ザコ魔法使いだがヤバ女たちにやたらと目をつけられてる   作:生カス

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「あぁ〜ッ……クッソ!」

 

 モニカさんは椅子から飛び降り、カウンターにあるひとつのボトルと、グラスをかすめ取って、俺の前に出してくれた。

 見たことがない、いかにも高そうなライ麦酒(ウイスキー)だった。

 

「マリーカランの25年ものだ、心して飲め!」

 

 そう言いながら、彼女は氷の入ったガラスのコップにライ麦酒を注ぐ。

 粗暴な言葉と違って、その注ぎ方は実に丁寧で、彼女の酒場の主としての矜持が見て取れた。

 

 酒の違いなんてたいして分からないが、少しだけ漂ってきたその香りだけでも、いつも飲んでる安酒とは異なるのがわかる。

 うーむ、嬉しい反面、俺みたいなのが飲んじゃっていいのかと、腰が引けてしまうな。

 

「あぁクソ、面白くねえ」

「これで冗談じゃないって、わかってくれた?」

「わかった、わかったよ、もう何も言わねえ。お嬢様の御意のままに、だ」

 

 モニカさんは「フンッ」と鼻息を鳴らしながらも、ファニに折れたらしい。なんだかんだ、ちゃんと約束は守る人のようだ。

 ……さっきから疑問に思ってたけど、この人だけファニのこと、ボスとか姐さんとかじゃなく『お嬢様』って呼ぶんだよな。

 どういう関係なんだろう?

 

「……と、モニカからの了承も得たところで」

 

 なんて、ファニがおもむろにこちらに目を向ける。

 

「改めてお願い、レン。私のパーティー、酒溜まりの鼠(レザボア・ラット)に入って欲しい」

「あ、姐さん!? そ、そんな頭を下げるなんて……」

 

 ロロンの言う通り、ファニは意外にも、俺に頭を下げてお願いしてきた。

 正直、ここまでかしこまられるとは思ってもみなかった。

 どうしたものか……他人に頭を下げられた経験なんて無いから、どう対応すればいいのか困る。

 

「ロロン、どんな時も頭を下げないなんて、それはただの不遜だよ。こういう時はそれなりの態度を取らなきゃ」

「で、でも――」

「……それでどう、レン?」

 

 ロロンに構わず、ファニはさらに俺に言ってくる。

 

「もちろん寝床は用意するし、ギルドにいたころよりもずっと高い報酬を約束できる。他に要望があったら、言って欲しい」

 

 ファニのその態度からは、必死さが伝わってきた。

 今まで見たことがないくらいの、ここ一番での必死さだ。

 

 なんで俺みたいなのにそこまで、という気持ちは正直ある。

 無能すぎてギルドを追放されて、さっきモニカさんにも言われた通り、一般人よりも弱い俺を、なんでそこまでパーティーに迎え入れてくれようとするのか。

 

 わからないし、アウトローの一員になるということに、多少の恐ろしさはある。

 ダンジョンに違法侵入したり、衛兵に追っかけられたり、勇者に目をつけられたり、散々な目に遭った。

 ……だが、それ以上に。

 

「頭を上げてくれ、ファニ」

 

 それ以上に、あの時は楽しかった。

 俺ももはや立派な札付きだ。

 であれば、断る理由など無いだろう。

 

 ファニと一緒にいる方が、ギルドで冒険していた時なんかより、ずっと面白いのだから。

 

「俺なんかで良かったら、今後も世話になるよ」

「……ありがとう、レン」

 

 ファニはそう言って微笑んでくれた。

 兎にも角にもこれで、俺は晴れて酒溜まりの鼠(レザボア・ラット)の一員になったわけだ。

 

「よ、よかったです。断られたらどうしようかと……」

「……ちなみになんだけど、断ってたらどうするつもりだったの?」

「それは……な、何でもないです。今更水を差すようなこと言っても、なんですし」

 

 ロロンは俺にそう答えると、心底ほっとしたように、胸をなでおろしていた。

 水を差すようなことってなんだろう。もし断ってたら何されてたの、俺? 怖いって。

 

 いや、深く考えるのはやめよう、多分ロロンだってそこまで深くは考えていないだろう。

 言葉のあやさ、うん。

 

「よっしゃ、感動的なシーンが終わったところで、報酬の話といこうか」

 

