安全圏扱いはやめてくれ!   作:銀髪ムチムチTS女子

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何かランキング乗ってたみたいですね、嬉しいです。


引率者扱いはやめてくれ!

 聳え立つ教会。

 昨日見たばかりだが、今の俺には魔王城の類にしか見えない。

 

 日はどっぷり沈んでいた。時間はもう来ている。

 

「まだ悩んでるの?」

 

 隣からひょいと顔を出して来たエルシーは、教会へ行く道すがらで合流した。一応、相方ではあるからな。

 

「……いや、丁度悩み終わった所だ」

「ふぅん、何を悩んでたか聞いても良い?」

「子供を引き取った後に何をするか考えてたんだが、考えれば考える程バカらしくなって来た。一緒に飯食って風呂入って寝る、それだけすれば良いだろってな」

「うんうん、飯に風呂に睡眠……待って。風呂ってまさか一緒に入る気?」

「裸の付き合い……ってそうか」

「世が世なら今ので捕まってるんだけど」

 

 俺自身、境目が曖昧な部分がある。男か女かで言えば男の感覚だが、当然周りは俺を女と認識している。その齟齬は今まで致命的にはならなかった。精々『安全圏内』のあだ名を貰う羽目になっただけで……いや、分かってる。致命的だな。

 

 今まで女性の社会で生きて来たが、もうすぐ見ず知らずの男児三人と寝食を共にする訳だ。中途半端にしたら火傷する。

 足りないものは多いと自覚してるが、その中でも常識は全く足りていない。先生やエルシーが外付けの常識と言っても良いだろう。

 

 だが内容が内容なだけに気楽に頼る事も難しい。ここは習うより慣れろの精神で行くしかないだろう。育児本なんてのは王室位にしか出回ってない上、市井に出回る様な物は大抵が妄想日記一歩手前の代物と化しているからだ。

 

「ま、分かんない事があれば頼って。私も妹なら居たから」

「こっちだって弟と兄が居たぞ、家族と他人じゃ参考になるか怪しい所だがな」

「……もしかして、前世で世界でも救った?」

「いや? ただの一般人だった」

「真顔で冗談言わないでよ!」

 

 唖然とするエルシーを横目に、俺は教会の扉を叩く。決まった回数をノックして暫くすると、暫く静かな時間が続いた後、扉がゆっくりと開かれた。扉を隔て向こう側には昨日の腹黒神父が笑みを浮かべて立っていた。俺はロクでもない聖職者を幾らか見た事はあるが、多分目の前の神父はその中でもタチが悪い方だろう。

 

「お待ちしていました」

「出来れば延々と待たせたかった」

「本心を隠すのは心に良くありませんよ?」

 

 エルシーは背後で腰に佩いた剣の柄頭に手を置き、周囲を警戒している。こういう時には頼りになる。

 

 そんでもって件の子供達は、神父の背後から現れた。

 

「我と遊びに来たのだな?!」翠眼を宝石の様に輝かせる少年。

「……うぅ」神父の服の裾を掴み離れようとしない少年。

「来訪を歓迎します、人の子よ」胸の前で手を組み微笑む少年(?)。

 

 誰も彼も頗る美形だ。金髪翠眼、子供でありながら美人と言っても差し支えないレベルで。警戒態勢のエルシーですら、目の端でチラチラこちらを見ている程。

 

「……遊びに来た訳じゃない。私はお前たちを一時的に預かる事になった」

「本当か! 今日は外に出ても良いのか?!」

「ああ良いぞ、ただし。家主である私の指示に従ってもらうが」

「やったー!」

 

 子供らしくゴム毬みたいに跳ねているエルフ少年、見た目と中身の差が激しいのが長命種あるあるだが、こいつはそうでも無いらしい。別にここに不満があるって訳じゃないだろうが、外の世界が気になる年頃か。

 

「や、やだぁ。ボク、ここにいる」

 

 紫色の髪に黄金色を隠れさせる少年を見た。インキュバス少年はかなり内向的だ。俺の見た目がどう認識されるかを考えればそうなるのも無理はないが、神父にひっつき虫では連れて行くのも難しい。

 

「……神父さん、どうにかならないか?」

「出来れば、貴女がどう彼を口説き落とすか見てみたいのですがね」

「人聞きが悪い事を言うなよ。余計にビビってるぞ?」

 

 かと言って何もしないでは夜が明ける。やるしかないなら、やるまでだ。

 

 俺はインキュバス少年に近付き、彼の両脇に手を差し込んだ。

 

「ふぇっ? ……ぁはははっ?!」

 

 脇をくすぐってやれば彼はあっさり手を離した。実力行使である。そのまま少年を持ち上げ拘束してしまえば何も出来ない。

 

「捕まえたぞ」

「あわわわ……!」

「別にずっと離れ離れになる訳じゃない。もしかすれば明日にでも帰れるかも知れないぞ?」

「……本当に?」

 

 俺はらしくもなく微笑んだ。ただし、答えもしない頷きもしない。あくまで可能性の話である。ただ、彼がどう解釈するかについては関知しない。大人とは汚い生き物だと学ぶといい。

