ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる 作:生カス
「いたぞ、逃がすな!」
「賊を発見した! 応援をよこしてくれ!」
ダンジョンのボスを倒してホッとしたのも束の間。
あっという間に大量の衛兵がダンジョンに流れ込んできて、俺たちはあっさり見つかった。
今は何とか逃げているものの、正直なところ限界だった。
主に俺の体力が。
「ほらレン、早く!」
「つ、捕まっちゃいますよ! スピード上げてください!」
「ま、待って……死ぬッ……」
ファニとロロンに叱咤されるも、それで足が速くなるわけでも当然なく。
とはいえ捕まったら終わりなのも事実なので、俺は何とかファニ達に置いていかれないよう、死に物狂いで走っていた。
不幸中の幸いだったのは、発見されたときには、既にダンジョンの出口付近まで到着していたってことくらいか。
出口まで行けば大丈夫だってファニは言ってたが、本当なんだろうか?
正直、足も限界なので、彼女の策に賭けるしかないのだが。
「よし着いた!」
なんてことを考えている間に、ファニの言う通り出口に到着した。
だが……。
「出てきたぞ! あそこだ!」
「囲め囲め! 逃がすなよぉ!」
当たり前の如く、そこにもたくさんの衛兵が待ち構えていた。
後ろからも、追手は未だに迫ってきている。
挟み撃ちにされた。
「おいおいおい……たかだか三人に大げさすぎだろ」
「それだけ、ここのダンジョンには入れたくなかったってことだろうね」
「どうする? このままじゃ袋のネズミだ」
そう聞くと、ファニは笑みをつくって、ロロンのほうを見た。
「ロロン、お願い」
「は、はい! 姐さん!」
何をするつもりだ? なんて考えてると、ロロンはおもむろに口笛を吹いた。
遠くまで響くような、通りのいい音だ。
――なんてことを考えていると、異変はすぐに現れた。
「う、うわぁ!?」
どこかで衛兵が叫んでいるのが聞こえた。
何かと思ってそちらを振り返る。
「な、なんだありゃ馬車か!?」
「散れ散れ! 轢かれるぞッ!」
そんな衛兵たちの怒号とともに現れたのは、俺たちが行きに乗った馬車だった。
馬車はあっという間に衛兵を突っ切り、こちらに突っ込んでくる。
「乗ってください!」
ロロンが叫ぶが、ファニはすでに馬車の荷台に乗っていた。
「レンさんも早く!」
「あ、あぁ!」
慌てて俺も荷台に乗る。
直後にロロンが御者席に飛び移る。
「行こう、シルビア!」
「うおぉ!?」
馬の名であろうそれをロロンが叫ぶと、馬車は急発進して、凄まじい加速をしていった。
危うくむち打ちしそうになった。本当に馬車かこれ? とても一頭の馬から出てくる加速とは思えない。
「な、なんだあの馬車!? 止められないぞ」
「くそったれの盗人どもが! 騎馬隊は馬に乗って追跡しろ!」
衛兵からそんな声が聞こえてくる。
やっぱりとでも言えばいいのか騎馬隊はいるようで、後ろを見ると、何人かが馬に乗ってこちらを追ってきていた。
「ロロン、振り切れる?」
「は、はい! このまま森に入って突っ切れば、撒けると思います! ただ――」
と、ロロンが言いかけた瞬間、馬車から何かぶつかったような音がした。
「な、なんだ?」
見てみると、ボウガンの矢が刺さっていた。
それを皮切りに、矢の雨がガンガンこちらに降り注いできた
「うわうわうわ!」
ロロンの焦る声が聞こえた。
まあ当然、弓兵や弩兵もいるわな。とはいえ、この量はかなりきつい。
後ろからは馬車の装甲で守られているが、矢が一つでも馬に当たったら、こちらはアウトだ。
「……なるほど、飛び道具は何とかしなきゃだね。レン」
同じことを考えていたらしく、ファニは俺を呼んだ。
おおよそ、何を言いたいかはわかっていた。
「はじく魔法で飛び道具を持った騎兵隊を射落として。私は派手な攻撃魔法で陽動する」
「了解」
それだけ言って、俺はポケットから石ころを取り出す。
騎兵隊相手なら、馬を転倒させればそれで撒けるはず。
ここからが正念場だ。
「……いや、待って」
すると、ファニからそんな声が聞こえた。
どこか困惑したような、そんな声。
「なんだ、どうした?」
そう聞いた、次の瞬間、彼女がなぜそう言ったのかがわかった。
追ってきている騎兵隊を見てみると、何か様子がおかしい。
……そうだ、矢の雨が突然止んだ。
衛兵たちは変わらず追ってきてはいるが、先ほどとは何か違う。
追いつこうというよりは、遠巻きにこちらを様子見しているような、そんな感じ。
まるで、何かを待っているような。
「まさか、来てくださるとは思いませんでした……」
「ご協力感謝いたします!」
……なんだ? 衛兵が真ん中の騎兵に、何か話している。
遠くてよく見えないが、なんだかあの騎兵、他の連中とは装備が違うような――。
「……冗談でしょ。なんでここに」
ファニが、息をのむようにそう言った。その言葉にはどこか、忌々しさも感じる。
視線の先は俺と同じ、どこか異質な騎兵。
あいつは、一体――。
「勇者リエスタ」
……なんだと?
