ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる   作:生カス

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7 新しい職場はアウトロー

「お疲れ様です、姐さん!」

「おかえりなさい、ボス!」

「今日もお美しいです、ボス!」

 

 怖い。ファニたちのアジトだという地下ダンジョンに到着して、真っ先に感じたのがそれだった。

 だって到着するなり、大勢の盗賊――と思われるガラの悪い方々――が皆一様にファニに向かって、奥ゆかしくこうべを垂れているのだ。

 

 その盗賊らしき人たちも、よく見るとただの盗賊ではない。

 明らかに伝説級の魔物を素材にした武具や防具、懐からちらりと見える、高レベル帯しか使えないような特殊アイテムの数々。

 下手するとギルドの冒険者でもトップクラスの連中と並べるような、そんな猛者ばかりだった。

 

 こんな人たちを従えてる、ファニって一体……。

 

「……あのさ、念のためいっておくけど、私が言わせてるわけじゃないからね、これ」

 

 と、ファニは恥ずかしがってるような表情で言った。

 

「大体、私は出迎えなんていいって言ってるのに、ロロンが余計なこと言うから……」

「で、でも姐さん、ちゃんと姐さんの偉大さを知らしめるためには、身内のところからいかないと――」

「知らしめなくていいから、そんなの」

 

 ファニが「あーもう」と早歩きしているところを、後ろからついていった。

 こうやって見ると、普通に年相応の女の子なんだけどな。

 一体どういう経緯で、こんなことになってるのか。

 

「おいちょっと待て」

 

 なんて考えていると、いきなり強面のおじさんに肩を叩かれた。

 めちゃめちゃ怖い。泣きそうである。

 

「さっきから姐さんのそばをウロチョロしやがって、誰だテメェ、姐さん狙いのナンパ男か?」

「い、いいいえ俺はその……」

「あぁ!? 声小さくて聞こえねンだよ!」

 

 怖いよ~、輩だよ~。何でもないんです、仕事の報酬貰いに来ただけなんで。

 終わったらすぐ帰るんで。いや帰る場所ないけど。

 

「やめな、オゾブ」

 

 すると、ぴしゃりとファニが言い放った。

 

「その人は私の大事なパーティー候補(・・・・・・・)だよ。無礼は許さない」

「な、パーティー候補!? こいつがですかい!?」

「文句あるなら聞くけど?」

 

 先ほどまでの雰囲気とは一転して、ファニは酷く強い圧力を放っていた。

 彼女に睨まれたおじさんは、まるで蛇に睨まれた蛙のように、みるみると委縮してしまう。

 

「い、いえ……ありません、ボス」

「なら早いとこ、彼を放して。これから『モニカの酒場』に行かなきゃだから」

 

 ファニにそう言われると、おじさんは目にもとまらぬ速さで、俺から飛びのいた。

 さっきまでオラついていた人と同一人物とは、とても思えなかった。

 

「す、すまねえな、兄ちゃん」

「あ、いえ……」

 

 まだちょっと怖いが、辛うじてそんな返事だけしてから、俺は歩いているファニに追いついた。

 

「ごめんね、うちの仲間が」

 

 さっきまでの圧力はどこへやら、申し訳なさそうに謝ってくる彼女を見ると、さっきのが夢なんじゃないかと思えてくる。

 うぅむ、なんというか、ファニがいやに上級職スキルを持っている原因が、わかった気がした。

 いやまあ、因果関係としては、逆なんだろうが。

 

「ところでなんだけど、パーティー候補ってのは? 俺は報酬貰って帰るだけじゃないのか?」

 

 とりあえず思考を切り替え、気になっていることをファニに聞くことにした。

 

「その……最初は私もそのつもりだったんだけどさ。レンが予想していたよりずっと強かったから、できればこのまま、パーティーに残って欲しいなと思って」

「……つまり、正式なスカウトってことか?」

「そういうこと。君には味方になって欲しいし、もっと言えば、敵になって欲しくないから」

 

 おぉ……いやなんというか、素直にうれしい。

 ギルドにいたころには、こんなこと言われるなんて考えることもできなかった。

 役立たずだ嘘吐きだと言われてきた俺がこんなふうに評価されるなんて……やばい、どうしよう、ちょっと涙出てきた。

 

「ど、どうしたの?」

「あぁいや……ギルドのときとは打って変わって褒められるから、なんだか面食らっちゃって」

 

 照れ隠しにファニにそう返す。

 すると、何か癪に障る部分があったのか、彼女は眉を顰めた。

 

