ダンジョンメーカー   作:ソロモンは燃えている

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第二十六話 4階層への挑戦

 

 

 

 翌週、圭斗たちはダンジョンの4階層を主戦場にしていた。

 彼らには、どれほど非常識なことをしているか全く自覚がなかった。

 何が非常識かと言うと全てが非常識だった。

 

 免許取得から2週間後には4階層で戦っている。

 ダンジョン攻略を真剣に目指しているパーティーならあり得なくはない。

 だが、それは免許取得以前に入念な準備をしていた上でかなりの頻度でダンジョンに潜っているからだ。

 

 確かに1〜3階層は初心者向けの階層だと言われている。

 初日は、一戦しただけで引き上げたことを考えると実質1日でこの階層を卒業したことになる。

 あり得ない早さだ。

 普通は武器の取り扱いやモンスターとの戦闘に慣れるためにもっと時間をかけて進んでいく。

 マナを吸収し、仲間との連携も磨いて自分たちのスタイルに自信を持った時、ようやく4階層へと挑戦するものだ。

 

 次に初心者用に貸し出されている武器を使用していること。

 これもあり得ない。

 こういった武器は「鍛治」スキルを取得した者がスキルの扱いに慣れるための練習で低品質の素材を用いて作られた物。

 素材の品質、スキルの熟練度からスキル産としては最低品質になる。

 4階層で使うには些か心許ない。

 使えないこともないが、それは長い時間をかけてマナを吸収し、経験と技術を積み重ねた者くらいだ。

 次々と攻略階層を更新していくパーティーは、何かしらの伝手を使いそれなりの装備を用意している。

 

 そして、さらに非常識なのは、それらをダンジョン攻略の適正人数の半数に当たる三人で行っていることだ。

 

 

 

 圭斗たちが挑んでいる渋谷ダンジョン4階層は、初めて本格的な「混成部隊」との戦闘が発生するフロアだ。これまでの階層は、基本的に同種のモンスターのみで行動していた。まれに二つの集団と同時に接触してしまうことはあるが、連携などなく、それぞれがバラバラに襲いかかってくる。

 この階層からは違う。グレイウルフ、ゴブリン、そしてコボルトという異なるモンスターが連携して探索者を襲うため、これまでの階層に比べて格段に難易度が上がる。

 

 

 圭斗たちは、通路を進み、曲がり角に差し掛かろうとした時にグレイウルフの奇襲を受けた。グレイウルフが曲がり角の先から突然飛び出してきたのだ。圭斗は、突然出てきたグレイウルフに驚き、一瞬動きを止めてしまう。

 動揺を抑え、なんとか剣を振り下ろすが僅かに遅れてしまった。

 グレイウルフは圭斗の剣をかわして太一に突進していく。槍で対応しようとするも、間合いに入られてしまい、突くことも打ち払うことも出来ない。

 首筋に牙を突き立てようとするグレイウルフの口に槍の柄を挟み込むことだけは間に合ったが、そのまま押し倒されてしまう。

 のし掛かり、噛みつこうとするグレイウルフの口を槍で押し返すことで抵抗することしか出来なかった。

 

「くおおおおっ、やばい、助けてくれ!」

 

 圭斗が太一にのし掛かっているグレイウルフを排除しようとするが、最悪なことにグレイウルフが飛び出してきた通路の奥からゴブリンとコボルトの一団が現れる。

 

 くそっ、ここでゴブリンとコボルトかよ!

 どうする!?どうすればいい!?

 

「圭斗はゴブリンたちを牽制して!

 太一は、私がなんとかする」

 

 一番後ろにいた加奈子から鋭い指示が飛ぶ。

 同時にゴブリンとコボルトの一団に向けて数本の矢が飛んでいった。

 いつもとは違い、ろくに狙いが付いてないが、圭斗を援護するための牽制射だ。

 狙い通り、大した傷を与えられなかったが一団の勢いは削がれた。

 圭斗は剣を構え、ゴブリンたちを相手に大袈裟に剣を振り回しながら接近戦を繰り広げる。とにかく後ろに通してはならない。その一心で剣を振る。

 

 加奈子は、圭斗の援護のために牽制射をした後、即座に太一の救出に動く。グレイウルフの身体は普通の狼より大きく、体重の軽い加奈子が蹴り飛ばそうとしてもどれだけ効果があるか分からない。

 だから、加奈子は弓を捨て、矢を手に持ち、その鏃をグレイウルフの目に突き立てた。

 

「キャウ!」

 

 グレイウルフもこれには耐えきれず、太一の上から飛び退いて距離を取る。

 

