ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる   作:生カス

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15 荒野の辺境伯

 衛兵は俺たちをある一室に案内した後、ここで少し待つように言い残してから、部屋を出て行った。

 案内されたその部屋が応接室であろうことは、テーブルを隔てて向かい合うように置かれたソファと、必要以上に豪華な調度品などから予測できた。

 

「やっぱり、ここ最近はめっきりお客なんて来てないらしいね」

 

 ソファに綺麗な姿勢で座っているファニが、後ろで立っている俺に振り向いて、そう言った。

 これから大事な取引だというのに、全く緊張している様子がないみたいだ。

 

「なんでそう思う?」

「要所要所の掃除が甘い。調度品の横とかカーテンの裏とかに埃が溜まっているみたいだ」

「単にズボラなんじゃ?」

「他の部屋ならそうかもしれない。でも応接室はひっきりなしに客が来る、貴族にとっては『顔』と呼べる場所だからね。見栄っ張りなあの連中が、ここを蔑ろにするなんてありえないよ」

 

 ファニの言葉を聞いて、なるほどなと思った。

 言われてみれば確かに、体面を第一に考える貴族連中が、応接室の見栄えを軽んじるはずがない。

 この部屋はいわば、体面の最前線なのだから。

 

「貴族の生態に詳しいよな、ファニは。やっぱり何度もそういう連中を相手取ってきたわけか」

「ん……まぁ、ね……」

 

 何の気なしに聞いたつもりだったが、ファニはどうにも答えづらいように口ごもった。

 なんだろうか、ひょっとしたら何か、彼女にとって嫌なことを聞いてしまったのかもしれない。

 不味ったかな……?

 

 ――なんて考えていると、不意にドアが開き、先ほどの衛兵が入ってきた。

 

「領主様のおなりだ、失礼のないように!」

 

 その言葉に、俺は思わず姿勢を正す。

 ファニは特に気にしていないようで、微動だにせず、ただドアの先を見つめていた。

 

 するとドアの先から、豪華な身なりの中年男が、数人の護衛と、執事らしき人と共に入ってきた。

 その顔は身なりに似合わず痩せこけて、イライラとした表情を隠そうともしていない。

 中年男は勢いよく対面のソファに座り、身を沈めた。

 

 疲れた顔の男だった。

 憔悴しきっていて、余裕もない。そんな印象を受けた。

 これが、ビリー・ストラトキャスター伯爵のようだ。

 

「お目にかかれて光栄です、ストラトキャスター伯、私たちは――」

「挨拶なんぞ要らん。貴様らがどこの誰かなんぞ興味もないわ」

 

 眉を顰め、指をカタカタと揺らしながら、伯爵はファニの挨拶を遮った。

 余裕がなさそうだという印象は、どうやら当たっていたらしい。

 苛立った様子も隠さず、領主は続けた。

 

「貴様らが盗賊を討てるなどと宣うから、わざわざ時間を作って会ってやっているのだ。早く話を聞かせろ」

「話が早いようで助かります、伯爵。では――」

 

 そう言ってファニは、ゆっくりとした動作で脚を組んだ。

 その動きはどうにも蠱惑的で、だからなのか、伯爵の視線がファニの脚を注視しているのが見て取れた。

 スカートの中を覗こうとしているのがまるわかりだ。

 

 睨みつけて牽制してやりたい気持ちがあったが、耐えた。

 これも含めてファニの狙いならば、俺がしゃしゃり出たら台無しになってしまうかもしれない。

 それは御免こうむりたかった。

 

「単刀直入に申し上げます。私たちの方で盗賊を討伐いたしますので、その(あかつき)にキャラバンを少し使わせていただきたいのです」

「キャラバンだと? 一体何のために?」

「輸入業に使わせていただければと思っておりまして。というのも最近、とある国の上等な絹糸(・・・・・)を仕入れることができましたもので」

「ほう……要求はそれだけか?」

「えぇ、それ以外は一切求めません。我々が失敗しても伯爵は損をせず、成功すればナワガカの治安を回復させた立役者として、本国から褒賞を賜るでしょう」

 

