ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる   作:生カス

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16 襲撃と再会◆

 ――酒溜まりの鼠(レザボア・ラット)が領主と契約を結んでから、一日後。

 

 砂塵が舞い、太陽の熱が容赦なく地面を焼く荒野の中にて。

 熱された地を、大きな馬が十何頭も駆けている。

 

 その轟音は遠くまでよく響いて、豪快な馬の体躯と併せて、うら寂しい荒野の中で、存在を一等際立たせていた。

 よく見ると、その馬の集団は、ただの群れではないようだった。

 

 彼らには丈夫な縄のようなものが取り付けられており、その後ろにある、これまたひと際大きい、ちょっとした家屋と言えるくらいの馬車が繋がれていた。

 『キャラバン』と呼ばれるそれは、ここナワガカ荒野にあるナンショー海岸と、ヨーキトー王国の物流を担う巨大な輸送馬車である。

 

 とはいえ、盗賊が現れ頻繁に襲われる今となっては、とても『担う』という言葉を使えるほど、キャラバンは役割を果たせてはいない。

 盗賊に襲われるのがわかっているからか、もはや真っ当な税関検査など行われているはずもなく。

 輸送される品物も、特に珍しくない調度品や嗜好品など、最悪奪われても困らないもののみだ。

 

 そんな有様だからだろう、キャラバンはもはや、歪んだ欲望を持った王侯貴族たちのために、嗜好品や香辛料(・・・・・・・)を送る、配送サービスと化していた。

 届く確実性は低いが、だからこそお目こぼしされている、シークレットサービス。

 

 今この時、キャラバンに乗っている、あるいは載せられている彼女たちもまた、そんな品物(・・)たちであった。

 

 少女たちがキャラバンの中に、所狭しと詰められている。

 そんな中、少しでもスペースを節約するようにと、膝を立てて座らされているメルシー・ヴィレットは、虚ろな目をしていた。

 

 「……なんで」

 

 消え入るような声で、彼女はどこへともなく呟く。

 そんなことを、彼女はキャラバンに乗ってからずっと、何度も何度も繰り返していた。

 

 なんで、どうして。

 そんな答えの出るはずのない問いを、誰にでもなく、何度も何度も。

 

 なぜヨーキトーで露店の店員をしているはずのメルシーが、こんな場所にいるのか。

 その理由は、呆れかえるほどに単純なものだ。

 結論だけ先に言ってしまうと、メルシーは罪を犯したことになっており(・・・・・・・・)、その罰則――という体で行われている、貴族のお慰め(・・・)のための人員調達――の一環として奉公に行くことになってしまったのだ。

 

 きっかけもまたシンプルなものだった。

 レンが酒場から逃げたあの時、メルシーは彼と少しだけ話をした。

 当人たちからすれば、話したとすら言えない短いやり取りだったが、他人からはそうも見えなかったらしい。

 

 どのような悪意を持って伝わったのか、その場にいた誰かがその様子を見て、メルシーがレンの逃走を助けたということになってしまっていたらしい。

 そのせいでメルシーは逃走幇助(ほうじょ)の罪に問われ、ろくな裁判などもないまま、今に至るというわけだ。

 

 またその罪が、レンを捕まえ損ねた衛兵たちの失点を補うためだけにでっち上げられたものなのだが、それを彼女が知る由はなかった。

 

 

 

 

 ここ(キャラバン)に押し込められるまでの経緯を思い出しながら、メルシーがうわごとを繰り返して、果たしてどれほど経っただろうか。

 馬車に乗っている少女たちが時間の感覚もなくなってきたころ、不意に馬車が、大きな揺れと供に止まった。

 

 衝撃が起きた。

 魔法か何かがぶつかった、そんな音と共に。

 

「きゃあッ!?」

「なに、なによ!?」

 

 針でつついたように、うなだれていた少女たちが、一斉にパニックになる。

 それはメルシーも例外ではなく、頭を抱えて震えていた。

 

「もうやだ、やだよぉ……! 家に帰りたい……」

 

 そんな泣き言も、しかし聞くものは誰もいない。

 ただ彼女は、うずくまって震えるしかなかったのだ。

 

 そんな時だ。不意に、車内と外を隔てる扉が、勢いよく開かれた。

 メルシーは何事かと思ってそちらを向くと、ここに乗せられる前にも一瞬見た、キャラバンを護衛しているはずの兵士がいた。

 