 と、モニカさんは手を叩いた。

 そうだ、すっかり忘れていたけど、ここにはそもそも、ヒュドラ討伐の報酬を貰いに来ていたんだった。

 

 あんまり口に出して言うことじゃないが、どのくらい貰えるのか、結構楽しみだ。

 何気に魔物討伐で報酬をもらうのは、初めてのことかもしれない。

 ギルド時代は、AランクとかSランクとかの魔物をソロで討伐して報告しても、『虚偽報告だ』って決めつけられて、逆に罰金とられたもんな。

 仕事したら金払わなきゃいけないって、どんな理不尽だよ……。

 

「……ま、仕事はまだ完全には終わっていないけどね」

「え、そうなのか?」

 

 ファニの言葉に、俺は思わずそう返してしまった。

 ヒュドラ討伐して、『宝玉』を手に入れるのが今回の依頼だと聞いていたが、まだ何かあったのだろうか?

 

「あぁ、気にしないで。レンとロロンはこれで終わり。後は私がやることだから」

「事後処理とか、報告書の作成ってことか?」

 

 普通、依頼を達成した後は、依頼元に報告をするための資料を作らなきゃいけない。

 依頼主が本当に依頼を達成したかを確認するためのものでもあり、達成後の状況を報告書と照らし合わせて、虚偽がないかを確かめる用途でも必要なものだ。

 

 ギルドでは報告書の作成が義務付けられていたが、ここでもそうなんだろうか?

 

「うーん、なんて言えばいいのか……依頼主に報告する(・・・・・・・・)って意味では、同じようなものかな? まぁ、とにかく二人は気にしなくても大丈夫」

 

 と、ファニは何やら歯切れが悪い感じだった。

 とは言っても、隠してるというよりは、説明が難しい、といったニュアンスだ。

 

 気にならないといえば嘘にはなるが、本人が追及を拒んでいる以上、これ以上立ち入ってもしょうがないだろう。

 ここは素直に引くとしよう。あんまり聞いたら、ロロンに『姐さんがいいと言ったらいいんです!』とか何とか言われて怒られそうだし。

 

「もう遅いし、まどろっこしい話は一旦なしだ。とりあえず今日はこれ受け取って、さっさと寝ちまいな」

 

 モニカさんはそう言って、テーブルの上に、布袋を二つ置いた。

 置いた瞬間、ジャラジャラと金属の音が聞こえてきて、それが貨幣であるということを、暗に示していた。

 

「それぞれ金貨が40枚ほど入っている、確認しな」

「き、金貨40枚!?」

 

 その予想外の金額に、俺は思わず声を出してしまった。

 待ってくれ、金貨40枚って……貴族が乗るような馬車と馬二頭買って、まだ釣りがくるレベルじゃないか。

 

「んだよ、足りねえってのか?」

「い、いや、逆ですよ。ギルドにいたとき、一度にこんな大金貰ったことないから……」

「ハッ、まぁ今回のが特別難しい依頼だったってのもあるが、ギルド(あそこ)は中抜きがひでぇって話だからな。ま、国営なんざそんなもんだろ」

 

 言いながら、モニカさんはギルドをあざ笑うかのように、ほくそ笑んでいた。

 すごいな、これがギルドを介さない仕事か……。

 

「あ、ありがとうございます! シルビアと馬車の改造に使わせていただきますぅ」

 

 なんて、ロロンはホクホクとした笑顔をしながら、「車輪をケンウェイ製の防魔仕様に変えて……」だの「シルビアに特別製の餌買ってあげて……」だの、金の使い道を楽しそうに呟いていた。

 ロロンが喜びこそすれ驚かないってことは、このくらい貰えるのは、それほど珍しいことでもないらしい。

 うーん、改めてすごい場所だな、ここは。

 

「……てあれ、ファニの分は?」

「おいおい色男、ここのボスが誰かもう忘れたのか?」

 

 ああそうか、モニカさんに言われて気づいた。

 考えてみれば、ここのボスは他でもないファニなのだ。

 言ってしまえば、配下の人間に金を配る立場だ。

 

 ということは、ファニが金を貰うのは、依頼主から直接、ということになる。

 さっき言ってた事後処理ってのは、ひょっとしてそれに関係することなんだろうか?

