ダンジョンメーカー   作:ソロモンは燃えている

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第十五話 ネガティブキャンペーン

 

 

 世界各地に設置された50のダンジョンは、それぞれ魔石の元となったモンスターの特性だけでなく、設置した地域の環境にも影響を受けているようで多種多様なダンジョンが形成された。

 

 ゴブリンの洞窟、コボルトの迷宮、魔獣の草原、廃鉱山――

 人類がまだ見ぬ未知の領域とその中に潜むモンスターたちは、瞬く間に各国の注目を集めた。

 

 

 

 アメリカに設置されたダンジョンは、その広大な国土に影響されたのかフィールド型のダンジョン「魔獣の草原」だった。

 そこには獰猛な狼型モンスターや巨大な猛禽類モンスターが現れ、探索に入った特殊部隊を何度も窮地に追い込んだ。

 

「クソッ、これじゃキリがねぇな。おい、もっと銃と弾薬を持ってこい!ありったけだ!」

 

 際限なく現れるモンスターに当初持ち込んだ弾薬は早々に枯渇した。そこでアメリカ軍がした選択は、更なる火力の投入によるゴリ押しだった。

 

 当然、弾代も嵩むが、モンスターを倒すと得られる魔石や珍しい素材を前に危険を冒してでも探索を続ける動きが鈍ることはなかった。

 

 

 ヨーロッパの国々もアメリカと同じような戦術を取っていた。

 流石にアメリカほどの物量は投入できないが銃や火砲による遠距離攻撃でモンスターを仕留める。

 フランスのダンジョンはゴブリンなどが中心の「亜人の洞窟」であった。

 単体では弱いが集団で襲い掛かる知恵を持っているため、戦い方は人間のそれに近い。

 それは、人間を想定して練り上げられた戦術が有効だという事。

 EU各国と連携して部隊をダンジョンに派遣し、堅実に攻略を進めていった。

 

 

 中国では、巨大な地下空間を持つ「廃鉱山」が確認された。

 このダンジョンでは岩石や鉱物でできたゴーレムが多く出現した。

 

「弾薬がいくらあっても足りない!」

 

 中国はダンジョン攻略を優先事項として精鋭を投入したが、ゴーレムには銃弾が効果的ではなく、攻略が難航していた。

 

 しかし、ダンジョン攻略が上手くいってないなど国家の面子に関わるため認めるわけにはいかない。

 結局は人海戦術を取り、ハンマーやピッケルなどでゴーレムを打ち壊すことで強引に攻略を進めていく。

 ゴーレムは、耐久性と力に優れている反面、動きは遅い。

 冷静に戦えばそれほど難しい相手ではないのだが、こんな戦術では振り回される腕に当たり大怪我をする者が続出した。

 それでもダンジョン攻略の名声と戦利品を求めてダンジョンへの突撃は続けられた。

 

 

 ダンジョンを攻略する上での最適解を模索するという意味で最も成果を上げたのは、やはり自衛隊であった。

 とは言え、内情を知れば褒められた理由ではないが。

 

 自衛隊は憲法の縛りから弾薬の備蓄も最低限しか行っていない。敵が攻めてくれば、アメリカ軍が出てくるまで耐え凌ぐというのが日本のドクトリンだからだ。

 

 永続ダンジョンは、マナを消費してモンスターを生み出し続けるため、モンスターが枯渇することはない。

 途切れることのないモンスターを相手に自衛隊の弾薬はすぐに底をついた。

 国防のために必要な備蓄を切り崩すわけにはいかないため、弾薬の消費を最低限にする必要があった。

 また、自衛隊は銃剣道という小銃の先に銃剣を取り付けて戦う、槍術に近い武道を習得させていたこともあり、近接戦闘を主軸に変更し、射撃は補助的なものに位置付けた。

 フレンドリーファイアを病的なまでに忌避する風潮から連携が取れる少人数での行動を基本とする。

 

 自衛隊独自のドクトリンでダンジョン探索を進めるようになって、格段に能力向上を実感する隊員が増加した。

 この事実はすぐに上に報告され、さらに詳しく検証していくことになる。

 

 

 