「ようし落ち着け、落ち着けよお嬢さんたち。大丈夫だ、あるお人(・・・・)が品定めをするだけさ」

 

 そんなことを言って、御者の男はキャラバンの中へと入り、かと思えば扉のすぐ横で佇んだ。

 そしてすぐに後ろから、ぶっきらぼうな動きで入ってくる、大男が見えた。

 

「……へえ、結構上玉もいるじゃねえか」

 

 その大男は、薄汚れたコートと、顔を隠す煤けたマフラーを身に着けた、ガラの悪い印象だった。

 それに続いて、似たような格好の男たちが、何人も車内に入ってくる。

 

 メルシーはすぐに分かった。

 領主じゃない、あいつらは盗賊だ。

 

「あぁー、お嬢さん方、よく聞け」

 

 大男は帯刀しているサーベルを抜き、光のない目をして宣った。

 それは言外に、『騒いだら殺す』と言っていることが、メルシーにはすぐに分かった。

 

「これからお前たちの何人かは、俺たち『ワイルド・ギース』が貰い受ける」

 

 まるでそれが当然とでも言うように、盗賊の大男は言ってのけた。

 メルシーは意味がわからなかった。

 それは、他の少女たちも同様だろう。

 

 なぜこんなに堂々と、盗賊たちがキャラバンに入り込んでこれるのか。

 それどころか、あの兵士の様子を見るに、進んで盗賊たちを入れているようにさえ思える。

 一体、それは何故か?

 

奪りすぎ(・・・・)ないでくださいよ? 我々も今更、転職活動はしたくない」

「わかってるさ、『根こそぎは御法度、貞淑に』だ。こんないい餌場、わざわざ辞めさせる真似はしねぇよ」

 

 その答えは、兵士と盗賊のやり取りにある。

 盗賊といえど、何もキャラバンにあるものを、毎度毎度根こそぎ奪っていくようなことはしない。

 

 そんなことをしてしまえば、そもそもこのキャラバン自体が意味のないものとなって、廃止されてしまう。

 ある程度はしっかりと品物を届けさせて、輸送車の役割も最低限やってもらう。

 

 そうすることで、兵士たちは職にあぶれず、盗賊たちは定期的な餌場を手に入れられる。

 誰に言われるでもなく、利害の一致から、自然とこの形に落ち着いたのだ。

 無論、盗賊側が酷く有利なものであることは、間違いないが。

 

「よし立て、お嬢ちゃん方。おらさっさとしろ!」

 

 大男は、突然怒号をあげる。

 場を支配するため、あえてそうしているのだ。

 

 案の定、メルシーも含めた全ての少女たちが、怯えた声を上げながら、次々に立ち上がる。

 

「よしお前ら、好きに選べ。一人ひとつだぞ」

「こいつはいいや、このところご無沙汰だったからな」

「一番乳がでかいのはどいつだ? 俺に寄越せよ」

 

 すると盗賊たちは顔をニヤつかせながら、まるでウインドウショッピングでもするように、舐めるように少女たちを見た。

 頭からつま先のてっぺんまで見て、気に入った子がいれば、その子の首根っこを捕まえて連れて行った。

 

「やだ! やだやめて!お願い許し――ガハッ!?」

 

 その時に抵抗した少女は、腹を殴られ、黙らされた。

 メルシーはそれを見ながら、ガタガタと震えて、怯えることしかできなかった。

 

 盗賊のリーダーであろう大男が、だんだんとこちらに近づく。

 その品定めするような視線が、前にいる少女から、メルシーのところへ。

 

「ほう……」

 

 すると、そんな声を出して、大男はメルシーの目の前で止まった。

 

「おいお前、動くなよ」

「へ? な、なにを――」

 

 メルシーがそう聞き返そうとした、その時。

 大男は突然ナイフを取り出し、メルシーの衣服を下着ごと破り去った。

 

「ひっ!? や……」

「ふむ、ガキみてえな顔のくせに、そそる身体してるじゃねえか。高く売れそうだ」

 

 そんなことをぶつぶつと言いながら、大男は一糸纏わぬ姿となったメルシーの手首を掴む。

 彼女は直感で理解した。

 このまま連れてかれたら、人間としての一生が終わる。

 死ぬよりも辛い地獄が待っている、と。

 

「い……やだ、助けてッ……誰か! いやぁ!」

 

