安全圏扱いはやめてくれ!   作:銀髪ムチムチTS女子

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子持ち扱いはやめてくれ!

 ──いやどうする!? 

 

 身に刺さる衆目、嫉妬殺意嫉妬のオンパレード──「Oh Shit!(クソッタレ)」ってか、やかましい。

 

 取れる方法は幾つかある。

 ①素直に全部バラす。──何考えてるんだ、論外。

 ②自分の子と言い張る。──人妻扱いされる、論外。

 

 最後はこれだ。

 ③親戚筋から預かった子と言う。──名案……に見えるが、一つ落とし穴がある。

 

 俺はここじゃ来歴を孤児院暮らしで通している。当然冒険者として登録する際に冒険者ギルドは把握してるが、俺の家名フロントラインは母親が慈悲で名乗る事を許しただけで、冒険者の間でも浸透していない。ちゃんと調べれば分かるとは思うが、ここが問題だ。

 

 親戚筋という事はつまり、自身の出身を把握してる事になる。男の影が見えるのも問題だが、ただの孤児院暮らしのクリスの方が気楽で良い。青い血筋だからと言って遜られるのも問題だ。

 それにフロントライン家はかつてからの軍功で()()()()()なる字面だけで人権家が憤死しそうな権利を有している。シンプルに言えば強い貴族には血を残して欲しいから国から男性を送るシステムだ。

 

 それだけで家を離れた身でも擦り寄る意味があると考える奴は居る。

 

 つまり、最後はここに行き着く。①だ。

 

 ただし当然全部バラす訳じゃない。孤児院から子供を引き取った、それに納得いく背景を用意する、これだけで良い。

 

 

 

 ♦︎♢♦︎

 

 

 

「……お前らは何か勘違いしてるみたいだな」

 

 ピシャリと、冷血処女は言い放った。熱を帯びゆく空気が少し冷めた。

 

 エルシーやその場に居合わせた受付嬢の先生は、どうするつもりだと片や訝しげに、片や心配そうに見つめていた。エルフの少年、シキはそもそも現状を理解出来ていない。

 

「コイツはただ孤児院から引き取っただけだ。別に男を作った訳じゃない」

 

 変わらぬ表情はまるで氷、その繊細な美貌に似つかわしくない粗雑な語調を酷く冷淡な調子で並べる彼に、周囲のローカルな流言飛語が止んでいく。

 

「……あぁ、そうだったな。お前らは建設的な考えの無い場当たり的な奴が多いんだったな」

 

 それは彼自身も、とは誰も気付かない。他の冒険者達が節穴だった訳ではない。余りにも堂々とし過ぎていたからだ。血気盛んな冒険者のボルテージがまた上がる。上がっては下がってを繰り返す波の如くに。

 

「その頭でよく考えてみろ。生来の伴侶を持てる者と持たざる者、その違いを」

 

 唐突な問いかけで上がりかけた熱はまた萎んだ。今、彼は場をコントロールしつつあった。それは後方から状況を見定める銃士としての適性がそうさせたのか。はたまた元来の物か。

 

 意気揚々と白いシスター服を着た冒険者『名誉聖女』が手を挙げた。挙手制にしたつもりはないんだが、と思いつつもクリスは目線を向けた。その冒険者は答える。

 

「持てる者、即ちそれは男を落とすテクニックを持つ者に違いありません」

「よし、お前は未来永劫処女だ。冷血処女がお墨付きを与える」

「ぐはっ……」

 

 見えぬ血を吐いた様に膝を突き、1人の冒険者が倒れた。

 

 冒険者達は戦慄する。先程まで自らが糾弾する立場にあると思っていたが、それは勘違いだった。今試されているのは自らだと悟ったのだ。

 

「持てる者と持たざる者、それは経験の有無だ」

 

 男と女、その差は外見もあれど内面にもある。彼の前世では女は感情、男は理屈の生き物だと散々聞いていた。それは社会的に作り出されたものではなく、身体がそう作られているから。ならば、前世とそう変わらない見た目をした人間が居るなら、その傾向も同様の筈。

