ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる   作:生カス

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22 ストラトキャスター・シーサイド②

「サンド、ワーム……?」

 

 ファニから聞こえてきたその名前を、俺は思わず、オウム返しにそう聞き返した。

 状況から見た限り、この魔物――で合ってるよな?――の名前だろうけど。

 

「……普段は地中に生息している、Aランクの魔物だよ」

 

 俺の疑問を察したらしく、

 

「Aランク!? そりゃまたずいぶんと……」

「けど、いくらナワガカ荒野が魔物の巣窟だって言っても、こいつがいるのはあり得ないはず。一体……」

「ということは――」

「は、話してる場合じゃないですって! 来ます来ます!」

 

 すると、ロロンが割って入って、そう叫んできた。

 彼女の言葉とほぼ同時に、俺たちを囲った巨大ミミズ――サンドワームが一斉に、馬車へと襲い掛かってくる。

 図体のわりに、ずいぶんと素早い。

 ヒュドラといい魔王といい、最近はヘビみたいなやつを相手にしてばっかりだ。

 まずい、このままじゃ――

 

「レン!」

 

 ファニの言葉に、けれど俺は何も返さない。

 その代わりとでも言うように、身体が無意識に動き始めていた。

 

 右手をホルスターに。

 弾を込める。

 数は三匹。三発。

 右手を伸ばす。

 

 発射、衝撃。

 

 コンマ一秒の後、サンドワームの頭が爆ぜた(・・・)

 一瞬後にもう一匹、二匹。

 血の雨が降った。

 

「う、うわすげぇ……」

 

 俺は思わず、そんな言葉が漏れてしまう。

 以前よりも威力が格段に上がっているのだ。

 メルシーの作った弾が精巧だからか、はじく魔力の運動エネルギーを伝えやすくなっているのかもしれない。

 つくづく、すごいものを作ってくれたらしいな、彼女は。

 

「感激してる場合じゃないですって! 次来ますよ次!」

「うぉ!?」

 

 し、しまった、呆けていた。

 目の前を見れば、追加のサンドワームが襲ってきている。

 クソ、なんとか間に合わせ――

 

「『レイザー』!」

 

 すると、唐突にそんな声が聞こえた。

 その瞬間、一閃というにふさわしい閃光が、サンドワームに触れる。

 何かと思った、次の瞬間。

 

「ギッ……!?」

 

 サンドワーム共がそんな鳴き声を上げ、身体の上半分が真っ二つに裂けた(・・・・・・・・)

 それはまさに、切れ味のいい剣で切り裂かれたかのようで、綺麗とすら言える。

 

「な、なんだ、なにが……」

 

 あっけに取られていると、俺のすぐそばに、何かが降り立った。

 何事かと思って、そちらを見てみる。

 

「ふぅ……」

「ファニ……?」

 

 するとそこには、ファニがいた。

 何か、細身の美麗な剣らしきものを携えていて、服には僅かに血が付着している。

 

「ひょっとして今の、ファニが……?」

「馬車を早く出して! ここから離脱する!」

 

 俺の言葉を遮って、彼女はロロンに檄を飛ばした。

 

「は、はいぃ!」

 

 ロロンが返事をした瞬間、馬車は猛スピードでその場から走り出した。

 

「レンはサンドワームに注意! 外を見張って!」

「り、了解!」

 

 ファニにそう叫ばれ、俺は大急ぎで外の様子を見た。

 

「……まずい、キャラバンが」

 

 キャラバンの方向を見たとき、思わず俺は、そんな言葉が出てきてしまった。

 それはなぜか? その答えは明白だ。

 

 サンドワームが、キャラバンの周りに無数に出現していたのだ。

 その有様はまるで、昔本か何かで見た、イソギンチャクという生き物に似ている。

 実に悍ましい光景だった。

 

「ファニ! キャラバンのところ!」

「クソ……! ロロン! 撤退の合図を!」

 

 ファニは心底悔しそうな顔をして、ロロンに号令を出す。

 ロロンは間髪入れず、大慌てで鏡の取り出し撤退の合図をした。

 

「迂闊だった……まさか、サンドワームを従えてるだなんて……!」

 

 ファニはまるで、苦虫を噛み潰したような表情だった。

 無理もないだろう。今のところ俺たちは、見事なまでに敵の術中にはまったと言っていい。

 

 このままじゃジリ貧だ。

 撤退の指示を出したとはいえ、あんな化け物相手に、オゾブさんたちもどこまで逃げられるかわからない。

 このままじゃ最悪、全滅も……。

 

「……レン、ロロン。お願いがある」

 