その言葉に耳を疑った瞬間。
異質な騎兵は、馬の背から
馬車全体に強い衝撃が走る。
同時に、砕けた木片と埃が飛び散った。
「うわわ!?」
ロロンの声と共に、馬車が酷く揺れた。
何事かと思って、思わず馬車の中を見た。
「なんッ――!?」
そこには、馬車の中には絶対いて欲しくない人間がいた。
プラチナのような長髪を乗せた、人当たりのよさそうな整った顔は、今は鋭い眼光を携えている。
清廉さを感じさせる純白の戦装束は、今日中央広場で見たままだった。
白く綺麗な聖剣を握りしめ、俺たちを睨みつける女の子。
勇者リエスタが、そこにいた。
俺とファニは、とっさに彼女に向けて構える。
「アナタは、昼間の人?」
リエスタは、聞き慣れない、そんな言葉で俺を呼んだ。
「……なんのことだ?」
「昼間、そこにいる彼女を助けていましたよね? 不思議な魔法を使って」
……気のせいかと思いたかったけど、やっぱりあの時、気づかれてたのか。
「あの時は、良い人だと思っていたのに……残念です」
「は? いきなり何の話――」
「人を助けようとする心はあるのに、どうしてこんなことをするんですか? 今なら間に合います、皆さん自首してください」
どこか憂うように、リエスタは俺に言ってきた。
言い聞かせるような、導くような、そんな言い方。
なんだか、妙に癪に障る言い方だった。
「……で、自首したらどうなるってんだ?」
「レン、何言って――」
ファニの言葉を、俺は片手で制止した。
自分でもなんでこんなことをしているのかはわからない。
そんな場合じゃないのは、わかっているはずなのに。
「……聞けばアナタ、ギルドを追放処分にされたようですね?」
「へえ、よく知ってるな。だったらなんだ?」
「自首して、しっかりと反省の意を示していただければ、私の方でギルドに復職できるようサポートします」
「なに?」
なんだこいつ、いきなり何言いだしてるんだ?
