ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる 作:生カス
「サンド、ワーム……?」
ファニから聞こえてきたその名前を、俺は思わず、オウム返しにそう聞き返した。
状況から見た限り、この魔物――で合ってるよな?――の名前だろうけど。
「……普段は地中に生息している、Aランクの魔物だよ」
俺の疑問を察したらしく、
「Aランク!? そりゃまたずいぶんと……」
「けど、いくらナワガカ荒野が魔物の巣窟だって言っても、こいつがいるのはあり得ないはず。一体……」
「ということは――」
「は、話してる場合じゃないですって! 来ます来ます!」
すると、ロロンが割って入って、そう叫んできた。
彼女の言葉とほぼ同時に、俺たちを囲った巨大ミミズ――サンドワームが一斉に、馬車へと襲い掛かってくる。
図体のわりに、ずいぶんと素早い。
ヒュドラといい魔王といい、最近はヘビみたいなやつを相手にしてばっかりだ。
まずい、このままじゃ――
「レン!」
ファニの言葉に、けれど俺は何も返さない。
その代わりとでも言うように、身体が無意識に動き始めていた。
右手をホルスターに。
弾を込める。
数は三匹。三発。
右手を伸ばす。
発射、衝撃。
コンマ一秒の後、サンドワームの頭が
一瞬後にもう一匹、二匹。
血の雨が降った。
「う、うわすげぇ……」
俺は思わず、そんな言葉が漏れてしまう。
以前よりも威力が格段に上がっているのだ。
メルシーの作った弾が精巧だからか、はじく魔力の運動エネルギーを伝えやすくなっているのかもしれない。
つくづく、すごいものを作ってくれたらしいな、彼女は。
「感激してる場合じゃないですって! 次来ますよ次!」
「うぉ!?」
し、しまった、呆けていた。
目の前を見れば、追加のサンドワームが襲ってきている。
クソ、なんとか間に合わせ――
「『レイザー』!」
すると、唐突にそんな声が聞こえた。
その瞬間、一閃というにふさわしい閃光が、サンドワームに触れる。
何かと思った、次の瞬間。
「ギッ……!?」
サンドワーム共がそんな鳴き声を上げ、身体の上半分が
それはまさに、切れ味のいい剣で切り裂かれたかのようで、綺麗とすら言える。
「な、なんだ、なにが……」
あっけに取られていると、俺のすぐそばに、何かが降り立った。
何事かと思って、そちらを見てみる。
「ふぅ……」
「ファニ……?」
するとそこには、ファニがいた。
何か、細身の美麗な剣らしきものを携えていて、服には僅かに血が付着している。
「ひょっとして今の、ファニが……?」
「馬車を早く出して! ここから離脱する!」
俺の言葉を遮って、彼女はロロンに檄を飛ばした。
「は、はいぃ!」
ロロンが返事をした瞬間、馬車は猛スピードでその場から走り出した。
「レンはサンドワームに注意! 外を見張って!」
「り、了解!」
ファニにそう叫ばれ、俺は大急ぎで外の様子を見た。
「……まずい、キャラバンが」
キャラバンの方向を見たとき、思わず俺は、そんな言葉が出てきてしまった。
それはなぜか? その答えは明白だ。
サンドワームが、キャラバンの周りに無数に出現していたのだ。
その有様はまるで、昔本か何かで見た、イソギンチャクという生き物に似ている。
実に悍ましい光景だった。
「ファニ! キャラバンのところ!」
「クソ……! ロロン! 撤退の合図を!」
ファニは心底悔しそうな顔をして、ロロンに号令を出す。
ロロンは間髪入れず、大慌てで鏡の取り出し撤退の合図をした。
「迂闊だった……まさか、サンドワームを従えてるだなんて……!」
ファニはまるで、苦虫を噛み潰したような表情だった。
無理もないだろう。今のところ俺たちは、見事なまでに敵の術中にはまったと言っていい。
このままじゃジリ貧だ。
撤退の指示を出したとはいえ、あんな化け物相手に、オゾブさんたちもどこまで逃げられるかわからない。
このままじゃ最悪、全滅も……。
「……レン、ロロン。お願いがある」
すると、ファニはなにやら、思い詰めたような顔でそう言った。
