ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる   作:生カス

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21 ストラトキャスター・シーサイド①

 装備を整え、野営地を出発してから、しばらく経った頃。 

 荒野の中を走る馬車に、どのくらい揺られた頃だろうか。

 ふと、海の潮風の匂いが、鼻腔をくすぐった。

 

「レン」

 

 向かいに座っているファニが、俺を呼ぶ。

 その目は暗に、もうすぐ着くから準備しろ、と言っているように見えた。

 

「あぁ」

 

 俺はそれだけ言って、外を見た。

 するとそこには、まさに雄大と言っていい景色が広がっていた。

 

 ロロンの馬車が走っている場所が、やや高台に位置しているせいもあるだろう。

 目の前に広がるそれは、うら寂しさすら覚えるほどの平たんな荒野と、奥に見える水平線。

 まるで昔小説で読んだような、別の星のような景色だった。

 

「ず、ずいぶんと静かですね……生き物なんて、何もいないみたい……」

「私も事前に情報がなかったら、ロロンと同じことを思ってたかもね」

 

 率直な感想を述べるロロンに対し、ファニは同調するようにそう返した。

 正直なところ、俺も彼女達と同じことを思っていた。

 

 人どころか魔物一匹も生きられないような、広大で静かな荒野。

 こんなところが、本当に後数刻も経たないうちに、轟音飛び交う戦場になるのだろうか。

 そんな疑問を感じてしまうほど、その場所は静寂に支配されていた。

 

「けれど事実として、あと数分でキャラバンが来て、ここは戦場になる」

 

 すると、まるで俺の考えを読み取ったかのように、ファニはそう言った。

 いや、実際には、ロロンに行ったさっきのセリフの、続きを言っただけだろうが。

 

「私たちの役割は、ここで全体を見渡して、一秒でも早く盗賊の頭目を見つけて、やっつけること」

 

 そう、ファニの言う通り、ロロンが高台で馬車を走らせていたのは、そういう意味がある。

 今回の戦いのカギとしては、やはり一にも二にも、無数の魔物を操る頭目を無力化することにある。

 

 そのために、俺たちは他のメンバーとは別に、見晴らしの良いこの高台で、頭目を探し出す必要があるのだ。

 他のメンバーがキャラバンの周辺で戦っている間に、索敵や追跡の魔法、スキルに秀でたファニが探し当て、ロロンがそれに合わせて素早く馬車を移動させ、そして俺が、はじく魔法で頭目を仕留める。

 シンプルだが、他に有効な策もないだろう。

 とりわけ、罠のひとつも仕掛けられないような、こんな広大な荒野では。

 

「レン、準備はできてる?」

「あぁ、おかげさまでな」

 

 正直、まだ緊張はある。

 俺みたいな底辺が、こんな仕事を完遂できるのかという不安もある。

 

 だが、それをわざわざ言ってファニを不安にさせる必要はどこにもない。

 だから俺は、少し見栄を張って、メルシーから貰ったベルトを叩いて言った。

 

「……そのベルトは?」

 

 と、ファニはベルトのことが気になったみたいで、いぶかしむような目でそう聞いてきた。

 

「メルシーが作ってくれたんだ。本当、ありがたいよ」

「……ふぅん、良かったね?」

「あぁ、本当にすごいんだぜ、これ。はじく魔法用の弾も一緒に作ってくれてさ、あの子には感謝してもしきれないよ」

「……少し心を許しすぎじゃない? 一度はレンを裏切った相手なんだから、気を付けてよ」

 

 ファニは何だか、いきなり不機嫌になったような顔で、そんなことを言った。

 やっぱりまだ、彼女にとってメルシーは信用ならない人物なのかもしれない。

 

 まぁ、当然と言えば当然か。

 一度裏切ったやつは何度でも裏切るなんてのは、よく言われる話だ。

 組織をまとめ上げる立場のファニが慎重になるのは、むしろ当然の対応だろう。

 

「安心しなよ、少なくとも爆発魔法なんて仕掛けられてないさ」

「そういうことを言ってんじゃなくてさ……」

「うん? ……まぁ、メルシーのことなら、今のところは大丈夫だろう。俺たちを裏切っても、彼女にメリットなんかないはずだし」

 

