安全圏扱いはやめてくれ! 作:銀髪ムチムチTS女子
俺は依頼を引き受けた。だが、対話はまだ続いていた。
俺とエルフ、そして第二王子アルバ・ダリカとその姉──必然的に第何番かの王女である──で食卓を囲んでいた。
第二王子は言いたい事は言い終えたのか、静かに食事を摂っていた。エルフは依頼に関わる事柄に関して以外口を開かない。結果、俺に対してやや鋭い気配を向ける王女と俺の間で会話が進んでしまう。王女の言葉をスルーして食事に向かう程の胆力は俺に無いのだ。俺の皿だけ料理が減らないのもそのせいだ。
「
「いえ、私もまだ未熟な身でして。貴女様の弟君の期待に答えられるかどうか……」
この国を担うのは王女であり、王子は基本的に婚姻や子種の提供といった外交カードに切られる事が殆ど。だが目の前の王女は
「時は雄弁ですのよ。貴女が幾ら謙遜しようと、誇示しようとも全ては結果で示されるのですから。その時、私の弟を落胆させる様な事があれば、その時は……」
「姉上、脅し立てる様な真似はやめて下さい。私の面子というものもあるのですから」
「あら、女同士親睦を深めようとしていたのだけれど」
……そう言って微笑む姿は美人に違いない、違いないが、どう見たってサディストの笑みだ。
「それはそうと……よく見れば綺麗な顔ね。私のメイドに来ないかしら」
「は、はは。ご冗談を」
美醜の感覚は前世とそう変わりないが、こうも面と向かって言われるのはそうそう無い。あるとすれば
──ん? いや待て。まさか、第二王子が
そういえば、隣のエルフはまだ黙ったままだ。どうしたのかと隣を見れば、目の前の事象を無視してステーキを貪っていた。
「これは……人間からの逃亡生活では、マトモな食糧も無かったもので」
視線に気付いてか、彼女は気恥ずかしそうに言ったが、そう言われると注意しにくい。この前の約束の時といい、一体どこまで腹を減らしていたんだ。
このテーブルはさながら無法地帯と化していた。治安の悪化に一役買っている推定王女様はまだ喋り足りないご様子だが、第二王子はすかさず睨みを利かす。
「姉上、これ以上私に何を言わせたいんですか?」
「流石に王城のメイドはもう喰べ飽き……んぐぐ」
現在進行形で王族の恥部を晒していたその口を第二王子が押さえた。彼は底冷えのする笑みを浮かべて油を注していないブリキ人形の如くにこちらを向く。
「……君は何も聞かなかった、いいね?」
「あっ、はい」
……とにかく、この場に完全な味方が居ない事はよく分かった。早く帰りたい。帰って依頼をこなしてる方が百倍はマシだ。
間仕切りの向こうに居るエルシーたちも気になる。黒騎士も居る筈だが、何か失礼でも働いていないか。任せておいて心配なのは、エルシーも四捨五入すれば子供みたいな物だからだ。
「クリスと
彼の判断により、この場は一先ずお開きとなった。第二王子に助けられた様な気がして釈然としないが、受けた依頼をこなすのは社会人、もとい冒険者のマナーである。
「ええ、微力ながらお手伝いいたします。この場を設けていただき、感謝します」
「もし、子供たちを預けるあてが無いのなら、私に頼って欲しい。こちらから
「……その時は、是非」
全く、一体どこまで知ってるんだか。
………………
…………
……
そんな軽いノリで始まった世界滅亡阻止タイムアタック。参加者は多数の兵士と黒騎士隊、そして俺たち
「……点呼取るぞ。1!」
「にぃー!」
「……サン?」
「お待ちなさい、
言うまでもなく異常事態だ。目の前にここに居る筈のない奴が居る。
エルシーは良い、エルフも流れで来たが把握しているので別に構わない。
だが居るんだ、4人目が。