「な、なんでしょうか? と、特攻ですか? 姐さんの頼みなら、私は喜んで――」
「時間を稼いでほしい」
ロロンが何やら物騒なことを言っているところに、ファニはそう被せた。
「時間って、どういうことだ?」
「最上級の探索魔法を使う。それでなんとか、サンドワームを操ってる盗賊の頭を見つけられるはず」
「さ、最上級探索魔法って、そんなもん使えるのか!?」
「うん、だけど、これを使うと、私は一切動けなくなる」
俺はファニにそこまで言われて、ようやく彼女が何を言わんとしているのか、わかった気がした。
彼女が身動きを取れない間、魔法を使う時間を稼がなければいけない。
それはつまり――
「全力で、私を守って。できる?」
そんな言葉を出すファニの顔は、しかし有無を言わさないものがあった。
できないなんて言うことは、絶対に認めない――彼女の表情は、言外にそれを伝えてきていた。
「わ、わかりました! 姐さんは、命に代えても絶対に守ります!」
ロロンはそう言って、フンと鼻息を鳴らす。
さすがにファニの忠犬だ。彼女だったら、本当に自分を代償にしてでもファニを守るだろうことが、容易に想像できた。
「……レンは?」
ファニは俺にそう聞く。
彼女のその顔はなぜか、不安そうに見えた。
断られるとでも、思っているのだろうか。
「……ボスはアンタだ。俺は
俺はそれだけ言った。実際、それだけで十分だと思った。
絶対に守ってやるなんて、無責任なことは言えない。
ただやるなら、ロロンと同じく、命懸けでだ。
それ以外の選択肢など、あるはずもない。
「……ありがとう」
そう言って、ファニは馬車の床に伏せ、詠唱を始めた。
さて、後ろには大量のサンドワーム。
対してこちらの戦力は、馬車と射手ひとりのみ。
ファニが盗賊の頭を見つける前に馬車が破壊されたら、その時点でゲームセット、敗北となる。
楽しい鬼ごっこのスタートだ。
「来ます!」
ロロンの声と同時に、後ろからサンドワームが大量に押し寄せてきた。
数にして、一、二、三……すげえな、数えきれない。
これは一旦、距離を開けた方が得策だ。
「馬車の速度上げれるか!?」
「これ以上って、レンさん狙えるんですか!?」
ロロンのそんな問いに返事をする前に、サンドワームが近づいてきた。
動けないファニをめがけて、一直線に来ている。
自分のご主人様を探してることに気づいたのだろうか。勘の良い奴だ。
「させるかよ」
間髪入れずにホルスターから弾を取り出し、俺はワームめがけて撃った。
一、二、三、四……。
六匹目の頭をぶち抜いたところで、再装填。
七、八、九、十匹。
ぶち抜くたび、馬車が奴らの血に塗れ、砂と混じったそれが、口に入る。
あぁクソ、しんどいな。
「これが答えになるか!?」
「わ、わかりました! 振り落とされないでくださいよ!」
速度を上げても命中率に問題はないとわかってもらえたらしい。
ロロンは俺に行ったと同時に、馬車のスピードを爆発的に上げた。
だがその瞬間、図ったようにサンドワームが馬車の前に這い出てきた。
このままだと、激突する。
「レンさん!」
「わかった!」
すかさずロロンの肩から右手を突き出し、目の前のワームを狙う。
「少し耳痛むぞ」
ロロンにそう言って、すかさず、はじく魔法を発射した。
音なんて、ワーム共の出す轟音で聞こえやしない。
それでも衝撃が指に走る。
それが数回。
その瞬間、目の前が鮮血に染まった。
血まみれのその先には、荒野の景色。
「突っ込め!」
「う、うわぁぁ!」
ロロンは叫びながらも、しっかり馬車を加速させる。
馬車が、ワームに開いた穴に突っ込んだ。
肉を踏みしだくような不愉快な音と共に、顔にべちゃりと血が付着する。
それと共に、着地をしたような衝撃に襲われる。
目の前を見ると、先ほどいたワーム共はいない。
どうやら、無事に
「う、うえぇ、気持ち悪い……」
「クソ……一張羅が台無しだ」
ロロンと一緒にそんな愚痴を呟きながら、後方に目を向ける。
……やっぱり、サンドワームの数は減っていない。
むしろ増えていないか、あれ?
