ダンジョンにスタンピードの危険性があると判明してから、日本政府はダンジョン関係の法整備を行い、ダンジョン探索者協会を設立した。
ダンジョンに入るためには探索者協会に登録して免許を取得しなければならない。
各国も同じような組織を設立、世界的に『ギルド』の呼称が使用された。
そのため、日本でも探索者免許は『ギルドカード』と呼ばれている。
ダンジョン増加に伴い、民間への開放が世界的な流れとなり、民間から優れた探索者が台頭してくるようになっていった。
初めてダンジョンが出現してから3年――
その存在は経済に組み込まれ、人々の生活を劇的に変えていた。
当初、混乱をもたらしたモンスターハザードやスタンピードの恐怖は、各国の対応と技術の進歩によって次第に管理されるようになった。今やダンジョンは危険とされる一方で、新たな「資源供給地」としての役割を担うまでになっていた。
渋谷――かつてはモンスターが溢れ出し、多くの命を奪った場所。
しかし、あれから数年の時を経て、この街は再び活気を取り戻していた。
渋谷スクランブル交差点近くに位置するダンジョンは、今や日本を代表する探索拠点となっている。
ダンジョン周辺は「ダンジョンタウン」と呼ばれる新興エリアとなり、商業施設や宿泊施設が軒を連ね、ギルドの渋谷支部は、全国でも最大級の規模を誇り、日々多くの探索者が集まる。
街頭ビジョンには、今日も冒険者たちの成功を称える映像が流れている。
「渋谷ダンジョン第20層攻略成功!」
「新たなスキルが確認された!」
街を歩けば、武具を背負った若者や、装備を購入する観光客の姿が目に入る。渋谷は単なる観光地ではなく、「冒険の街」として生まれ変わったのだ。
モンスターによる被害を受けた当初、渋谷は壊滅的な状態に陥っていた。
燃えたビル、崩壊した施設、多くの避難民……経済的損失は日本全体に及び、「渋谷はもう終わりだ」と言われた時期もあった。
だが、ダンジョンの存在が皮肉にも復興の大きな推進力となった。
渋谷ダンジョンから得られる魔石や素材の恩恵は日本の経済を支え、政府も多額の資金を投入して再建を進めた。
街の再開発により、ダンジョンを中心とした新たな都市構造が整備され、世界中から探索者や観光客が訪れるようになっていった。
今では、「かつての渋谷」のイメージを残しながらも、新しい文化を融合させた活気ある街として蘇っている。
渋谷ダンジョンの名声が広がるにつれ、全国から有望な探索者が集まるようになった。
ダンジョン周辺には、探索者専用の装備店や訓練施設が立ち並び、探索者たちが賑わいを見せる。
食事処では、討伐されたモンスターの肉を使った料理が人気を博している。
「昨日、ゴブリンロードを討伐したのって、渋谷ストライカーズだってよ!」
「え、本当?20層突破したって聞いてたけど……」
街中で飛び交う情報が、さらに渋谷の熱気を高めていた。
ダンジョンタウンの様子を眺めながら、真人は一つ溜息をついた。
「……すごいもんだな」
玲奈が隣で微笑む。
「人間って本当にすごいよね。あれだけの惨劇を乗り越えて、こんなにも復興させるなんて…」
真人は頷きつつも、心の奥底では複雑な感情を抱いていた。
(これが正しかったのかどうかはわからない。でも、少なくとも人々は生きる道を選んでいる……)
玲奈がふと、真剣な表情で彼を見つめる。
「でもね、兄さん。これで終わりじゃないんだよね?」
「……ああ」
真人はその視線を受け止めた。
「ダンジョンの数はもうすぐ一万に達する。初期のダンジョンの中級への拡張も順調だ。だけど、ここからが難しい綱渡りになる」
「上級ダンジョンへの拡張だね」
「そうだ。そろそろ上級ダンジョンへの拡張を始めなければいけない時期だけど、上級になれば難易度が跳ね上がる。モンスターの討伐が滞って管理できなくなれば、またスタンピードが起きてしまう」
上級ダンジョンがスタンピードを起こしてしまえば、その被害は渋谷の比ではない。
冗談抜きで国家の存亡に関わるだろう。
玲奈は静かに首を振る。
「そして…スタンピードが起きる可能性の最も高い国が日本……なんだよね?」
日本は、当初ネガティブキャンペーンを行っていたため、民間へ開放された後もダンジョン探索の機運は盛り上がらなかった。
若い世代には、ファンタジーに夢を見て挑戦する者もそれなりにいたがモンスターとの戦いの過酷さから攻略の最前線を目指すことを止め、浅い階層で適度な非日常を楽しみ、小遣い稼ぎをする者がほとんどだった。