「太一、早く立って!」

 

「おう、ありがとよ!」

 

 複数のゴブリンとコボルト相手に圭斗が一人で時間稼ぎをしている状況だ。

 早く態勢を立て直して、援護に行かなければ今度は圭斗が危うくなることを二人とも理解していた。

 

「俺がウルフを抑えるから、圭斗への援護射撃を頼む!」

 

「了解、もうドジ踏むんじゃないわよ!」

 

 加奈子が弓を拾い上げ、ゴブリンとコボルト相手に大立ち回りをしている圭斗を援護すべく構える。

 その背中を太一が守り、槍を向けてグレイウルフの動きを制する。

 

 今度は狙いをしっかりと定める。

 乱戦となっている今の状況では、早さより正確な射撃が必要だ。

 矢を番え、深く集中する。

 後ろのグレイウルフの事は頭から消し去る。

 太一が抑えると言ったのだ。

 なら、グレイウルフの牙や爪が私に届く事はない。

 1射、また1射と確実に撃ち抜いていく。

 

 加奈子の援護射撃が始まったことで圭斗の負担は目に見えて減っていった。

 1射ごとに確実に圧力が低下している。

 その分、圭斗にも隙を見て相手に手傷を負わせる余裕が出てきたことで殲滅速度が上がっていく。

 ほどなくゴブリンとコボルトの一団は全滅した。

 最後に残ったグレイウルフを三人の連携で倒して戦闘が終了する。

 

 戦闘後、三人は荒い息を吐きながら反省を口にする。

 

「ウルフの動き、マジで速すぎる。こっちの剣が全然追いつかなかった。いや、あの時、固まらずに反応できていれば、こんな不利な状況にはならなかった」

 

「いや、ウルフに押し倒されちまった俺のせいだ。油断してたつもりはなかったのに奇襲に対応できなかった。俺の槍捌きもまだまだってことだな」

 

「私だってグレイウルフの接近に気付かなかった。まだまだ想定が甘かったみたいね」

 

「いや、立て直せたのは加奈子が的確な指示を出してくれたお陰だろ」

 

「私が一番後ろにいて、全体を見れていただけよ」

 

「それで俺たちが助かったんだ。素直に感謝されてろって」

 

「…分かったわよ。次からはこんな奇襲なんて受けないように慎重に進みましょう。曲がり角付近は特に注意が必要ね」

 

「そうだな」

 

 三人の連携が少しずつ向上している。混成部隊の奇襲を受けても全員無事に撃破できたのは大きな成長の証。

 しかし、まだそれぞれの動きに迷いがあり、特に敵のスピードに対応するには技術面で課題が残る。索敵にも改善の余地がある。

 これを克服するには、経験を積み重ねていくしかない。

 三人はそれぞれの反省点を胸に進んでいく。

 

 

 圭斗は、グレイウルフの動きを見切る練習を繰り返し、足元や体の軌道から動きを予測できるようになってきた。また、身体能力の向上によって剣の振りが素早くなり、一撃で仕留める場面が増えた。

 連携して襲ってくる複数の敵に対応している内に、攻撃と防御のバランスを意識しつつ、敵を引きつけて太一や加奈子の攻撃を通しやすくする立ち回りも洗練されていった。

 

 太一もまた、槍のリーチを最大限活かし、敵を近づけさせない安定した戦い方を確立。

 突きや払いだけでなく、槍の石突や柄を使った打撃で相手を崩す技術を取り入れることで間合いに入られても対応できるようになった。

 

 加奈子も後方からの支援射撃の精度がさらに向上。

 奇襲を避けるためにモンスターが接近してくる音を聞き漏らさないよう神経を研ぎ澄ませていく。

 

 

 その後、奇襲を警戒しながら戦闘を繰り返すうちに、圭斗たちはグレイウルフのスピードやゴブリン、コボルトの連携に徐々に慣れていく。それぞれの役割を明確にし、連携の精度を高めることで、三人は安定してモンスターを狩れるようになっていった。

 

「だいぶ慣れてきたな。でも、まだ4階層までだからな。奥にはもっとヤバいのがいるんだろ?」

 

「だろうな。次の目標はスキル覚醒か? その前に武器や防具も欲しい」

 

「そうね、そろそろ自前の装備を用意したほうがいいかも。レンタル品じゃ、この先キツくなっていくでしょうし」

 

「とりあえず、今の調子を保ちつつ、少しずつ準備を整えていこう。焦らず、安全第一でな」

 

 3人は、次の挑戦に向けてさらなる準備を進めることを決意した。

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