ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる   作:生カス

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17 レンは自分で火をつけられない

 ――昨日のことだ。

 キャラバンに乗せられた少女たちのリスト――さらに言ってしまえば、伯爵が買った(・・・)女のリスト――の中にメルシーの名前を見つけたときは、正直かなり動揺したのを覚えている。

 当然と言えばそうだろう。なんたって、王都の中央広場で店員をしてる子が、なんでこんなところに名を連ねなければならないのか。

 

 さすがに俺の知り合いがリストにいたのは予想外だったのか、ファニやモニカさんも驚いていた。

 もっともモニカさんの反応は、驚いていたというには少々大げさで、実際には『へぇ』と意外そうにしていた程度だったが。

 

『あぁそうか、思い出したぜ。どっかで見た名前だと思ったら、酒場でお前の窃盗をでっち上げたやつだろう、こいつ?』

 

 モニカさんはけったくそが悪いといった表情で、俺に言った。

 ……いや待ってくれ、なんでそんなことを知っていんだ? あの日の酒場のことは、誰にも教えたことはないはずなんだが。

 

『……曲がりなりにも身内になる人間だ。身辺調査ぐらいするっつうの』

 

 と、そんな俺の疑問は顔に出てしまっていたらしく、モニカさんは俺を見ながら、そう答えた。

 なるほど、仲介者(フィクサー)と呼ばれるだけあって、関わる人間のことはしっかり調べ上げてるらしい。

 

『どうする、レン? 助けてあげるつもりは、ない?』

 

 すると、ファニがそんなことを聞いてきた。

 彼女には珍しく、どこか歯切れの悪い感じだった。

 

『そういうとこはいつまで経っても甘ったれだな、ファニお嬢様よ』

 

 しかしそれに答えたのは、モニカさんだ。

 この人も珍しく……はないが、いつにも増して棘があるというか、苛立っている言い方だった。

 

『知り合いだからって助けるメリットがねえのは変わんねえ。増して、この女はレンを陥れようとしたやつだ。レンは報復こそすれ助ける義理なんざねえよ』

『そうだけど、その一回で全てを見捨てる必要はないはずだよ』

『だから助けてやれってか?』

力ある者の責任(ノブレス・オブリージ)がある。モニカだって、昔は私にそう教えて――』

『いい加減にしろよ!』

 

 モニカさんは、突然に怒号を上げて、ファニの言葉を遮った。

 それはもはや、ファニの言葉にこれ以上耐えられない、とでもいうようで。

 

力ある者の責任(ノブレス・オブリージ)? よく言えたもんだな!? 責任(そんなもの)に振り回されたから、アンタの父様と母様は――』

 

 と、そこまで言ったところで、モニカさんは口を噤んだ。

 その顔はなぜか、『しまった』とでも言うように、青ざめていた。

 

 ファニは、それに何も言わない。

 ただ、どこか寂しそうに、モニカさんを睨んだ。

 

 正直なところ、モニカさんが何を言いかけて、そしてなんでファニがこんな顔をするのかは、俺にはわからない。

 横で右往左往しているロロンや他の仲間たちと同じく、俺もまた、成り行きを黙ってみることしかできなかった。

 そんな静寂が、数秒間。

 

『……すまない』

『いや、いい……で、レン、どうするの?』

 

 モニカさんの謝罪を受けたファニは、しかしはぐらかすように、俺に聞いてきた。

 どうする、というのは恐らく、メルシーを助けるか否か、ということだろう。

 

 これに関して俺の答えは、実はすでにもう出ていた。

 

 別に、ファニのように『なるべく助けるべき』なんて考えは持っていない。

 酒場でアリバイを嘘呼ばわりされたことを気にしてるわけではないが、かといって、わざわざ手間を使って助けるような義理もない。

 

 とはいえ、モニカさんのように『見捨てるべき』と強く思ってるわけでもない。

 何のことはない。こんなもの、難しく考えるようなものでもないのだ。

 

『タダじゃ助けねえよ』

 

 俺はただ一言、そう言った――。

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 

「あの、すいません。この中で火魔法を使える方っています?」

 

 一息ついて、キャラバンにいる人たちに聞いてみた。

 というのも、俺は今日も今日とて魔草巻用の火打石を忘れてしまったのだ。

 自分の物忘れのひどさにほとほと嫌気がさす。

 

