ダンジョンメーカー 世界の終わりを防ぐため、俺は今日もダンジョンを創る 作:ソロモンは燃えている
「マナ?」
玲奈が首を傾げる。
「うん!」
地球ちゃんが元気よく手を上げた。
「私の中にいっぱい溜まってるエネルギー!」
「エネルギー……」
玲奈の目が輝いた。
嫌な予感がする。
「それって……魔法とか使える?」
「魔法?」
地球ちゃんが首を傾げる。
「魔法ってなに?」
「え?」
「魔法、知らないの?」
玲奈が困惑した顔で俺を見る。
「お兄ちゃん、どういうこと?」
「俺に聞くなよ」
そもそも。
地球そのものが魔法を知らないってどういうことなんだ。
「でも、マナっていうくらいだから魔法とか使えるんじゃないの?」
玲奈が地球ちゃんに尋ねる。
「うーん……」
地球ちゃんは少し考える。
「どうかな?」
「試してみようよ!」
「え?」
玲奈が急に立ち上がった。
「魔法だよ、魔法!」
「いや、落ち着け」
「だって、マナがあるんでしょ?」
「あるけど」
「だったら魔法が使えるかもしれないじゃん!」
玲奈の目がキラキラしている。
ああ。
これはもう止められない。
「ねえ、地球ちゃん!」
「なあに?」
「私、魔法が使いたい!」
「魔法?」
「うん!」
「どうやって使うの?」
「えっと……」
玲奈は少し考える。
「こう!」
右手を前に突き出した。
「炎よ!」
「…………」
「…………」
何も起きない。
玲奈が手のひらを見る。
「もう一回!」
「え?」
「炎よ!」
やっぱり何も起きない。
「……」
「……」
「……」
玲奈の顔が曇る。
「出ない」
「そりゃそうだろ」
「なんで!?」
「俺が知るか!」
玲奈は不満そうに頬を膨らませる。
「じゃあ、水!」
「いや、そういう問題じゃ――」
「水よ!」
何も起きない。
「風!」
何も起きない。
「雷!」
何も起きない。
「光!」
何も起きない。
「闇!」
何も起きない。
「…………」
玲奈が肩を落とした。
「魔法……使えない」
「だから言っただろ」
「まだわからないよ!」
「何が?」
「呪文が違うのかもしれない!」
「そこを追求するのか?」
「ファイア!」
「…………」
「ファイアボール!」
「…………」
「エクスプロージョン!」
「待て待て待て!」
真人は慌てて玲奈の口を塞いだ。
「最後のやつは絶対に試すな!」
「んー!」
「お前が魔法を使いたい気持ちはわかった!」
わかった。
わかったからこそ。
俺は地球ちゃんを見る。
「なあ、地球ちゃん」
「なあに?」
「マナって、本当に何でもできるのか?」
「何でも?」
「さっき災害を起こせるって言ってただろ」
「うん!」
「なら、魔法だってできるんじゃないか?」
「うーん……」
地球ちゃんは首を傾げる。
「やってみる?」
「できるのか?」
「わからない!」
「わからないのかよ!」
地球ちゃんは楽しそうに笑った。
「だって、やったことないもん!」
「…………」
なんだろう。
この瞬間。
ものすごく嫌な予感がした。
「じゃあ、やってみよう!」
「お兄ちゃん!」
玲奈が俺を見る。
「やろう!」
「……はぁ」
こうして。
俺たちはマナで何ができるのかを試すことになった。
* * *
「炎!」
玲奈が叫ぶ。
「…………」
何も起きない。
「水!」
何も起きない。
「風!」
何も起きない。
「雷!」
何も起きない。
「氷!」
何も起きない。
「光!」
何も起きない。
「闇!」
何も起きない。
「…………」
玲奈が腕を組んだ。
「おかしい」
「何がおかしいんだ?」
「魔法が使えない」
「だから魔法じゃないんだろ」
「でも、マナはあるんだよね?」
「あるらしい」
「じゃあ、なんで?」
「俺に聞くなよ」
玲奈は諦めなかった。
今度は、もっと具体的なイメージを試し始めた。
「火の玉!」
「…………」
「水の玉!」
「…………」
「風の刃!」
「…………」
「雷の槍!」
「…………」
「空を飛ぶ!」
「…………」
「瞬間移動!」
「…………」
「透明になる!」
「…………」
何も起きない。
地球ちゃんは、その様子を楽しそうに眺めている。
「真人!」
「なんだ?」
「玲奈ちゃん、面白いね!」
「お前も少しは手伝え!」
「どうやって?」
「俺が知るか!」
結局。
何をやっても、魔法らしい現象は一つも起きなかった。
玲奈はすっかり疲れ果て、ベッドの上に倒れ込んでいる。
「魔法……使いたかった……」
「諦めろ」
「でも……」
玲奈は天井を見上げる。
「マナって、本当に何でもできるんじゃないの?」
「…………」
真人は黙り込んだ。
何でもできる。
その言葉が妙に引っかかった。
俺たちは、マナを使って魔法を起こそうとした。
けれど。
何も起きなかった。
それなのに。
地球ちゃんは言っていた。
マナが溜まりすぎると、火山が噴火する。
大地が凍る。
大気や海水の成分まで変化する。
つまり。
マナは確かに現実に影響を与える力を持っている。
なら。
なぜ、俺たちのイメージには反応しない?
