渋谷ダンジョンの探索が進む中、探索隊を率いる村瀬1尉は、自衛隊内で注目を集める存在になりつつあった。彼の冷静な指揮と鋭い観察力は、ダンジョン攻略の鍵となっていた。
村瀬は、これまでのダンジョン探索データを基に、一つの結論に至っていた。
それは、少人数構成の方が成長効率が高いという事実だ。
政府の指示により増員された部隊の指揮官として赴任してきた工藤2佐にその事実を報告した。
「現在、ダンジョンを探索している隊員の中で顕著な能力向上が確認されているのは全体の約10%に留まっていますが、能力の向上幅は少人数編成の部隊で高い傾向が見られました。また、戦闘後の疲労回復にも個々のマナ吸収量が効率に影響している可能性が高いと思われます」
具体的には、以下のようなデータが示されていた。
・部隊人数が多い場合、討伐時のマナ吸収が分散され、効果が薄まる。
・最少構成だとマナ吸収率は上昇するが、戦力不足で撤退を余儀なくされるリスクが高い。
・戦力とマナ吸収効率のバランスから、6人編成が最も適正とされる。
「この調子なら近日中に調査は完了し、ダンジョン全体を管理下に置くことができるだろう。素晴らしい成果だ、村瀬1尉」
「いえ、ダンジョンに投入された隊員達の献身によるものです」
「もちろん現場の隊員達も評価している。しかし、報告書ではマナと記載されているが以前は経験値と呼ばれていたものか?」
「はい、当初はゲーム好きの隊員が経験値だ、レベルアップだと言い出したことで使われていましたが、能力向上は段階的ではなく吸収量に比例すると判明したあたりからマナや魔素といった言葉が使われ出しました。今ではマナが主流になりつつあります」
「そうか、では、このまま政府に報告を上げることにしよう。村瀬1尉は、引き続きダンジョン探索を進め、一刻も早く完全な制御下に置くように」
「了解」
村瀬1尉が退出した後、沈黙していた副官が声を発する。
「村瀬1尉は大丈夫でしょうか?かなり無理をしているのではと心配する声が現場から上がってきてますよ」
「第一陣としてダンジョンに侵入した際に部下を失っているからな。それだけダンジョン探索に期する思いがあるのだろう」
「少し休ませるわけにはいかないのですか?」
「難しいな。政府からはダンジョンを早期に管理下に置き、魔石や素材の収集を加速させろと矢の催促だ。現状、最初期から現場で指揮を取っていた彼を外す余裕はない」
「最近はマシになりましたが現場で戦っている隊員達は命懸けですよ!」
「政府のお偉いさん達は書面上の数字しか見ていないからな。だが、我々は自衛官だ。文民たる彼らからの命令には従わなければならない」
「…キツい仕事になりそうですね」
「なら、止めるかね?」
「いえ、任官した時から覚悟はしています」
自衛隊によるダンジョン探索は続けられ、更なる飛躍の時が訪れることになった。
渋谷ダンジョンの深部。モンスターを討伐しながら前進する探索チームは、ジャイアントスパイダー級の大型モンスターに遭遇していた。
その巨大な身体と鋭い脚に、チームの一部はすでに負傷し、隊員たちは撤退を考え始めていた。
しかし、そこでチームの指揮官である田村2尉が異変を見せた。
「背中を見せるのも危険だ……ここで倒す!」
持っていたマチェットを握りしめると、モンスターの攻撃を掻い潜りながら接近。攻撃のために武器を振り上げた時、脳裏にイメージが浮かぶ。本能的にそのイメージに従って体を動かす。すると、これまで硬い甲殻で弾かれていた攻撃がモンスターの脚を切り裂くことに成功した。
周囲の隊員が驚く中、田村は動きを止めることなく攻撃を回避しながら一瞬の隙を突いて頭部を貫いたことでモンスターを仕留めた。
「隊長!今の……どうやったんですか?」
「わからない……ただ、体が勝手に動いたんだ」
あの瞬間、田村の脳裏に文字が浮かび上がっていた。
「スキル『剣術』発現」
田村2尉のケースを皮切りに、探索を続ける他の隊員たちからも次々とスキル発現が報告され始めた。
その多くは剣術や槍術といった「武器に依存した能力」であり、動きの正確さや威力が向上するものだった。
覚醒したスキルの例
剣術:近接戦闘で剣を扱う際の精度と威力が向上。
槍術:長物を使った攻撃で射程と命中精度が大幅に上昇。
射撃術:遠距離からの攻撃精度が向上。
隊員たちに共通していたのは、一定のマナ蓄積が条件となっていることだった。ダンジョン内のモンスターを討伐することで体内に溜まったマナが体の中で変質することでスキルが発現するようだった。
自衛隊からの報告を受け取った政府は、対応を協議していた。
しかし、政府内でも意見が割れている。
肯定派がダンジョンを制圧すれば、モンスターの脅威を減らし、魔石を安定供給できると主張すれば、慎重派はスキル保持者が増えることで、国家による統制が困難になるのではと懸念を示す。
それでも、渋谷ダンジョンの制覇が現実味を帯びてきた以上、政府は攻略を進めざるを得なかった。
渋谷ダンジョンの最奥部にたどり着いた自衛隊の精鋭チーム。そこにはダンジョンのボスとして君臨する巨大な蜘蛛型モンスター「クイーンスパイダー」が待ち構えていた。
村瀬1尉が率いる6人のチームは、全員がスキル保持者で固めている。
陣形を組み、慎重にクイーンスパイダーと対峙する。
ボスは真人が倒した簡易ダンジョンのジャイアントスパイダーと比べて圧倒的な体躯と凄まじい殺意を放っており、四方に張り巡らされた糸の罠が探索隊の行動を制限していた。
「やれるか?」
村瀬が小声で隊員たちに確認すると、皆が緊張した表情でうなずいた。
隊員たちはそれぞれ覚醒したスキルを駆使して戦闘を展開する。
剣術スキルで足を狙う者、槍術スキル保持者が長いリーチを活かし、胴体に突きを入れる者。
射撃担当の隊員が援護射撃でモンスターの注意を引く。
クイーンスパイダーはその巨体を活かして天井を駆け回り、鋭い脚で攻撃を仕掛けてくる。糸の罠を絡めて部隊を分断しようとするが、隊員たちは見事な連携で攻撃を回避し、反撃を加えていった。
「今だ!一斉射撃!」
村瀬の号令で、隊員たちは集中砲火を浴びせ、ついにクイーンスパイダーを地面に叩き落とす。
ダメージで動きの鈍ったボスへの最後の一撃は村瀬1尉自身の手で放たれた。
ボスモンスター撃破――
クイーンスパイダーが倒れると、その死体が静かに消えていく。
後には魔石と素材がが散らばっていた。
「……終わったのか?」
村瀬の呟きに、隊員たちの間から安堵の声が漏れる。
ダンジョン攻略の報告を受けた本部では大きな歓声が上がった。
村瀬のチームは散らばった魔石や素材を回収し、クイーンスパイダーの魔石を慎重に持ち帰る。ボスモンスターが落とした魔石は大きさも純度もこれまで確認された物を遥かに凌ぎ、その価値は計り知れないことから、政府は特別な保護と研究体制を敷くことを決定した。