怠けたがりVtuberは天下取るのに大忙し 作:レイメイミナ
「ふぅ……」
ㅤ心安らぐ……。
ㅤやはりホットコーラは最高の逸品。この温かさと甘酸っぱい風味が疲れた体に染み渡る……。
「続きものの配信初めてだけど、意外に受けたな」
ㅤコメントはヤバげなのは見ないようにしてるけど、おおむね私のドタバタを楽しんでくれているみたいで良かった。こういうのって指示厨がコメ欄荒らしそうなのに、『ぶいすた』のリスナーは思っていたよりも民度が高い。しかし、それと同時に他事務所と比べるとIPとしての力は弱い……民度と人気は反比例関係だから……。
ㅤさーて、それじゃあ私は期末試験のために軽く単語帳でも見てからゆっくり床に付くとしますか──。
ㅤピコンッ。
ㅤスマホから電子音が鳴る。メッセージではなく、専用サーバーの通話コールみたいだ。
「私宛?ㅤ一体だ、れ……」
『空首音夢』
「うぇぇぇぇぇええええ〜っ!!!?!?」
ㅤね、ね、ねねねね、音夢先輩!?ㅤ私のデビュー当初キャラ被りしてるとネットでちょっと話題になったあの音夢先輩だ!?
「な、なななんで……?」
ㅤと、とりあえず出よう……一期生の皆様方に粗相があってはいけない。
「……はい、もしもし」
『お、繋がった。声載せれる?』
「え?」
『ん?ㅤあー、これ逆凸。アポ無しのね』
「え、え!?」
ㅤ逆凸!!???!??!!?
「あああああの逆凸というのは凸の逆でつまり相手に通話をかけて突発的にコラボをおっぱじめるというあの」
『そうそうその逆凸。大丈夫?』
「え、だだ大丈夫!ㅤ……ぁです!」
『はい、じゃ載せるよぉ〜』
ㅤお、落ち着け。ホットコーラを飲んで落ち着くんだ……って出来るかい!ㅤあの一期生空首音夢だぞ!!ㅤ一日11時間も寝て配信にはしょっちゅう遅刻するがそのカリスマ性とエンターテインメントを提供して熱心なファンを生んではハッシュタグ『#音夢起きろ』を度々トレンド入りさせるあの空首音夢なんだぞ!?ㅤ平常心なんて保ってられるかぁ〜!!!
『はーい。ではお次に来ていただいたのは新人の子洗井ナマリちゃんで〜す』
「ど、どうも〜、子洗井ナマリでーす……」
ㅤとりあえず逆凸配信の画面を開こう。……うわ本当にやってる。そして私の声が載っている……!
「まぁなぜ彼女かと言うとですね。わたしは彼女に物申したいことがあるんですよ」
「も、物申したいことと言いますと?」
「えーっとね。子洗井ナマリ、怠け者じゃない説」
「はい?」
ㅤいきなり私のコンセプト否定し始めたんだけどこの人?
・なん、だと……!?
・しってた
・怠け者にしてはしっかりし過ぎている
ㅤ訓練されたリスナー共め……この中に私を切り抜きの中でしか観測していない人間がどれだけいるか見物だが、流石に配信者として炎上ムーブすぎるのでよしておこう。
「まずひとつ。ツッコミのキレがすごい」
「あ、それについてはうちの同期が狂ってるだけなんですよね」
「そんなやつらに的確にツッコめる時点でお前は怠け者じゃない。M1で天下を目指せる名ツッコミ師だよ」
「ぼ、暴論がすぎる」
「次にもうひとつ」
「無視した……」
「勤勉すぎる。しゅかちに聞いたけど超絶真面目ちゃんらしいね君」
「いやそんなわけなくないですか?ㅤ朱夏先輩は人褒めるの好きな人じゃないですか」
「しゅかちは褒め上手だけどお世辞言わないよ。で、今日この後やろうとしてたことは?」
「え?ㅤテスト勉強してから寝るつもりでしたけど」
「はいギルティ」
「嘘でしょ!?」
「本当の怠け者は勉強なんかするわけない」
「それでテストどうやって生き延びるんですかね……」
「そもそもテストなんてしません」
「いやしないと卒業できないでしょうが」
「はいこういうところ。こういうさらっとした的確なツッコミがナマリちゃんの凄いところ」
「クソッ、はめられた!」
ㅤつい反射的にツッコミを……!ㅤこれが一期生の力!
「そして最後にひとつ。この逆凸に来てくれること。これからテス勉して寝ようとしてたのに、そのうえでアポ無しなのに付き合ってくれてる。これを勤勉で誠実な可愛い新人と言わずしてなんと言うかですよ」
「え、なに……急に褒めだしたこの人」
「そう、君みたいな優秀な後輩がいると助かる。私が先輩として引っ張っていく必要がなくなるから」
「あやっぱそっちの方向なんですね」
「当然」
ㅤ音夢先輩らしい……。
ㅤしかし、アポ無しの逆凸って本当にアポ無しなんだな。たまたままフリーだったから良かったけど。
「そういえば初コンタクト?」
「あ、そうですね。配信は拝見してましたけど」
「怠け者コンビを組めるかと思ったのにこんな真面目ちゃんだったとは……わたしは悲しいよ」
「いえいえ、私はを将来を見据えてる人間ですから。このまま高スペックを維持して、Vtuber活動でも大成し、一生遊んで暮らせる人生を謳歌したいのでね」
「大きく出るなぁ。これは大型新人の予感」
「音夢先輩はもうその域に達してると思うんですけど」
「んー?ㅤいやクソ忙しいよ?ㅤ収録とか案件とかで駆り出されるし、怠惰で自堕落な生活とは無縁だよ」
「……我々、自称するほど怠け者じゃないかもですね」
「ね〜」
ㅤその後も少しだけ雑談を続けて、頃合いを見てお別れとした。通話越しとはいえ、あの音夢先輩と共演できたなんて夢みたいだ。
ㅤ一期生はこの『ぶいすた』を引っ張っていく4つの巨星。歩くエンタメ『光里ステラ』、腐女子の
ㅤそのどれもが登録者数100万人を突破している強者で、「ぶいすたは知らないけどあの4人は知ってる」なんて層が出来上がるくらいには名前も売れている。そのせいで後輩達の認知度がまちまちになっているんだけど。
「100万……か」
ㅤその域にまで行けたらいいとは思うけど、私なんかがあの4人に並び立てるとは思えない。
ㅤでも、もしそうなれるなら……。
ㅤそんなに嬉しいことはない、と思うな。
空首音夢
・『Virtual stars』所属一期生
・ユニット名『そらねころり』所属
三度の飯より寝るのが好きな自堕落な少女。
学校に来るのすら気まぐれで、いつも部屋や庭で惰眠を謳歌している。