 

「分かった……」

 

 そして最後に残るのは、白い翼に明るめの茶髪の天使少年(?)だが──

 

「人の子よ、貴女のお世話になります」

 

 ──物分かりが良過ぎて逆に怖い。

 

 その後光が射すような笑顔は正に天使の物だが、年頃の子供の態度と思えば些か慇懃過ぎる。そのスカイブルーの瞳に見つめられると、何故か懺悔したくなってくる。コイツの事は何も分からない。分からな過ぎて笑顔で首を捩じ切ろうとして来ても驚かない自信がある。

 

「はあ、見通し暗いな」

「……そうでしょうね。きっと貴女にも初めての事は多々あるでしょう。ですがきっと周りを見れば助けになってくれる方々がいる筈ですよ」

「そうだと良いがな」

 

 変わり種しか居ない、俺を含めて。

 

 神父は何がおかしいのかずっと笑顔で居るし、エルフ少年は早く行こうと俺の服の裾を引っ張っている、インキュバス少年は手持ち無沙汰に辺りをおろおろと見渡して、天使少年は俺の隣でただ待つだけ。

 

 だがやるしかない。

 

 別にこれは期待に応えるなんて殊勝な心持ちではなく、子供の自由が損なわれるのが俺の精神衛生に宜しくないというだけだ。自分が心地良く過ごす為の……そう、自己防衛だ。

 

「……じゃあ行くぞ。私の家にな」

 

 三人は頷いた。

 

「ああ、そう言えば名前を聞いてなかったな」

「我はシキだ!」

「ぼ、ボクは……ヨイヤミ」

「私の名はタリスです」

「エルフの子がシキ、インキュバスの子がヨイヤミ、天使の子はタリスか……覚えたぞ。なら次は私の番だな。私の名前は──」

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 手短に自己紹介を終えた俺達は、その足で帰路に着いた。エルシーは家の近くまで来てから別れた。これ以上少年達と居ると内なる野生を抑え切れなくなりそう、と言っていた。そんな野生捨てちまえ。

 

「着いたぞ、ここが私の家だ」

「ここがクリスの家……大きいな!」

 

 俺の家は街から少し離れた場所にある。昔は宿屋暮らしだったが、隣の部屋から()()()()に熱中してる女の喘ぎ声が筒抜けになってたり、上の階に男を連れ込んで他の利用者と揉めた挙句、壁や床を貫いて暴れたりされたら嫌気も差してくるだろう。

 

 二階建て地下室付き、家具は一通り。この世界の家電の様な魔法具も完備してある。酒もタバコもしない、歓楽街にも行かない生活をしていたら金ばかり貯まっていた。だから先の事件を契機に購入した。

 

「街から遠いのは不便な所もある。が、街の喧しさから離れて過ごせる利点もある」

「静かなのが良いのか? クリスは変な奴だな」

「……分からないならそれで良いんじゃないか?」

 

 エルフ少年・シキは目を輝かせていたが、インキュバス少年・ヨイヤミはまだ怯えが残っている様子だった。天使少年・タリスは先までと変わらない自然体だ。

 

「一先ず、ここがお前達の家になる。無茶苦茶はするなよ?」

 

 そう言うと、三人は頷いた──。

 

 

 

「……と思ったんだがな」

 

 夜も遅く、取り敢えず今日は寝ようと三人に話し、空き部屋にベッドがあるからそれを使って三人で寝ろとも言った。エルシー曰く、少年と同衾するなんてのは正気の沙汰ではないそうだからな。俺も一定の理解を示してわざわざベッドまで用意しておいた。

 

 だが、寝苦しさに起きてみれば胸元には金髪頭があった。俺の身体の上にシキが寝っ転がっていたのだ。ヨイヤミは壁向きに寝ていて、タリスは隣で真っ直ぐに。どう言う訳か三人揃ってベッドに上がっていた。

 

 道理で満員電車の夢なんて不吉極まる物を見た訳だ。あの身体をガチガチに拘束される感覚はいつ感じても不快だ。目を覚ましてみれば、理由も分かって多少は気分もマシになったが。

 

 下手人はおそらくシキだ。寧ろコイツ以外がこれをしでかすビジョンが見えない。

 

「んんん……」

 

 俺の胸の谷間に顔突っ込んでもがき苦しむシキをどかし、ヨイヤミの方へ転がす。三人とも疲れているのか目を覚まさない。対して俺はこれだ。あわや初日で死人が出るところだったぞ。

 

 まさかこれが毎日続くのか。一人暮らしの気楽さが急に恋しくなって来た。一日と経っていないが、先行きに不安を覚える。

 

 だがまだ寝足りない、眠気が醒めない内に俺は目を閉じた。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

 そして翌日。冒険者ギルドにて。

 

「で、ヤッたの?」

「シバくぞ」

 

 両肘を机に突き手を組んだエルシーが真剣な目をして放った言葉に俺はこう返していた。

 

 大体がこの世界、ただでさえ男女比が狂った女社会な上に教育が行き届いて居ないせいで暴力満点道徳0点の変態が少なからず居る。比較的清楚と呼べてしまうエルシーですらこのデリカシーだ。