 聞くだけ聞いてみた結果は、当然の如く全員が無反応。

 まぁ、こんな状況なら当たり前か……。

 

「……てめぇ、舐めてんのか?」

「あ、いやすいません、舐めてるつもりはないんですけど、ちょっと煙が切れちゃって……」

 

 盗賊のリーダー格っぽい、ひときわ大きい男が俺を睨んできた。

 怖いなぁ、あの人。見るからにヤンキーっぽいし、なんかメルシーの服ひん剥いて盾にしてるし。

 ああいうタイプの人って、無条件に恐いんだよな。

 

 ……こりゃさっさと終わらせた方がいいな。

 さっきからその、正直かなり目のやり場に困っているし。

 てか俺これ、後で覗きとかでメルシーに訴えられたりしないよね? いや訴えられなくてもとっくに札付きだけど。

 

「あぁ、メルシー?」

「れ、レン……! お願い、前のことなら謝るから、助け――」

「酒場の話ならどうでもいいんだけどさ。助ける代わりにいくつかお願いがあんだわ」

 

 そう言いながら、俺は魔草巻を咥える。

 そして、メルシーを盾にしている盗賊を、真っすぐと見た。

 

「まず、その……裸を見たのを勘弁してほしい、てことと、あと――」

「殺せ、お前ら!」

 

 俺の言葉を遮って、大男は仲間の盗賊たちに号令をかけた。

 うへぇ、話してる途中で怒鳴るの、びっくりするからやめて欲しいわ。

 

 さて、号令に合わせて、盗賊たちが一斉に襲い掛かってきた。

 一、二、三……五人か。

 

 全員強そうだし、人相も相まってちびりそうなほど怖い。

 俺なんか、このうちの一人とでもまともに戦ったら、片手間に秒で殺されるのは間違いない。

 

 そう、だから、俺はまともに戦わない(・・・・・・・・)

 

「これ終わったら、火ぃ貸してくれ」

 

 ポケットから、()を取り出す。

 この日のために用意した、先端に窪みがある(・・・・・・・・)鉄くずを、五つ。

 

 右腕を伸ばす。

 狙いを定める。

 あとは、魔法をかけるだけ。

 

 

 発動。発射。反動。反響。

 

 

 それが五回連続、五人分。

 二人は足に、二人は腿に、残る一人はわき腹に、それぞれ命中。

 全員、動脈にあたる部分。

 

 貫通はさせない、弾は肉にめり込む。

 今回使った弾は、それができる形状なのだ。

 

「がッ……あッ……!?」

 

 そんな詰まった悲鳴を上げたのは、撃った盗賊のうち誰だったか。

 悲鳴はすぐに野太い絶叫へと変わり、襲い掛かってきた五人全員が、床に転がった。

 

「な、なん……!?」

 

 絶叫を聞いた大男が、怯えたように狼狽えた。

 彼を怯ませられないかとあえて即死しない部分を撃ったが、効果はてきめんのようだ。

 あぁ、よかった。思ったより心理的負担に弱いタイプのようだ。

 これで仕事がやりやすくなればいいけど。

 

「あれ?」

 

 と、そんなとき、あることに気づいた。

 何の気なしに魔草巻が入ったポケットに手を入れると、そこには入っているべき魔草巻が、一本も入ってなかった。

 

 つまり今咥えてるこれが、最後のストック。

 ラスト一本、というわけだ。

 

「……あぁー、ごめんメルシー、追加でお願いが」

「え、ぇ……なに?」

「助けたらさ、また君んとこの魔草巻、売ってくんない?」

 

 ひょっとしたら、メルシーが捕まってたのは、逆に良かったかもしれない。

 無味無臭(プレーン)の銘柄、もう彼女のところでしか売ってないから。

 なんて、どこか不謹慎なことを考えてしまった。

 

 と、いけない。そんなことよりも今は、盗賊のことを考えなければいけないだろう。

 盗賊の大男を視界に捉えつつ、キャラバンの中を見渡してみる。

 見えるのは、俺が撃った五人の盗賊と、怯えながらじっとこちらを見ている女の子たちのみ。

 

 後ろは壁だから、考慮しなくていい。

 となると今ここで戦える盗賊は、あのおっかない大男一人と考えていいだろう。

 