 

「さあさ、駄賃を貰ったらとっとと帰って寝な。休めるうちに休んどけ」

 

 モニカさんは「しっし」と店から出て行くように手を振ってきた。

 

「勝負に負けてちょっと不機嫌なんだよ、放っておいてあげようか」

「うっせぇぞファニ!」

 

 なんて声を聞きながら、ファニに「ほらほら」と促されて、俺たちは酒場を出た。

 酒場を出ると、どこか肌寒い空気に襲われた。

 見てみると、もう完全に夜も更け切ったから、人通りも先ほどよりは少なく感じる。

 

「ついて来て、宿に案内するから」

 

 ファニにそう言われて、今日がようやく終わったのだということを、実感してきた。

 疲労感と眠気が一気に襲ってきて、思わず足がもつれた。

 

「大丈夫?」

「ああ、悪い。眠くなってきちゃってさ」

 

 ファニにそう返しながら、なんとか体勢を立て直して、再び歩き直す。

 考えてみると、本当に今日はいろいろあった。

 

 ギルドを追放されて、ファニに会って、酒場で衛兵に濡れ衣着せられて。

 なんとか逃げ出して、札付きになって、ヒュドラ倒して、勇者に追いかけられて……。

 

 今日だけで、本当にてんこ盛りだ。

 ここまで濃い一日、もう今後一生ないんじゃないか?

 

「……レン、今日は本当にありがとうね」

 

 そんなことを考えていると、ふとファニが言ってきた。

 

「どうしたの、改まって?」

「いや、レンがいれば、きっと今までできなかったことが、できるようになると思ってさ」

 

 すると、ファニは俺の顔を見てきた。

 目を細めて、どこか蠱惑的な、そんな笑顔をして。

 

「改めて、これからもよろしくね、レン」

 

 ……訂正しよう。今日より濃い一日なんて、これから先いくらでも来るだろう。

 このパーティーにいる限り、安寧なんて、きっと程遠いものになるに違いない。

 けど、まあ、いいだろう。

 

 だって、それでもここは、居心地がいいから。

 

「姐さぁん、眠いですぅ」

「はいはい、もう少し頑張ってね」

 

 ファニは今にも眠りそうなロロンにそう言いながら、手を繋いで先を歩いていた。

 俺も彼女ほどではないが、今にも倒れてしまいそうだ。なんとか、宿までもたせなきゃな。

 

 案の定、宿について部屋に案内された俺は、すぐさまベッドにダイブして、泥のように眠ったのだった。

 

 

 

 

 

 ――翌日、地下なので、今が朝なのか昼なのかもわからない。

 

「……んぐ、頭痛ぇ」

 

 とにかくそんな中、俺は酷い二日酔いに苛まれていた。

 あぁクッソ、さすがに飲みすぎたな……。

 なんてことを考えて、水を飲むべく、ベッドから起き上がろうとした。

 

 と、その瞬間。

 ドアがバンッと、デカい音を立てて開かれた。

 

「おい色男! お前すごいことになってるぞ!」

 

 そこにいたのは……えぇっと、そう、モニカさんだ。なんで急に、俺のところに?

 なんてことを考える間もなく、モニカさんが妙に慌てた様子で、部屋に入ってきた。

 

「……なんすか?」

 

 デカい声出さないでくれとか、ノックしてから入ってくれとかいろいろ言いたいことはあるが、言ったら返り打ちに合いそうなので、とりあえずそう聞いた。

 

「これ見ろ、これ!」

 

 そう言って、モニカさんは手に持っていたパルプ紙を俺に突き出してきた。

 これは王国が発行している新聞か。

 なんで国外のここで手に入るんだ? という疑問は一旦棚上げして、それを手に取って読んでみる。

 

「ええと、なになに……?」

 

 新聞には、こう書いていた。

 

 

 

 ――勇者リエスタ様からまさかの声明。凶悪な罪人を勇者パーティーに引き入れることを発表。目的は罪人の更生と社会復帰援助と述べる。

 罪人の名前はレン・ユーリン。見かけた方、情報を持ってる方は是非ギルドまでご一報ください。――

 

 

 

  ……どういうことなんだ、これ?