 

「変な匂いもしないし、本当みたいだけど……マジかぁ」

「心底信じられない物を見る目だな」

「いやだって、どんなヘタレでもこう下心が見え隠れする物だし。そんな気配が無いって……まさかアンタ、女が好きな訳?」

 

 訝しげな様子で両腕を抱いて腰を引くエルシーに何と応えるべきか、俺はふと考えていた。

 

「……な訳ない」

 

 分からないと言うのは不味いと思い、否定する。十数年生きて来たが、今の俺はまだ分からない事ばかりだ。

 

「そ、なら良いけど」

 

 エルシーの言葉のせいで妙な空気になった。コイツもそう分かっていたのか、「あっそうだ!」と口を開く。

 

「アンタ、子供達はどうしてるの?」

「朝食を食べた後、留守番をさせた。流石にここに連れてくる訳にもいかないが、かと言って働かないのも今後に差し支えるからな」

「世知辛いのね」

 

 教会や孤児院の運営は寄付などにより賄われる物。それ故に貧乏な神父から金を貰うのも孤児院の子供に悪いと思って貰わなかった。

 神父は資金の援助を申し出ていたが、正直に言ってこちらの収入に比べれば足してもそこまでの額でもない。なんとかなるだろうの判断だ。

 

「後は、緊急時に備えて『身紛らしの腕輪』を持たせて、姿消しと音消しの魔法が込められた『マジックメダル』を幾らか持たせた」

「いや過保護……それも仕方ないけど」

 

『身紛らしの腕輪』は外見を誤魔化す魔法の力を宿した魔法具である。角や翼や耳みたいにフード如きじゃ隠し切れない身体的特徴を隠す為の物だ。髪や骨格を微妙に誤魔化し女子の様に見せる事も出来る。後そこそこ高い。元々貴族の男児が身を守る為の物だからだ。

 

『マジックメダル』は一見するとただのメダルだが、中にはいつでも発動可能な魔法が込められている。柔らかい金属で出来たこのメダルを二つに折れば、魔法が一度だけ発動する。使い捨てだが安めに手に入る便利品だ。

 

 抜かりはない。出る前にしっかり説明はしたし実演もした。魔法具で作った家の警備システムも稼働しているのだから、何も心配する事はない。

 

「これくらいしておけば何とかなるだろう。さっさと今日の依頼を探してこなして、帰らせて貰うぞ」

 

 そう言って席を立とうとした時、エルシーは引き攣った微妙な顔をしていた。何か言いたい事でもあるのかと目を向ける。

 

「……あの〜。自信満々にそう言ってる所悪いんだけど」

「ん? どうした、お前が下手に出るなんて珍しい」

 

 エルシーの視線は俺から右の腰辺りへ、まるで幽霊でも見た様なリアクションだ。一体何が……。

 

「ここが冒険者ギルドなのか、家より大きいな!」

 

 昨日見た記憶しかない金髪頭。長い耳ではないし、髪も伸びて肩もストンと落ちているが、俺の目は一人の少年を間違いなく映していた。

 

 心臓が止まった気がした。いや、止まった。

 

「……嘘だろ?」

 

 いや、何故ここに。

 

 ──そうか幻覚か、よし、三秒目を閉じて目を強く押さえよう。開けてコイツだけ像がブレなければ魔法の幻影だ。きっと誰かの質の悪い悪戯だろう。

 

「1、2、3……」

「ん? 我と隠れんぼがしたいのか?」

 

 目を開けば、微かな残像を背景にはっきりと映る姿。王国騎士団長……俺を孤児院に放り込んでくれた母親しかやってるのを見た事はないが、戦場にて鍛え上げられたとか言う確からしい技術だ。間違いなくこれは幻影。

 

「……ほら見ろ、ブレない」

 

 だがエルシーは言った。言ってしまった。

 

「──それ、魔法の腕輪付けてるからでしょ」

「おいやめてくれ……現実を突きつけるのは」

「さ、3秒では隠れられないぞ! もう一回だ!」

 

 声色もやや変わっているが、つい最近聞いた語調だ。もう疑える余地が無い。何故来た、そう問い糺したかった。だが、既にその領域は過ぎ去っている。

 

 不幸にもまだ朝方。冒険者はまだ出払い切っていなかった。

 

「──あの子供、冷血処女のツレか?」

「まさか、冷血処女の娘?」

「私達より早く母親になるとか冷血処女に限って無いでしょ……無いよね?」

「嘘ですわよね……? 我々全員冷血処女以下……?」

「こっちを巻き込むな『名誉聖女(オナー・オブ・ホーリー)』ィ!」

「安全圏内はどこ行った安全圏内は!」

 

 会場のボルテージがヒートアップしつつある。

 

 即席魔女裁判──否、人妻裁判だ! 

 

 俺は今、かつてない程の命の危険に晒されているのかも知れない。神父は一体どんな教育をしてくれたんだろうか。

 

 俺はシキの手を掴み考える。

 

「……何故、我らを皆は見ておるのだ?」

 

 ──いやどうする!?

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