ダンジョンメーカー 世界の終わりを防ぐため、俺は今日もダンジョンを創る   作:ソロモンは燃えている

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第2話 妹襲来

 

 

 

 ――俺は、夢じゃなかったことを後悔していた。

 

「……なんで?」

 

「なにが?」

 

「なんでいるんだよ……」

 

 自分の部屋。

 

 見慣れたベッド。

 

 見慣れた机。

 

 見慣れた本棚。

 

 そして。

 

 その部屋の真ん中に、ふわふわと浮かぶ青いぬいぐるみ。

 

「帰ってきたから?」

 

「そうじゃない!」

 

 思わず叫んでしまった。

 

 地球ちゃんがきょとんと首を傾げる。

 

「なんで、地球ちゃんもここにいるんだよ!?」

 

「なんでって言われても……」

 

 地球ちゃんは小さな手を広げた。

 

「なんとなく、もっと一緒にいたいって思ったの…」

 

「……」

 

 真人は頭を抱えた。

 

「元の場所に戻してくれ」と言った時、それは俺だけのつもりだった。

 

 まさか地球ちゃんまで一緒に帰ってくるとは思わないだろ。

 

「地球ちゃん」

 

「なあに?」

 

「お前、自分がどういう存在かわかってる?」

 

「地球!」

 

「そうだよな」

 

 何度聞いても答えは同じ。

 

 このぬいぐるみは地球そのもの。

 

 そして、そんな存在が。

 

 今。

 

 俺の部屋にいる。

 

「……俺の家、壊れたりしないよな?」

 

「なんで?」

 

「いや……地球が来たんだぞ?」

 

「来たのは私の意識だけだよ」

 

「意識?」

 

「うん。地球そのものが来たら、地球がなくなっちゃうでしょ?」

 

「……それもそうか」

 

 妙に納得してしまった。

 

 地球ちゃんはふわふわと空中を漂いながら、部屋を見回している。

 

「へえー。ここが真人の巣なんだね!」

 

「巣って言うな」

 

「人間さんのお家って、思ったより狭いんだね!」

 

「悪かったな!」

 

「でも、落ち着くね!」

 

「そうか?」

 

「うん!」

 

 地球ちゃんは嬉しそうに笑う。

 

 ……まあ。

 

 地球の意思が自分の部屋を気に入ったのなら、悪い気はしない。

 

 悪い気はしないのだが。

 

「問題は……」

 

 真人は地球ちゃんを指差した。

 

「お前の姿、他の人に見られないようにしないとな」

 

 ぷかぷかと浮かんで喋るぬいぐるみなんて見られたら騒ぎになってしまう。

 

「んー」

 

 地球ちゃんは自分の身体を見下ろした。

 

「たぶん、見えないよ?」

 

「たぶん?」

 

「だって私の姿は、マナに対する親和性が高い生き物じゃないと見えないから」

 

「……じゃあ、普通の人には見えないのか?」

 

「うん!」

 

 地球ちゃんは自信満々に頷いた。

 

「今まで私と繋がった生き物も、みんなそうだったし!」

 

「そうか……」

 

 真人はほっと息を吐いた。

 

 よかった。

 

 それなら問題ない。

 

 地球ちゃんが自分の部屋にいることを家族に知られる心配はない。

 

 ぬいぐるみが勝手に浮いているところを見られることもない。

 

 俺だけが見えるなら――。

 

 いや、待て。

 

「……本当に大丈夫だよな?」

 

「大丈夫だよ!」

 

「絶対?」

 

「絶対!」

 

「……ならいいか」

 

 真人がそう呟いた。

 

 そのとき。

 

 ガチャ!

 

「お兄ちゃん、漫画貸してー」

 

「――っ!?」

 

 真人の身体が跳ね上がる。

 

「玲奈!?」

 

 妹の玲奈。

 

 真人より二歳年下の高校一年生。

 

 普段から真人の部屋に勝手に入ってくることはあるが、今日はダメだ。

 

 絶対にダメだ。

 

 なぜなら。

 

 部屋の中に地球ちゃんがいる。

 

「ちょっと待て!」

 

「…………」

 

 玲奈が部屋の入り口に立っている。

 

 いつもの玲奈だ。

 

 肩まで伸びた髪。

 

 ぱっちりとした二重の目。

 

 なのに…なぜか固まって動かない。

 

「……どうした?」

 

 真人は平静を装って尋ねる。

 

「いや……」

 

 玲奈が真人を見る。

 

 それから。

 

 ゆっくりと視線を横へ動かす。

 

 真人もそちらを見る。

 

 そこには。

 

 地球ちゃんがいた。

 

 ふわふわ。

 

 ふわふわ。

 

 真人のベッドの上を浮かんでいる。

 

 そして。

 

 地球ちゃんが左右に動く。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 玲奈の視線は、地球ちゃんの動きに合わせるように左右に動いていた。

 

 真人の背中を、冷たい汗が流れた。

 

 まさか。

 

 いや。

 

 そんなはずは。

 

 だって地球ちゃんは言った。

 

 マナへの親和性が高い生き物でなければ見えないと。

 

 だから普通の人間には――。

 

