安全圏扱いはやめてくれ!   作:銀髪ムチムチTS女子

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三人の子供を引き取る前に一話挟みます。次の展開がすぐ知りたかった人、ごめんなさい。

※本文で主人公の三人称を彼としているのは意図的です(他女性キャラとダダ被りする可能性が高い為)。違和感あれば申し訳ありません。


冷血処女①

「……早まったかもな」

 

 冒険者ギルドに併設された食堂の椅子に腰掛け、天を仰ぐ女が1人。

 銀の髪を肩口に揃えた碧眼の女は、革と鉄を組み合わせた軽装鎧に身を包み、背後に重みをかけギコギコと椅子を揺らす。安楽椅子ごっこをしたとして、彼の頭に名案は浮かばなかった。

 

 クリス・フロントラインは、今夜行われる子供達の引き取りを前に、時間を潰す算段であった。

 

 エルシーは昨日の衝撃から立ち直れていないのか、ギルドに姿を現さず。そんな背景もあり、1人だったクリスはこの際何でも構わないと、目についた依頼をこなそうと考えている。

 

 彼が掲示板から手に取ったのは一枚の紙、紙面には醜悪な小鬼が描かれている。

 

「メスのゴブリン15匹……害獣駆除か」

 

 ゴブリン、コボルト、スライム。本能のままに動き、人里に被害を齎す存在である。クリスは最初、二足歩行の生命体を害獣として駆除する事に抵抗感があったが、やがて慣れ、彼の収入源のひとつとなっていた。

 

 害獣が齎すのは作物(根菜類の被害が多い)や家屋への物的被害、のみならず、村の貴重な男が襲われる人的被害も存在する。

 

 他種族の男女比も概ね偏りがあり、多くは女性優位の社会が形作られているのだが、ある地域に居るマオラスと呼ばれる種族は構成員のほぼ全てが男性であるなど、僅かながら例外も存在する。

 

「さっさと受けたいんだが……」

 

 そうして依頼を選べば、受注する必要がある。受けたい依頼を受付カウンターに提出するだけの作業だが、クリスはこの作業が面倒で嫌いだった。本人の気質として面倒くさがり屋であった事もあるが、それだけではない。

 

 並ぶ受付窓口には長蛇の列、皆冒険者だ。受付には青年が並んでいる。

 

 クリスは線の細い端正な顔立ちを歪めてため息を吐く。気分は前世の満員電車に対するそれだ。

 

 クリスの身体は至る所が豊満である。それでいてしかし、他の冒険者に比べればやや繊細な身体付きでもあった。下品でありながら上品。ドカ盛りのフランス料理的な矛盾塊、クリスが今の身体を姿見で映した時、ふと思った事だ。

 

 何がこの状況を生み出しているかと言えば、冒険者と受付という形ではあれど、男と一対一の会話が出来るからだ。受付は仕事でやっているので多少の世間話程度では嫌な顔はしない。武勇伝でも語れば愛想笑いの一つでも見せるだろう、そんな事をされた女はますますのめり込んでいく。

 

 クリスは思い出す。ある冒険者の言葉を。

『歓楽街で無駄金を使うより、冒険者ギルドに毎日通う方が満足出来る』──エルシーの言葉だ。

 

 ただこれは彼女に限らず、そう考える冒険者は少なくない。常に人手を欲する冒険者ギルドの営業戦略の一つであるとクリスは認識しているが、それであっても人混みとはいつも人を辟易させる物だ。

 

 だがひとつ、人気の無い列があった。まるで、人気格差が凄まじいアイドルの握手会の如く。

 

「元気か?」

「あぁ……クリスさん!」

 

 そこには一部を除き、ごく普通の()()が立っている。

 

 世にも珍しい受付()の姿はクリスに比べれば遥かに小柄だが乳牛の様に発達した胸部を有していた。それは筆舌に尽くしがたい光景で、カウンターが二つの巨大な生きる山に飲まれている。前世の価値観で測ったとしても性的興奮よりも先に畏怖や驚愕が先に来るぞ、と初対面だった時のクリスは感じた程だ。

 

「相変わらず空いていて丁度いいな、ここは」

「クリスさんは相変わらずですね」

「何だ、私は褒めてるつもりだぞ、()()

 

 踏み台に乗りながらクリスとの応対を進める受付嬢。受付嬢は、クリスが来るまでは受付嬢としてはクビになるか否かの瀬戸際にあった。冒険者は荒事がメインとなる仕事、故に粗雑で野蛮な者も多く、そうした輩は得てして自身の欲望に正直である為、受付嬢を相手にしなかった。

 

 冒険者等が来なければ仕事にならない受付にとっては、人が来ないのは致命的。そんな中、常にガラ空きだった受付嬢に目を付けたのがクリスだった。受付嬢も初めて相手にしてくれた冒険者に手厚くサポートした結果、クリスは毎回の依頼受注で受付嬢を訪ねる様になっていた。

 

 そうしてクリスという冒険者を育てた実績により受付嬢はクビの危機を回避し、今もこうして働き続けられている。つまり、クリスからすれば受付嬢は恩師であり、受付嬢からしてもクリスは恩人であった。