 うーん、あれか、二日酔いの頭で理解しようっていうのがまず無謀なんだ。

 一旦水を飲んで、もう一回読み直してみよう。

 

「すいませんモニカさん、一回お水飲みますね」

「あぁ!? 寝ぼけてねぇでとっとと目ぇ覚ませ!」

 

 なんて言いながら、モニカさんは俺に水を差しだしてくれた。

 あれ、この人思ったより優しいな。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 一言お礼を言ってから、水を一口。

 うん、美味い。二日酔いのときの水って、すごく美味いよね。

 

 そういえば二日酔いって、生卵とかも効くらしいな。後でちょっと試してみるか。

 さて……で、なんて書いてあったんだっけ?

 

 

 ――勇者リエスタ様からまさかの声明。凶悪な罪人を勇者パーティーに引き入れることを発表。目的は罪人の更生と社会復帰援助と述べる。

 罪人の名前はレン・ユーリン。見かけた方、情報を持ってる方は是非ギルドまでご一報ください。――

 

 

「……夢か?」

「起きろや!」

 

 モニカさんにバンッと背中をどつかれて、意識が覚醒しだす。

 そして改めて新聞の文章を読むことで、ようやく意味を理解できてきた。

 

 ……え、なに?

 つまり俺、勇者に狙われてるってこと?

 

「な、なな、なにがどうなってるんすか、これ!?」

「知らねーよ! 色男、お前一体何やったんだ? あの勇者に目ぇつけられるなんて、ただ事じゃあないぜ?」

 

 モニカさんは心底面倒臭そうな表情をしていた。

 とんだ厄介事を持ち込みやがって、という心境なのだろう。

 

「い、いやそりゃ、ここに来る途中追っかけられたんで撃退しましたけど……それだったらファニやロロンだって同じはずでしょう?」

 

 とはいえ、俺はこう言うしかなかった。

 心当たりといえば、本当にこれくらいしかないのだから。

 

「……勇者を撃退? なぁ色男、その時の状況、詳しく聞かせろ」

「え? あぁ、はい」

 

 何か引っかかることがあったのだろうか?

 そう思いながらも、特に断る理由は無いので、モニカさんにその時の状況をなるべく詳しく伝えた。

 

 大量の衛兵の中に、勇者がいたこと。馬車に乗り込んできたので、少し話したこと。

 はじく魔法で撃退したが持ちこたえて、かと思えば意味の分からないことを捲し立ててきて、怖かったということ。

 

「……と、大体こんな感じです」

「はぁー……なるほどな」

 

 一連の話を聞くと、モニカさんは呆れかえったような顔をしていた。

 なんだか、『やっちゃったなお前』とでも言わんばかりの表情だ。

 

「やっちゃったなお前」

「うわ本当に言われた」

「は?」

「すいませんなんでもないです……しかし、やっちゃったってのは、どういう意味です?」

 

 そう聞くと、しかしモニカさんは口を開かず、机の上にある魔草巻を見た。

 

「……ちょっと長くなるから、一本貰っていいか?」

「あぁ、どうぞ」

 

 俺の返事を聞くなり、モニカさんは魔草巻を箱から一本取り出し、口に咥えて、炎魔法で火を点けた。

 ファニと全く同じやり方だ。正直羨ましいな、この魔法。

 

「お前も吸えよ」

「あぁいや、俺は火の魔法使えないし」

「火ぃくらい貸してやるから吸えって」

「すいません……」

 

 モニカさんに言われて、俺も魔草巻を口に咥えた。

 彼女に火をつけてもらって、お互いに煙を吐き出す。

 やや青みがかった白い煙が、部屋を舞った。

 

無味無臭(プレーン)かよこれ、つまんねえ奴」

「いいじゃないすか、臭いもつかないし、部屋も汚れないし」

「そんなもん気にしてんのが、つまんねえっつってんだよ」

 

 なんてことを言いながら、彼女は置いてあった新聞に目を向ける。

 煙と共に出た「はぁ」という声は、果たして煙を吐き出しただけか、それとも呆れからきたものか。

 

「さて、どっから話したもんか……お前さ、勇者パーティーに入るための条件って、ズバリなんだと思う?」

「え……そりゃ、誰よりも強いことじゃないですか?」

 

 唐突だな。でも、実際それ以外に要件なんてあるのだろうか?