 すると、ファニはなにやら、思い詰めたような顔でそう言った。

 

「な、なんでしょうか? と、特攻ですか? 姐さんの頼みなら、私は喜んで――」

「時間を稼いでほしい」

 

 ロロンが何やら物騒なことを言っているところに、ファニはそう被せた。

 

「時間って、どういうことだ?」

「最上級の探索魔法を使う。それでなんとか、サンドワームを操ってる盗賊の頭を見つけられるはず」

「さ、最上級探索魔法って、そんなもん使えるのか!?」

「うん、だけど、これを使うと、私は一切動けなくなる」

 

 俺はファニにそこまで言われて、ようやく彼女が何を言わんとしているのか、わかった気がした。

 彼女が身動きを取れない間、魔法を使う時間を稼がなければいけない。

 それはつまり――

 

「全力で、私を守って。できる?」

 

 そんな言葉を出すファニの顔は、しかし有無を言わさないものがあった。

 できないなんて言うことは、絶対に認めない――彼女の表情は、言外にそれを伝えてきていた。

 

「わ、わかりました! 姐さんは、命に代えても絶対に守ります!」

 

 ロロンはそう言って、フンと鼻息を鳴らす。

 さすがにファニの忠犬だ。彼女だったら、本当に自分を代償にしてでもファニを守るだろうことが、容易に想像できた。

 

「……レンは?」

 

 ファニは俺にそう聞く。

 彼女のその顔はなぜか、不安そうに見えた。

 断られるとでも、思っているのだろうか。

 

「……ボスはアンタだ。俺は命令(オーダー)に従うだけだよ」

 

 俺はそれだけ言った。実際、それだけで十分だと思った。

 絶対に守ってやるなんて、無責任なことは言えない。

 ただやるなら、ロロンと同じく、命懸けでだ。

 それ以外の選択肢など、あるはずもない。

 

「……ありがとう」

 

 そう言って、ファニは馬車の床に伏せ、詠唱を始めた。

 

 さて、後ろには大量のサンドワーム。

 対してこちらの戦力は、馬車と射手ひとりのみ。

 ファニが盗賊の頭を見つける前に馬車が破壊されたら、その時点でゲームセット、敗北となる。

 

 楽しい鬼ごっこのスタートだ。

 

「来ます!」

 

 ロロンの声と同時に、後ろからサンドワームが大量に押し寄せてきた。

 数にして、一、二、三……すげえな、数えきれない。

 これは一旦、距離を開けた方が得策だ。

 

「馬車の速度上げれるか!?」

「これ以上って、レンさん狙えるんですか!?」

 

 ロロンのそんな問いに返事をする前に、サンドワームが近づいてきた。

 動けないファニをめがけて、一直線に来ている。

 自分のご主人様を探してることに気づいたのだろうか。勘の良い奴だ。

 

「させるかよ」

 

 間髪入れずにホルスターから弾を取り出し、俺はワームめがけて撃った。

 一、二、三、四……。

 六匹目の頭をぶち抜いたところで、再装填。

 七、八、九、十匹。

 

 ぶち抜くたび、馬車が奴らの血に塗れ、砂と混じったそれが、口に入る。

 あぁクソ、しんどいな。

 

「これが答えになるか!?」

「わ、わかりました! 振り落とされないでくださいよ!」

 

 速度を上げても命中率に問題はないとわかってもらえたらしい。

 ロロンは俺に行ったと同時に、馬車のスピードを爆発的に上げた。

 

 だがその瞬間、図ったようにサンドワームが馬車の前に這い出てきた。

 このままだと、激突する。

 

「レンさん!」

「わかった!」

 

 すかさずロロンの肩から右手を突き出し、目の前のワームを狙う。

 

「少し耳痛むぞ」

 

 ロロンにそう言って、すかさず、はじく魔法を発射した。

 音なんて、ワーム共の出す轟音で聞こえやしない。

 それでも衝撃が指に走る。

 それが数回。

 

 その瞬間、目の前が鮮血に染まった。

 血まみれのその先には、荒野の景色。

 

「突っ込め!」

「う、うわぁぁ!」

 

 ロロンは叫びながらも、しっかり馬車を加速させる。

 馬車が、ワームに開いた穴に突っ込んだ。

 肉を踏みしだくような不愉快な音と共に、顔にべちゃりと血が付着する。

 

 それと共に、着地をしたような衝撃に襲われる。

 目の前を見ると、先ほどいたワーム共はいない。

 どうやら、無事に貫通(・・)できたようだ。

 

「う、うえぇ、気持ち悪い……」

「クソ……一張羅が台無しだ」

 

 ロロンと一緒にそんな愚痴を呟きながら、後方に目を向ける。

 ……やっぱり、サンドワームの数は減っていない。

 むしろ増えていないか、あれ?