「……その話、未だに信じられないんだよね。なんでこんな人材を、わざわざギルドが手放すのかさ」

「なんでも何も、昼に話した通りだよ。無能だし、嫌われ者だった」

 

 うぅ、言っているうちに、トラウマがフラッシュバックしてきた……。

 嘲笑と罵倒と、人格否定の嵐だった。無茶なノルマを課せられて、それができなかったら殴られ蹴られ、あげく給料未払いで泣き寝入りときたものだ。

 誰も助けてくれないし、誰も頼れなかった。無能な俺が悪いのは百も承知だけど、正直なところ、ギルド時代は地獄としか言えなかったな。

 

「それが信じられないんだよ。だとしたら、よっぽどギルドの連中は見る目がないんだろうね」

「……ずっと思ってるんだけど、さすがに持ち上げすぎじゃない? なんでそんなに」

「私、自分で見た者しか信じない性質(たち)でさ」

 

 と、ファニはどこか優しい目をして、俺を見た。

 

「ギルドの連中の言葉よりも、私はレンの行動を信じるよ。ヒュドラを撃ちぬいて、勇者を退けた、カッコいいキミをさ」

「え、かっこいいって……そんな風に思ってくれてたの?」

「……ごほん」

 

 意外なことを言われて思わず聞き返すと、ファニは急に咳払いをして、そっぽを向いてしまった。

 しまった、またなんか気に障るようなことをしてしまっただろうか。

 

「その話はまた後で。ほら、行くよ」

 

 と言って、ファニは歩く速度を速めていく。

 なんかやっちゃったかなあ……などと考える間もなく、俺は彼女についていくことを余儀なくされた。

 

 

 

 

 

 アジトの入り口を抜けると、そこには不思議な光景が広がっていた。

 

「……何だこりゃ、街がある?」

 

 地下に会ったその場所は、とても賑わっていた。

 右を見ても左を見ても、前も後ろも人、人、人だ。

 

 大通りと呼べるような大きな通路がひとつあって、俺たちはそこを歩いていた。

 脇を見てみると、今歩いている大通りを幹とするように、混沌とした細い路地が、いくつも点在している。

 

 どこもかしこも人通りが非常に多く、露店や商店、酒場が所狭しと並んでいた。

 明るく、人でごった返しているその様子は、下手をすると王国の中央広場以上に活気があるかもしれない。

 

 こんな地下に、こんな場所があったなんて。

 

「いい場所でしょ?」

 

 と、隣にいるファニが、少し得意げに笑っていた。

 

「国を追われたり、食べるのに困った人がここにくるんだ。まあそんなんだから、治安は良いとは言えないけど」

「わ、私も好きなんです、ここ。なんというか、私も居ていいんだって気がしますから」

 

 ファニとロロンの話を聞きながら、俺はしげしげと街を眺めていた。

 ……確かに、不思議な街だ。

 

 恐ろしく、優しくはないが、決して拒絶しないでくれるような。

 何者も拒まず、受け入れてくれるような、そんな懐の深さを感じる。

 

「そうだな、良い場所だ」

 

 ただ一言、そう言った。

 

「フフ……と、着いた着いた、ここだよ」

 

 と言って、ファニは足を止める。

 その目の前には、一軒の小さな酒場があった。

 

「『モニカの酒場』?」

 

 俺はその看板に書いてある文字を、そのまま読んだ。

 見たところ、特に何の変哲もない酒場に見えるが。

 

「なんだよ、ここで打ち上げでもするつもりか?」

「それもいいけど、後でかな。ここはね、いろんな仕事の仲介をしてくれる、仲介業者(フィクサー)がやってる場所なんだよ」

「フィクサー?」

「まあ簡単に言うと、お金になりそうだったり、良い人脈ができそうだったりな依頼を見繕ってくれる人ってとこかな。私もモニカにだけは、頭が上がらないんだ」

 

 ファニはそう言いながら、気恥ずかしそうに微笑んだ。

 あんな強面のおじさんですら従えるファニでも、頭が上がらない相手……。

 そう考えるとめちゃめちゃ怖そうだけど、大丈夫だろうか?

