渋谷でのゲート出現とモンスター騒動から数日が経過した。街の混乱は徐々に収まりつつあるものの、ニュースやSNSでは未だにその話題が尽きることがない。そんな中、真人と玲奈はいつものように学校へ向かっていた。
教室は休み時間の喧騒に包まれた。周囲では渋谷の事件について話すクラスメイトたちの声が飛び交う。
「なあ、渋谷のゲートの話聞いた? モンスターが本当に出たんだってよ!」
「マジで? 動画で見たけど、あれ特撮じゃないの?」
「いやいや、本当だって。しかも、自衛隊が出動したらしいぜ!」
教室の隅で談笑していた真人に、クラスメイトの一人が話しかける。
「なあ、神崎! お前、渋谷の事件の話聞いたか?」
「渋谷の事件?そりゃ、ニュースで見たけど……なんだよ急に」
真人は少し曖昧に返事をしながらも内心では冷や汗をかいていた。
「俺、あの場にいたんだよ。いやー、死ぬかと思ったけど、マジでスゲェ精霊みたいな女の子が助けてくれたんだよ!」
「精霊?」
真人の眉が僅かに動く。
「そうそう! 渋谷で活躍した謎の存在だよ!あれって絶対精霊的なやつだよ!」
別のクラスメイトが話に加わると、教室中がその話題で盛り上がり始めた。
「だよな、あれはどう見ても人間じゃないだろ。魔法とかが実は本当にあって、そんな神秘的な力で生まれた存在なんじゃないかって説がネットで出てるんだよ」
「おいおい、ネットの話とか信じすぎだろ。でも、実際モンスターとかも出てきたし、絶対にないとは言いきれないけど」
真人は会話に耳を傾けつつも、適当に相槌を打つだけに留めた。渋谷での出来事を知る彼は、自分の妹である玲奈が「精霊」として噂されていることを認識しながらも、決してそれを肯定することはできなかった。
玲奈の教室
「玲奈ちゃん、無事で本当によかった! 渋谷で逸れたときは、もうダメかと思ったよ……」
一緒に渋谷に出かけた友達、沙織が目に涙を浮かべながら話しかけてきた。放課後の教室で、数人の女子が集まって渋谷での出来事を振り返っていた。
「うん……私も、なんとか助かったんだ」
玲奈は作り笑いを浮かべながら答える。
「でもさ、あの時私たちを助けてくれた女の人、なんだったんだろうね? 渋谷の精霊とか言われてるけど……」
「本当に精霊なんじゃない? あの透明感のある姿とか、明らかに普通の人間じゃなかったよ」
「玲奈ちゃん、逸れた後、どうやって逃げたの?」
玲奈は少し言葉を詰まらせたが、何とかうまく誤魔化そうとした。
「えっと……私もよく覚えてないんだ。ただ、あの女の人がモンスターを引きつけてくれて、その間に逃げられたって感じかな」
「そうなんだ……玲奈ちゃん、運が良かったね」
友達の言葉に、玲奈はただ頷くだけだった。
学校が終わり、家へと向かう道すがら、真人と玲奈は再び合流する。
「お兄ちゃん、今日の学校どうだった?」
玲奈が隣を歩きながら聞いてきた。
「渋谷の話題ばっかりだったよ。お前の話も、ほとんど精霊扱いで盛り上がってたな」
玲奈は困った顔をしながら首をかしげる。
「そっか……でも、私も友達と話してたら、渋谷で助けてくれた女の人が精霊だって噂されてた」
真人はため息をつき、玲奈の頭を軽く撫でた。
「正体がバレないようにするんだぞ。お前はまだ普通の中学生ってことになってるんだから」
「分かってるって。でも……精霊だって思われるのも悪くないかも?」
玲奈がいたずらっぽく笑う。
「おいおい、冗談でも言うなよ。お前が目立ったら、俺たちの計画が台無しになるんだからな」
「うん」
玲奈は、兄妹で過ごす、この穏やかな時間が失われないように願った。
(私は……もう人間じゃないけど、お兄ちゃんと一緒にこの世界を守る。どんな形であっても)