超天災脳筋美少女(偽) 作:TSCのミメシス
「喰らえやオラアアアアアアアア!」
「行きますっ! やああああああああ!」
掛け声とともにスケバンのアサルトライフルとメイドさんのサブマシンガンがなにかに向けて火を吹くが、命中した弾丸はその表皮にあっさりと弾かれてしまう。
1階で現れた個体のように盾を出して一点の防御力を高める、といったアクションすら起こさず、全くの棒立ちだった。
「き、効いてません!?」
「そのようですね……おっと、下がってくださいメイドさん……っ!?」
なにかがメイドさんに向けて振り下ろした巨大な拳を迎撃したアマリは、少し驚いたように目を見開く。
若干ではあるが、衝撃で腕が痺れていたのだ。今までにないことだった。
加えてなにかの拳の方には傷一つついていない。
「フハハハハハ! 無駄だ! これまでとはオーパーツの量が違う! 素材の価値も桁外れだ!」
「急に喋りだしたぞコイツ……」
「はぁ……思ったより強いからと緊張して損しましたね。怪物は言葉を喋ってはならないという規則をご存じないので? ただでさえ正体は割れているというのに。あと不死身でもないでしょう? 怪物として全問不正解です」
「な、なんだか勝てそうな気がしてきました!」
「ペロ」
「貴様ら……! 圧倒的に不利な状況なんだぞ……!?」
なにかが言うように最大火力であるアマリの拳が素の装甲で弾かれている以上、致命的なダメージを与える方法は存在しない。
対してなにかの攻撃は、命中すればいかにキヴォトスの生徒といえども決して無視はできない痛手を負わせることが可能なほどに重い。
戦力の差は歴然であった。
しかしアマリは緊張の緩んだ態度を崩さない。
「私たちが不利というのは、あなたのその状態が永遠に続く場合です……得意げにべらべらと語ってくれるものだから
――
対象データ
隠し財産の台帳
ビルの前オーナーが地下1階に揃えた品々について記録したノート。
複数のオーパーツと持ち主の“価値あるものへの執念“の影響を受けて特異現象と化した。
価値あるものの集合体を外装として纏っている。価値が高いほどその力は増す。
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「な、何を……」
「価値に応じた強さ。ではその価値が揺らげば? 例えば、美術品。メイドさん、先程おっしゃっていましたね。本物なら慈愛の怪盗が黙っていない、と」
「? はい」
「では……この会話を盗聴しているヴェリタスの皆さん♡ 慈愛の怪盗とやらが盗み出した美術品をリストアップして送っていただけますか?*1」
アマリが何を言いたいのかを理解したなにかはたじろぐように1歩下がった。
「馬鹿な! 前オーナーが偽物を掴まされたとでも……」
「おや、もう送られてきました*2……ああ、やはり。先ほど見たものといくつか被っていますね」
アマリが見せてきたスマホの画面に映る画像の数々の中には、なにかがその身に取り込んだ絵画が確かに含まれていた。
「おうおう……こりゃあ、実際どっちが本物なのか、てのは問題じゃねえな。徹底的に疑われまくるしよぉ~、あの慈愛の怪盗の目を信じてる奴からは”こいつ偽物の絵を誇らしげに飾ってやがる”って笑われるかもなぁ~っ!! ハーッハッハッハ!」
「ぬ、ぬうううっ!」
スケバンが納得したようにポンと手を叩いて煽るようにわざとらしく、腹の立つ言い方で声を上げた直後、ゴトン、という音をたてて数点の額縁がなにかの体から床に落ちた。
ヴェリタスから送られてきたリストに載っていた絵だった。
なにか自身が、その価値を疑ってしまっために留めておく力が弱まった事の証明だ。
「隙を見せましたね……では、ペロロさん」
「ペロッ!」
「い、いかん! やめろ……!」
念動力がなにかを襲う。
正確には、なにかが取り込んだ酒の瓶を。
連続使用によるエネルギー消費で弱ってきているとはいえ、小さい対象に絞ればまだまだ健在な念動力によって栓を抜かれた酒がぶちまけられた。
中身とともに価値を失った空瓶や、ワインが沁み込んで”ダメ”になった品々が落下していくにつれて、なにかの体格もその分しぼんでいく。
「貴様、貴様、貴様ぁ!」
「させませんよ」
怒りに身を任せてペロロぬいぐるみへ殴り掛かるなにかの前にアマリが立ちはだかり、突き出された拳に自分の拳を打ち合わせる。
戦いはじめと違い、何かの表皮は弾けるように飛び散り、中にあった完全なネブラディスクが砕け散った。
「う、おおおおおっ!?」
「ふふっ……ところでメイドさん、爆弾はお持ちですか? リモコンで起爆できるとなおよいのですが」
「は、はい! こちらに! お使いください!」