 勇者っていうのは、言うまでもなく魔王と戦って、確実に勝つために編成された、いわば人類側の切り札だ。

 そりゃ、世界で一、二を争うくらいに強い人たちで構成されてるもんだと思うけれど……。

 

「そうだな、強いのは重要だ。でもな、それ以上に大事なことがある」

「というと?」

 

 他の条件って、なんだろうか? 想像もつかない。

 なんてことを考えながら聞くと、モニカさんは煙を吐いて、一言。

 

「魔王側に、自分たちが使う魔法やスキルが、どれだけ知られていないかってことだ」

「……それはつまり、敵側になるべく、攻撃の対策をさせないためってことですか?」

「察しが良いな、まぁそんなところだ。いくら強くったって、手のうちが全部わかってちゃ世話ねえさ」

 

 なるほど、どんなに強力な魔法やスキルを持っていたところで、それを解析されてしまえば、魔王側はいくらでも対策できるってことか。

 なんたって向こうは有史以来から人類の天敵をやってるらしいから、魔法やスキルのことなんて、人類の誰より知っててもおかしくはない。

 

 そうなると、勇者パーティーのメンバーに求められるのは、強さ以上に、それを形作る魔法とスキルが、どれだけ知られていないか、ということになるのだ。

 新しくてまだ誰にも知られていないものや、一子相伝のような、特定の誰かにしか受け継がれないようなもの。

 

 それか、既存のものを極限の先まで練り上げて、全く別物と呼べるレベルにまで仕上げたような、途方もない何か。

 

 まあ最後のやつはまず無いだろうが、とにかくそういう魔法かスキルを持っていることが、勇者パーティーに求められる条件なのだ。

 

「ま、つまるところ、強くてかつオンリーワンな何かを持っているやつが、勇者パーティーに入れるってわけだ。もちろんそんな奴なんて、世界中に数えるほどもいないから、連中も苦労してるらしいけどな」

「なるほど……いや、ちょっと待ってください。それとさっきの話と、何の関係があるんですか?」

 

 モニカさんが言っていることはわかったが、何を言いたいのかはわからなかった。

 勇者パーティーの加入条件を聞いたところで、俺が勇者に目をつけられた理由と、全く接点がないではないか。

 

 俺は誰よりも弱い底辺魔法使いだし、使える魔法だって、それこそ世界中の誰もが知ってる『はじく魔法』だ。

 勇者パーティーの加入条件にはかすりもしない。

 いったいどういうことなんだろうか?

 

「……お前、ホンットに自覚ないのな?」

「え……え?」

「まあ別にいいけどよ。多分だけど、勇者に知られた以上、これから似たようなやつらが、お前のことを狙ってくると思うぜ?」

 

 どういうことだ、自覚って何の?

 というより、勇者みたいなやつにこれからも狙われるって、なんで?

 俺、万年Dランクの底辺魔法使いだったんだけど。

 もう何もわかんない、怖い。

 

「レ、レンさんレンさん、大変です!」

 

 突然、再びバァンッとドアがぶち破られ、ロロンが部屋に突入してきた。

 ひょっとしてここって、ドアを静かに開ける文化がないのか?

 

「あ、も、モニカさん、おはようございます……」

「おうロロン、どうした?」

「そ、そうだ、これ見てください!」

 

 モニカさんへの挨拶もほどほどに、ロロンは焦りながら、懐からひとつの紙切れを出してきた。

 なんだろう、チラシくらいの大きさだけど……。

 

「あ、姐さんを王都に送迎した時に配られてたんです、これ!」

 

 そう言って、ロロンはその紙を俺に見せた。

 そこには――。

 

「……うっそ」

 

 ――レン・ユーリンへ

 勇者パーティーへの加入をお願いします。

 加入時報酬 金貨100枚――

 

「ギャハハハ! 相当惚れこまれてんな、オイ!」

 

 モニカさんの言葉に、俺は答える余裕もなかった。

 どうなってんだ、なんで勇者が、俺を?

 

 何もわからないままフラッシュバックするのは、初めて勇者に出会った日。

 あのわけのわからないことを捲し立てられた時の、未知の恐怖感だった。

 

 ――あの手の女はヤバいから、次会うときは気を付けて――

 

 そんなファニの言葉が、今になって現実味を帯びてきたしまったことを、ひしひしと感じていた。

 

「で、でもレンさん、一夜にして有名人ですね! お、おめでとうございます!」

 

 そんなつもりはないんだろうけど煽りにしか聞こえないロロンの言葉を聞きながら、今日はもうふて寝してしまおうと、心に決めたのだった。

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