 俺、入り口ですらあんな怪しまれたんだから、入った瞬間、不審者としてぶっ殺されかねないぞ。

 

「モニカ、いる?」

 

 心の準備もできてないうちに、ファニは酒場のドアを開けて、ロロンと共にスッと入っていってしまった。

 ……ええい、恐ろしいが、今更後には引けない。

 なるようになるさ。

 

 何とか意を決して、俺もファニに続いた。

 すると、そこには――。

 

「ようファニィ! 宝玉(タマ)は手に入れたかぁ!?」

「……宝玉(ほうぎょく)でしょ、モニカ」

 

 ガラガラの、酒焼けしたような大声。

 大きく鋭い目つきに、鮫のようにギザギザした歯。

 

 そんな特徴を持った小さな少女(・・・・・)が、テーブルに足を乗っけて、酒が入ってるであろうボトルを豪快に煽っていた。

 ……そう、信じられないことに、小さい女の子だったのだ。

 

「こまけえなぁ! なんだ、いいとこ育ちのお嬢様には難しかったか? なんせデケェ竿からタマ獲ってこなきゃなんねぇんだからな、ギャハハハハハ!」

 

 訂正しよう、だいぶ下品な小さい女の子だ。

 

「……ていうか、子どもなのに酒飲んでいいの?」

「誰が子供(ジャリ)だぶっ殺すぞ! 誰だテメェ!」

「ヒェッすいません!」

 

 モニカさんは俺にビンタを一発かました後、落ち着いたところでファニに事の顛末を聞いたのだった。

 

 

 

 

 依頼の結果報告、ともすればまだ仕事の範疇のはずなのが、なぜかモニカさんは大量の酒とつまみをテーブルに置き、完全に晩酌の肴にするノリで聞いていた。

 本当に仲介業者(フィクサー)なのか、この人?

 

「何ィ!? こいつがヒュドラを一撃で倒したぁ!?」

 

 なんてことを考えていると、モニカさんは声を荒げながら、こっちを見てきた。

 その目といったらまさに射殺さんとでもしているようだ。怖い。

 この子供みたいな見た目からはとても想像できない圧だ。

 

「ファニ、その冗談な、ここの三軒先にあるストリップ・バーですら笑ってもらえねえぜ?」

「モニカはどっちだと思う? 私の冗談のセンスが壊滅的に悪いか、それとも、これが冗談じゃないか」

「……普段だったら後者だが、こいつを見た限りじゃなぁ」

 

 なんだろう、モニカさんがめちゃくちゃこっちを睨んできてる。

 頭の先からつま先まで、それこそ品定めでもするかのように、じろじろと。

 

 妙に落ち着かなくって、俺は気を紛らわしがてら、出された蜂蜜酒(ミード)をチビチビと飲んでいた。

 あ、これ美味いな……。

 

「なんだぁこりゃ?」

 

 すると、モニカさんは呆れかえったように呟いた。

 

「使える能力(モノ)が『はじく魔法』ひとつだけ、魔力の総量もその辺の一般人の十分の一もねえ、筋力(フィジカル)もねえ。見たことねえレベルのザコだ」

 

 え……なんか急にボロカス言われたんですけど。

 何なんだよもう、と言いたいところだが、全部本当のことなのでぐうの音も出ないのが、悲しいところだ。

 

「本当に何もかも最低だ。ま、見てくれだけは結構良いが、そんくらいだな」

「は、はぁ……どうも?」

「褒めてねえよ」

 

 うへぇ、何か言うとすぐ睨んでくるよこの人、怖ぇ……。

 しかし、なんだって俺が『はじく魔法』しか使えないってわかったんだろうか?

 まだ言ってないはずなんだけど。

 

「モニカはね、『鑑定』スキルの持ち主なんだよ。ああやって、見つめた対象の強さを、数値(パラメータ)に変換して見れるんだってさ」

 

 困惑した俺を察してか、ファニはそう補足してくれた。

 

数値(パラメータ)? 『鑑定』スキルって聞いたことはあるけど、オーラみたいなぼんやりしたもので、大まかに計測してるんじゃないの?」

「おいおい貧弱色男、私をそんなアマチュアと一緒にすんじゃねえ。こっちゃこれで飯食ってるプロなんだよ」 

 

 と、ファニの代わりにモニカさんが答えてくれた。

 なるほど、この人もファニやロロンの例に漏れず、かなり上級なスキル持ちということだろう。

 ファニの周りって、なんだかやたらハイレベルな人が多い気がする。これもこの辺一帯のアウトローのトップな故だろうか?

 ていうか、貧弱色男って、俺のこと?

