ダンジョンメーカー   作:ソロモンは燃えている

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第十八話 スタンピード

 

 

 世界のあちこちでダンジョンが発見され、各国が対応に追われる中、メキシコで事件が発生した。

 ある都市のダンジョンを地元のマフィアが占拠し、外部からのアクセスを完全に遮断したのだ。

 

 

 そのマフィアは、ダンジョンで得られる魔石やモンスター素材が高価で取引されることに目をつけ、武装した部隊を送り込んでダンジョンを支配下に置いた。

 

 この国のマフィアは、政府や軍以上の力を持ち、彼らに逆らう政府や軍の高官は、次の日には死体で見つかると言われている。

 そんな事が可能なほど中枢近くまでマフィアの手が食い込んでいるということだ。

 

 そんな力を持つ彼らが新たな金脈として目をつけたダンジョンを手放すはずもなく、政府や軍の干渉を排除し、完全に独占状態を作り上げていた。

 

 その上、ダンジョン内でモンスターを狩ることでマフィアの構成員の能力が向上し、ますます手が付けられなくなっていった。

 

 政府や軍はダンジョンを取り戻すこともできず、指を咥えて見ていることしかできなかった。それが後に大きな悲劇をもたらすことになる。

 

 

 永続ダンジョンは、マナを消費して継続的にモンスターを生み出す。

 ダンジョンを占拠したマフィアは、魔石や素材のためにモンスターを狩ってはいたが、ダンジョンに入る人数は少なく、十分ではなかった。

 時間の経過と共にダンジョン内のモンスターは、その数を増やしていく。

 その数が一定を超えた時、ダンジョンは牙を剥いた。

 

 

 ダンジョン内で討伐されないまま増え続けたモンスターたちは、溢れるように地上に出現し、スタンピード(暴走)を引き起こした。

 

 突然、ダンジョンの入口付近から湧き出たモンスターの群れは陣取っていたマフィア達を壊滅させ、そのまま街を飲み込み、一般市民や警察、そして軍隊までも蹂躙していく。

 

 

「ダンジョンからモンスターが発生しました!街を破壊しています!」

 

 緊急の報告を受けたメキシコ政府は、急遽軍を動員し、モンスターの群れの鎮圧を試みたが、予想をはるかに超える苦戦を強いられることになる。

 膨大な数と凶暴さを持つモンスターは脅威だったが、人口の多い市街地が戦場になってしまったことも戦闘を難しいものにしていた。

 

 戦車や火砲を駆使して応戦するも、被害は拡大の一途をたどる。市街地は瓦礫の山となり、生存者の避難もままならない状態が続いた。

 

 メキシコ軍が都市を封鎖し、数日かけた掃討戦を展開したことによってスタンピードは辛うじて収束する。

 

 だが、数千の死傷者と街全体の壊滅という代償はあまりにも大きかった。

 ニュースは連日、モンスターによる暴走の恐怖を報じ、スタンピードという新たな脅威が世界中に知られることとなった。

 

 

 

「スタンピードか……」

 

 メキシコで起きた事件を報道するニュースを見ながら、真人と玲奈は、その光景に眉をひそめる。

 

「間引きがされなかったことで、こうなったんだろうな」

 

「ダンジョンは適切に管理しなければ、却って危険性だなんて…」

 

「俺達も勘違いしていたのかもな」

 

 真人が苦い表情で言う。

 

「勘違いって?」

 

「マナの本来の目的は生物種の入れ替え。俺達を駆逐することだ。その性質は、ダンジョンに形を変えても失われるものじゃなかった」

 

「そんな…」

 

「今回の件でダンジョンは隙を見せれば牙を剥くことが分かった。俺達が、いや、人類が生き残るためにはそういう綱渡りをしていかなきゃいけないってことだ」

 

 スタンピードの脅威を目の当たりにし、真人は改めてダンジョンの管理の重要性を実感する。

 

 

 

 メキシコのスタンピード事件は、世界に衝撃を与えた。

 一国の都市が壊滅的な被害を出したことで、ダンジョンを適切に管理しなければいけないという認識が急速に広がっていく。

 