 俺はなるべくファニを安心させるように、そう言った。

 とはいえ、これは事実だろう。

 

 仮に今メルシーが裏切って、俺たちに牙をむいたとして、なんの得があるというのか。

 そんなことをしても荒野に一人取り残されるか、盗賊連中の慰み者にされるのが精々だ。

 そんな状態で、彼女が裏切る道理などないはずだ。

 であれば、今それを考える必要はないだろう。

 

 ……と、思ってそう言ったのだが、どうやらファニは納得していないようだった。

 どこか呆れたように「はぁ……」とため息を吐かれてしまった。

 

「な、なに……?」

「いや……レンが変な女に目をつけられやすい理由が、少しわかったような気がする」

「え?」

「れ、レンさん――」

 

 どういうことだろうか? と思っていると、今度はロロンが話しかけてきた。

 

「お、女遊びするなら、せめて普通の子でお願いします。ゆ、勇者とか魔王様みたいなのにこれ以上来られたら、命がいくつあっても足りないので……」

「人聞きが悪すぎないか?」

 

 俺ロロンの中でそんなヤバい男になっていたの?

 酷い風評被害だ。こちとら女遊びどころから未だに童――失礼、未だに恋愛関係になった女性もいないというのに。

 

「ち、ちょっと待てよ、俺はそんなこと――」

「……待って」

 

 納得いかないと思って反論しようとすると、ファニが遠くを見て、そう言った。

 何かと思って俺もその方向を見る。

 ……理由がわかった。なるほど、楽しい雑談は終わりってわけだ。

 

「お待ちかねだよ。準備して」

「了解」

「り、了解!」

 

 ファニに言われ、俺とロロンはただそう返事をした。

 ロロンは馬車の速度を速め、待ち伏せをするためのポイントに移動する。

 

 何を待ち伏せするのか。

 それは今更言うまでもない。

 

 先ほど遠くに見えた、大量の土煙と、轟音。

 その中で走っている、酷く大規模なキャラバン。

 『餌』は出てきた。あとは、『獲物』が引っ掛かるのを待つのみだ。

 

「来た……!」

 

 キャラバンが起こす土煙が少し大きく見え始めたくらいに、ファニはそう声を上げた。

 目を凝らしてよく見ると、なるほど確かに、小さい影がキャラバンを囲むように点在していた。

 この距離ではあまり見えないが、それでも馬に乗った人間であることは、辛うじてわかる。

 ということは恐らく、件の盗賊たちだろう。

 

「魔物は?」

「見えない。魔物も一緒くたに来るものだと思ってたけど……」

 

 ファニは、まるで当てが外れたとでも言うように眉をひそめた。

 言われてみれば確かに、彼女の言う通り魔物の姿が見当たらない。

 

 他の場所から合流するのだろうか? いや、そんなことをしても、何のメリットもないはずだ。

 キャラバンを挟み撃ちにするにしたって――盗賊の頭目が完全に魔物をコントロールできるのであれば――盗賊と魔物で分ける意味がない。

 

「どういうことだ? 今回のキャラバンの襲撃、盗賊の頭は出てきてないってことか?」

「……確かに、ここ最近じゃ襲撃は常態化してるから、御者も全く抵抗せずに一部の荷物を明け渡して、通してもらってるらしいっていうのは聞いたけど」

「『襲撃』じゃなくて『徴収』になりつつあるってことか……なら、(やっこ)さんが出てこない可能性もあるわけだ」

「それはそう、だけど……」

 

 俺にそんな返事をしながら、ファニはどこか腑に落ちていないような表情をしていた。

 なにか、違和感を感じているのかもしれない。

 

「だとしたら、捕虜にした盗賊の話と、辻褄が合わない」

 

 ファニのその言葉を聞いて、俺はようやく思い出した。

 そうか、確かに。頭目が来ないのであれば、昨日の捕虜の話はなんだったんだ、という話になる。

 

 俺が直接聞いたわけじゃないが、少なくともファニとロロンが聞いた限りでは、盗賊の頭目が何百という魔物を操ってここに来るというのは、間違いないはずなのだ。

 捕虜が嘘をついている可能性も当然あるだろうが、だとしても、もっと俺たちに打撃を与えられるような嘘を吐くはずだ。

 わからない、一体何が――

 