真っ赤な髪を一房に纏めて、豪奢なエングレーブの入った装甲付きのドレス──バトルドレスを着込んで、竜の頭蓋を模った大槌を背負ったひと目見て分かる高貴な方が。
……知ってるけど、知らないフリをしたい。
「あら、冒険者とはいつもこの様な事をしているのかしら?」
「やるにしても、大規模な討伐隊や調査隊で大規模パーティ組む時位じゃない?」
「何で普通に会話してるんだ? 私がおかしいのか?」
「私の事は通りすがりの一般人とでも思って頂ければよろしくてよ?」
「いや、そんな格好の一般人は居ませんって」
まさか、この国の王族は現場主義者しか居ないのか。なんて思考が脳裏を過ぎるが、多分コイツ……じゃなくこの方と第二王子がそうであるだけなんだろう。そうだよな、多分、きっと。もしこんなのばっかだったら移住を真面目に検討するぞ。
「……なら、そう扱われても構わないと?」
「その明け透けな態度、私は今の貴女の方が好みでしてよ?」
「分かりました。……いや、分かった。しかし何故態々私たちと?」
「一つは貴女方を見極める為、もう一つはこの国家の有事に際して、私に出来ることをする為に」
火花が散る様な好戦的な笑み。実益を兼ねた趣味って所だな。バトルドレスもただの見栄じゃない、薄く幾つも傷が入っているのが見える。ただ深い傷は見当たらない。チキンかベテランか、後者であれば有難い。
そう考えながら彼女を見ていると、彼女は笑みを薄めて真剣な眼差しをした。
「……子供は次代の宝。召喚魔法により未知なる瘴気がこの地に蔓延すれば、真っ先に死するはか弱き子供と老人たち。その様な事、この国の女王の血を引く者として断じて認めませんわ」
手袋がぎちりと音を立てる。彼女の拳から。
「それはアタシも同意見。アタシは多少の理不尽なら楽しむけど。被害を被る側からすればねえ」
ひらりと手を挙げたエルシーも笑みとは裏腹に喜色のかけらもない声色だった。
「何者であっても、子供が命を散らす事程惨いものはない。私も同じだ」
生真面目そうなエルフは言わずもがな。硬く言葉を結んだ。
転生者の俺としては巻き込まれた転移者の事も気にかかるが、思う事は概ね同じだ。
シキ、タリス、ヨイヤミ。僅かな間だが、見知った顔が居なくなるのは人生でそう経験したくない出来事だろう。
因みにここには居ない子供らは件の執事──杖型の仕込み銃で密かに武装していた──と共に王都で留守番を任せている。こちらで人員を遊ばせる余裕はないからだ。
「点呼ははちゃめちゃだったが、目的は共通してる。ならパーティを組めない事もないだろう。改めて、私の名はクリスだ。よろしく頼む」
「アタシはエルシー。よろしくね?」
「悪いが、私の世界ではエルフは親しい者以外に名を明かせないしきたりだ」
「
「──パーティの半分の名前が分からないのは前代未聞だな」
「なら、呼び方を考えたりするの?」
「そうだな、行きながら考えよう」
そうして俺たち即席パーティは召喚魔法が行使された地点、最初にエルフが居た遺跡へ向かう事にした。
………………
…………
……
「
「……確かに、魔法が使われた気配は感じられますわね」
「
「すまないが、魔法の気配、というものがそもそも分からない」
王女らしき人物についてはノーブル、エルフらしき人物についてはゲストとコードネームは決まった。今は件の遺跡の中を確認している所だ。
犯人は現場に戻るとはよく言うが、流石にそれを期待するのは望みが薄そうだ。生活感のかけらも無い土埃を被った遺跡はがらんどうで、他には何も無い。
「……そもそも、ゲストの世界では魔法はどんな代物だったんだ?」
「確かに、気になりますわね」