 ファニは芝居がかった口調で一通り言い終わった後、「どうです?」と伯爵に聞いた。

 話を聞く限りでは、伯爵側に損は全くない、受けない道理もない取引に聞こえるが……。

 

「……ひとつ聞かせろ、輸入するという絹糸、どこの国のものだ?」

 

 と、伯爵は訝しんだ顔で、そう聞いてきた。

 まぁ、やっぱりその辺は怪しむよな。

 

 キャラバンを輸入ルートとして使わせるということは、領主が認めた品物ということになり、それはすなわち、ヨーキトーの税関を素通りできるということになる。

 もし輸入品が違法なものであることがバレれば、それを通らせたとして、伯爵への責任は免れない。

 余裕はないのだろうが、けれどそれに気づかないほど、彼はバカでもないようだ。

 

「はい、マーグン国のものです。近年あそこで発見された新種の(かいこ)が、素晴らしい絹を生み出すようでして、我々もようやく契約することができました」

 

 淀みなく、ファニはそう言いのけた。

 よくもまあこうまで口が回るものだと感心する。一切表情を変えずにできるのだから、恐ろしいもんである。

 

「よろしければ、輸入が成功した際には、伯爵にも製品を献上させていただきたく思います。いかがでしょうか?」

「……ふん、どうやら嘘ではないようだな」

 

 ファニの言葉に伯爵がそう返すと、彼は近くにいる執事に耳打ちをした。

 一通り執事とのやり取りが終わった後、伯爵はこちらに向き直った。

 

「いいだろう、やることをやればキャラバンは好きに使わせてやる。見事盗賊を討ってみせよ」

「ありがとうございます伯爵。では合意の証として、こちらの書状にサインをお願いいたします」

「ふん、念入りなことだ」

 

 そんな悪態をつきながらも、伯爵はファニが出した書類に、躊躇なくサインしてくれた。

 ということは、契約成立ってことか。

 あぁ、正直かなりホッとした。許されるのならこの場で大きく息を吐きたいくらいだ。

 

「確認いたしました。ありがとうございます」

「よし、では行け。成功を願っているぞ」

 

 書類を受け取ったファニに、伯爵はぶっきらぼうに退室を促した。

 もちろん、特に断る理由は理由は無いので、ファニは即座にソファから立つ。

 

「では、失礼いたします」

 

 ファニはそう言って頭を下げる。俺も倣ってお辞儀をしてから、二人そろって部屋から出た。

 

 

 

 

「……あぁ、疲れた」

 

 領主の城から外に出て、ようやく人心地付いたところで、俺は思わず言ってしまった。

 

「ありがとうレン、お疲れ様」

 

 それに対して、横にいるファニが微笑みながら、そう言ってくれた。

 見た感じ、彼女はあまり疲れていなさそうだった。

 やはり場慣れしているのだろう。

 

「けれどよかった、思ったより契約がスムーズに行って。もう少し手こずるもんだと」

「……本当にスムーズに行ったと思う?」

「え?」

 

 ファニの言葉に、ついそんな声が出てしまった。

 どういう意味だろうかと思っていると、彼女は俺に近づいて、何のつもりか手を耳に添えた。

 

「え、あの……なに?」

「耳を澄ましてみて」

 

 なんてことを言われ、意味がわからないまま、俺は口を閉じて耳をそばだてた。

 ……なんだ? 何か聞こえて――

 

 

『ビリー様、本当に連中の要求を聞くので?』

『聞くわけがないだろう、あんな与太話を。絹糸か何か知らんが、そんな得体のしれんものを、私の名でヨーキトーに入れられるか』

 

「なッ……これは……!?」

 

 そこから聞こえた声の、まず片方は間違いなく、先ほどのストラトキャスター伯のものだった。

 これは……ファニのスキルか、魔法?

