしばらくの間、自分か自分以外のどちらかが洗脳されていることを疑っていたが、やがて諦めた。