 

「20を超えて未だに愛だの運命だの言って夢見てる奴は見込み無しだ」

「んな……嘘でしょ!?」

 

 鋭い言葉の剣が刺さり、更に冒険者達は斃れていく。

 

「下半身で結婚出来るなら頭は要らないだろうが!」

 

 これは彼の持論に他ならない。世間の一般的価値観でもない。そこまで理屈立った結婚もないだろう、だから間違っているとも言える。だが、今の彼の言葉には周りを納得させてしまう不可思議な勢いのみがあった。

 

「頭があるのは考える為だ。考えるのは未来に生きる為だ。未来に生きるのは子孫を残す為だ。だが!」

 

 大仰に腕を広げた彼に、誰もが目を奪われた。

 

「お前らは誰とでも子孫を残せたら良いかも知れないが、向こうはどうだ。ヤる事しか頭に無い、手段と目的がひっくり返った奴の子孫が残り、挙句は自らが育てる事になる。そんな奴に身を捧げる? クソ喰らえだ!」

 

 クリスは自らを正当化し、怒りを鎮めようという魂胆だった。この際、注目を浴びてしまうことには目を瞑っていた。

 

「……夫婦ってのは苦労を分かち合う物だと私は思っている」

 

 まるで言い聞かせる様に、語り部となったクリスは滔々と語る。彼は内心では経験も無いくせにと自嘲気味ではあったが、むしろその経験の無さが、彼女達と同じ立場である事が、ある種の説得力を生む。

 

「子供を育てれば、自ずとこの世界に生きる男の苦労が分かる。その苦労の経験の有無が、持てる者と持たざる者の違いだ。好きや嫌いより、この先の労苦を負担し合える存在と付き合って行きたい、私ならそう思うがな」

 

 感情と理屈。女と男。魅力的に見えるのは感情が働くから、それはファーストインプレッションのみで、それが継続するのは自分にとって都合良く思えるからである。とクリスは考えていた。

 

 だがその言葉は諸刃の刃だ。

 

「だから私は、子供を引き取った」

 

 今の今まで冷血処女だの安全圏内だのと自らが結婚とは無縁の存在と見られていたが、この言葉で、もしかすれば結婚願望の持ち主ではないか、と思われる。ただでさえ貴重な思想の持ち主だ。狙いを定めている男は少なくはない。

 

 ──先程まで肩を落としていた受付からの視線の熱が高まりつつあった。

 

 

 

 ♦︎♢♦︎

 

 

 

「……負けた」

 

 誰かがそう言った。すると、周囲を囲んでいた冒険者達は散り散りになって各々が元いた場所へ戻っていく。

 勝ち負けじゃないだろうとは思いつつも、この場をなんとか誤魔化した俺は、力が急に抜けて椅子の上に落ちた。エルシーは面白い物を見たと笑みを浮かべていて、シキは何が起きたか分かっていない様子だった。

 

「……どうしたのだ?」

「お前は後で拳骨1発だ」

「えっ?!」

「ふふっ、まるで結婚マスターじゃない」

「お前もな」

「えっ?!」

 

 後で2人ともゲンコツの刑に処してやろうと決意した。

 

 何なんだ本当この世界は。そう言いたくもなる心地だった。

 

「……クリスさん」

「ん? お前は……」

 

 そんな俺に声をかけてくる奴が居た。先程未来永劫処女のお墨付きを与えた女……『名誉聖女』だ。この冒険者ギルドでも指折りの回復魔法使い。脳の損傷や四肢の欠損すら治してみせる。死んでなければ治せるとまで謳われた一流冒険者。体のラインがモロに出る白いシスター服を着た痴女にしか見えない事はさておき、腕は間違いない。

 

「さっき散々言われた癖に、よく話しかけてくる気になったな?」

「分かっていますわ。ですが、貴女の言葉にも一理あると」

「……はぁ、で?」

「私を貴女の弟子にしていただきたいのです!」

 

 ……勘弁してくれ。これ以上問題児のお守りは御免だ。

 

「他所を当たれ。私はまだ未婚だぞ?」

「……私ではまだ結婚力が足りないと言うのですね」

 

 ──何だその聞いた事のないステータスは。

 

「ですが、いつか貴女の弟子と認められる様に結婚力を磨きます。その時は、必ず」

 

 ──だから何だそのステータスは! 