 

「ほら、聞いてみて」

 

 ファニにそう言われ、俺は動揺が残りながらも、再びファニのに耳を傾ける。

 

『どうせ盗賊に返り討ちに合って終わりだろうが、万一の時は奴らを(ここ)に招待して、殺してしまえばいい。そうすれば、私はなんのリスクも負うことなく、盗賊退治の名誉を受け取れるというわけだ』

『承知いたしました、ではそのように』

『いや待て……さっきの話してる方はイイ女だった、殺すには惜しい。みすみす盗賊に殺される前に、飼って(・・・)楽しませて(・・・・・)もらってもいいかもな』

 

 なんてことを宣うと、ストラトキャスター伯は堪えられんというように、クックッと笑っているのが聞こえた。

 ……なるほどな。連中、最初から反故にする気だったってことかい。

 

「レン、顔恐いよ?」

「……険しくもなるさ、そりゃ」

 

 ファニの言葉に、俺はそんなことしか返せなかった。

 そんな程度には、今の俺には憤りがあったのだ。

 

「どうするんだファニ? あいつら、最初っから約束を守る気なんてないぞ」

「わかってるよ、そんなの。まぁ、その辺は対策するから、大丈夫」

「なに?」

 

 俺がそう言って首を傾げると、ファニはどこか面白そうに、微笑んだ。

 

「その時は、レンに守ってもらうことになると思う」

「え……まてよ、どういう――」

「まぁその辺は、盗賊退治が終わってから話すよ。じゃあ戻ろうか」

 

 彼女は俺の言葉を遮って、それだけ言うと歩いていった。

 ……意味がわからなかったが、俺に守れというのであれば、それに従わない訳にはいかないだろう。

 

「あ、姐さん、レンさん! お、お疲れ様です!」

 

 馬車に戻ると、待っていたロロンがパッと明るい顔をして、出迎えてくれた。

 

「ただいま、ロロン」

「ただいま」

 

 俺とファニは返事をして、そのまま馬車に乗った。

 ほどなくしてロロンは馬車を走らせ、ストラトキャスター伯の城塞を後にしたのだった。

 

「ど、どうでしたか? 取引、上手くいきました?」

「う……」

 

 ロロンの問いかけに、俺は思わず言葉が詰まってしまった。

 どうやって答えたものか……ロロンの顔を見てみると、これがまあ目をキラキラさせて期待に満ちていることで。

 

 こんな状態の彼女に『あいつら反故にする気満々だよ! ついでにファニのことエロい目で見てたよ!』なんて言ったらどうなるか。

 ファニへの心酔具合に加えて、衛兵をやり過ごすときでさえ、初手で殺傷を考える子だ。

 そんな子に事の顛末を話したら最後……あぁ恐ろしや。

 

「大成功だったよ、ロロン。ほらこれ、伯爵のサインが入った書状」

 

 すると、なんとファニが臆面もなく、ロロンに言ってのけた。

 

「わ、わぁ! ホントだ! さ、さすがです姐さん!」

 

 ファニに差し出された書状を見て、ロロンは素直にはしゃいでいた。

 これ、いいのか? なんてことを思ってファニのほうを見ると、彼女は俺を見て、声を発さずに口だけを動かした。

 

『合わせて』

 

 口の動きだけでそう伝える彼女をよく見ると、頬から冷や汗が伝っていた。

 ……なんとなくだが、わかった。

 

 当然ながらファニは、俺より何倍もロロンとの付き合いが長い。

 俺が懸念していることに、彼女が気づかないはずもないのだ。

 

 何だったら、実際に何度かロロンの暴走を見たことがあるのだろう。

 普段は見せない真剣な眼差しが、俺にそれを否応なく理解させた。

 

「どうしたんですか、二人とも見つめ合って?」

「あ、あぁいや、何でもない」

「そ、そうそう、なんでもないよ、ロロン」

 

 ロロンの疑問に、俺とファニはそんなふうに誤魔化した。

 ただ誤魔化しきれてはいないようで、ロロンは訝しんだまま、横目で俺たちを見てる。

 ど、どうしたものか……。

 

「ほ、ほらロロン、他のみんなと合流しよう。野営地に向かって」

「……わ、わかりました」

 

 すると、ファニがいい感じにはぐらかしてくれて、ロロンは前に向き直ってくれた。

 よかった、とりあえずは助かったか……。

 

 しかしそれにしても、ファニはどうやって、連中に約束を守らせるつもりなのだろうか?