「お前……お前一体なんだ!?」

「……え、お、俺すか?」

 

 急に大男に話しかけられ、思わず声が上擦ってしまった。

 いやだって、恐いし苦手なんだもの、あの手のタイプ。

 

 クラインとかもそうだったけど、あの手の輩というか、高圧的なタイプにはギルドにいたときに、散々いびられたからな。

 未だにそのトラウマが強い……。

 

 うぅ、話すの恐いなぁ……いっそのこと襲い掛かりでもしてくれりゃ、話さずに戦うだけで終われるのに。

 

「とぼけんじゃねえ! テメェ以外に誰がいるってんだ!」

「ま、まぁ、そうですよね……何だって言われてもな……」

 

 何だろうか?

 正直な話、名乗るほどの者でもないのだが、どうにもそれでは通じそうにないし。

 うーん……。

 

「あ、あの……律儀に答える必要あります?」

「……本当だ、ないわ」

 

 ロロンに耳打ちされて、俺は自分のアホさ加減をようやく自覚した。

 考えてみれば彼女の言う通りではないか。

 

 こちとら戦闘中で敵対中なのだ。

 ただの時間稼ぎかもしれない相手の問答をバカ正直に受け止めるなど、まさにバカもいいところではないか。

 

 危ない、相手の雰囲気に呑まれてしまっていたかも。

 さっさと決着をつけなくちゃいけない。

 そう思って、右手を大男に向けた。

 

「う、動くんじゃねえ! 動くとこの女の首を掻っ切るぞ!」

「ひぐッ……!」

 

 大男はそう言いながら、メルシーにナイフを突き立てる。

 しかしそれは逆に、彼がメルシーを人質にしなければならないほど、追い詰められているということを示していた。

 

 となれば、俺がやるべきことは、決まったと言っていいだろう。

 

「メルシー」

「え……?」

「目を閉じて、ここから出た後のことを考えていてくれ。なるべく楽しいことを」

 

 俺はメルシーにそう言うと、彼女は指示通り、縋るように泣き腫らした目をぎゅっと瞑った。

 できれば耳も塞いでほしいところだが、大男に拘束されてる手前、そうもいかないだろう。

 

 だが、少なくともこれで、メルシーは見えない(・・・・)

 見てしまって(・・・・・・)騒ぐことはない(・・・・・・・)

 

「……クソ、舐めやがって、舐めやがってぇッ!」

 

 すると、恐慌状態でパニックにでも陥ったのか、大男はナイフを大きく振りかぶって、せっかくの人質であるメルシーをぶっ刺そうとした。

 やっぱり、あの大声はおっかない。

 だが、助かった。

 

 これで話すことなく、決着をつけられる。

 

 大男はナイフを振り下ろす。

 俺は右手で男を狙う。

 場所は頭、致命の場所。

 魔法をかける。

 

 発動。反動。

 

 そのナイフが、メルシーの胸に迫った、その刹那。

 鉄くずは、大男の頭蓋を貫き。

 先端が空洞ゆえに、中で金属がひしゃげ。

 

 

 そして、咲いた(・・・)

 

 

「あッ……」

 

 そんな詰まったような声は、しかし大男の断末魔となった。

 メルシーを貫くはずだった凶刃は、そのすんでのところで止まる。

 ナイフが落ち、金属音が床に響いた。

 男にできた頭の穴から、血がぼたぼたと落ちていった。

 

「きゃあ! なに、なに……!?」

 

 肌に血が滴り落ちたメルシーは、やはりというか何というか、半分パニックの状態になってしまった。

 まずいな。これで今の惨状を見られたら、狂乱状態になって暴れ出しかねない。

 

「大丈夫だ、メルシー。大丈夫だから、目を開けないで――」

 

 と、言いかけたとき、絶命した大男がふらついて、メルシーの方に今にも倒れそうだった。

 危ない。そう思った俺は、とっさに彼女を自分の方に引き寄せた。

 

「きゃ……!? え、なに、レン?」

 

 彼女は混乱しながら目を開き、後ろのほう、つまり大男の死体がある方を振り向こうとしていた。

 おっと、まずい。

 

「こっちを見ろ、大丈夫だから」

 

 メルシーにあの死体を見せてはならない。

 そう思った俺は、とっさに彼女の後頭部を手で抑えて、そう言った。

 