「私たちの世界では魔法は限られた者だけが使える力だった。ただ、エルフは精霊と呼ばれる存在から力を借り受ける事で精霊魔法を使う事を可能としていた」
「今は使えないのか?」
そう聞けば、彼女は背負っていた包帯に巻かれた長物に目を向けて「精霊は今、ひどく弱っている。癒せるのは我らがエルフの王族の血筋のみだ」と、返してくる。
転生者の多くはこことは世界観を異にする世界から呼ばれてくるが、今回はそこまで差異が無いらしい。精霊こそ居ないが、魔法が存在しているのならそこまでの手間は省ける。
……しかし、犯人についてはあまり情報は得られていない。魔法の名残や、大量の足跡はあるが、それ以上が無い。
「魔法を使った事は確か、大量の足跡が遺跡の外へ向かった事も確か、ただ、それ以降はパタリと消えた。空を飛びでもしない限りあり得ない」
だが、この世界にはあり得ないをあり得るに変える力がある。
「……クリス、質問だが。この世界の召喚魔法というものは、あくまで異世界のみを対象とするのか?」
女エルフ──ゲストはそう聞いて来た。何か閃いたのだろう。俺と比べればここの3人はデジタルネイティブならぬマジックネイティブだろうからな。魔法については余計な固定観念無しに考えられる筈だ。そう思いながら回答する。
「いや、この世界の中でも使える」
「なら、自分だけが移動すれば……」
「……そうか。自分だけ跡が残らない様に移動して後で転移魔法で動かしたのか。召喚魔法絡みの事件は大抵異世界絡みな所為で考えから漏れてたな。直接の追跡は無理筋か」
エルシーもほうと感心していた。そんな彼女も気付いた事に言及を始める。
「この犯人って、確か男はお楽しみと奴隷にもって言ってたんだっけ?」
「そんな感じだったな。公的に奴隷をやり取り出来るのは王国領のみだが……」
「ただの奴隷商には売れないでしょうね」
「ほう、普通の奴隷商? 興味深いわね、聞かせなさい」
推定王女──ノーブルも乗って来た。ゲストは話題が話題なだけに怪訝な顔つきであったが。エルシーは得意げに語り出した。
「口振からして、その子常習犯よ。普通の商人なら出所の分からない
「それに、この国は身元不明の奴隷の売買は原則として禁じられていますわ。貴女の言うような方でしたら、既に我が国が捕らえて処罰していたでしょう」
「そう、さっすがノーブルちゃん。おやつの干し肉、要る?」
「干し肉。冒険者らしいですわね、是非頂きますわ。……んぐ、硬いですわね」
「その……私も」
「ゲストちゃんも要るの? はいどーぞ」
唐突に干し肉を食べ出した3人に頭が痛くなりながらも、俺は彼女が言わんとした事を汲み取ろうとした。
結局のところ、足は着くのだ。人が動けば必ず。
「余計なやり取りを入れるな。つまり、犯人は特殊な男奴隷を捌くルートがあって、奴隷商もまたそれを捌けるだけのあてがあったって事だな?」
「多少は表の奴隷商に小分けにしたかも知れないわよ?」
「……それはどうだろうな。俺が犯人なら、出来れば噂の出所になる場所は一つに絞りたい。いざという時、口封じも容易だからな」
「アンタ……前にやってたりしないでしょうね」
──する訳ない。エルシーの疑いの目に冷ややかな視線を返す。
「ま、アタシは信じてるけど!」
「どの口が……」
とにかく、方針は見えてきた。現場を探しても埒は開かない。彼女は奴隷商に男を売ろうとしていた、それはただの奴隷商ではないだろう。
「……となれば、この近くで1番怪しいのはあそこだな」
「確かに、身元不明の男が紛れてても怪しまれないのはあそこくらいね」
この国で探すべきは絞られる。幾ら男が居ても怪しくなく、少し暗い出所でも受け入れる懐の深さのある場所とくれば──そう、歓楽街だ。
遅筆ですまない……。