 武力や暗殺を匂わせて、伯爵を脅しでもするのだろうか。

 しかしだとしたら、『俺に守ってもらう』というのは、一体……?

 

 そんな疑問が俺の頭の中を、ぐるぐると駆け巡っていた。

 結局、目的の野営地に着いても、その疑問の答えはついぞ出ることはなかった。

 

 

 

 

 馬車に揺られてしばらく。

 俺たちはナワガカ荒野の中でも、とりわけ傾斜の多い場所の、谷の下側の方へと向かっていった。

 谷のほうを見ると、見知った顔が何人もいて、それぞれ野営の準備を進めていた。

 言ってしまえば、そこは酒溜まりの鼠(レザボア・ラット)の簡易的な拠点であった。

 

「つ、着きました」

 

 ロロンの言葉とほぼ同時に、馬車が止まる。

 

「ありがと、ロロン」

 

 ファニはそう言って、馬車から降りて、皆がいる野営へと向かっていった。

 彼女に続くように、俺とロロンも馬車から降りる。

 すると、ファニに向かって何人か――というよりほとんど――が彼女のもとに駆け寄ってくるのが見えた。

 

「ボス、お疲れ様です!」

「お疲れ様です姐さん!」

「……だから、いちいち出迎えなくていいって」

 

 手厚い歓迎に辟易するように、ファニはこめかみに手を添えた。

 この光景も、もはや見慣れたものになってきたかもしれない。

 

「取引は上手くいったんか、お嬢様?」

 

 すると、彼らの後ろの方から、モニカさんがファニに話しかけてきていた。

 特に大きな仕事だからか、普段は酒場に常駐しているモニカさんも、今回は俺たちに同行していた。

 

 曰く、『貴族共から金を巻き上げるのが私の仕事』とのことだ。

 なにやら俺たちとは別行動で、いろいろと悪だくみをしているらしい。

 

「まぁ、おおむね期待通り(・・・・)だよ。そっちは何か収穫あった?」

「そうだな、こんくらいか」

 

 と、モニカさんはファニに、一枚の紙切れを渡した。

 何の気なしに覗いてみると、そこにはなにやら、名前のようなものが何人分か書かれている。

 

「これは……?」

「ここ数日間に乗る予定の、キャラバンに乗る人たちのリストみたいだね」

「キャラバンのって、なんでまた?」

 

 ファニの答えに、そう聞き返した。

 ここのキャラバンが荷物だけではなく、 まだ人も乗せていたということは意外だった。

 けれど、なぜわざわざ乗る予定の人間を、こうやって記しているのだろうか?

 

「あのキャラバンはな、荷物の他に、ストラトキャスター伯に特別な香辛料を届けてんのさ」

「特別な香辛料?」

 

 モニカさんのその答えに、余計に謎が強まる。

 どうやら俺がわかっていないことに気づいたらしく、モニカさんは頭を掻いて、話し出した。

 

「そこに書いてあんのはな、みんな若い女ばっかだ。食うに困ったり、口減らしに捨てられたりした連中さ。そいつらが数日中に、伯爵に届けられる」

「……なるほど、香辛料(・・・)か」

 

 すると、ファニは察したらしく、親の仇でも見るような顔で、リストが書かれた紙を強く握った。

 

「まだわかんねえか、レン? そこに書かれてんのはな、伯爵へ献上されるスパイス(・・・・)だよ。僻地で勤労されてる領主様に癒しを……てな具合のな」

「あぁ……なるほど」

 

