超天災脳筋美少女(偽) 作:TSCのミメシス
「では改めまして、お掃除を再開しましょう!」
「わー!」
「ペロー!」
「お、おう」
ペロロぬいぐるみを新たに迎えた4人組は各々の掃除道具を掲げて最上階の廊下を突き進んで行き、フロアの奥の方から細かい塵や汚れの除去を開始する。
時間にはかなり余裕があるため、その間、新メンバーが気まずくないよう雑談にも興じていた。
「ふむ、ペロロさんは何故かこのビルから出られない、と」
「ペロぉ……」
「なんで言葉わかるんだよ……まあいい。それでテナントが全部出て行っちまって寂しかったってわけか……」
「そしてつい清掃業者の方にモモフレンズを“布教“して少しでも長くとどまって貰おうと力を使ってしまった、というのが、私たちの前任が逃げた原因のようです。反応は……概ね最初の私と似たようなものだったのでしょう」
「ああ、うん。傍からはやべえ怪異にしか見えねえよな……」
「寂しいだけなのに、それが伝わることはなくて、またおひとりに……かわいそうです……あれ?」
話の違和感に気づいたメイドさんが自分の口元を指さすようにしながら虚空を見つめる。
「お気づきですか?」
「は、はい……それではテナントの方々がすぐに出ていってしまう理由がわかりません」
「確かに。話じゃ、ペロロちゃんは全部出ていっちまうまで何もしてないんだよな……?」
「ペロ! ペロッ!」
「誓ってやってません、だそうです。共用スペースでおとなしくオブジェのフリをしていたみたいですよ」
「普通にやってそうな言い方だが……取り敢えず信じるぞ?」
「ペロぉ~!」
「うぉっ、抱きつくな! ……いや悪くないなこれ。もうちょいそのままで」
「ペロッ! ペロ~」
「ははは、こいつめ」
生粋のモモフレンズファンからすれば、偽物とはいえ明確に自分の意思をもって動くペロロに懐かれるというのはたまらない体験のようで、スケバンは満面の笑みでペロロぬいぐるみを撫でている。
ビルへの再突入を渋っていた原因の感情はとっくに消え失せたらしいその様子にアマリも満足げにうなずく。
「面倒見が良さそうと思い、予想の段階で引き止めておいて正解でした。存分にかわいがってあげてください」
「おーし任せろ! おりゃ!」
「ペロぉ~」
「ああっ! 後でわたしにも代わってくださいスケバンさんっ!」
スケバンとメイドさんに順番に愛でられるペロロぬいぐるみを微笑ましく見守りながらモップで床を清掃していく。
5階の掃除は特に異変が起きることもなく終了した。
「……?」
次に4階の掃除に入ると、床を見たメイドさんが違和感を覚えた様子でじっとある一点を観察し始める。
「おん? どうしたよ?」
「えっと、そこの床に、裸足の足跡があるみたいでして……最初に見て回った時、あんなものあったでしょうか、と……」
「ペロ?」
「ふむ……」
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対象データ
20秒前についた足跡
――
「おっと。足跡の主は……見当たりませんね」
「そうですね……それにあの足跡、どこにも続いていません……まるで」
そう言うメイドさんの視線が周囲の床を離れ、少しずつ上に向いていき……
「……っ」
天井に張り付いて一行の様子をうかがう、
その姿は形容しがたく、無理やり呼称するならやはりなにか、とする他ない。じっと観察していても、瞬きの度に姿かたちが全く別のものに変貌しているような錯覚を覚える。
裸足の足跡などどうやって付けたのか、人間の足らしきものが全く見当たらない。
「う……」
メイドさんの手がゆっくりと腰に備え付けられた銃へ伸びていく。
「撃つ前に回避の用意を。何をしてくるかわかりません」
「は、はい……」
「やべえぞこいつ……見てるだけで悪寒が止まらねぇ」
「ぺ、ペロ……」
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対象データ
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「ペロロさん以上に全く読めませんね……さて、友好的な存在なら何も言うことはないのですが……」
アマリのつぶやきに反応したのか、なにかがメイドさんに向かって落ちてくる。
「ひっ」
「そうもいきませんか……っ! 美少女パンチ! む、すりぬけ……」
メイドさんとなにかの間に割って入るように飛び上がり、振りぬいたアマリの拳は一切の手ごたえなくなにかの位置を素通りし、そのまま空を切った。
なにかは当然のようにそのままの落下速度を維持し、メイドさんの方へ降っていく。
いつの間にかメイドさんをひと呑みにできそうな、ワニを思わせる大口を開けるなにかが迫る。
「メイドさん! 逃げ――」
「ペロ!」
珍しく焦った様子のアマリが声を上げた瞬間、ペロロぬいぐるみの声とともになにかの動きが急停止した。
「これは……窓を閉じるのに使った念動力、ですか? ペロロさん」
「ペロぉ!」
誇らしげに上体をそらすペロロぬいぐるみを見てほっと息をつく。
そして和解前にやったように”念動力を受けた対象”としてなにかを観察することで、なぜ拳がすり抜けたのか理解できた。
――
対象データ
髪伸び人形の破片
全長5cm
阿慈谷ヒフミ(偽)の念動力を受けて空中に浮遊している
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「オーパーツを核にした幻影の類……なるほど。核の位置さえ分かれば対処できますね」
そういいながらアマリはなにか改め、幻影の中に手を突っ込むと中にあったオーパーツの破片を握りつぶした。
次の瞬間、幻影は霧が晴れるように掻き消えた。床を見れば裸足の足跡も最初からなかったように消え去っている。
「見るものにプレッシャーと本能的な恐怖だけを与える存在ですか、性格の悪い。誰がこんな真似を」
「た、助かりましたっ! ありがとうございます、ペロロさん」
「ふふ、お手柄ですよペロロさん」
「ペロ~」
照れたように翼で器用に頭の後ろを掻く動きをして見せるペロロぬいぐるみをひとしきりメイドさんと共同で構い倒したあと、アマリはふと気づいたように周囲を見回す。
「おや、そういえば先ほどからスケバンさんが静かで……おっと」
「白目をむいて……気絶なさってますね」
視線の先にはマスク越しでもわかる量の泡を吹いた、かつてスケバンだったなにかが直立不動のような姿勢であおむけに倒れていた。
「ペロロさんの時、妙に帰りたがっていたのは危険そうだからだけではなく、純粋に怖かった、と……どうして曰く付きのビルの清掃に応募をしてしまったので?」
「そういえば、アマリさんに引き止められたとき、怖いという部分は否定なさっていなかったような……」
「ペロ……」
そこからスケバンがペロロぬいぐるみに介抱されながら目を覚ますのには、4階の掃除が完了するまでかかった。