ダンジョンメーカー   作:ソロモンは燃えている

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第二十三話 神崎家にて

 

 

 

 食卓を囲む神崎家の4人。

 玲奈が探索者免許を取ると言い出してから、父の表情は終始硬かった。

 

「玲奈、本気なのか?」

 

 父の厳しい声が、食卓の和やかな空気を引き締める。

 

「もちろんだよ、お父さん。18歳になったら取ろうって、ずっと決めてたんだから」

 

 玲奈は明るい声で答えるが、その目には強い意志が宿っていた。

 

 母がそっと父の腕に触れて諭す。

 

「でも、あなた。今の時代、探索者免許を持ってる方が安全だっていう話もあるじゃない」

 

「それはそうだが……」

 

 父は箸を置き、深く息を吐く。

 

「ダンジョンなんて危険な場所だ。訓練を受けた自衛隊でさえ命を落とすことがあるんだぞ。そんなところに娘を行かせるなんて……」

 

 玲奈は少しだけ微笑んで父を見つめた。

 

「大丈夫だよ、お父さん。私、一人で行くわけじゃないし。兄さんと一緒なんだから」

 

 父は眉をひそめた。

 

「でもな……」

 

 父はまだ言いたいことがありそうだったが、玲奈が少し身を乗り出して言葉をかぶせた。

 

「お父さん、私、危険なことはしないから。初めは簡単なダンジョンだけだし、無理はしないよ」

 

 その言葉に、父はしばらく黙った後、仕方ないと言わんばかりに首を振る。

 

「まぁ……玲奈がそこまで言うなら、信じるしかないか。でも、何かあったらすぐに戻ってこいよ。命を落としたら何にもならん」

 

「うん、分かってる!」

 

 玲奈が嬉しそうに頷くと、ようやく食卓に穏やかな空気が戻った。

 

 母が小さく笑いながら言う。

 

「本当に、玲奈も大人になったのね。あなたも少しは信じてあげなさいよ」

 

「……ああ。だが、俺はまだ納得しきれてないからな」

 

 そう言いながらも、父の口元には少しだけ笑みが浮かんでいた。

 

 玲奈の目には、その小さな笑みがはっきりと映っていた。

 

 

 

 その夜、真人は無数の青白い光粒が漂う空間――マナ世界と名付けた場所にいた。

 目の前には数十枚の半透明なディスプレイが浮かび、そこには世界中のダンジョンの様子が映し出されている。

 

「北米のダンジョンは順調だな。探索者が順調に育っている」

 

 真人はディスプレイに映る各地の状況を確認しながら呟く。

 

「ただ、ヨーロッパのあのダンジョンは思ったより人が集まってない。調整が必要か……」

 

 手を軽く振ると、該当のダンジョンのディスプレイが拡大される。

 

 真人は、そこに映る探索者の人数を見て眉をひそめた。

 

「…兄さん」

 

 不意に、柔らかな声が背後から聞こえた。

 振り返ると、玲奈が静かに立っていた。精霊としての彼女は青白い光を纏い、神秘的な雰囲気を纏っている。

 

「玲奈か。どうした?」

 

 真人はディスプレイから視線を外し、玲奈に向き直る。

 

 玲奈は少し躊躇いがちに言葉を選んだ。

 

「……ちょっと気になることがあるの」

 

「気になること?」

 

 玲奈はゆっくりと頷き、その目を真人に向けた。

 

「私のクラスメートに北原君って子がいるんだけど」

 

「その北原君がどうかしたのか?」

 

「今日ね、彼がダンジョンに入ったの」

 

 真人はその言葉に少し驚き、目を細めた。

 

「探索者免許を取ったのか?」

 

「うん。北原君と、彼の友達の木村君、それと渡辺さんの三人で。まだダンジョンの一階層だけど、初めてにしてはちゃんと戦えてたみたい」

 

 玲奈の言葉に、真人は首を傾げた。

 

「それで気になることっていうのは?」

 

 玲奈は少し言いにくそうに、けれど真剣な表情で続けた。

 

「北原君から……兄さんに似た感覚がするの」

 

「俺に似た感覚?」

 

 真人は眉を上げた。

 

「説明するのが難しいけど……精霊になってから、なんとなく分かるの。普通の人とは違う“何か”を持ってる感じ。兄さんと同じ、マナに繋がっているような感覚」

 

 真人は考え込むようにディスプレイの一つを操作した。

 

「……それが本当なら、少し気になるな。」

 

「そうだよね。それでダンジョンに入ってマナを吸収すれば、体内のマナの様子から何か分かるかなって、ここから見てたの」

 

「そうか…それで、今日はマナ世界にずっと居たんだな」

 

 玲奈は微笑みながら、小さく頷いた。

 

「うん。それで、まだ数体しかモンスターを倒してないから確かなことは言えないんだけど…マナの吸収率がすごく高いと思う。

 多分、アーサー君以上なんじゃないかな?」

 

 玲奈の言葉に、真人の表情が僅かに引き締まった。

 

「アーサー以上……か?」

 

 アーサーは世界中の探索者の中でも群を抜いてマナ吸収率が高く、ユニークスキルを発現させた存在として有名だった。

 そのアーサー以上となれば、その北原君の潜在能力は並外れたものになるだろう。

 

「どうしてそう思う?」

 

 真人は玲奈に問いかけた。

 

 玲奈は慎重に言葉を選びながら答える。

 

「今日、北原君たちが初めてダンジョンに入ったのを見ていたら、彼がスライムや小型の虫型モンスターを倒すたびに、ほんの一瞬だけだけど、マナの流れが知覚できたの」

 

 真人は腕を組み、ディスプレイを見つめながら考え込んだ。

 

「マナの流れが……いくら玲奈が精霊でも小型モンスター程度のマナを吸収する時の流れなんてほとんど感じ取れないだろ。なのに感じ取れたって事は、それだけ効率よく取り込んでいることになるな」

 

 玲奈はさらに言葉を続けた。

 

「アーサー君の戦闘を見た時と似たような感覚がした。でも、北原君の場合はそれ以上に“自然”なの。マナがまるで彼に流れるべきだと感じてるみたいに」

 

「なるほどな……それが本当なら、放っておけないな」

 

 真人はディスプレイを操作し、圭斗が今後挑む可能性のあるダンジョンの情報を確認した。

 

「ちょうど世界レベルの探索者が欲しかったところだ。ただ、もしその吸収率が他人に知られたら、北原君は間違いなく注目される。それも、良くない形でな」

 

 玲奈の表情にも心配が浮かぶ。

 

「そうだね……もし政府や企業が気付いたら、彼の自由がなくなるかもしれない。

 それに、今のところダンジョン探索にそんなに熱心じゃないみたい」

 

「中途半端に力を付けると返って危険だ。本人にそれ程の才能があるなら、厄介ごとの方から近づいて来るだろう」

 

 真人は冷静に言い切った。

 

「玲奈、しばらく様子を見て、頭角を現していくようなら…」

 

 玲奈は真剣な表情で頷いた。

 

「うん。精霊の試練だよね」

 

 真人は軽く笑いながら肩をすくめた。

 

「ああ、アーサーの時と同じだ。あの時は丁度いいタイミングだったが、試練となる適当なモンスターがいなければ俺が動く」

 

 玲奈はその言葉に安心したように笑顔を浮かべたが、どこか不安げな眼差しをディスプレイに向けた。

 圭斗の存在が世界に大きな波を起こそうとしていることを二人は薄々感じ始めていた。

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