「……地球ちゃん」
「なあに?」
「一つ聞いていいか?」
「うん!」
「昔、マナが溢れたときに災害が起きたって言ってたよな?」
「うん!」
「その後は?」
「その後?」
「災害が起きた後だよ」
地球ちゃんは少し考えた。
「うーん……」
そして。
「新しい子がいっぱい生まれたよ!」
「新しい子?」
「うん!」
地球ちゃんは嬉しそうに頷く。
「大きな災害の後ってね、いつも新しい生き物が増えるの!」
「…………」
真人は考え込んだ。
大量絶滅。
その後に起こる、生物の爆発的な多様化。
地球の歴史では何度も繰り返されている。
恐竜が絶滅した後、哺乳類が繁栄した。
大量絶滅が起きるたびに、それまで繁栄していた生物が姿を消し。
空いた生態系を新しい生物が埋めていく。
それは、ただの破壊の副産物なのか?
「……もしかして」
真人は呟いた。
「マナって、進化を促すためのものなんじゃないか?」
「進化?」
玲奈が起き上がった。
「どういうこと?」
「地球ちゃんの話を聞いてると、マナが大量に使われた後には必ず新しい生物が繁栄してる」
「うん!」
「なら、マナはただ災害を起こすエネルギーじゃない」
真人は考えを整理する。
「何らかの負荷を与えて、生物に変化を促してるんじゃないか?」
「負荷……」
玲奈が目を丸くする。
「ああ」
真人は地球ちゃんを見る。
「生物が何かの困難を乗り越えることで、新しい能力を獲得する」
「…………」
「マナそのものが、進化を促すための力だとしたら?」
部屋が静かになった。
地球ちゃんが、ゆっくりと瞬きをする。
「……それなら」
地球ちゃんが小さな手を握る。
「新しい子が生まれるのも、わかるかも!」
「だろ?」
「うん!」
地球ちゃんが嬉しそうに頷く。
しかし。
真人には、もう一つ気になることがあった。
「……でも」
「なに?」
「なんで、俺たちはマナで魔法を使えなかったんだ?」
「…………」
玲奈が黙り込む。
俺たちはイメージした。
炎。
水。
風。
雷。
どれも起きなかった。
なのに。
過去の地球では。
マナによって火山が噴火し。
大地が凍り。
環境そのものが変化している。
この違いは何だ?
