怠けたがりVtuberは天下取るのに大忙し 作:レイメイミナ
ㅤVtuberには、基本的に『ユニット』が存在する。
ㅤ黎明期のユニットはデビュー毎に数字を付けたりする『〇期生』みたいなのが主流だったが、今や現実のアイドルのような特徴的な名前がつけられるのがほとんどだ。『ぶいすた』も例に漏れず、3期生以降は固有のユニット名が付けられている。
ㅤということで、私もそのユニットの一員としてデビューすることになる。
「『天下 la peace!』……」
「はい。今回デビューする3人が『天下 la peace!』のメンバーとなります。子洗井さんもその1人ですね」
ㅤ3人ユニットか……。
ㅤ別にいいんだ、集団行動は。きっと私と似たようなやつばかりだろうから。というか、私は別に常にぼっちというわけじゃない。連絡先だって家族だけじゃないし、週に2、3回は人と話す。
ㅤ問題なのは、『ぶいすた』の3人ユニットであるということ。
ㅤ3期生以降のユニットは現在3つ。そのうちのひとつ、『刀蘭剣華』は”ある騒動”が原因でメンバー3名のうち2人が卒業、1人が無期限活動休止の状態だ。それ以降にデビューした『ASTRUMS』と『オーラス姉妹』はどちらも2人だけのバディユニット。規模はともかく、『ぶいすた』はこの1年間露骨に3人ユニットを避けてきた。
ㅤだが私が所属することになる『天下 la peace!』は3人ユニット、今まで避けてきたパンドラを破ることになる。
「……どうかしましたか?」
「いえ、ただの邪推なので」
ㅤ3人ユニットを復活させる……それはつまり、今までの縮小していた運営の規模を一気に拡大させるということ。そしてそれは、私達『天下 la peace!』には重い期待が乗っているということだ。
ㅤ胃が痛くなってきた……。
「本日は、その『天下 la peace!』……略して『てんから』のメンバーと顔合わせです。肩の力を抜いて、気楽にしていてください」
「は、はい」
ㅤ胃もたれ起こしそうな略称だな。”てん”に”から”て。すごく油って感じだ。
ㅤマネージャーさんは色々と忙しいようで、その後すぐに出ていってしまった。あの人、どうやら『てんから』全員を担当しているようで、立ち絵とか宣材写真とかの打ち合わせやらで本当に忙しくしている。
ㅤ気になってその辺のスタッフに聞いてみると「あの人はイカれてる。Vへの愛をそのまま仕事効率に変換できる人」という評が返ってきた。同僚から「イカれてる」呼ばわりはどうかと思いつつ、仕事はきっちり評価されてるように思えたので一安心だ。いや、休んでは欲しいんだけど。
ㅤまぁそれはいいとして、問題はどんなやつがくるかなんだよなぁ。
ㅤ事務所だって馬鹿じゃない。本当にヤバいやつは弾いてくれているはずだし、Vtuberになろうとしてるやつなんてどうせろくな奴じゃないから、その辺はもういいんだけど……。
ㅤ話、合うかな。
「おっはようございまーす!」
「おうっ」
ㅤバンッ!ㅤという音とともに、一人の女性の声が部屋内に響いた。なんというか、キラキラしている女の子の声だった。咄嗟に出た私の野太い声とは大違いだ。
「あれ?ㅤマネちゃん?ㅤ仕事かな」
ㅤどうやら自分のマネージャーを探しているらしい。ということは『ぶいすた』のライバー?ㅤいや、しかし……こんなキャピキャピした感じの人は該当がない。頑張っても2期生の「御門アイリ」だが、彼女はギャルというよりはただのきららガールである。ママ※もそこで連載してたはず。
※Vtuberの立ち絵をデザインした人の通称。
ㅤということは、まさか……。
「あ、キミー。何か知ってる?」
「う、あ」
ㅤやばい話しかけられた!ㅤやめろその陽の者の笑顔を!ㅤゾンビみたいな声しか出ないだろ!
