壊レ死ニ征ク浄火の旅路 作:灯火を探すもの
運命は人を引き寄せ、集め、本来の歴史から逸れた物語を映し出すこともあるだろう。
嘗ての世界で、「エンジェル」なる者の身に宿って世界の趨勢を見てきた私にとって、それは確かなことだった。第二第三の選択肢が現れると、歴史はそこで分岐する。
因果の果てで、想いを解かしていたら…ふと、滅びかけの星に視点が移ってしまった。
私は、彼らを救いたいと思った。
ただの意志でしかない私が、その世界に手を伸ばしたら…。
視界が暗転すると同時に、風に吹かれるような感覚を覚える。装いは日本の巫女に似た姿で、両腰に大太刀を2本提げている。
どうやら、私は女になったようだ。そして、この女の経験や記憶が流れ込む。
―――『珖焔の召喚獣』とやらを宿した、この世界に於いても例外の存在。
正邪双方の想いを束ね、ひとつの炎として敵を裂く意志。
そのような力を持った、この女の名は、「エクセリア・アウェア」と言った。
だが、隣にいた男が、声をかけてくる。
「誰かに呼びかけられてるんだが、お前はどうなんだ?」
「いや、私には分からない…。とりあえず、外の空気を吸いに行こうよ。他の皆も、そうしてるようだし。もうすぐ、シャーレアン本島が見えてもいい頃だしね…」
記憶を頼りに、エクセリア・アウェアという女の振る舞いをする私。
人間と思しい男と一緒に船の甲板へ向かうと、その視線の先に、白いオーラに包まれた白法衣の女性がいた。
「よかった…。私の声が、まだあなた達に届いてくれて。『聞いて、感じて、考えて』…こうして地上で言葉を交わすのは初めてですね。…クリスタルに導かれし、光の戦士、そして至高神の意志をその魂に宿した者よ」
白法衣の女性がそう言って、私達のほうへ振り返る。
「…ハイデリン、だったか?私がそんな状態になったのをいつ確認したんだ。もしかしなくても、これから面倒事に巻き込むために私を呼び込んだわけじゃないだろうね?」
私はそう言って、呆れた顔で彼女を睨む。
「ハイデリン、どうして今更…」
と男が言う。
「ついに第一世界での旅を終えたあなたなら、想像がつくかもしれません…。
あなたが見て、聞いて、触れてきたとおり、私は…ハイデリンは旧き蛮神です」
と、ハイデリンは男に向かってそう告げる。
男はやや眉間に皺が寄ったような表情を見せる。
その表情は、「今更出てきて何をする気だ」というべきものだった。
「古の時代、終末の災厄を退けるために創られたゾディアーク。そして私は、それを制するもの…。
けれど、あの時代を取り戻さんとする者の強い願いによって、もう七度、ゾディアークの統合を許しています。そうしてかの神が力を集めるほど、私は急速に摩耗していく…。
もはや、あなたの意識を狭間の領域に呼ぶことさえ叶いません。
それでも、今回だけは…至高神の残滓をその魂に刻んでいるあなたを交えてでも、伝えなければならなかった」
と、ハイデリンが言う。
「待ちな。何故私は、アウラ・レンに…ヒトの身に収めることができている?
それに何故、死にゆく宇宙から私を拾い上げてまで、この世界に呼び込んだ?」
私は咄嗟に、そう切り返した。
「…それについては、旅路を経て、考えて欲しい。
…あなた達は、私に導かれずとも、己の意志で星の過去を受け止めました。以て、私とあなた達、ふたつの時間が交わりかけています。だからこそ、始まってしまうかもしれない…。星と命を巡る試練、運命を決するための大いなる戦いが…。
あなた達がこの言葉の意味を知るとき、過酷な試練を超える力を、その旅路の内に得ていたのなら…、遠い遠い、時の彼方で交わされた約束を、果たしましょう」
そう伝え、男から距離を取る。
「…ハイデリン。私をこの女に宿したのはまだいい。だが…どれだけ世界の外の理を使うつもりなんだ?私が突拍子もない力を秘めた化け物だということはしれているだろう?」
「…興味ですよ。ガレマルドにも、支援者をこの世界に手繰り寄せています」
ハイデリンの返答に、「そんなんじゃあ、魔獣と変わらないぞ」と返す私。
彼女は苦笑いしながら、その幻影を消した。
入国手続きで、私は「流浪の旅人で、バルデシオン委員会の協力者として来た」と告げると、「食い扶持はあるのか」と言われたが、正直あるのでなんともない。
オールド・シャーレアンのエーテライトや都市内エーテライトと交感し、特に何をするわけでもなく、「ハイデリンが手繰り寄せた」などという支援者を、グリーナーズ・ギルドシップで金策をしつつ、待つことにした。
そこで…真っ先にキャロット・ラペを作ったときの報酬を見て、ニンジン嫌いの大人とか恥ずかしくないのかと言いたくなった。
その当人と出会い、本気でそう言ったときの狼狽は、また別の話ではあるのだが。
一応言っておくと、第1世界に行くことができる。
どうやら、私は容易に次元の狭間の往来を可能とするようだ。
久々にリーンの顔を拝んでみたいものだと考えてはいたが…そんなときに、例の『支援者』が現れた。
ガタッ、という音と同時に、猫耳のようなフードを被った、特徴的な服装が良くも悪くも目立つ少女が現れた。
至高神の知恵を以てしても、あんまり分かんない相手だったので…。
「…誰だ、お前は?」
と一言呟くのだった。