 先ほどの状況を見るに、メルシーはもう恐怖でいっぱいいっぱいになっている。

 そんなときに、王都暮らしでは見慣れない死体でも見ようものなら、パニックになることは間違いないだろう。

 

 今一番避けたいのは、メルシーのパニックが他の子たちにも伝播することだった。

 せっかく襲撃が上手くいきそうなのに、騒がれて台無しにされたら、堪ったものではないのだから。

 

「え、あ……」

 

 すると、メルシーはそんな声を出して、俺を凝視した。

 どこか驚いたような、何かに気づいたような、そんな顔。

 興奮なのか、その顔は赤くなっていた。

 

 ……あれ、いやちょっと待て。

 この状態、かなりヤバくないか?

 

 今目の前にいるメルシーは、さっきの大男に服を切り裂かれ、素っ裸のまんま。

 それを俺は、結果的にとはいえ、抱いて胸の中に引き寄せるようなことをしてしまった。

 なにやら温かく、柔らかい感触が二つ押し付けられているのを、そこでようやく気付いた。

 

「す、すごいですねレンさん。魔草巻咥えながら殺って、しかもその後に女の子口説くなんて……アウトロー街道まっしぐらですよ」

「ち、違う、待ってくれ……!」

 

 そう、ロロンが――若干引いた感じで――言ってきた通り。

 今のこの状況を見れば、十中八九誰もが、俺がメルシーに手を出していると思うだろう。

 いや、下手をすれば、俺がひん剥いたと思われる可能性だってある。

 

 ……まずいぞ、このままじゃ死ぬ。

 そろそろファニもこっちに合流するって話だったはずだ。

 こんなところ彼女に見られたら、あらぬ誤解をされて、殺され――

 

「何やってんの?」

 

 突然、後ろから、酷く冷たい氷のような一声が、俺の耳を貫いた。

 俺はゆっくりと振り向いた。その様子は端から見れば、立て付けの悪い引き戸みたいに見えただろう。

 

 ファニが、そこにはいた。

 

「あ、姐さん、お疲れ様です!」

「お疲れロロン、おかげで外の首尾も上々だよ」

 

 ロロンに労りの言葉をかけつつ、しかしその目は、射殺すように俺と……なぜかメルシーの方にも向けられていた。

 

「……レンもお疲れ」

「お、お疲れファニ。とりあえず、乗っていた女の子たちは、全員無事だよ」

「それに関しては、本当にお手柄。ありがとう」

 

 ファニの顔は、とてもお手柄とかありがとうとか言うときの表情じゃない。

 めちゃめちゃ怒ってる。察しの悪い俺ですら、それを感じ取れるくらいだった。

 

「で? 守った女の子に手ぇ出せなんて言ってないはずだけど」

 

 ほらやっぱり怒ってた。

 絶対にまずいこれ。何とか弁明して、誤解を解かないと……。

 

「いや、これは、その……」

「あ、あの、レンこれ、火」

 

 すると、メルシーが密着した状態でそう言いながら、火魔法で指に火を点けた。

 いや、うん、それは言った。確かに魔草巻の火をくれと言ったけど、今はできればやめて欲しかった。

 

「む……」

 

 と、そんな声がファニの方から聞こえた。

 かと思えば、突然俺の目の前に、彼女は手を差し出してきた。

 びっくりした、なんだろう。

 

「……ほら、火」

 

 すると、ファニは不機嫌な顔をしつつも、指に火を点け、俺の魔草巻にくっつけた。

 

「ど、どうも」

 

 メルシーが火を持ってたのに、なんで、わざわざファニが?

 なんて疑問を今の彼女に言えるほど、俺は度胸がなかった。

 

 礼を言いながら、魔草巻に火を灯す。

 それを見て、思わず俺は上を向いて、煙を吐いた。

 目の前にいる二人から煙を遠ざけようという、無意識の遠慮がそうさせたのか。

 

「……じゃあ、どういう状況か教えてね? 全部」

 

 それとも、この場から少しだけでも逃げ出したい一心か。

 恐らく大部分が後者だろう。ファニの底冷えするような声を聞いて、そう思い至った。

 

 無味無臭(プレーン)だから当たり前のはずなのに、それでも最後の魔草巻は、いつも以上に味がしない気がした。

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