 

「あっちの列みたいに後ろから殺意混じりで急かされるのと比べればここは天国だ。好きなだけ情報が聞けるし」

「クリスさんは言動に依らず真面目ですからね」

「先生程じゃない」

 

 あらあらうふふと穏やかに笑う受付嬢。目と目が合えばバトルが始まりがちな冒険者ギルドにおいて、非常に穏やかな空間がそこにはあった。

 

 前世でそう呼べる存在は幾らか居ても、義務教育の無かった今世ではただ1人しか居ない『先生』。クリスの数少ないマトモな知人である。

 

「して、今日の依頼は何をするつもりですか?」

「メスのゴブリンが15。シンプルな害獣駆除だ」

 

 カウンターに差し出した紙を受付嬢はしげしげと見つめる。彼女の脳内のライブラリがあれば手元に鈍器めいた厚みの記録帳が無くとも、依頼主から直々に発注された覚えのある依頼を彼女はすぐに思い出せる。

 

「その依頼の環境は……森林でしたね。火や長物を使う予定は?」

「火薬は使うが僅かだ。いつもの装備なら小回りも問題ないだろう」

「解毒薬の用意は言うまでもないとして、鎧の関節部の補強もしていますね?」

「勿論、先生には口を酸っぱくして言われてたからな」

 

 パシン、と鎧を叩いてみせたクリス。それでこそ、と頷く受付嬢。

 熟練のコンビの様に確認をさっくりと終わらせると、クリスは彼女の前に拳を差し出す。

 

「じゃあ、行ってくる」

「ええ、成功を祈りますよ」

 

 彼女は小さな拳を答える様に打ち付ける。すぐに離れて、クリスはそのまま冒険者ギルドを後にした。

 

「……ふぅ」

 

 彼が去った後、受付嬢は胸の上で腕を組む──もはや乗せている様な姿勢で休憩に入る。隣の芝生は青いと言うが、隣に並ぶ受付の者達から羨ましげに横目で見られている受付嬢は、また後でクリスについて質問攻めをされると分かっている……だからこうして英気を養うのだ。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 クリスは駆除対象が居る森林へと足を踏み入れていた。

 

 右は木、左は木、どこを見ても木。単なる森だ。

 

 彼の今の格好と言えば、軽装鎧に加えて紺色のフード付きのマントを。フードは下ろし、その中で兜を被り顔を隠している。戦場において美醜等まるで役に立たない上、急所であるなら念入りに守るべきだというクリスの考えが滲み出ていた。これが他冒険者であれば自己主張の為にもう少し派手な装いをしていた所だろう。

 

 もっとも、戦場は合コン会場ではない。よしんば合コン会場が戦場となる事があっても必要十分とはなり得ない。人間にしろ獣にしろ男が戦場に出る事はまず無い為、そんな配慮が役立つ事はまず無い。

 

 この世界でこうした人種をリアリストと呼べるのかには議論の余地があるが、冷めている側の部類に入る事は間違いない。故に冷血扱いは甘んじて受け入れていた。

 

 ──安全圏(セフレ)扱いよりはマシだからと言う消極的理由もあった。

 

 ともかく、彼にとっての戦場のドレスコードは、偵察兵(スカウト)かつ騎士(ナイト)の様なこの出立ちが基本的となっている。

 そして今、森を歩くクリスは右腕に菱形の盾を装備し、そして左手に銃──無骨かつ巨大な回転式拳銃──を握りながら周囲を索敵していた。

 

 普段であれば安らかさを生む静謐も、ここが戦場になり得る可能性を孕めば緊張を生む。

 

 木々をすり抜ける様に静かに進んでいく彼は、やがて地面にある痕跡を見つけた。得体の知れない半透明の液に沈んだ野菜のかけらである。

 

「野菜クズ……小さめの人参なら大物は居ないな」

 

 ゴブリンと言えば、前世のサブカルチャーの界隈では女を片っ端から襲い数を増やすと言う不名誉なイメージが定着していたが、ここでもそれは同じ。男を手当たり次第に襲う。

 だが、その理由は男女比がそもそも偏っている為に、オスのゴブリンと番になれるメスのゴブリンが少ないからである。

 

 勿論、人類の殆どの種は男女比に偏りがあり、見つけようとしても簡単に見つからない事もザラにある。その為メスのゴブリンはいざと言う時の為、擬似的なモノを使って()()を行うのだ。

 

 それに使用されるのが、棒状の根菜である。更に使用されていた根菜の種類によってメスゴブリンの体躯を把握する事も可能である。尚、使い終わったそれは食料となる。

 

 クリスは先生からこの事を教わった時、気が遠くなる様な気分だったが、もはや当たり前の事として受け入れていた。適応力と言うべきか、考えるのをやめたと言うべきか、それは本人ですら分からない。

 

 そうして汚いヘンゼルとグレーテルの如く野菜クズの後を追っていくと、ゴブリンの群れ。その中心には──

 

「くそっ、殺せ!」

 

 ──どこかで聞き覚えのある様な台詞を吐く、鎧姿の若い男が縄で縛り上げられていた。

 

「……なんだあれ」

 

 鼻白むクリスであったが、人命救助は冒険者の努力義務であった。自らを守り、余裕があれば手助けする。冒険者が完全なアウトローとならない為のルールの一つだ。

 

 鎧姿の男を珍しく思いながら、彼は銃を構える。見るだけも圧を感じさせる銀色の銃口が男に縄を巻くゴブリンの胴体を捉える。

 

 銃の引き金を引けば撃鉄が持ち上がり、引き切ると同時に雷管へ振り落とされた。

 

 ──ドォン! 