 各国のメディアは、モンスターが都市を飲み込む映像や、軍隊が殲滅戦を繰り広げる様子を連日報道。特に、「ダンジョン管理の失敗が招いた人災」という専門家の指摘が注目を集めた。

 

 

 これまで各国政府は、ダンジョンを軍や警察などの管理下に置き、民間への立ち入りを厳しく制限していた。

 しかし、メキシコの件を受けて、次のような声が各地で高まり始める。

 

「軍や警察だけでは限界がある」

 

「一般人にもスキルを習得させて、モンスターの脅威に備えるべきだ」

 

 

 そして、多くの専門家が次の結論を導き出した。

 

「ダンジョンを一般開放し、民間人の力を借りることで、スタンピードの危険性を軽減させる必要がある」

 

 

 

 日本でも、政府はダンジョンの管理を自衛隊と警察に限定しようと試みていた。

 しかし、メキシコの件が報道されると、世論の風向きが変わり始める。

 

「自衛隊が動いてくれるのはありがたいけど、それだけで大丈夫なのか?」

 

「メキシコみたいなことが起きたらどうするんだ!」

 

「俺達にもスキルを習得して戦えるようにさせろ!」

 

 SNSやテレビでこうした意見が急増する中、再び政府の会議が開かれた。

 

 

「……ダンジョンの一般開放だと?」

 

「冗談ではありません。一般人が力を持てば、国家の統制が効かなくなる。それに、スキルを発現させた人間が野放しになれば、治安の維持にも支障が出ます」

 

「しかし、世界的な流れを無視するわけにはいかない」

 

「ダンジョンへの入場を制限してスタンピードを発生させれば、国際的な批判を浴びてしまう。ダンジョンは人口の多い大都市にあるから経済的な損失も大きい」

 

「今後もダンジョンが増えるのであれば遅かれ早かれ自衛隊だけでは手が回らなくなる」

 

「だとしても、どの程度まで民間に解放するかは慎重に考えるべきです」

 

「まずは登録制にして、国家がスキル保持者を管理する方法を検討すべきかと」

 

 

 こうして、政府はダンジョンの一般開放に向けた制度設計を始めた。

 

 ダンジョン探索者の登録制度:個人がダンジョンに入るには政府の許可を得る必要がある。

 

 スキル登録:スキルを発現した場合、必ず申告しなければならない。

 

 モンスター素材・魔石の買取り制度:政府が認可した業者のみが売買を管理する。

 

 これらの制度は、表向きには国民の安全と秩序を守るためとされていたが、その裏には国民が力を持ちすぎることを防ぐ意図があった。

 

 

 

「やっぱり、一般開放に向かってるな」

 

 政府の発表を見ていた真人は、淡々とつぶやいた。

 

「まあ、そうだよね。メキシコみたいなことが起きたら、国が成り立たなくなるもの」

 

 真人は渋谷ダンジョンでの戦闘を思い返した。

 

「でも……一般人がダンジョンに入れば、次々とスキル覚醒者が出てくるはずだ。そうなれば計画を次の段階に進めることができる」

 

「スキルを持つ人間が増えれば、戦力になる反面、いろんな問題も出てくると思う」

 

「そこは政府に頑張ってもらおう。俺たちみたいな一般人には、そこまで手に負えない」

 

 

 

 掲示板の反応

 

「日本も一般人にダンジョンを解放するらしい!噂だとスキルとかも手に入るらしい」

 

「まるでゲームだよな。実際に自衛隊にスキルを覚えた人がいるみたいだから本当なんだろうけど」

 

「登録制度があるみたいだけど、誰でも行けるのかな?」

 

「でも、ダンジョンに潜るってことはモンスターと戦うってことだろ?怖くね?」

 

「あんだけダンジョンは危険だって報道してたのに、今度はダンジョンに入れば稼げるって話題が多くなったな。手のひら返しすぎで胡散臭いわ」

 

 賛否両論の中、ダンジョンが一般市民に開放される日は近づいていた。

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