安全圏扱いはやめてくれ!   作:銀髪ムチムチTS女子

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便利扱いはやめてくれ!

「これがケーキ……! 快楽の為の食事、堕落の味がします、でも手が止まりません……うぅ、おいひいです……」

「おっ、お姉さん。ああありがとう」

「うーまーいーぞーっ!」

「……静かに食え。感動するのは良いがな」

 

 運ばれてきた苺のケーキに舌鼓を打ちながらも、俺はサイケデリックなケーキと格闘を続ける彼女の姿を見ていた。

 

 一目惚れではない。純粋な興味だ。妙な事を口走るのはある意味どいつもこいつもだが、気になる箇所はいくらかある。まずは、男を相手にした時の態度だ。あれは拗らせた女の強がりには見えなかった。そうあるのが自然とでも言うべきか。

 

 後は身なりだ。冒険者の女は過度に露出しがちだが、彼女の肌面積は下手すれば俺より小さい。髪色も、エルフらしい金髪と言うよりは若干緑が混ざった黄緑色に近い。プリン頭にも見えず染めている様にも見えない為、あれが地毛ともなればいよいよ自分の知識に無い存在になってくる。

 

「……ヘンな顔をして、どうしたのだ?」

「気になる奴が居ただけだ……お前らは気にせず食っとけ」

 

 この世界では、俺の基準で正常に近い部類の方が異常になる。

 ならばあの一瞬、彼女を()()()だと俺が思えたならば、それは()()()()()()可能性がある。

 

 フォークを持つ手を止めた子供らにそう言って、俺は彼女を観察し続けた。あのケーキ、サイケデリックな見た目だけあり余程の味だったのか、いよいよ顔を青くして手が震え始めていた。

 

「……まともじゃないな」

 

 ただ、俺の常識にも計りかねる行動がチラついて同郷の人間だとも思えない。出されたものを責任を持って食べるにも加減があるだろう。

 

『何者か』

 

 既に思想はそこに踏み込んでいた。

 ただ者の異常者か、ただ者でない異常者か。

 何の為にそこに居るのか、それが果たして俺やエルシーたちや子供らに影響しない事なのか。気にならない訳がない。

 

 フォークで掬い上げた最後のひとかけらを食べる。

 

 もはや俺がこの席に座り続ける理由は子供らを除いて、もう無い。

 まだ考えていたかったが、今回出会えたのは偶然でしかない以上、次に期待するのは青保留に期待する様なものだ。

 

 知らなければ、使命感にも似た切迫感にケツを蹴り上げられる。

 

 転生者であればまだ良い。頭以外はこの世界の存在だからだ。

 転移者であれば不味い。下手すれば直近、俺たちに被害が及ぶ可能性がある。

 

 何故、召喚魔法は禁じられたのか。それには諸説ある。

 

 だが一番俺が推している説がある。それは異世界からのキャリアーの流入阻止だ。つまる所、未知の病気がこちらの世界に持ち込まれるリスクがあったからだとする説だ。

 

 下手をすれば俺が生きた世界の遥か先、あの現代社会よりも発展した世界ですら抑え込めなかったウイルスが持ち込まれる……科学が未成熟なこの世界に。そうなればこの世界はファンタジー風味のポストアポカリプスと化すだろう。

 

 幸いにもそうした病に打ち勝つ魔法はあるが、それがどこまで通じるかを考えれば楽観視も難しい。『名誉聖女』は二つ名を貰う前にそうした病が広がる前に根絶した事が何度かあるそうだが、対応出来る人材が必ずしも居合わせるかと言えば、そうではないだろう。

 例えば、寄生虫や寄生生命体であれば単なる回復魔法での対応にも限度が生まれる。無数の世界の中からピンポイントでキャリアーを引き当てると言うのは、俺の想像以上に低い可能性なのかも知れないが、それを引き当てた時の破滅的なシナリオを想像すれば、確かに禁じられるのも頷ける。

 

 ……或いは、既に()()()()()()()()()()()こそ、なのかも知れない。この歪な男女比。男だけを殺す病が世界に蔓延したから、なんてのは考え過ぎか。

 

 とまあ、俺は使えないので仔細は分からないが、単なる召喚魔法と言ってもこれだけのリスクを伴う訳だ。星5枠に世界崩壊が混入したガチャを無償(魔力除く)で引くなんてゾッとしない。

 

 仮にカウンターでえずきながらフォークを動かす彼女が転移者であった場合、どこかで召喚魔法が行われている可能性がある。俺の知らない所で終末時計の針をぐるぐる回す奴がいる。

 

 

 

 ……ふざけるなよ。幾らこの世界が狂っていても、滅んで欲しいとは1ミリも思ってない。気の良い奴も少なからず居る。自分が不利益を被るのが1番嫌な事ではあるがな。俺は誰よりも利己主義だ。俺は自分の気分が悪くなる様な事はしないしさせない。

 