 

「たく……冗談にすらなってねえぞファニ、こんな貧弱くんがヒュドラを一撃で倒したって? ぜってぇ嘘だね」

「ま、そう思うんなら勝手にそう思ってなよ。とにかく依頼は果たした、重要なのはそれでしょ?」

「そうもいかねえさ、大事な大事なファニお嬢様のパーティー候補(・・・・・・・)ってんじゃな」

「……ずいぶん耳に入るのが早いね」

 

 ファニは「はぁ……」とため息を吐いた。

 

「あたしゃこの街の()だぜ? 枝の先の葉っぱ一枚揺れただけでも、すぐわかるさ」

「かっこつけたこと言って……どうせオゾブあたりがチクったんでしょ?」

 

 オゾブって……さっき俺に絡んできた屈強おじさんか。

 めちゃめちゃ狂戦士みたいな見た目してた割に、報連相はしっかりやっているらしい。

 

「わかんねえな、なんでこんな貧弱を……もしかして惚れたか?」

 

 と、モニカさんは急にとんでもないことをぶっこんで来て、思わず蜂蜜酒を吹き出しそうになった。

 

「は、はぁ!?」

 

 ファニもさすがに予想外だったのか、顔を赤くして、今までで一番大きい声を上げる。

 まあ、こんなこと言われたら、心外もいいところだよな、そりゃ。

 

「バ、バッカじゃないの!? なんでそんな話に――」

「だってそうじゃねえか。こんなパーティーに入れたってクソの役にも立たなそうなやつを入れるとすりゃ、妥当な線だろう?」

「だ、だったらパーティーに入れようなんて言わずに――」

恋人(イロ)にするってわざわざ言うか? ウブで回りくどいファニお嬢様が? 無理だね、気に入った男ができたら、何のかんのと理屈つけてパーティーに入れようとするのが精々さ、今日みたいにな」

 

 モニカさんがそう言い終わると、しかしファニは何も反論しなかった。

 いや、できなかったというのが正しいか。『うぐぐ』という音が聞こえそうなくらい険しい顔をしているのに、その口から発する言葉は何もない。

 さっきモニカさんに頭が上がらないと言っていたのは、ひょっとしてこういうことなんだろうか?

 

「いい加減にしてくださいッ!」

 

 すると突然、さっきまで黙っていたロロンがバンッとテーブルを叩いて、そんな大声を出した。

 びっくりした……。

 

「さ、さっきから聞いてれば、姐さんをその辺の男日照りの喪女みたいな言い草でッ……!」

「……ロロン、そこまでは言われてないと思うよ?」

「さっきから姐さんの言うことを全然真剣にとらないし! そんなに言うなら今ここで証拠を見せましょうか!?」

 

 相当頭に来てるのか、ロロンはファニの言葉も聞かず、モニカさんに捲し立てた。

 というか見せるって、いったいどういうことだ?

 

「……へぇ、面白いじゃん。じゃあ見せて貰おうか」

 

 それを見たモニカさんは、特にロロンに驚いた様子もなく、揶揄うようにそう言った。

 なんというか、年長者の余裕を感じる佇まいだ。

 

「いいでしょう! ということでお願いします、レンさん!」

「……え、マジで!?」

 

 ちょっとちょぉっと待ってくれ? 今喧嘩売ったのロロンだよな?

 なんで俺が……。

 

「当たり前じゃないですか! レンさんの力なんだから、レンさんがやんなきゃ!」

「いやしかし、こんな店の中で……」

「……まさか姐さんの面目を潰すなんてこと、しませんよね?」

 

 ロロンがすごい目でこちらを見つめてくる。

 お前断ったらどうなるかわかってるよな? とでも言わんばかりの目だ。

 

 普段の気弱な態度で隠れがちだけど、考えてみれば、ロロンはファニに重用されているのだ。

 彼女もまた、この街の人たちに負けず劣らずのアウトローということが、今ハッキリした。

 

「……わかったよ」

 

 こりゃ断れそうにないな、そう思って、俺はそう言うしかなかった。

 

「ちょっとレン――」

「大丈夫だよファニ、あんまり無茶はしないさ」

 

 ファニにそれだけ言って、俺はモニカさんのほうを見る。

 目に映ったその顔は、まさに不敵といった感じで、とても子供からは出ないような余裕を感じる。

 彼女は大人の女性なのだと、改めて認識させられた。

 

「テストの方法は簡単だ、貧弱くん」

 

 モニカさんは懐から、手のひらサイズほどの、球みたいなものを取りだした。

 

「こいつは『トレーニング・リモート』っていう、冒険者が練習で使うアイテムだ。知ってるか?」

「すいません、ギルドにいたとき、少し見たことがあるくらいで……」

「じゃあ説明してやる。こいつは練習相手に合わせて動き回ったり攻撃したりするやつでな。冒険者共はこいつを使って、素早い魔物や動きがトリッキーな魔物の対策をするわけだ」