 彼女は必死に暴れるも、掴まれた腕は振り解ける気配もない。

 

「こりゃ活きがいいぜ。仕込み甲斐があるってもんだ」

 

 大男のそんな言葉も聞こえず、メルシーはパニックになりながら、届くはずのない助けを求めた。

 

「助け、助けて! お父さん、お母さん! 助けてよ――」

 

 そして彼女は、叫ぶ中で、()を思い出す。

 ずっと罪悪感に苛まれていた。

 自分の臆病さと弱さゆえに、陥れてしまった()を思い出し生き残りたいがために、許しを請うた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい! 怖かったんだよぉ! 謝るから、謝って償うから、だから――!」

「なんだ? おいおいショックでイかれちまったか?」

「お願い、助けて!」

 

 身勝手だ。そんなことはわかっていた。

 それでも彼女は、その名を呼ばずにはいられなかった。

 

「レン!」

 

 瞬間、破裂音。

 

 甲高い音が、キャラバンの中にこだました。

 何か硬いものが、壁を貫いたような、そんな音。

 

「ぐぁッ!」

 

 すると大男が、突然そんな呻き声をあげ、メルシーを掴んでいた手を離した。

 

「……え?」

 

 メルシーはその光景を唖然とした表情で見ていた。

 理解が追いついていないのだ。

 

 当然だろう。なんて、急に破裂音がしたと思ったら、大男の腕が、血まみれになっていたのだから。

 

「なに、が……」

 

 そう思いながら辺りを見回すと、メルシーはあることに気づいた。

 キャラバンの壁に、見覚えのないまるで鋭い(・・・・・)ものが貫いたような(・・・・・・・・・)穴が、わずかな焦げ臭さと共に、できていたことを。

 

「クソ、なんだ! 何が起きた!?」

 

 盗賊の大男は血だらけになった腕を抑えながらも、仲間たちに叫んだ。

 そして、それが合図になったかのように、甲高い衝撃音が、幾度となく響く。

 

 硬い何かが風を切り裂くような音が鳴るたびに、他の盗賊たちも叫び出す。

 

「痛ッテェ! なんだ!?」

「矢でも飛んできてんのか!?」

「んなわけあるか! どこに矢が刺さってるってんだよ!」

 

 盗賊たちは腕や足から血を流し、パニックになっていた。

 ただごとではない。そう感じ取った大男は、とっさに攻撃されたであろう方向に、メルシーを盾にするようにして立たせた。

 

「ひっ……!」

「動いたら喉元掻き切るからな……おいお前!」

 

 メルシーが逃げないよう首にナイフを突き立ててから、大男は叫ぶように扉の横に立っていた兵士を呼んだ。

 しかしながら兵士もまた、まるで予想だにしていなかったというように、外のほうを見て慌てていた。

 

「クッソ、あの話本当だったのかよ! 領主の野郎、どうせ何もできないっつってた癖に……!」

「んだと……? お前何か知ってんのか!?」

「い、いや、盗賊団(アンタら)用の討伐隊を雇ったって領主からお達しがあったんだ。でも、あんまり気にしなくていいって……」

 

 しどろもどろになりながらそんなことを言う兵士を無視して、大男は考える。

 

 ――俺たちに向けて討伐隊が結成されることは、特段おかしなことじゃない。

 まだあのアホ領主が俺たちの退治を諦めてなかった頃は、散々騎士団やら兵隊やらが来て、『お頭』と一緒に返り討ちにしたもんだ。

 決闘を挑んできた女騎士を返り討ちにして、犯してやったのがもはや懐かしい。

 

 だが、討伐隊が無駄だとわかってからは、キャラバンの荷物を一部俺たちに寄越すっていう、今の形式に落ち着いたはずだ。

 それがなぜ、今更。それにこの、得体のしれない魔法……。

 

 まさか、王国が出張ってきやがったのか?