 

 小さな雷鳴めいた炸裂音と共に銃口へ押し出された弾丸は、過たずゴブリンの胴体を破砕した。

 

「──ギャッ?!」

 

 歓喜から一転スプラッタと化した光景にゴブリン達は硬直するが、それではクリスの良い的になるだけだった。

 

 ──1、2、3、4、5。

 

 続け様に放たれた5発。複数のゴブリンを巻き込みながらその暴威を吹き散らかしていく。

 

 クリスは銃の弾倉を振り出す。銃身の横で晒した弾倉の残弾はゼロ。

 

 剣や魔法とは違う絶対的なインターバル、リロードが必要となる事が攻めっ気の強い冒険者に広がらない理由であった。また、貴族の男が護身用に持つ物という意識も強く()()()()と見られている事や、再利用不可能な飛び道具の宿命として、金が掛かる事も不人気に拍車を掛けていた。

 

 それでも彼が銃を使うのは単純に楽であるからだ。

 

 弓やクロスボウよりも快適で、本人の状態に左右される魔法よりも安定した火力があり、剣や槍や斧よりも小型で持ち運びやすい。

 

 ──そして欠点であるリロードは魔法で補う。

 

 クリスは振り出した弾倉から薬莢を吐き出せば、紺色のマントの下から突如溢れ落ちた弾丸が、空を駆け導かれる様に弾倉の穴へと収まっていく。

 

 手のひらサイズであれば自分の周囲を自在に動かせる魔法の手。これは文字通り『マジックハンド』と呼ばれる魔法である。マントは魔法の道具、通称『魔法具』と呼ばれる物で、布が作る影から物を出し入れ出来る貴重な品である。これは先生から一人前の証として貰った代物であった。

 

 振り出した弾倉を手首のスナップで元に戻すと、再び弾丸の嵐がゴブリンを襲う。後はこれを繰り返すだけだ。

 

 撃発音から生まれたパニックが伝播し、烏合の衆と化したゴブリン達が殲滅されるには、そう時間は掛からなかった。

 

 

 

「……片付いたな」

 

 そうしてクリスは辺りを警戒しながら男へ近付くと、腰に差したナイフで手際よく縄を切り落としていく。

 

「君は……もしかして」

 

 男は、顔の見えないクリスを見てそう言ったが、視線を下げ、飛び出した胸部を目に映すと──

 

「──くそっ、殺せ!」

「おい待て、私をメスゴブリン扱いするな」

 

 胸が大きい=野蛮、つまりメスゴブリンである。クリスは一瞬だけこのまま置いて帰ろうかと思案したが、良心の訴えにより流石に断念した。

 

「どう見ても私は人間だろうが」

「人間……つまり盗賊か山賊! くそっ、殺せ!」

「お前の中の人類どうなってるんだ? 世紀末か?」

 

 縄を切り落とし、クリスは男を引っ張り起こす為に手を差し出す。

 男は手を向けられ一瞬身体を強張らせたが、何もせずに手を差し出していたクリスを見て、おずおずとその手を取った。

 

「……本当に、助けてくれただけなのか?」

「それ以外にどう見える?」

「身体を要求したりしないのか? 母の絵本にはそう描いていたが……」

「それは……否定出来ないな。私だから助けただけで終わったが、他の奴だと……さっきまで言ってた台詞の出番だろうな」

 

 内心どんな絵本だよ、と突っ込みを入れたかったクリスだがここは我慢した。さっきまでは妙なテンションであった男も、事が終われば恐怖が追い付いてきた様で、少し暗い顔をしていたからだ。

 

「今回は何事もなく助かったんだ。次は気を付ければいい」

「ああ、その通りだな」

 

 クリスは正直、これ以上深入りしたくなかった。昨日の出来事のせいでただでさえ胃が痛む所に、得体の知れないふざけた男騎士と出会ったとあっては胃に穴が空きそうだとゲンナリしている。

 

「ところで、君の名前は……」

「さあ帰るぞすぐ帰るぞ。事情は冒険者ギルドの奴らに説明してくれ、今話されても私は一切承知しないからな?」

「あ、ああ、分かった」

 

 兜を被ったまま詰め寄り、男に圧を掛けるクリス。理由も分からぬまま帰りたい、帰ったらすぐに子供らを引き取って家に帰りたい。そう願う彼であった。

 

 

 

 ──後日、かの男騎士の身の上を知り、発狂する事も知らずに。




思いの外皆さんに読んで頂けて嬉しいです。ありがとうございます。
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