 

「ロロン、まだいけるか?」

「あ、当たり前です! 姐さんを守れるんなら、疲労で死んだってかまいません!」

「そりゃ、頼もしいこって……」

 

 ロロンにそう言いながらファニの方に目を向けてみると、そこには先ほどと変わらず、微動だにせず馬車の床に座っているファニがいた。

 最上級の探索魔法って話だった。あの様子じゃまだ、時間がかかりそうだ。

 

 ロロンはああ言ってはくれたが、彼女の様子を見るに、あまりその言葉を当てにはできそうになかった。

 彼女の顔には、疲労の色が目に見えて浮き出ていたのだ。

 

 これは言わずもがな、ロロンのスキルと魔法によるものだろう。

 彼女はサンドワームから逃れるために、大量の魔力で自身の愛馬(シルビア)に強化付与を行っている。

 この強化付与を行った愛馬は、とても馬とは思えない速度で走ることができるが、その速度の分、ロロンの魔力を消費することになる。

 

 サンドワームの速度はかなり速く、またその数も多い。

 その分ロロンが魔力を消費するペースは普段の比ではなく、となれば当然、あっという間に魔力切れを起こすことになる。

 

 ロロンが魔力切れを起こした場合、俺が踏ん張って、彼女ら二人を守るしかない。

 できるかできないかではなく、それをやるしかないのだ。

 

「は、はぁッ……まだまだ来ます! 行きま――」

 

 と、ロロンが言いかけたその瞬間。

 不意に、馬車の下から何か、音がした。

 なんだ、今のお――

 

 

 瞬間、衝撃。痛み。そして、上下の反転(・・)

 次の瞬間、目に広がったのは、空だった。

 

 

「……え?」

 

 俺とロロンの声が、重なった。

 浮遊感が、身体を襲った。

 そして、次の瞬間。

 

 自分たちの身体は、落下を始めた。

 

「うおぉ!?」

「そ、そんなぁ!」

 

 俺とロロンは、ようやく状況を理解した。

 下を――地面のほうを見ると、そこには横転して破壊された馬車と、巨大な口を開けた、サンドワーム。

 あの野郎、かちあげ(・・・・)やがったんだ。

 馬車ごと、俺たちを。

 

「クソ野郎!」

 

 俺はすぐさま、真下にいるサンドワームをはじく魔法で撃った。

 弾はワームの口の中にクリーンヒットし、断末魔を上げて地に伏した。

 ざまぁみろだ。

 

「あ、姐さん!」

 

 ロロンが、そんな悲痛な叫びをあげた。

 彼女が向いている方に目を向けると、俺のすぐ隣に、ファニが落っこちているのがわかった。

 

 目を閉じて、微動だにしていない。

 クソ、まだ魔法が終わっていないんだ。

 

「クッソ!」

 

 俺は思わず、ファニを引き寄せて、抱きかかえた。

 すかさず、俺を下側にして、地面に激突した時の衝撃が、少しでも衝撃が俺に回るようにする。

 

 けれど……クソ、この高さじゃ、焼け石に水だ。

 ダメだ、落ち――

 

 

「見つけた」

 

 

 そんな声が、自分の胸の中から聞こえた。

 何かと思って、声がしたほうを見てみる。

 すると、そこには、目を開けて、こちらを見ているファニの姿があった。

 見つけたって、つまり……。

 

「レン、ロロン」

 

 すると、彼女は不敵に笑って、続けた。

 

「落下はなんとかできるから、今はこっちに集中して」

「なんとかって……いや、わかった」

 

 俺は喉元まで出かかった疑問にふたをして、ファニの言葉に従うことにした。

 彼女が何とかできると言っているのだ。どうせこのままだと死ぬだけなら、それを信じるしかないだろう。

 

「弾を込めて、レン。一発でいい」

 

 彼女にそう言われ、すかさず俺は、ホルスターから一発、弾を右手に込めた。

 

「よし」

 

 ファニはそれを確認すると、俺の手を掴んで、とある方向に伸ばした。

 

「あっちだ。最大出力で撃って」

「了解」

 

 俺は、ファニの言葉に従って。

 全部の魔力を使い切るつもりで、はじく魔法を、その方向に放った。




いつも読んでいただき誠にありがとうございます。
こちらの作品に関しまして、私生活や他作品の更新との兼ね合いなどの事情により、しばらくの間休載させていただきます。
大変ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんが、よろしくお願い申し上げます。
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