 いや、それはない。こんな何もない僻地にこもっている俺たちを掃除したところで、連中に旨みなんぞないはずだ。

 

 連中は腐ってる。自分たちの利益にならんことは絶対にしないはずだ。

 しかし、じゃあ一体誰が――

 

「おいローグ! あれ見ろ!」

 

 不意に、大男は他の盗賊仲間から自分の名前を叫ばれ、思考を中断した。

 何事かと思い仲間のほうを見てみると、何やら狼狽えた様子で、キャラバンの外を指さしている。

 何事かと思い、大男は焦りながらもそちらに目を向ける。

 

「……なんだありゃぁ」

 

 大男は目を疑った。

 先ほどの正体不明の攻撃と同じ方向から、馬に乗った集団が、猛スピードでこちらに向かってきているのだ。

 数にして、十人か二十人ほど。

 それが、こちらに突っ込んで――

 

「し、死んでください!」

 

 と、集団の一番前にいる少女が、そう叫んだかと思いきや、勢いよく馬ごとキャラバンに乗り込んできた。

 

「グアァッ!?」

 

 ついでに、そこにいた盗賊の一人を踏みしだいて。

 

「おいロロン! あんまり無茶すんじゃねえぞ!」

「だ、大丈夫です! 私の愛馬(シルビア)は強いですから!」

「そういう問題じゃなくねえか?」

「お、オゾブさんたちも、どうぞご無事で!」

 

 ロロンと呼ばれた少女がそう言うと、オゾブと呼ばれた男は親指を立てて、キャラバンの前の方へと馬を走らせていった。

 確かそこには、外で待機している盗賊仲間たちがいたはずだと、大男は思い至った。

 

 なぜ外の仲間たちにも気づかれず、彼らはここまで接近してこれたのか。

 それはわからないが、それでも大男は、あることを直感で感じ取っていた。

 

 こいつらこそが、あの兵士の言っていた討伐隊。

 さっきの謎の攻撃をしてきた奴の、仲間だと。

 

「……面白れぇ、喜べテメェら! ぶん奪れるもんが増えたぞ! 返り討ちにしろッ!」

 

 すると大男は、外まで聞こえるような大声で叫んだ。

 一瞬の静寂。

 しかしそれが過ぎると、他の盗賊たちも鼓舞されたかのように、一斉に雄叫びを上げた。

 

 そして、戦いの火ぶたが切られた。

 いたるところから発生する叫び声、剣の衝突音、魔法の発射音。

 

 外からの激しい戦いの喧騒が聞こえる中。

 キャラバンの中は打って変わって静かだった。

 

 そこには、馬に乗ったロロンが一人と、それを固唾をのんで囲む、幾多の盗賊たち。

 そして、怯えながらただ成り行きを見守ることしかできない、少女達のみだった。

 

「……で? 俺たちはお前が相手してくれんのか? 綺麗なお馬さんに乗ったお嬢さんよ」

 

 挑発するように、大男はロロンに聞く。

 その際も彼はメルシーを離すことなく、万一不意打ちされたときのための『肉盾』代わりとして、自身の前へと立たせていた。

 

「た、助けて、お願い……!」

「……そ、その人を離して、服を着せて、帰ってください。なんて言っても、やってくれるわけないですよね」

 

 メルシーの助けを聞きながらも、ロロンは大男にそれだけ言って、続ける。

 

「わ、私がやると、女の人たちも巻き込みかねないとのことで、できません」

「そりゃおっかねえことだな。じゃあなんだ、お前も一緒に『お楽しみ』するか?」

 

 そう言いながら、大男はメルシーの露になった胸を揉みしだく。

 

「ひッ……う、うぅ……」

 

 メルシーの顔が不快感と恐怖で満たされ、大粒の涙をボロボロと零しだした。

 

「……た、多分挑発ですよね、それ? だ、大丈夫ですよ、そんなことしなくても」

「あぁ? どういう意味だ?」

「だ、だって多分、すぐ終わりますから(・・・・・・・・・)

 

 などと言って、自身の後ろ、ぶち破った入り口の方に目を向ける。

 なんだ? と大男は思いながら、そちらを目で追った。

 

 すると、そこからゆっくりと、一人の男が入ってきたのが見えた。

 まだ年の若い、けれどどこか気怠い感じの、頼りなさげな見た目の男。

 

 その男を見て、メルシーは目を見開いた。

 それは、知っている顔だったから。

 ここにいるはずのない、けれど思わず助けを求めてしまった、彼だったから。

 

「……れ、レン?」

「あぁー……えーとメルシー、そう、目に良い恰好してんね? ……あれ、ごめん、違う?」

 

 どこか、こんな状況とは不釣り合いな、酷くどもった、下手くそすぎる言葉選びで、メルシーに返事をした。

 かくしてレン・ユーリンは、盗賊たちと対峙したのだった。

 

 

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