「だって、ギルドを追放処分なんて、よっぽどやんごとなき理由があるのでしょう? 私の方で原因を解決して、なんとか元の真っ当な人生に戻れるようにしましょう、ね?」
「……へえ?」
「不安に思わなくっても大丈夫です! きっとギルドの皆さんも、アナタが戻ってくるのを待ってるはずです。そんな――」
リエスタは、慈しむような微笑みを見せて、続けた。
「仲間外れになっちゃ、だめですよ」
……あぁ、彼女の言葉が癪に障る理由が、よくわかった。
こんな状況で敵に手を差し伸べる清廉潔白な性格。
俺を切ったギルドの連中が、俺のことを思っているはずだという、無条件に人を信じるその無垢さ。
仲間外れは無条件でダメだと宣う、正義は我にありと信じてやまないその心。
そのすべてが実に、余計なお世話だ。
「……お心遣い痛み入る、勇者リエスタ様」
「じゃあ……!」
「だがな」
言いながら、俺は彼女の胸に、手を当てた。
「え……うぇ!? ちょ、いきなりなにを――!」
「俺を捕まえたいなら、次はデートにでも誘ってくれ」
「……ふぇ?」
リエスタが顔を赤くして困惑している間に、彼女の胸の、そこに下がっていたネックレスの宝石を
「ファニ、離れてろ」
「え、ちょ――」
ファニが言いかけながらも後ずさったのを確認すると、俺は魔法を発動した。
出力は控えめ。
衝撃だけを強めに、痛くしない程度に。
発動。発射。
破裂音と同時に、ネックレスの宝石は発射され。
勇者は馬車の外に
「なッ……!?」
そんな声と共に、リエスタは馬車の外へと吹っ飛んでいった
「……よし」
ひとまずの危機は去っただろうか。
少なくとも、一旦でも場外へ落とすことができたなら、もう追いついてくることはないはずだ。
そう思っていた。
「クッ……!」
突然そんな声が聞こえる。リエスタの声だ。
それと同時に、バンッという音と共に、馬車が少し揺れた。
「しぶとい……」
ファニが辟易したような声を上げる。音の方を見ると、リエスタがまだそこにいた。
弾き飛ばされる既のところで、馬車の縁を掴んで事なきを得たらしい。
さすが天下の勇者様だ。執念深さは折り紙付きか。
クソ、しつこい。
「ち、ちょっと待ってください!」
リエスタは説得を諦めていないのか、懲りずに話しかけてきた。
……しかし、なんだろうか? いやに顔が赤くなって、汗ばんでいるような。
「悪いけど、これ以上話すことはないぜ? まだ
「ヤ、ヤる!? やっぱり私の身体を狙ってるんですね!」
「え?」
…………え? どういうこと?
「こ、こんな時にいきなりむ、胸を触ったり、デートに誘ったり、かと思えば急にそんな……あ、あまりにも不埒です!」
「いや、あの――」
「一旦従順なふりをしておいて、こちらが完全に油断した途端襲い掛かって凌辱する算段なのでしょう!? そんな思い通りにはいきませんから!」
「え、思ってもいないです――」
「ま、まさかさっきの見たことない魔法、衝撃は凄いのに全く痛くないのはそういうことなんですか!? そういう魔法ってことなんですか!? 『俺なら突っ込んでも痛くしないぜ』と!? くッ……そ、そんな急にテクニシャンアピールされても、困るといいますか……!」
参ったなこの人、まったく話聞いてくれない。
え、すごい怖い。ずっと何言ってんのかわかんないんだけど。
もう撃っちゃった方がいいかな、これ? まだなんか捲し立ててるっぽいけど……。
「『スパーク』」
「あ」
なんてことを考えてると、ファニが突然、リエスタに向かって電撃魔法を放った。
リエスタは思わずといったように、馬車にしがみついていた手を放す。
「だ、ダメですまだ話があぁぁ……」
リエスタが何か言いかけてたが、遥か後ろへと飛んで行った彼女の声は、もはや聞き取ることは叶わなかった。
……あ、彼女が地面にぶつかって、ごろごろ転がっている。
だいぶ痛そうだけど、なんだか平気そうだ。
「……なんだったの、アイツ?」
ファニは嫌に不機嫌な顔をしていた。いや、というより、すごいウザがっているという方が正しいかも。
というか俺に聞かれても、むしろこっちが聞きたいくらいなんだけど。
何なんだろうあの人。勇者ってあんなヤバいやつだったのか。
「で、でも、なんとか撃退できましたね……」
ロロンの少し安心したような言葉を聞いて、そういえば他の追撃隊はどうなったのかと、後ろを見てみる。
なにやら、勇者が撃退されたのを見て、二の足を踏んでいるようだった。
なるほど、理由はどうあれ、向こうからすればこっちは、切り札の勇者様ですら止められなかった相手ということになるのだろう。
自分たちでは手に余ると考えて、攻めあぐねているのだ。
「癪だけど、結果的にあの勇者に助けられたってことか?」
「……さぁね、レンに限ってはそうも言えないんじゃない?」
と、ファニはやれやれといった顔をしていた。
「さっきのあの感じ、少なくともレンは絶対、目をつけられたよ」
「どういう意味だよ? 目をつけられたのは、ファニもロロンも一緒だろ?」
「いや、そういう意味じゃなくって……」
そういう意味じゃないって、他にどういう意味があるっていうのだろうか?