 

 何か決意を固めた様子の彼女は人垣に消えて行った。俺の言葉の殆どは自らの偏見と浅い知恵の戯言に近い。そもそも前世ですら独身、筋金入りの独り身だった俺の言葉にあそこまで同調する奴が居るなんてのも予想外だった。

 

 しかし酷い目に遭う所だった。……アドリブで切り抜けられたのは幸運だろう。二度とやりたくない。

 

 目頭を揉んで緊張を取ろうとしていると、繋いだ手の先が震えた。そこには俯いているシキが居た。その顔は暗い。

 

「……我は悪い事をしてしまったのか?」

「ああ、そうだな。私が留守番しろと言ったのに、シキ、お前は勝手に出て来ただろう?」

 

 シキを持ち上げ、膝の上に乗せて視線を合わせる。怒られると分かっているのか、表情が強張っている。

 

「自己判断は自分や近くの誰かが危ない時だけにしろ。自分の為に人の言い付けを破れば大抵ロクな事にはならないぞ?」

「……ごめんなさい」

 

 そういう所は神父もちゃんと教育してたみたいだな。そこさえ出来てなかったら孤児院として問題だろう。

 

 ただ、今後こんな問題が起きても面倒だ。この世界、娯楽小説もあるが、大体はフラ◯ス文庫みたいな奴で教育に悪い。だから子供の娯楽と言えば遊びか外出かくらいだろう。

 

 約束した上で預かった以上、無意味にストレスを溜めさせるのも問題だ。何より、ある程度子供は自由であるべきだ。

 

「もし、また外に出たいって言うなら私に相談しろ」

「……え?」

「余程変な場所でもなければ連れていく。別に私はお前たちを籠の鳥にしたい訳じゃないからな」

 

 子供の我儘にある程度は対応してやるのも、大人の務めだろう。別に罪悪感を覚えてなんかいない。

 

「……いいのか?」

「謝ったから拳骨も今回は無しだ。だが次似た様な事になったら拳骨以上だからな?」

「わ、分かった! 次はしない!」

「威勢ばかりは良いな……」

 

 少しやり返したくなってシキの顎を掴んで頬を捏ねるように動かす。大方俺に気付かれずここに来れたのはあのマジックメダルで姿と音を消していたからだろう。説明した側からこんな使い方をする辺り、かなりのヤンチャ坊主だ。

 

「おわわわ」

「この悪ガキめ。ちゃんと反省しておけよ?」

わひゃった(わかった)!」

 

 微かな徒労感と達成感。感情を燃料に出来る程魂が若くない俺にとっては報酬と呼び難いものだ。だが、今はこれに浸らせてもらう。

 

「あ、アタシもアンタを笑いたかった訳じゃないのよ? ごめんなさいね!」

 

 そんな俺を見てチャンスと見たのか、舌を出しながらウインクして謝るエルシー。当然許されざる行為だ。

 

「エルシーお前は拳骨2倍だ」

「なんで!?」

 

 そうしてこの場を収めた俺だったが、今からシキを家に返せば戻って来た時に依頼があるか分からない。ここに置いて先生に任せるのが安牌だろうが、この悪ガキから目を離すのもそれはそれで不安がある。

 

 ……不本意だが。

 

「はぁ、シキを連れて簡単な採取依頼でもこなすか」

「そうね。その方が良さそう。取り分は貴女多めで良いわよ。何かと入り用でしょ?」

「悪いな」

 