 だから、俺は彼女の下へ向かう。俺が自由に生きる為に、障害を排除する為に。

 

「暫く待っておけ、少し離れる」

 

 子供らは不思議そうに頷いていた。

 

 

 

 ♦︎♢♦︎

 

 

 

 私は今、後悔していた。

 

 今は数を減らしてしまったエルフの生き残りの1人として、私は人間たちから追われていた。捕まれば最後、死ぬまでその心と身体を弄ばれると聞いていた私は全力で抵抗していたが、百を超える優秀な兵士を私1人に差し向ける力業により、私は追い詰められ……

 

 ……その時だった。私たちが召喚されたのは。

 

 空間と時間が引き延ばされる様な感覚と共に、埃っぽい遺跡の中に私と兵士たちは立っていた。出迎える様に暗がりから黒い装束を着た女が現れ、私の姿を一瞥すると、困惑する兵士たちを光の帯により拘束してみせた。人間の使う魔法にしては不釣り合いに強大に見えたが、それがこの世界の基準だとは私は知らなかった。

 

 兵士たちは訳も分からず、泣き叫ぶ者も居たが、女は笑みを深めるばかりだった。更には「()()()()。こんな便利な物、何で自由に使わせないのかしら。ふふ、彼らは奴隷と……お楽しみに幾らか取っておこうかしら。(ハズレ)はバラして薬の素材に売り捌くとして……」などと口走り、兵士たちを念入りに絶望に突き落としていた。

 

 そんな女は私に興味のひとかけらも見せずそのまま去り、1人残された私は、あてもなく歩き、歩き続けて、歩き続けて……人の住む街へ辿りついた。道中で魔獣らしきものに襲われている人間を助けた結果、幾らかの金はあった、3食程度は賄えると言われた程度の。何故か言葉が通じる事には目を瞑った。

 

 そんな私でも、この世界の混沌ぶりに困惑を隠せなかった。

 

 人間は我々エルフに侵略戦争を仕掛けていたが、この世界ではその様な素振りは無かった。だから、ついさっきまでの敵と同じ種族から隣人の如く扱われるのは……慣れるのに時間が掛かった。世界が違うなら人も違う、そういうものだと今は納得している。だがそれ以上に信じられなかったのは、この世界の風紀の乱れだ。

 

 腹を満たそうとどこかの店に入る度、これまで対峙して来た兵士が吐いていた様な聞くに耐えない猥談がこの長い耳に入ってくること入ってくること。普段はエルフの誇りとも言える長耳、視界が阻害される森の中であっても獲物の音を聞き分ける事の出来るこの耳が今は恨めしく思えた。

 

 だが腹が減るのは皆平等だ。探し歩いて歩いた結果、やっと静かな店に辿り着く事が出来た。幸い、私には少しばかりこの世界の通貨があったので、店で1番安い食べ物を頼んで腹を満たす事が出来た。幾らかの苦痛と引き換えに。甘味も過ぎれば苦痛とは初めて知った。

 

 私は後悔していた。

 こんな街に来てしまった事に。

 

 初めて出会った食べ物は異様に毒々しく、後から入って来た女がまた下品だったもので、つい私も苛立って脅し立てる様な真似をしてしまった。

 

 しかし収穫もあった。全員が全員、そうでもないという事だ。

 

『子供たちも居る。お前の振る舞いは教育に悪い』

 

 妙ちきりんな格好ではあったが、その言葉は至って真面(まとも)。寧ろ好感を覚える程だった。これまでが酷過ぎたのかも知れない。それには目を瞑るとして。

 

 今、私の背後にはその女が立っている。まるで空気の様に気配を消していたが、彼女が気を抜いていなければ気付けなかっただろう。我々エルフにも似た狩人の歩法だ。

 

 何かしてしまったかと心配に思う一方で、何をしてくるか、興味が僅かにある。

 

 私は謎の甘味を咀嚼しながら、相手の出方を伺っていた。

 

「悪いな、さっきは助かった」

「……いえ。私はただ苛立ちをぶつけただけで、褒められる事は何も」

 

 目元しか見えないが、恐らく敵意は無い。そう感じるのは私の願望を含んでいるからかもしれない。

 

 出来れば彼女は真面であって欲しいという押し付けがましい願望だ。

 

「謙遜はよしてくれ。所で、お前に聞きたい事があるんだが、いいか?」

「ここで出来る話か?」

「……少し不味いかもな。家に来るか?」

 

 やや荒い言葉遣いだが、少なくともこれまでに出会った女性よりは貞淑な装いと言動だった。ただ、それは必ずしも信用に繋がるとは限らない。人間に限った話ではないが、幾らでも言動は取り繕える。

 

 ただ、取り繕った上でも話は出来る。

 

「私が決めた場所で話をするのなら」

「良いのか?」

「……少なくとも、真面な人との会話に飢えていたのは確かですから」

 