真人は考え込む。
そして。
一つの仮説に辿り着いた。
「……恐怖」
「え?」
「地球ちゃん」
「なあに?」
「今まで地球と繋がった生物って、どんな生物だった?」
「いろいろだよ!」
「その生物たちは、マナを使って何をした?」
「うーん……」
地球ちゃんが考える。
「一番最近の子は、石が落ちてくるのを怖がってたよ」
「……隕石?」
「うん!」
「…………」
真人の顔が引きつる。
「その前は?」
「火山!」
「火山が怖かった?」
「うん!」
「…………」
嫌な予感がする。
「他には?」
「寒いのが怖い子もいたよ!」
「…………」
「酸素が怖い子もいたし!」
「…………」
真人は頭を抱えた。
そういうことか。
地球と繋がった生物。
彼らはマナを自由自在に操ったわけではない。
ただ。
自分が最も恐れるものを強烈にイメージした。
そして…
その恐怖が。
マナを通じて現実になった。
「……マナは」
真人は呟く。
「イメージに反応する」
「うん!」
「でも、ただ思い浮かべるだけじゃダメなんだ」
「どういうこと?」
「感情だ」
玲奈が黙って真人を見る。
「俺たちは魔法を使いたいと思った」
でも。
そこに、命を懸けるほどの切実さはない。
「過去の生物は違った」
隕石。
火山。
氷河。
酸素。
自分たちの生存を脅かすもの。
「死ぬほど怖かったからこそ、そのイメージがマナを動かしたんじゃないか?」
真人は地球ちゃんを見る。
「だから、俺たちは魔法を使えなかった」
「…………」
「マナを動かすほどの強烈なイメージがなかったから」
「…………」
玲奈がじっと考え込む。
そして。
「じゃあさ」
「ん?」
「人間みんなが、同じものをイメージしたら?」
「…………」
真人が玲奈を見る。
「どういうことだ?」
「例えば、私たちが魔法を使いたいって思っても、全然できなかった」
「そうだな」
「でも、人間全員が『魔法が使える世界』を想像したら?」
「…………」
「それなら、マナも変わるんじゃない?」
真人は言葉を失った。
確かに。
マナがイメージの影響を受けるなら。
一人の想像では足りなくても。
何百万人。
何千万人。
何億人もの人間が同じイメージを共有すれば。
それは。
一つの巨大なイメージになる。
「……人類全体でイメージを共有する」
「うん!」
「そんなことができるのか?」
「できるんじゃない?」
玲奈は当然のように答えた。
「だって、みんなゲームや漫画を知ってるじゃん」
「ゲーム……」
「そう」
玲奈はベッドから立ち上がった。
「みんなが知ってる世界観なら、同じものを想像できる」
「…………」
「例えば――」
玲奈は指を一本立てた。
「ダンジョン」
「…………」
真人は目を瞬いた。
「ダンジョン?」
「うん」
玲奈は楽しそうに続ける。
「洞窟みたいな場所があって」
「…………」
「中にはモンスターがいて」
「…………」
「倒すと経験値がもらえて」
「経験値?」
「強くなるためのポイントみたいなもの」
玲奈は身振り手振りを交えながら説明する。
「経験値を貯めればレベルアップして、もっと強くなれる」
「…………」
「強いモンスターを倒せば、もっと強くなれる」
「…………」
「そういうゲーム、いっぱいあるでしょ?」
「まあ……あるな」
真人にも覚えがある。
というか。
俺だってそういうゲームをやったことはある。
「つまり」
玲奈は地球ちゃんを見る。
「ダンジョンを作るの」
「ダンジョン!」
地球ちゃんの目が輝いた。
「うん!」
「モンスターも?」
「もちろん!」
「魔法も使える?」
「……それはまだわからないけど」
「でも、試してみる価値はあるよ」
真人は考え込む。
ゲームのイメージを利用して、倒したモンスターからマナを吸収できるようにする。
確かに、それが可能ならマナの消費になる。
地球ちゃんが抱えている問題も解決できる。
そして。
人類が求めていた魔法や超能力を手に入れられる可能性もある。
「…………」
真人は地球ちゃんを見る。
地球ちゃんは。
すでに満面の笑みだった。
「真人!」
「……なんだよ」
「ダンジョン作ろう!」
「…………」
玲奈も笑っている。
「面白そうじゃん」
「お前らな……」
真人は頭を抱えた。
しかし。
もう、答えは出ているのかもしれない。
災害を起こす訳にはいかない。
なら…
人類が自分たちの力でマナを使えるようになる仕組みを作れるしかない。
試練を乗り越える。
強くなる。
新しい能力を獲得する。
そして。
その過程で、地球に溜まりすぎたマナを消費する。
「……地球ちゃん」
「なあに?」
「ダンジョンって、作れるのか?」
「わからない!」
「…………」
「でも!」
地球ちゃんは、ぐっと両手を握りしめた。
「やってみよう!」
「……そうだな」
真人は苦笑する。
「やってみるか」
こうして。
神崎真人と地球の意思である地球ちゃんと妹の玲奈。
三人による。
世界初のダンジョン制作計画が始まった。
――もっとも。
このときの三人は、まだ知らなかった。
自分たちが作ろうとしているものが。
やがて世界中の常識を根底から覆すことになるとは。
そして。
世界中の人間が待ち望むことになる。
未知の世界への扉を自分たちが開こうとしていることを。