 エルシーは俺の肩を叩く。

 

「苦労を分かち合う……だっけ? 別にあんなの婦夫だけの話でもないでしょ。アンタとアタシは相棒、辛い時はお互い様ってこと。だからアタシが困ってたら次はアンタの番、頼むわよ?」

「ああ、勿論だ」

 

 ……普段からこれならモテたに違いないんだろうがな。いかんせんこの世界の良い女は、男性経験の無さで損している感が否めない。

 

「後、聞かせてくれシキ。他の奴らはお前に着いてこなかったのか?」

「うん、誰も我に着いてこなかったぞ? タリス達には止められたが……だから他の皆は留守番したままだ」

「そうか……なら帰ったらタリスらにも謝っとけ。きっと心配してるだろうからな」

 

 今更になってえらい事をしたと理解したか、顔が青くなっている。余程三人は仲が良いらしい。この世界ではそうそう出会えない男友達だからか。外に出るとなればコイツも喜びそうなものだが、シケた面をしている。

 

「……分かった」

「じゃあ、行くぞ。逸れるなよ?」

「うん……」

 

 すっかりしおらしくなったシキの手を引き、俺はいつもの受付に向かう。

 

 先生にはやはり子供を預かろうかと打診されたが、俺が懸念している事を伝えると、無理はするなと言ってくれた。

 やはり俺は比較的恵まれている方だ。すっかり会えていない兄と弟も、人の縁に恵まれていると良いのだが。

 

「頼むぞ、何も起きませんように」

 

 これから先、何度も裏切られそうな願いを呟きながら、俺たちは冒険者ギルドを後にした。

 

 

 

「──くそっ、殺せ!」

 

 何か起こっていた。人型をした樹木とそこから生えた触手めいた木の根に如何わしく絡みつかれている男騎士がそこに居た。

 

「シキ、見るな。教育に悪い」

「な、何が起こってるのだ!?」

「──ふぅ、眼福ね」

 

 このまま帰ろうか。何も見なかった事にして。

 

「クリス! 今から戦うのか?! 我は見たいぞ!」

「シキく……ちゃんもこう言ってる事だし、見せてあげなさいよ」

「エルシー、お前なぁ……見せるにしても一瞬だぞ?」

「良いじゃない、頑張りなさいよ()()()()?」

「お前もだぞ」

 

 頭の上に二つコブを作ったエルシーが生温い視線で減らず口を叩く。ついでに頭をもう一度叩いてやろう。

 

「エルシー、シキを頼む。後詰もな」

「任せなさい」

 

 俺はフードを被ると同時に兜を装着……正確には出現させる。影から物を取り出せるマントの力の応用だ。

 

 スタンスを広げ、右腕の盾の裏から銃を引き抜く。

 

 息を止め、目を凝らせ、時が止まる程の集中を。

 すると蜃気楼の様に一見捉え所無く動く木の根にも動きの流れが見えてくる。こういう時、兜は良い。スリットのおかげで狙いが付け易く、余分な情報量を削減出来る。

 

 右手を腰に、半身になって真っ直ぐに左腕を伸ばす。後はルーチンだ。剣士の抜刀術よろしく、与えられた一瞬に全てを注ぎ込む……。

 

 全て当たると確信出来る時を待ち──

 

 

 

 

 

 

 ──今。

 ──1,2,3,4,5,6。全て撃ち切る。

 

 放たれた6発の弾丸が男騎士の(いまし)めを貫いた。

 

「行くわよ!」

 

 瞬間、俺が頭上に構えた盾を踏み台にエルシーが飛び上がる。日輪を背に獣のアギトの如き大剣──剣狩り(ソードブレイカー)を抜き放った彼女が独楽の様に剣を振り回しながら落ちていく。

 

深淵蛮王(ディープ・ルード)』それが彼女に付けられたあだ名。

 

「そぉいッ!」

 

 彼女はその名に恥じない剛力を以て木の獣──ドライアドを両断した。

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