怠けたがりVtuberは天下取るのに大忙し 作:レイメイミナ
ㅤ現役女子高校生、私。
ㅤ私にはずっと、夢と呼べるようなものだったり、はっきりとした将来の目標のようなものだったりがなかった。強いて言えば、FPSで優勝目指す……みたいなやつぐらい。
ㅤけれど、私はある日出会ったのだ。
ㅤ胸を張って言える……「憧れ」の世界と。
「それでは……『子洗井ナマリ』さん」
「は、はい」
「改めまして、オーディション合格おめでとうございます」
「あっ、ありがとうございます」
ㅤまだ実感が湧かない。私は本当にオーディションに合格したのだろうか。まだ心のどこかで、このマネージャーさんを名乗る女性が『ドッキリ大成功!』の看板を掲げてこないかとビクビク怯えている気がする。
ㅤ──子洗井ナマリ。
ㅤそれが私に与えられた名前。Vtuberとしての姿。
ㅤ名前からまぁ、なんとなく亜熱帯だか湿地帯だかにいそうな主食の消化に半日費やしてそうな哺乳類が連想される。コアラって言うんですけど。
「では子洗井さん、マネージャーである私から聞きたいことがあるのですが……」
「な、なんなりと」
「ご自分の『強み』って、なんだと思いますか?」
「え、それはオーディションで言った通りどんな物事にも誠実にそして丁寧に──」
「いえいえ!ㅤオーディションでの発言なんて嘘八百承知ですから。今、改めて確認の意味も込めて、自分が思う素直な意見が欲しいんです」
「えぇ……?」
ㅤじゃあ私が必死に考えた質疑応答だの練習だのは一体なんだったの……?
「え、じ、じゃあ…………現役女子高生なところ?」
「いいですね、そういうのです。現役女子高生であれば、NGの事項も作りやすいし、理解されやすいですしね」
「あぁ、そういう」
「大まかには飲酒、22時以降のロケ、後は過度にわいせつな行為などがNG……になりますね」
「はいはい……ん?」
ㅤ過度にわいせつな行為?
「え、この事務所ってそういうことはやらないんじゃ……」
「あ、過激なスキンシップとかそういう話題を投げかけたりとかです」
「あ、あぁ……なるほど」
ㅤ後にこのNG内容はデビュー後すぐに半壊するのだが、それはまた別のお話。
「はいはい……では、お次にVtuberとしての方針を固めましょう。お得意なことはなんでしょうか」
「FPSとか格ゲーとか……対人系メインのゲームだったらよくやってます」
「ほほぉ、対人系というのは、例えばス〇ラとかですか?」
「いえスト6とかエペとか、まぁそれもやってますけど」
「結構ガッツリですね……」
「まぁ、Vtuberの影響でこうなった節はあります」
「なるほど……では、逆に苦手意識があるものとか、手につけたことがないものは?」
「富〇急のアトラクションみたいなのは全般怖いです。あとはまぁ、ゲームで言うと謎解きとか……あ、RPG系はからっきしだな……」
ㅤそういえばRPG系は触れたこともないし、なんならどんなのがあるかもよくわかってない。ドラ〇エ?ㅤテイ〇ズ?ㅤなにそれおいしいの?
「……えっと、この質疑応答って一体……」
「子洗井ナマリがどのようなVtuberとなるかを見定めるためです。優劣の話ではなく、これから私がどのように子洗井さんをサポートしていくか、そういった方針を立てるのが目的になります」
「なるほど……」
ㅤやばいさっきから口下手が過ぎるぞ私。もっと会話を弾ませろ。
「よ、要するにチームワークってことですよね?」
「はい。Vtuberに限らず、芸能事務所はタレントとマネージャーの二人三脚によって成り立つものですから。子洗井さんには騎馬戦の頭になった気分でドンと構えていただきたいんです」
「騎馬戦て……」
ㅤ私から最も遠そうな例えだな……。
「それでは最後に、子洗井さんの、今後やっていきたいことや目標といったものについてお聞きしたいです」
「目標、ですか……」
ㅤ先述の通り、私には目標や夢といったものを持たずに生きてきた人間だ。そうした中で出来た数少ない夢である「Vtuberになること」も今叶おうとしているのだから、目標と呼べるものなんてそりゃあ……、
「……ま、毎日遊んで暮らしたいです……かね」
「ほほぉ、いいですね!」
「いいんだ!?」
ㅤそれでいいのか『ぶいすた』。
「うちのタレントはもっと自堕落な人がいますからね。それくらいが丁度いいんです」
「あー、存じております」
ㅤぶいすた一期生。全員が登録者数100万を突破している、圧倒的カリスマ性とキャラクター性を持った「四天王」。その一角を成すあのニー…………これ以上は止めておこう。まぁ、大体その名前を言ってはいけない人のことを言ってるんだと思う。
「メモメモ…っと、よし。それでは、これからVtuber『子洗井ナマリ』デビューのための準備に入ります。具体的には──」
ㅤマネージャーさんの説明を聴きながら、改めて考える。
ㅤ私はこれから、Vtuberとしてデビューする。
ㅤ配信は当然全世界で見られるし、場合によっては心無い言葉が寄せられることもあるし、逆に色んな人から賞賛されることもある。
ㅤそう考えると、やっぱり怖いなと思った。
ㅤオーディションに行って、合格しといて何様だ、とは言うけど、怖いものは怖い。本名ではないとしても自分なのだ。自分自身がそんな大衆の目に晒され、事情も何も弁えず無責任な言葉が投げ掛けられる。それが怖くないはずがない。
ㅤでも、それで「やっぱやめます」なんて言えない。
ㅤ私は、Vtuberになると決めたのだから。
ㅤだから、その誓いを破ってはならない。私が私であるために、『子洗井ナマリ』であるために。
子洗井ナマリ
・『Virtual stars』所属4期生
・ユニット名『天下 la peace!』所属
読書・ゲームが大好きな自堕落な女子高生。「怠け者の天下」を取るために日々だらけているが、実はかなり勉強熱心で真面目な性格。