ファニの続きの言葉を待つが、どうにも言いにくいのか、歯切れが悪い。
「……いや、いいや。説明すんのメンドクサイ」
「お、おい、そりゃないだろ。怖いんだけど」
「まあ、あの手の女はヤバいから、次会うときは気を付けて。同じ女として忠告」
全然意味がわからない。わからないが、ファニの言葉を借りると、俺はあの
理不尽だ、なんで俺だけ……。
「姐さん、この分ならもう大丈夫そうです!」
「ん……ぽいね。ありがとうロロン、よく頑張った」
「うぇへへ……」
ロロンはファニに撫でられて気持ちよさそうにしていた。
やれやれ、どうにしろ、ようやくこれで仕事にひと段落着いたってとこかな。
あぁ、なんだかどっと疲れた……。
「どうしたのレン? じっと見てきて」
どうやら無意識に俺は、ロロンを撫でているファニをずっと眺めてしまっていたらしい。
ファニが不思議そうに、こっちを見てきた。
「レンも撫でて欲しいの?」
「遠慮しとくよ」
「だ、ダメです! 姐さんのナデナデは私だけのものなんです!」
「いらねぇって」
ファニとロロンにそんなことを言いながら、とりあえず椅子にもたれかかった。
「……そういえば、これってどこに向かってるんだ?」
なんとなく気になって、俺はファニに聞いてみた。
まさか王国に戻るなんてことはしないだろう。
となると、考えられるのは隣接してる村か集落だが……。
「地下にあるダンジョンだよ」
「なんだって? まだなんか倒すのか?」
「あぁ、違う違う」
ファニは俺の反応を面白がってるようで、「フフッ」と笑っていた。
「正確には、地下のダンジョン
「地下に?」
「うん、といっても魔物はいないから、安心していいよ」
……正直、ファニの言葉を聞いて、少し驚いている。
こう言ってはなんだが、なんだか無法者みたいだな、なんて思ってしまった。
そういえば王国で、ちょうどそんな注意喚起があったっけか。
最近、冒険者を襲う山賊が頻出してるとか。
まあこんなご時世だし、用心しようくらいにしか思わなかったが。
「レン?」
と、ファニが俺の顔を覗いてきた。
いけない、ぼうっとしてた。
「あぁ、ごめん。ちょっと考え事してて……拠点が地下にあるって聞くと、なんだか……」
「山賊みたい?」
「そういうわけじゃないけど……でも最近物騒だって話だし。ダンジョンに住んでたりしたら、それこそ山賊に襲われたりとかしないのかい?」
「うーん……それは絶対大丈夫だよ、襲ってこないから」
なんて、ファニはあっさりと答えた。
……しかしなんだろう、答え方に違和感がある。
『滅多に遭わない』とか『遭っても撃退できる』とかならわかるんだが、『襲われない』ってのは、どうしてそんなことが言えるんだろうか?
「あ、姐さんに襲い掛かってくる命知らずなんて、いませんよ」
すると、ロロンが何やら、遠慮がちに言ってきた。
「姐さんに絡むとしたら、姐さんを知らない王国内のバカ共だけです。そ、そうだアイツら、フーリガン兄弟、許せない……どうします姐さん、アイツらぶっ殺しときますか?」
「やめてよロロン、仕事外での殺しはご法度だよ」
「す、すいません……」
……なんだろう、さっきから様子が変だ。
ロロンとファニのこの会話、とても山賊を怖がっているとは思えない。
むしろなんだか、自分たちの手下みたいな言い方……。
いや、そんなあり得ない。この子たち、成人もしていない女の子じゃないか。いくらなんでも……。
「……レン、さっきの心配事なら、大丈夫だよ。少なくとも、私と居る限りは絶対襲われない」
「え……」
ファニは、どこか怪しい笑みを浮かべて、続ける。
「少なくともこの辺にいる輩は、全員私たちの傘下だからね。そもそもここがうちのシマだし、考えなしに弓引くようなバカはいないよ」
「……傘下? シマ?」
「どうしたのさ、さっきから会話がかみ合ってないんだけど……あぁそうか、ごめん、言ってなかったっけ?」
「……おいおいおい、ちょっと待ってくれ、まさか――」
「じゃあ改めて、自己紹介を」
そう言って、彼女は俺の目を見つめた。
「この辺の
……一体どの立場で、彼女は勇者をヤバい女などと言っていたのだろうか。
なんてことを思いながら、俺は妖艶に微笑む、彼女を見つめた。
癪なことに、その顔はとても綺麗だった。