 そこまで言われて、ようやくモニカさんの言わんとすることが理解できた。

 なるほど、つまり、ストラトキャスター伯への奉公のために集められた女の子たち。

 言うなれば、『そういう目的』のために買われた子たち、ということだ。

 

 盗賊に狙われやすいキャラバンで輸送しているのは、単純にそれしか方法が無いからだろうか。

 それに、襲われて品物が消えるなんてのはしょっちゅうだろうから、何を運んでいるか(・・・・・・・・)なんて、いくらでも誤魔化すことができるのだろう。

 

 なんともまあ、お盛んなことに頭が回るものである。

 あの痩せこけたおっさんが、買われた女の子相手にハッスルしている様を想像してしまい、気分が悪くなってしまった。

 

「没落貴族の娘でもいりゃあ、助け出して恩を売れると思ったんだがな、残念なことに平民ばっかだ。放っておいていいだろう」

「み、見捨てるんですか!?」

 

 しれっとしたモニカさんの言葉に、ロロンが慌てたように反論した。

 すると、モニカさんは彼女を睨んだ。

 

「おいロロン、私たちはなんだ、弱気を助ける騎士団様か? ちげぇだろ、ただのチンピラの集まりだろうが」

「で、でも、だからって見捨てるなんて――」

「いいか、私たちは無償の奉仕(ボランティア)なんてしてる余裕はねえんだよ。そんなに人助けがしてえんなら、教会の懺悔室に行って、ジジイのマスカキ話でも聞いてやるんだな」

 

 モニカさんのその言葉を最後に、ロロンはただ「うぅ~ッ……!」と涙目で唸るだけで、それ以上反論しなくなった。

 しかしモニカさんも、ファニとは別の意味で口が回る人だな。

 

「ファニ、お前もだぞ」

 

 すると、モニカさんは、先ほどから険しい顔で黙っていたファニに向き直る。

 その言い方は、まるでくぎを刺すかのようだった。

 

「……なにがさ?」

「そいつらを解放したとしても、野垂れ死ぬ場所が盗賊のねぐらか領主のベッドか、その選択肢に荒野が加わるだけだ」

「じゃあ、なんでこんなリスト渡したのさ」

「その香辛料(・・・)どもと会ったときに、余計なことさせないためさ。いい加減現実を見ろよ、お嬢様」

 

 モニカさんの話に対して、しかしファニは何も言い返さなかった。

 ただ、悔しそうに唇をかんで、モニカを睨むだけにとどまっていた。

 

 こういうファニは珍しいようで、周りにいる仲間たちも、どこか気まずい雰囲気を出している。

 確かに、この妙に重い空気は、居心地が悪い。

 

 正直モニカさんの言うことは、冷酷だがもっともだと思う。

 彼女らを解放したところで、もはや帰る場所など、どこにもないのだし。

 俺としては、モニカさんの意見に同意する。

 

 しかし、もう少し言い方がなかったものか、とも思う。

 誰も一言も発せなくなって、いたたまれない空気になってしまっているし。

 うーん、気まずいなあ。

 

「……ん?」

 

 と、視線を泳がせていると、ふと香辛料(・・・)のリストの中に、見覚えがあるような名前が見えた。

 ……ウソだろ? まさか。

 

「ご、ごめんファニ、ちょっとそのリスト見せてくれ!」

「え? あ、うん……」

 

 困惑するファニからリストを奪って、その名前を凝視する。

 何度も目をこすって、瞬きをして、見間違いではないかと、半分そんな願望を抱きながら何度も見直す。

 

 けれど、そこに書いてあるのは間違いなく、知っている名前だった。

 

 

「……メルシー?」

 

 

 メルシー・ヴィレット。

 よく魔草巻を買いに行ってた、あの露店の店員。

 

 あの日あの酒場で、決別したはずの彼女の名前が、そこには書いてあった。

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