圭斗はベッドに横たわりながら、窓の外に浮かぶ月をぼんやりと眺めていた。明日はついに探索者免許を取りに行く日だ。それなのに、期待や興奮よりも、どこか漠然とした不安が胸を占めている。
ダンジョンが世界中に現れ、生活が一変したあの瞬間から、もう三年が経つ。圭斗はその三年間を思い返していた。
最初にダンジョンが渋谷に現れたとき、日本中が恐怖と混乱に包まれた。モンスターの出現による莫大な被害、避難命令、ニュースの連日報道。それが次第に世界各地で同じ現象が起き、世界規模の問題になっていったことを圭斗はよく覚えている。
「最初は怖いだけだった。でも、次第にそれが当たり前になって、みんなダンジョンを受け入れていった……」
三年の間に社会は劇的に変化した。最初は恐怖の対象だったダンジョンが、今では経済の一部になり、多くの人が生活の糧としてそこに依存するようになっている。モンスターを倒して得られる魔石や素材、スキルを得た探索者たちの台頭。その一方で、危険なスタンピードやモンスター被害も絶えず存在している。
「なんでこんなに早く、みんな慣れちゃったんだろうな……」
圭斗は静かに息をつく。確かにダンジョンは利益を生み、スキルを持った者たちが新たな英雄のように扱われている。けれど、それと同時に何か大事なものが失われている気がしてならなかった。
昔の普通の生活――平凡だけど、安心感があった毎日。それがもう戻ってこないことに、圭斗は少し怖さを覚えていた。
「……俺も明日から探索者か」
圭斗は布団を被りながら、自分がこの新しい時代の中でどう生きていくのかを考えた。しかし、明確な答えは出ない。ただ漠然と、これから先の未来がどうなるのか、そのスピードについていけるのか、不安ばかりが頭をよぎる。
「まぁ、やってみるしかないよな」
そう自分に言い聞かせながら、圭斗はゆっくりと目を閉じた。明日から始まる新たな一歩に、胸の奥でほんの少しの期待を抱きながら。
翌朝、爽やかな日差しが街を包む中、圭斗は駅前の広場で太一、加奈子と待ち合わせをしていた。
「おーい、圭斗!早いじゃん!」
元気よく声をかけてきたのは、太一だった。頭を使うことは苦手だが、スポーツが得意でポジティブな性格の太一はチームのムードメーカー的な存在だ。
「おはよう、圭斗。今日はよろしくね」
太一から少し遅れてやって来た加奈子が微笑みながら声をかける。彼女は三人の中で一番冷静で、いつもチームのバランスを取る役割を担っていた。
「おはよう。二人とも、ちゃんと準備してきた?」
俺は軽く笑いながら二人に問いかけた。
「もちろんだって!免許取得したらすぐダンジョンだろ?武器のリストとか見て、どれにしようか考えてきたぜ」
太一が自信満々に答えるが、加奈子は少し呆れたように首を振った。
「まだ免許も取ってないのにそんな先の話をしてるの?まずは無事に手続きを終わらせることが大事でしょ」
「まぁまぁ、二人とも落ち着けよ。ギルドに行くの、初めてなんだから」
二人をなだめつつ、改めてこれから向かう「ギルド」という存在に思いを馳せた。
ギルドの建物は市街地の中でも特に目立つ場所にあり、ダンジョン時代の象徴的な施設となっていた。入り口には多くの探索者たちが集まり、武器を手にする者や仲間と談笑する者など、様々な人々で賑わっている。
「結構すごい人だな……」
圭斗はその熱気に少し圧倒されつつも、二人と一緒に受付へと向かった。
受付の女性職員は丁寧に微笑みながら、手続きの説明を始める。
「本日は探索者免許の取得でお間違いありませんね?まずはこちらの書類にサインをお願いします。その後、筆記試験を受けてもらいます」
サインを済ませ、案内された部屋でテストが行われた。
内容はダンジョン関係の各種法律や規則とダンジョン内でのルールなどだった。
ギルドと呼ばれているが、探索者協会は政府が探索者を管理するために設立した組織だ。
強化された肉体やスキルを持つ探索者が犯罪を犯せば厳しく罰せられる。
そもそもとして法や規則を理解していない者を探索者にはしない。
とは言え、それほど難しい試験ではない。
国民に広く周知し、違反を犯したときに言い訳をさせない為に法律や規則は簡潔に分かりやすく作られている。
基本的なことを抑えていれば、まず落ちることはない。
手続きが終わると、ついに探索者免許が手渡された。小さなカードには、圭斗たち三人の顔写真と名前、探索者としての登録番号が記載されている。
「これで俺たちも正式な探索者だな!」
太一が嬉しそうにカードを掲げて見せる。
「これからは自分たちで責任を持って行動しないとね」
加奈子がそう言うと、圭斗もカードを見つめながら心の中で小さく決意を固めた。
「よし、まずは準備を整えて、最初のダンジョンに挑もうぜ!」
太一の言葉に、三人の新しい日常が始まる予感がした。