「お兄ちゃん」

 

「な、なんだ?」

 

「これ…なに?」

 

 真人の思考が停止した。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 地球ちゃんが、ぱちぱちと瞬きをする。

 

 真人も、ぱちぱちと瞬きをする。

 

 玲奈が首を傾げる。

 

「……え?」

 

「……あ」

 

 真人の口から間の抜けた声が漏れた。

 

「見えるの?」

 

「うん」

 

 玲奈はあっさり答えた。

 

「めちゃくちゃ見えるけど」

 

「…………」

 

 真人はゆっくりと地球ちゃんを見る。

 

 地球ちゃんも真人を見る。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……地球ちゃん?」

 

「うん!」

 

 地球ちゃんは元気よく手を上げた。

 

「こんにちは!」

 

「こんにちは」

 

 玲奈も普通に挨拶を返した。

 

「…………」

 

 真人は頭を抱えた。

 

「なんで普通に挨拶してんの!?」

 

「え?」

 

「いや、だって!」

 

 真人は地球ちゃんを指差す。

 

「それ! それが見えるの!?」

 

「うん」

 

「お前には何に見えてる!?」

 

「何って……」

 

 玲奈は少し考える。

 

「青いぬいぐるみ?」

 

「見えてるじゃないか!」

 

「だから、見えてるって」

 

「そうじゃない、地球ちゃん!」

 

「ん、なに?」

 

「普通の人には見えないんじゃなかったのか!?」

 

「うん、よっぽどマナとの親和性が高かったんだ。さすが真人の妹だね!」

 

 

 玲奈が部屋の中へ入ってくる。

 

 そして、地球ちゃんの目の前まで歩いていった。

 

「ねえ」

 

「なあに?」

 

「触ってもいい?」

 

「いいよ!」

 

 地球ちゃんが両手を広げる。

 

「おい、ちょっと待て!」

 

 真人が止めるより早く。

 

 玲奈の指が、地球ちゃんの身体に触れた。

 

 ぽふっ。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ふわふわ」

 

 玲奈の顔が輝いた。

 

「かわいい!」

 

「でしょう!?」

 

 なぜか地球ちゃんまで嬉しそうに胸を張った。

 

「ちょっと待てええええええ!!」

 

 真人の叫び声が部屋中に響き渡る。

 

 しかし、二人は気にした様子もない。

 

「お兄ちゃん、この子どうしたの?」

 

「いや、どう言ったらいいか…」

 

「うんうん、言いにくいよね。

 こんな可愛いぬいぐるみが好きだったなんて」

 

「いや、違うから!

 俺にそんな趣味はない!」

 

「はいはい」

 

「こいつは地球そのものなんだ!」

 

「またまた〜そんなに恥ずかしがることないじゃない。喋るぬいぐるみなんてすごいね。今流行りのAI?どうやって浮いてるの?」

 

「いや、だから――」

 

 真人は言葉を止めた。

 

 玲奈が地球ちゃんを抱きかかえている。

 

 地球ちゃんも、すっかり玲奈に懐いている。

 

「ねえ、真人!」

 

 地球ちゃんが嬉しそうに叫ぶ。

 

「この子、いい子だね!」

 

「……」

 

「玲奈ちゃんっていうんだ!」

 

「……」

 

「ねえ、玲奈ちゃん!」

 

「なに?」

 

「お友達になろうよ!」

 

「うん、いいよ」

 

「即答!?」

 

 真人は頭を抱えた。

 

 どうしてこうなった。

 

 俺はただ、地球ちゃんのマナ問題を解決するために戻ってきただけだ。

 

 それなのに。

 

 地球ちゃんは家にまでついてきて。

 

 しかも妹の玲奈には普通に見えて。

 

 あっという間に仲良くなっている。

 

「……なあ、玲奈」

 

「なに?」

 

「お前、本当にこいつが見えてるんだよな?」

 

「だから見えてるって」

 

「……マナのこともあるのに、なんでこんなに考えなきゃならないことが増えてしまうんだ」

 

 玲奈が首を傾げる。

 

「……」

 

 真人は地球ちゃんを見る。

 

 地球ちゃんも真人を見る。

 

 そして。

 

 地球ちゃんが、にっこり笑った。

 

「ねえ、真人」

 

「……なんだよ」

 

「玲奈ちゃんも一緒に、マナの使い道を考えてもらおうよ!」

 

「マナ?なにそれ?」

 

「…………」

 

 真人は思った。

 

 どうやら。

 

 自分一人で地球の危機を解決するというのは、最初から無理だったらしい。

 

 そして何より。

 

「……地球ちゃん」

 

「なあに?」

 

「お前、俺以外の人間と話せて嬉しいんだろ?」

 

「うん!」

 

 満面の笑み。

 

 その笑顔を見て、真人はため息を吐いた。

 

「……まあ、いいか」

 

 こうして。

 

 神崎真人と地球ちゃん。

 

 そして妹の玲奈。

 

 三人による、世界を救うための作戦会議が始まることになった。

 

 ――このときの真人は、まだ知らなかった。

 

 玲奈の思いつきが世界を劇的に変えていくことを…

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