 同族ならば信用出来るなどと言う感情は道中で軟派に勤しむこの世界のエルフの集団を見た時点で砕け散っていた。

 

「なら、少し時間をくれ、子供たちを家に帰す。陽が沈む頃にこの店の前で落ち合おう」

「ええ、承知しました」

「ああそうだ、私の名前はクリスだ。覚えなくても良いが」

 

 口元を隠すスカーフを下げると、銀髪の美女の顔が現れる。口を開かなければ、触れれば壊れそうな氷の様に儚い印象である。しかし今更そんな印象を持つこともない。

 

「悪いが、エルフは他者に名を明かす事は滅多にしない」

「なるほど。違うな、ここのエルフとは」

「違う?」

「新入りの入った娼館の予約待ちリストには、毎度耳聡いエルフの名前が大量に並ぶ事があるらしいぞ」

「……頭が痛くなるな」

 

 獲物を逃さぬ為の長耳を一体何に使って……。いや、これがこの世界で誇り高い行為なのか。だが、それは流石に……。

 

「じゃあ、夜に」

「ああ、待っている」

 

 そう会話を終え、私は少し晴れやかな心地になった。

 

 だが、皿に残った毒々しい甘味によって現実に引き戻され、肩を落としていた。

 

 

 

 ♦︎♢♦︎

 

 

 

「どうも。昼間の不審者、クリスだ。時間は……約束通り、だよな?」

「言い出した側が聞いてどうする。それと、それが君の正装か」

 

 いつもの鎧・盾・銃の3点セットで向かった先では、包帯で巻いた長物を脇に抱え、エルフが店の軒下の壁に寄りかかっていた。俺にも負けない鉄仮面だが、やはり美形の代名詞、大概美人だ。美人なだけのビチクソが跋扈しているのがこの世界でもあるのだが。

 

 彼女は無言で歩き出した。付いてこいという事か。俺は彼女を追って街の外へ向かう。

 

 やがて彼女は、街道の辻に立つ一本の木に寄りかかって歩くのを止める。ここがご指定の場所らしい。夜の街道となると闇討ちの可能性が真っ先に出て来るが、来たら来たで〆る。それだけだ。

 

「前置きはいい、話を聞かせて貰おうか」

「話が早いな。望むところだが」

 

 ──かくかくしかじかまるさんかく。

 

 俺は質問した。彼女がどこから来たのか、そこで何があったのか。そして転移者の線が濃くなった後で、追加に誰が彼女を呼び出したのかについて。

 

「霧の孤島。君は聞き覚えがあるか?」

「……無いな」

「そうだろう、私もここに来て聞き覚えのない地名ばかりを耳にした。幾らエルフが世情に疎かろうと、大陸の名すら知らないとなれば異様な事が起きていると察しがつく」

 

 彼女はおおよそ自らに起きた事象について把握している様子だった。そして転移者でありながら言葉に不自由しない点からして、禁じられた召喚魔法によるものである可能性が高くなる。

 

 おまけに召喚者は大量の人間を異世界から拉致してみせたと言う。そんな輩は自重を知らない。次もどこかでしでかす可能性があるとなれば心穏やかではいられない。

 

「……何か、不味い事が?」

「不味いなんてもんじゃない。破滅が約束されたルーレットが今も回っている可能性があるって事だ」

 

 全人類強制ロシアンルーレット、終わりは当たり(ハズレ)を引くまで。そんな言葉が適切か。

 ああ嫌だ、勝者の居ないギャンブルほどくだらない物があるだろうか、いや、ない。その下手人が性懲りもなく引き金を引き続ける限り、あらゆる世界が危険に晒される。こんな事が許されていいのか。

 

 ただ、俺1人に背負える話でもない。これは然るべき場所へ報告すべき案件だろう。

 

 しかし、上に届けられる伝手をすぐ用意なんて出来るだろうか。

 

 そんな都合の良い連絡手段が──

 

『そうか。ならまた気が変わったら教えてほしい。ここから連絡を取れる様にしておこう』

 

 ──あったな、つい最近出来た奴が。

 

「……こっちの用事ばかりで悪いが、もう一つ頼んで良いか」

「それは、内容によるが」

 

 ──グゥ〜。

 

 そう言った彼女の腹の虫が鳴く。遅れて咳をする様誤魔化しても手遅れだ。交渉は相手の弱みを突いてこそ。遠慮なくここは突かせてもらう。

 

「たらふく美味い物をご馳走する。それでどうだ?」

「……もう一声」

「あの甘味とは比べ物にならない奴を用意して」

「良いだろう、乗せられてやる」

「食い気味だな……」

 

 クールな表情に少し笑みが浮かぶ。どころか口端から少し涎が垂れていた。

 

「猪肉か兎肉……肉厚のステーキが良いか、それとも……」

 

 まあ……肉欲は肉欲でも、こっちの方がまだマシだな。

 

 俺は男騎士に連絡を取る事を決めた。ロクでなしをとっ捕まえる為に。

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