「お、オゾブさんたちが出ました!」

 

 すると、ロロンがキャラバンとは別の方向を指さす。

 そこには別場所で待機していた、オゾブさんたち強襲部隊が、猛スピードでキャラバンへと迫っていた。

 

「あ、姐さんどうします? こ、このまま続行でよろしいですか?」

 

 少し困惑した様子で、ロロンはファニにそう聞いた。

 オゾブさんたちがこのタイミングで突入すること自体は予定通りだが、肝心の頭目の気配がない以上、俺たちが動くことはできない。

 どうするべきかと思いながら、俺はファニの判断を待った。

 

「ッ……続行しよう」

 

 悩んだ表情をしながらも、彼女はそう決断した。

 

「わ、わかりました!」

 

 そう言って、ロロンは袋から鏡を取り出して、それを空にかざす。

 太陽の反射を使って、オゾブさんたちにファニの指示を伝えるための行動だ。

 連続で二回光らせたら続行。三回なら撤退。

 今回は二回、続行だ。

 

「いいのか?」

「ここまで隠れる場所のない荒野で攻めあぐねていたら、逆に危ない。ここはむしろ相手を突いて、出方を見た方がいいと思う」

「狙撃の心配は? 遠距離魔法とかのさ」

「まず考えられない。レンじゃないんだからさ。万が一あったとしても、なおさら敵軍に紛れた方がいいはず」

 

 考えられない理由がいまいちわからなかったが、そこは一旦スルーすることにした。

 とはいえ確かに、キャラバンが走っている場所は、隠れる場所はおろか、日陰のひとつもない平たんな地形だ。

 

 不意打ち(アンブッシュ)を考えるのであれば、下手に身を隠す場所を探すより、いっそのこと盗賊団に紛れ込んじまったほうがいい、というのは理に適っている。

 仮に狙撃する奴がいたとしても、誤射を恐れて撃たないのであればよし。誤射を考えないろくでなしであっても、盗賊団を盾に使えばいい。

 どうにしろ、ここまで来たらもう、敵に突っ込むしかない。 

 

(さい)は投げられたんだ、進んでもらうしかない」

 

 ファニはそう言いながらも、やはりどこか、違和感をぬぐえない顔をしていた。

 やはり何か、嫌な予感がしているのだろうか。

 しかし、考えられる罠なんかないはずだ。

 

 待ち伏せできるような場所もないし。狙撃する奴も見当たらない。

 であれば、他に何があるだろうか?

 こんな場所で、不意打ちできるような、隠れられる場所があるとすれば。

 それは――

 

 

「……待って、これは」

 

 

 ファニがそう声を発した。

 すると、同時になにか、地鳴りのような音が響く。

 僅かな振動が、俺たちを襲った。

 

「な、なんだ、地震か?」

「ひ、ひえぇ……こんなときに――」

「これは、まさか――」

 

 間が一秒。

 次の瞬間、ファニは大声を上げた。

 

「しまった! ロロン! 撤退を――」

 

 ファニが言いかけた、その瞬間。

 

 

 けたたましい轟音と、急転直下の振動が来た。

 何事かと思った、次の瞬間。

 俺たちの周りの地面から、突如巨大なミミズが、何匹も姿を現していた。

 

 

「……へ?」

 

 ロロンのそんな、状況を理解できていない声は、今の俺たちの心情を表しているように思えた。

 時が止まったように、数秒の間が流れる。

 

 次の瞬間、甲高い咆哮が、巨大なミミズたちから発せられた。

 耳をつんざくような、甲高い不愉快な鳴き声。

 

「う、うわあぁぁ!?」

 

 我に返ったロロンが、そんな風に叫んだ。

 声にこそ出さなかったが――出せなかったが、俺も叫びたい気持ちでいっぱいだった。

 こいつは、一体……?

 

「……サンドワーム。そうか、この手が」

 

 ファニほうを見てみると、彼女は巨大なミミズを見ながら、忌々しそうに、その名を口にしていた。

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