怠けたがりVtuberは天下取るのに大忙し 作:レイメイミナ
ㅤ駅前の割とお手頃価格なカフェテリア。まるで陽キャみたいなところに連れられて、私はちょっとビビりながら席に座る。
「ここ、奢るから。なんでも食べていいよ」
「な、なんでもって」
ㅤあんまりがっついてもよくないだろうし……。この400円のコーヒーにしよう。
ㅤ店員さんにオーダーを話して、再び女の子の方を向く。そういえば名前を知らない。
「その、さっきは、助けてくれてありがとう」
「え、あ、うん」
ㅤ改めて、の意だろうか。
「…………」
ㅤ何を話せばいいんだ……。率直にあいつについて聞いてみるか?ㅤいや、それでトラウマ掘り返したら意味ないし…………って、違う!ㅤそんなこと考えるからいつまで経ってもコミュ障なんだ!ㅤここは進め!ㅤお前は『ぶいすた』4期生の子洗井ナマリだろ!
「あの、あいつって、なんなの?」
ㅤやばい、ちょっとトゲのある言い方になっちゃった。
「あいつって?」
「あの、カツアゲしてきた」
「あぁ、えっと。ただのクラスメイトだったよ。去年までは」
「去年までは?」
ㅤなんか変な言い方。怪しい。
「私さ、友達と喧嘩しちゃって。あ、友達ってのは、あいつとは別ね」
「う、うん」
「それでその友達、配信活動やってたんだ。今はどうかわからないんだけど……それで、私、勢いでその子との喧嘩のやり取りをSNSで流しちゃったの。名前つきで」
「え……!?」
「それが、とんでもなく、大炎上したの。私、その子がそんなに有名な子だったって知らなくて、あんな大事になるとは、思わなくて。それで、クラス中にもそれが知れ渡っちゃったの。あいつは、それに目をつけた。それだけ」
ㅤ………………。
ㅤ…………すげぇ、1ミリも擁護できない。
ㅤ弱みにつけ込むのはバッドだけど、それはそれとして彼女の行いはあまりにも疑いようもなくギルティだ。その友達が私だったら、本当にキレて民事裁判にでもかけてしまいそうだ。
ㅤだとしても、本人の様子としては反省はしているみたいだ。後はその友達と和解……できずとも、なんとか折り合いを付けられればこの話は終わらせられるはず。
「……その友達とは、どうなったの?」
ㅤ彼女は、首を横に振った。
「あれ以来、学校にも来なくなった。着信拒否されてるし、ブロックされてるからチャットも送れないし。直接自宅に行かないとコンタクトは取れない状態。行ける勇気ないんだけどね」
「なるほど」
ㅤうーむ、どうしたものか。
ㅤ私としてはさっさと話し合えよとなるけど、やはり気まずさもあってそんなことは不可能に近いだろう。まぁ無理して行って、また失言で関係がこじれるよりはマシなんじゃないだろうか。
ㅤ一応、それについても聞いてみるか。
「それで、あなたはこれからどうしたいの?」
「……どうしよう」
ㅤそういう感じね。オーケー。
「私的には、まぁ……無理して会いに行かなくてもいいとは思うけど。でも、思うところがあるとか、ちゃんと反省してるんだったら、その気持ちはちゃんと伝えるべきだよ。今日みたいに」
「今日みたいに……って?」
「ご飯奢るとか、プレゼントとか。そんな感じのやつ。人の金で食べるものが一番美味しいからね」
「そ、そっか」
ㅤこのアドバイスが正確かはともかく、気が楽になったようなら何よりだ。
「実際、このコーヒーめっちゃ美味しい。ありがとね」
「ど、どういたしまして」
「直接会わなくても、着拒されてても、少しでも繋がりがあるなら伝えられるものはあると思うよ。私が言えるのはそれだけ。じゃあね、ごちそうさま」
ㅤ別れを告げて、カフェを後にした。人に奢られるのは、初めての経験かもしれない。
「……っていう感じで。怖いよねカツアゲ」
・こわ
・こわ
・今時そんなのあるんだ
・治安悪いなー
ㅤその夜の雑談配信。今日あったことを(500枚くらいのオブラートで包んで)話のネタにしてみた。あいつの醜態だけを晒して身元不明のまま笑いものにしてやる。ざまぁ見ろカス。
・その後どうしたん?
「その後ねぇ。まぁ暴行の証拠はガッツリ掴んでたし交番に届けといたよ。フィクションの無能と違ってちゃんと動いてくれるみたいで良かった良かった」
・妥当な動き
・有能
・勇気あるなぁ
「私が正義だとか言うつもりじゃないけどね。クズの悪行にはそれなりのしっぺ返しがあって然るべきじゃない?」
・それはそう
ㅤそんな感じのこととか、昨日の特番のこととかを話したりしながら、私は彼女の話の中で感じていた”デジャヴ”に思いを馳せていた。
ㅤあの話は、どこかで聞いた話と合致しているのだ。
ㅤそれは、『ぶいすた暗黒期』とも呼ばれた3期生、『刀蘭剣華』の炎上騒動。
ㅤメンバーの1人、黒髪ロングで儚げな雰囲気を持つ幸薄美少女でありながら、口を開けばネットミームしか出てこないギャップ界の女王『
ㅤ最初は時雨先輩もファンクラブ限定配信でポロッとこぼす程度で、公開配信ではやらないようなちょっとしたプライベートの話としてリスナーの間でも話がついていた。しかしそこに現れたのは、『亜刃時雨の友人』を名乗る人間によるSNSの投稿。
ㅤそれは、かなり強い言葉で言い合う2人のやり取りが事細かに書かれていたのだ。
ㅤその内容は、冷静に読めば時雨先輩はさほど悪いことは書いていない。せいぜい「お前はバカなのか」みたいな、相手を諭す目的での悪口ぐらいなものだ。だがここはインターネット、世界中からあらゆる人間が集まる場所。
ㅤ当然、大炎上だ。
ㅤ何より『友人と喧嘩した』ことは本人も言っていたことが最悪だった。ファンクラブからアンチに内通してるやつまで現れて、炎上はさらに加速。時雨先輩どころか、同期、2期生、1期生にまで荒らしが現れたり、飛び火したりなど、その時期は最悪だった。
ㅤ私はそのとき丁度受験期で、親から配信視聴の類を一切禁止されていたので、それを観測することはできなかった。これを知ったのは、後に非公式wikiに書かれていた内容を見てからである。
ㅤ2期生も1期生も、強いバッシングやストレスで体調を崩す人もいたけど、なんとか全員持ち直した。音夢先輩とかはさほど気にしてはいない様子だったし、やはり1期生は慣れっこなのだろう。
ㅤだが、3期生はそうもいかなかった。3期生は『刀蘭剣華』と『ASTRUMS』の2ユニットだが、そのとき『ASTRUMS』はまだデビュー前で、3期生は時雨先輩の同期、
ㅤその二人は、その騒動の中で時雨先輩の次くらいに燃えた。その結果、2人とも批判に耐えきれず卒業へと追いやられてしまったのだ。
ㅤそして時雨先輩は、枠を立てても批判と荒らしばかりで配信どころではなく、卒業はしないまでも、結果的に無期限活動休止……事実上の活動終了によってこの騒動は過去のものとなっていった。あれ以来、『ぶいすた』運営はライバーに対する批判的な行動をかなり厳しく取り締まるようになったのだ。
ㅤ誰も幸せになっていないこの話が、私は大嫌いだった。3期生『亜刃時雨』は、私の最推しだったから。
ㅤ今日聞いた話は、それによく似ていた。
ㅤ………………いや、まさかね。