 世界各地でダンジョンの存在が次第に認識される中、政府は新たな対応策を講じ始めた。

 自衛隊からの報告を受け、日本政府はダンジョンが生み出す魔石やモンスター素材の価値を把握すると同時に、これらの資源が国民に力を与える可能性に強い懸念を抱いていた。

 

 

 首相官邸の会議室では、緊急の閣僚会議が開かれていた。

 

「ダンジョンを探索している自衛隊の部隊から、モンスター討伐を重ねた者たちの身体能力が向上しているという報告が上がっています」

 

「それは事実なのか?激しい戦闘によって鍛えられたとか気分の高揚で普段以上の力が出せたという可能性は…」

 

「いえ、明らかに誤差とは言えないほどの伸びを記録していますし、一時的なものでもありません」

 

「厄介な。何故、我々の時代にこんなことが起きるのだ」

 

「嘆いても仕方ない。起きている現実は変わらんのだ」

 

「財界からも魔石や素材の増産の要請が来ている。献金をもらっている以上、無碍にはできん」

 

「自衛隊に部隊を増員させよう」

 

「一部ではダンジョンを民間に解放することを望む声もありますが…」

 

「報告を聞いていなかったのか?ダンジョンを自由に利用させるなどあり得ん。一般人に力を持たせると碌なことにならん」

 

「少なくとも我々の意向に逆らわない者達に限定するべきだろう。作り上げてきた権力基盤を失うようなことは避けなければ」

 

 総理の言葉に会議室は重苦しい空気に包まれた。

 

 

 

 政府は迅速にメディアを動かし、国民がダンジョンに接触することを防ぐためのネガティブキャンペーンを展開した。

 

 ニュース番組でダンジョン関連の報道がされる。

 

「先日、東京都渋谷区で発見された“ダンジョン”と呼ばれる異空間についてですが――」

 

 キャスターが深刻そうな顔で続ける。

 

「現場では自衛隊がモンスターの討伐を行っていますが、一般人が不用意に近づいた場合、命の危険があると防衛省が警告しています。専門家は“民間人がダンジョンに入ることは非常に危険であり、許されるべきではない”と語っています」

 

 さらに、ダンジョンのモンスターによる被害者の写真や遺族の声が大々的に取り上げられた。

 

「息子を返してください……!」

 

 泣き崩れる母親の映像に、多くの視聴者が恐怖と悲しみを覚える。

 

 

 政府は裏で影響力のあるインフルエンサーを動員し、SNSでも以下のような投稿を拡散させた。

 

「ダンジョンは危険すぎる!素人が近づくべきじゃない!」

 

「ダンジョンに入った奴、死んだらしいぜ」

 

「ダンジョンって国が管理するべきじゃない?民間人の手には負えないよ」

 

 一方で、掲示板やSNSの一部では「ダンジョンで得られる魔石の価値」や「身体能力が向上する噂」が話題となり、潜入を試みる者も少なからず現れ始めた。

 

 

 

 政府はさらに、自衛隊と警察の協力体制を敷き、一般人がダンジョンに立ち入ることを厳しく制限する措置を導入した。

 

 ダンジョン周辺は鉄柵やコンクリートバリケードで完全封鎖。

 

 立ち入り禁止区域に侵入した場合、厳しい罰則が科せられる。

 

 さらにドローンによる上空監視や監視カメラの設置し、ダンジョンに接近しようとする者は即座に取り押さえられるようになった。

 

「これで一般人が力を得る機会は大幅に減るだろう」

 

 首相は満足げにそう語ったが、実際には裏で動き始めた者もいた――。

 

 

 

 一連の報道やダンジョン内の動きを観察していた真人は、眉をひそめた。

 

「予想はしてたけど、政府はここまで徹底してくるのか……」

 

「お兄ちゃん、このままだとダンジョンの運用が広がらないんじゃない?」

 

 玲奈が不安げに問いかける。

 

「分かってる。でも時間の問題だよ。マナの増加を抑えるには、まだまだダンジョンの数を増やして、規模も拡張しなきゃいけない。いずれ自衛隊や警察だけじゃ追いつかなくなる」

 

 玲奈は頷きつつも言葉を続けた。

 

「でも……そうするためには、私たちも動かないといけないよね?」

 

 真人はしばし考え込んだ後、決意を固めたように口を開く。

 

「注目が集まっている中でのダンジョン増設はリスクが高い…何か手を考えないとな」

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