「そうだ。日本の探索者のレベルは正直言って低い。世界に名が知られているようなトップ探索者の中に日本人の名前はない」
「ぶっちぎりで世界最強の探索者は、兄さんだけどね」
真人は中級ダンジョンへの拡張に使う魔石を集めるために簡易ダンジョンで中級のボスクラスのモンスターを乱獲していた。
最近では、上級ダンジョンへの拡張用に上級のボスクラスも狩り始めている。
マナの吸収量では、ぶっちぎりで世界一位である。
そんな真人だが、表向きは近くの大学に通いながら週末に趣味でダンジョンに潜るカジュアル探索者だ。
「俺の力を見せるわけにはいかない。どこから秘密が漏れるか分からないからな」
「うん、私ももうすぐ18歳だから探索者免許取るつもりだけど、兄さんと組む予定だってクラスメイトからのパーティー勧誘を断ってる」
「それで良い。魔石を大量に消費するとはいえ、玲奈の力も規格外だからな」
「でも、どうするの?上級ダンジョンへの拡張はもう少し待つ?」
「いや、これ以上遅れると間に合わないかもしれない」
真人はマナの増加速度から均衡状態に持っていくためには、上級ダンジョンを100個、最上級ダンジョンを5個作成し、管理していく必要があると試算していた。
マナの濃度が臨界に達する前にその状態に持っていかなければならないのだ。
「じゃあ、渋谷のダンジョンだけ拡張を延期すれば…」
「渋谷は最初に出来たダンジョンだ。他のダンジョンが成長している中で渋谷のダンジョンだけが成長しなければ不自然になってしまう」
「日本に何かある。あるいは、魔王が居るんじゃないかって疑われる可能性があるんだね」
日本の立場が悪くなってしまう上に監視の目が厳しくなり動きづらくなるだろう。
真人達は超人的な力を持つがただの大学生と高校生でしかない。
プロの諜報組織が日本に目を付けて本格的に調査すれば見つかってしまうかもしれない。
自分達以外に上級ダンジョンのスタンピードを防ぐことが出来る世界レベルの探索者が必要だった。
「三英傑と同格なんて言わないが、せめて世界の探索者ランキング50位以内に入るような人材が欲しい」
世界には特に活躍している3人の探索者を指して三英傑と呼んでいる。
アメリカの探索者『モンスターハンター』、ロシアの探索者『シベリアの巨熊』、イギリスの探索者『騎士王の再来』の3人である。
「三英傑…アーサー君もそう呼ばれているんだったね」
「精霊化した玲奈から剣を渡された事と本人の名前から騎士王の再来って呼ばれているらしいな」
「えへへ…私は、英雄に聖剣を授けた精霊で、泉の乙女って呼ばれているみたい」
「まあ、精霊の姿の時の玲奈は、神聖な雰囲気が出てるからな。けど、あれは俺が中級モンスターの素材を使ってマナクラフトで作ったもので、聖剣って言うほどの物じゃないだけどな」
「兄さんが作った物の性能ってすっごく良いよね」
『鍛冶』や『調合』と言った生産スキルを習得した者が作成した製品は、スキルを使わずに作られた物より遥かに優れていた。
それでも真人が作った物には及ばない。
「たぶん、マナクラフトは特別なスキルなんだ」
「ユニークスキルってやつだね!」
玲奈の言うとおり、マナクラフトのスキルが発見されたと言う発表はない。
本人以外に習得した者が確認できないスキルはユニークスキルと呼ばれている。
世界のトップ探索者の中には公表してないだけでユニークスキルを持っている者もいると言われているが、現在、公式に認められているユニークスキルはただ一つ。
騎士王の再来『アーサー・コーウェル』の聖剣技のみ。
アーサー君か…天才と言われるほど成長が早くて破竹の勢いで攻略階層を更新していったけど、あまりの早さに装備の性能が追いつかずにピンチになる事も多かったな。
マナの消費に貢献してくれる彼を失うのが惜しくて聖霊化した玲奈にクラフトした剣を渡してもらった。
その件に加えて、その後に剣術のスキルが聖剣技にランクアップしたことで騎士王の再来なんて呼ばれるようになった。
おそらく、スキルは本人の資質や認識の影響を受けている。
だから、俺はマナ関係のスキルばかり習得するんだろう。
真人は、最初に習得したマナクラフト以降、分析《アナライズ》、マナ操作、付与魔術《エンチャント》などを習得していた。
俺はあの空間でマナにゲームみたいな性質を与えた。その後もダンジョンを作ったりしているからな。
少しくらい戦闘に役立つスキルも欲しいんだが…まあ、ないもの強請りをしてても仕方がないか。
今は日本の探索者の底上げをどうするか考えよう。
序章が終わり、本格的な大ダンジョン時代の到来です。