「ロロン、まだいけるか?」
「あ、当たり前です! 姐さんを守れるんなら、疲労で死んだってかまいません!」
「そりゃ、頼もしいこって……」
ロロンにそう言いながらファニの方に目を向けてみると、そこには先ほどと変わらず、微動だにせず馬車の床に座っているファニがいた。
最上級の探索魔法って話だった。あの様子じゃまだ、時間がかかりそうだ。
ロロンはああ言ってはくれたが、彼女の様子を見るに、あまりその言葉を当てにはできそうになかった。
彼女の顔には、疲労の色が目に見えて浮き出ていたのだ。
これは言わずもがな、ロロンのスキルと魔法によるものだろう。
彼女はサンドワームから逃れるために、大量の魔力で自身の
この強化付与を行った愛馬は、とても馬とは思えない速度で走ることができるが、その速度の分、ロロンの魔力を消費することになる。
サンドワームの速度はかなり速く、またその数も多い。
その分ロロンが魔力を消費するペースは普段の比ではなく、となれば当然、あっという間に魔力切れを起こすことになる。
ロロンが魔力切れを起こした場合、俺が踏ん張って、彼女ら二人を守るしかない。
できるかできないかではなく、それをやるしかないのだ。
「は、はぁッ……まだまだ来ます! 行きま――」
と、ロロンが言いかけたその瞬間。
不意に、馬車の下から何か、音がした。
なんだ、今のお――
瞬間、衝撃。痛み。そして、上下の
次の瞬間、目に広がったのは、空だった。
「……え?」
俺とロロンの声が、重なった。
浮遊感が、身体を襲った。
そして、次の瞬間。
自分たちの身体は、落下を始めた。
「うおぉ!?」
「そ、そんなぁ!」
俺とロロンは、ようやく状況を理解した。
下を――地面のほうを見ると、そこには横転して破壊された馬車と、巨大な口を開けた、サンドワーム。
あの野郎、
馬車ごと、俺たちを。
「クソ野郎!」
俺はすぐさま、真下にいるサンドワームをはじく魔法で撃った。
弾はワームの口の中にクリーンヒットし、断末魔を上げて地に伏した。
ざまぁみろだ。
「あ、姐さん!」
ロロンが、そんな悲痛な叫びをあげた。
彼女が向いている方に目を向けると、俺のすぐ隣に、ファニが落っこちているのがわかった。
目を閉じて、微動だにしていない。
クソ、まだ魔法が終わっていないんだ。
「クッソ!」
俺は思わず、ファニを引き寄せて、抱きかかえた。
すかさず、俺を下側にして、地面に激突した時の衝撃が、少しでも衝撃が俺に回るようにする。
けれど……クソ、この高さじゃ、焼け石に水だ。
ダメだ、落ち――
「見つけた」
そんな声が、自分の胸の中から聞こえた。
何かと思って、声がしたほうを見てみる。
すると、そこには、目を開けて、こちらを見ているファニの姿があった。
見つけたって、つまり……。
「レン、ロロン」
すると、彼女は不敵に笑って、続けた。
「落下はなんとかできるから、今はこっちに集中して」
「なんとかって……いや、わかった」
俺は喉元まで出かかった疑問にふたをして、ファニの言葉に従うことにした。
彼女が何とかできると言っているのだ。どうせこのままだと死ぬだけなら、それを信じるしかないだろう。
「弾を込めて、レン。一発でいい」
彼女にそう言われ、すかさず俺は、ホルスターから一発、弾を右手に込めた。
「よし」
ファニはそれを確認すると、俺の手を掴んで、とある方向に伸ばした。
「あっちだ。最大出力で撃って」
「了解」
俺は、ファニの言葉に従って。
全部の魔力を使い切るつもりで、はじく魔法を、その方向に放った。
いつも読んでいただき誠にありがとうございます。
こちらの作品に関しまして、私生活や他作品の更新との兼ね合いなどの事情により、しばらくの間休載させていただきます。
大変ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんが、よろしくお願い申し上げます。