 

 なるほど、つまるところ、複雑な魔物の動きを予習するためのアイテムらしい。

 クラインのパーティーにいたときに、彼が使っているのを見たことがある。

 結局、リモート相手の練習が上手くいかなかったらしくて、アイテムの不良としてクラインは捨ててたっけか。

 

 そんな便利なものだったら、拾って使ってもよかったかもしれん。

 なんて、我ながら意地汚いかな。

 

「んで、今のこいつの設定はAランクの『マンティコア』と同じにしてある」

「ま、マンティコアってあの最速の!? ちょっとずるですよそれ!」

 

 ロロンがモニカさんに異議を唱えるのもわかる。

 『マンティコア』は最速と言われた、コウモリの羽を持つ魔物だ。

 そいつのAランクとなれば、かなり速かったと思う。

 

 さすがにSランクに比べると遅かったが、それでも今まで倒した魔物の中では、結構狙いづらかった方だったはずだ。

 

「別に倒せとは言わねえさ、一回でも攻撃を当ててくれりゃいい」

「で、でも……」

「……死なねえうちに、こいつらのどれかにな!」

 

 笑いながら、モニカさんはさらに三つの『トレーニング・リモート』を出した。

 

「な……ひ、卑怯ですよそんなの!?」

「この程度クリアできないようじゃ、ファニのパーティーにゃいらんだろうよ」

 

 モニカさんはロロンの話など聞くこともなく、不敵な笑みを浮かべたまま、俺を睨んだ。

 

「てなわけで、準備はできてるか、貧弱くん?」

「……ひとついいですか?」

「なんだよ、ハンデはつけねえぞ?」

「いえ、万一お店に攻撃が当たったとき、弁償とかはできそうにないんですけど、大丈夫ですか? 今あんまりお金なくて……」

 

 そう、俺はそれだけが気がかりだった。

 酒場を見回してみると、結構高そうな酒や、調度品が所狭しと並んでいる。

 これに万一当てて、弁償なんて話になったら……。

 うわ、考えるだけで恐ろしい……。

 

「……どうやら舐めてるらしいな」

 

 と、なぜかモニカさんは笑顔が消え、眉を顰めてこちらに睨んできた。めちゃめちゃ怖い。

 えぇ、なんでぇ? やっぱ弁償しなきゃだめなのかしら……。

 

「んなもんどうでもいいんだよ! むしろ合格したらここで一番高い酒を奢ってやる!」

「ほ、ホントに? 弁償しなくていいんですね?」

「うるせぇ!」

 

 よ、よかった。モニカさんはなぜか怒ってるけど、とりあえず万一の時でも弁償しなくていいようだ。

 本当に良かった、であれば……。

 

 安心して撃てる。

 

「オラいくぞ! スタート!」

 

 そう言って、モニカさんは合計四つのトレーニング・リモートを放り投げる。

 その瞬間、リモートは目まぐるしく動き回った。

 

「う、うわ! 全然見えない!」

 

 ロロンが怯えるも、目で追えていないのか、その視線の先にリモートはいない。

 それを見ながら、モニカさんは高らかに笑いだした。

 

「ギャハハハ! 言っとくけどこいつはマンティコアと同じく攻撃するからな! 死ぬんじゃねえぞ貧弱くんよぉ!」

 

 その言葉と同時に、四つのリモートが、座ってる俺に一斉に襲い掛かった。

 

 石を右手に込める。

 四つ、四発分。

 あとは、魔力を込めるだけ。

 

 発動。発射。

 

 連続で四回、破裂音が響いた。

 同時に、重いものが落ちたような音が、これまた四回。

 

 確認すると……うん、なんとか当たってくれたらしい。

 四つのリモートはしっかりと、俺の周りで地面に転がっていた。

 

 無事終わったことにホッとして、俺は蜂蜜酒(ミード)を一口飲んだ。

 うん、やっぱり美味いな、これ。

 

「…………うっそだろ?」

 

 あっけにとられたように、モニカさんは呟いた。

 その先の言葉はなく、墜ちたリモートを見て、ただただ茫然としている。

 

「なにしてんの、モニカ?」

 

 それを見ながら、ファニが一言。

 

「一番高いお酒、レンに出してくれるんでしょ?」

 

 そういう彼女の顔は、さっきとは全く変わっていた。

 まるでイタズラが成功した子供のような、すごく楽しそうな顔をしていた。

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