「んー?ㅤというかキミ、高校生?」
「あっ、は、はい」
「そーなんだ。ってことはもしかして、ここのライバーさん?」
「………………はい」
ㅤやめろ。確定しかけてから即座に投げ捨てた結論を掘り起こそうとするな。やめろ!
「私もだよー!ㅤデビュー予定の『舞華スターライツ』!ㅤよろしくね!」
ㅤやっぱりだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!!
「ねね、キミは?ㅤキミもデビュー予定?ㅤもしかして同期?」
「え、えっと……子洗井ナマリです……」
「子洗井ナマリ……ナマリン!ㅤよろしくね、ナマリン!」
ㅤいきなりあだ名呼びだと!?
ㅤぐ、ぐあああーっ!ㅤやめろ、陽キャ指数が高過ぎる!ㅤ消える……!ㅤ私の、私の存在そのものがっ……!
「あれ?ㅤどっかで聞いたような……」
ㅤくそ、こうなったら仕方ない!ㅤなんとかはぐらかして同期ではないと勘違いさせるんだ!ㅤそうすればこいつも深追いはしないはずだ!ㅤ多少のダメージはあるだろうが致し方無し、撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけなのだから!
「……あ!ㅤこの前マネちゃんが言ってた同期ちゃんだ!」
ㅤなんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!!?!?!!?
ㅤ何してんだマネージャーさぁん!?ㅤ私には教えてくれなかったのに!
ㅤ…………あ、資料に書いてたわ。てへぺろ。
ㅤそ、そんなことはどうでもいいんだ!ㅤ不味いぞ!ㅤ今相当不味い!ㅤどれくらい不味いかと言うと、どう見ても勝ち確の状況でランス〇ットが突撃してきたときくらい不味い!
ㅤくっ、このままだと、上手にコミュニケーションが取れずユニット内に亀裂が生じて私のVtuber生が崩壊してしまう!
「それ、なんの資料?」
「え、えっと……『てんから』メンバーの資料だけど」
「そんなのあったんだ!」
ㅤ”そんなのあったんだ”……?
ㅤおい、やばいぞこの女。なんかよくわからないがやばい気がしてきたぞ。マネージャーさんから資料を渡されてないということはつまり、こいつにはこいつ特有の「扱い」をしているということ!
ㅤ陽キャの上にワケあり……こんなの手に追えるわけがない!
「ほぉほぉ、なるほど……。いやぁ、こう本格的なものを見ると本当にVtuberになるんだー、ってなるよね」
「え、あっ、はい」
「あたしね、元々アイドルだったんだ。下町の売れないっ子だったんだけど」
「は、はぁ」
ㅤいきなりなんか始まった。
「それでね、お仕事貰うために色々あったんだよね。それで人には言えないような売り込みまでして」
「そ、そうなんですね」
ㅤ…………………………ん?
ㅤそれって、枕──
「そんな自分が嫌でアイドル辞めてさ。生まれ変わりたくなって……それで、Vtuberになろうって決めたんだ」
「…………」
ㅤどうやら、本当にワケありらしかった。かなり重めの。
ㅤどうやらただの陽キャじゃないらしい。軽薄なギラギラではなく、酸いも甘いも知り尽くした本物の光を持っている人間だ。
ㅤ私とは、心の有り様が大違いだ。
ㅤさっきまで必死に誤魔化そうとしていたのが、馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「……わ、私は、そんな大層な理由とかないけど。一緒に同期としてやっていきたいなって、思います。だから、これからよろし──」
「お゛っ゛ほ゛ぉ゛っ゛!?」
「くー…………う?」
ㅤなんだ今の。
「え、何これやば!ㅤあたし超エロいじゃん!ㅤ腋!ㅤ二の腕!!ㅤ首!!!ㅤ絶対領域!!!!ㅤこんなのもうエッチなことしてくれって言ってるようなもんじゃん!!??」
「んー???????」
ㅤおい。
ㅤさっきまでの重い過去どこいった。
舞華・スターライツ
・『Virtual Stars』所属4期生
・ユニット名『天下 la peace!』所属
ハーフの新人アイドル。「アイドルの天下」を目指して日々邁進中。明るい太陽のように、今日も輝き続けている。