「本当にスカートに隠しているとは……ああ、いえ。ありがとうございます」
アマリは先刻1階に現れた別のなにかから引っ張り出したヴォルフスエック鋼鉄の箱の残骸を取り出すと力ずくで捩じり、先端のとがった棒状に加工し、素早く爆弾を括り付け、大きく振りかぶる。
投擲するつもりなのは明白であり、なにかが焦りを見せる。
「見覚えがおありですね? そう。高純度のヴォルフスエック鋼鉄です」
「い、言うな! 何も聞いていないぞ! 聞こえない!」
言葉とは裏腹に、それが価値ある素材だと認識してしまったなにかに向けて引力が生まれる。
「おっと、やはりまだまだ強い引力が発生しますね。では、利用させてもらいます」
「
「ふッ!」
引力とアマリの腕力とで銃弾もかくやというスピードで、逃げようとするなにかを追尾し衝突したヴォルフスエック鋼鉄の槍は深々と食い込み、括り付けられた爆弾をなにかの体内に送り届けた。
「メイドさん」
「お掃除します……お覚悟を!」
「やめろおおおおおおおおおおおお!」
ワニのような大口を出現させてメイドさんを攻撃しようとするなにかだったが、既に爆破リモコンを手に持った状態からそんなことをして間に合うはずもなし。
メイドさんがボタンを押した直後、なにかは全身を飛び散らせ、欠損した彫刻や焦げた絵画、拉げた金塊などが床に散らばった。
「ったく、バイト開始から、さんっざん苦労させてくれたなぁ、紙っペラの分際でよぉ」
「ペロぉ……」
「流石に恨んでいますよ、だそうです」
「許せません。それにテナントの方々にもご迷惑を……!」
残骸の中心に浮かぶ、ボロボロのノートに向けてアマリ達が歩を進めると、それは逃げるように換気口へ向かって飛んでいく。
「あっ! この期に及んで逃げる気かコイツ!」
「オーパーツもあらかた砕けてろくな力も残っていないので、ペロロさんはもう自由かと思いますが……」
しかしそうでなかった場合は捕まえるなり、破壊するなりしなければならない。ここで逃がすのは避けたかった。
「ああそういえば、あれがありましたね。ノートさん、ちょうど1階のそのあたりに高級ブランドのソファがあったのを覚えてらっしゃいますか?」
言葉が届いた直後、ビターン! という音と共にノートは天井に張り付いて動きを止めてしまった。
おそらくアマリの狙い通り1階のソファを反射的、あるいは本能的に引き寄せてしまい、しかし床を隔てているせいで自分の方が引き寄せられる結果となったのだろう、と適当に分析しつつ、無理やり天井からノートを引きはがして確保した。
「まあ、あのソファもすっかり毛羽立っていて、もはや捨てるしかないとは思いますが♡」
途端に引力は失われ、ノートから”引っかけたな!”という怒りの念のようなものが伝わってくる。どうやら言葉を発する力も失われたらしい。
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対象データ
隠し財産の台帳
ビルの前オーナーが地下1階に揃えた品々について記録したノート。
複数のオーパーツと持ち主の“価値あるものへの執念“の影響を受けて特異現象と化した。
価値あるものの集合体を外装として纏う能力を持つ。価値が高いほどその力は増す。
今は力のほとんどを失っている。
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ノートを核、ビルを器とした特異現象としてこの場に意思が囚われている状態。ノートを破壊することで他の品共々解放することができる
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「おっと、逃がしていたら残業でした。しかし……ペロロさんと一緒にあなたも解放される、と。もう厄介な特異現象になどならないで気ままに漂っていていただけると助かりますが……まあ、そこは祈っておいて、やるしかありませんね。えいっ」
アマリがノートを真っ二つに引き裂くと断末魔の声にも聞こえる甲高い音が響き渡り、なにかが部屋の外へ放散されるように出て行った。
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対象データ
隠し財産の台帳
破れたノートの残骸。今は何の力も宿っていない
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「さあ、ペロロさん。これで外に出られるはずです」
「ペロおおお!!!」
「やりましたね!」
「よっしゃぁ!」
振り返って微笑むアマリに、喜色満面の3者が抱き合いながら飛び跳ねて応えた。